ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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泣き叫ぶ少女と諦めた少年

学校の道場・・・

そこは、直葉が初めて恋次と会った場所だ。

彼の強さに目を奪われ、同時に、彼の剣術は美しいと思った。

だから、あの日、やめると言った日には心から失望した。

突き飛ばされた時、本当に、嫌になった。

だから今まで避けてきた。あんな心の弱い奴と、一緒にいたくなくて、一緒にいると、あの日の事を思い出してしまいそうで。

だから、自分の兄から、彼の兄が、あのSAO事件で死んだと知った時は、酷く、酷く後悔した。

「恋次・・・」

だから、謝りたい。許してもらえなくても、このまま悔いとして残るよりはマシだった。

だから、ここに来た。

恋次は、振り向かない。

「恋次・・・私・・・」

「いいよ、もう」

直葉の言葉を遮る恋次。

「もう・・・いいから」

「良くないよ・・・良くないよ、恋次!」

直葉は叫んだ。

「私は、今まで、貴方の事を知らなかった!知らない癖に、私は貴方を傷付けた。傷つけたから、私は・・・」

「やめてくれ」

またしても遮る恋次。

「恋次・・・」

「もう良いんだ。直葉・・・もう、これで、決心着いたから」

「けっ・・・・しん?」

「ああ、やっと分かったんだ。どうして俺がお前と仲直りしたかったのか」

恋次は相変わらず直葉の方を見ない。

「恋次?」

「俺さ、多分、お前の事、好きだったんだ」

「え!?」

いきなりの告白に驚く直葉。

「ななな何言って・・・!?」

「多分、一目惚れなんだと思う。俺は、どんな事も諦めず、成功させようとして、みんなに囲まれて、褒められて。喧嘩は嫌いなのに、試合では誰よりも楽しむそんなお前に俺は、惚れたんだ」

直葉に背を向けながら、そう語る恋次。

「恋次・・・」

「でも、これで、もう、諦めが着いたんだ」

「諦め・・・?」

「ああ、俺たちのリアルはバレた。もう、以前の様に接する事は出来ない。こっちでも、向こうでも。だから、これで終わりにしよう」

恋次の言葉を、理解できない直葉。

「終わり?何を?」

「この先、現実でもALOでも俺たちはもう」

「その先を言わないで!」

直葉が叫ぶ。とうとうその場に膝を着いてしまう。

「お願いだから、言わないで・・・」

「どうした?お前が今まで避けてきた相手と、もう会わないで済むんだぞ?だったら、その方が」

「勝手だよ・・・私も君も、どっちも勝手だよ!」

直葉は、泣き出しながら、恋次に訴える。

「私は君の事を知らなかった、それを謝ろうとしてる・・・だけど、君は、今までやろうとしてきた事を諦めた。それって、どっちも勝手じゃない。勝手じゃない・・・」

直葉の眼から、涙がぼたぼたと落ちる。

「じゃあ、どうしろっていうんだよ・・・」

恋次の声が震える。

「どうしろっていうんだよ!お前は今まで俺を避けて、今頃謝りに来て・・・そんなのお前のいう通り勝手だ!だけど、だけどなぁ・・・俺は、諦めたんだ。勝手かもしれないけど、諦めたんだ!もう、何もかも諦めたんだ!それでいいだろ、これも屁理屈でも理屈だ。俺は、もう、お前に会いたくないんだ。だから・・・」

「私は『今』会いたいよ!」

「!?」

直葉は、恋次の言葉を受けてなお、叫ぶ。

「過去の事全部!私は君に謝りたい!謝って、やり直したい!貴方がしたように、今度は私が謝りに行くから!どれだけ君が私に会いたくなくても、私は『今』君に会いたい!会いたいよ・・・」

泣き崩れながら、彼女は叫んだ。

それが、彼に届いたかは分からない。

「・・・・」

恋次はしばらく黙り込んだ後、不意に歩き出した。

「!? 恋次!」

直葉は呼び止めようと叫ぶ。だが、恋次は壁のすぐ近くで止まる、そこにかかっている竹刀を二本、右と左に持つ。

そして、振り向き様に、片方の竹刀を直葉の目の前に投げる。

目の前に落ちたそれを、直葉は茫然と眺めた。

「取れ、直葉」

恋次の方を見ると、恋次は、直葉の方に竹刀を向けていた。

「お前の勝手と俺の勝手、どっちが強いか、この最後の試合で決めよう」

その眼には、一つの覚悟を持って、直葉を見ていた。

直葉は、その意志を感じ取り、竹刀を手に取り、立ち上がる。

「分かった」

直葉、真っ直ぐに竹刀を両手で持ち、恋次に向ける。

恋次も、竹刀を持ち直し、直葉に向ける。

 

 

 

 

 

 

「オラァ!!」

「ぐ!?」

モードレットの剣がシノンのダガーに直撃する。

「この!」

シノンはすぐさま、弾かれたダガーを引き戻し、下段右斜めから切り上げる。

「おせぇよ」

「!?」

態勢の低いシノンに向かって左足で腹を蹴るモードレッド。

「く・・・」

「あ~遅ぇ遅ぇ。遅すぎるぜ。バッハの奴に比べたら断然遅ぇ」

「なめ・・るなぁ!!」

シノンが地を蹴り、右に持ったダガーを高速で突き出す。

「だから遅ぇんだよ」

「な!?」

その攻撃を防いだモードレッド。

 

モードレッドこと、九重 大和は、とにかく喧嘩好きだった。

反抗期がまさかの七歳で来て、親を黙らせた後、あっちこっちで暇さえあれば喧嘩をするほどだった。

年上の不良を倒しては金を巻き上げ、潰して、傘下に加え、あっという間に自分の勢力を持つほどだった。

全てが思うまま。そう思っていた。

 

 

三年前・・・

大和が、部下を引き連れ、町中を歩いていた時だ。

ある、同じクラスの男子が、小学生の女子と楽しく道を歩いているのが気に入らず、二人が別れて、女子の方を路地裏に引き込んで、金を巻き上げようとしたのだ。

「おい、金だせ」

「いやよ。どうして貴方にお金を渡さなければならないの?」

女子は強気で、大和に反抗する。その態度に舌打ちした大和は、その女子の顔を(はた)こうとした途端・・・

「詩乃!」

路地の入り口から声が聞こえた。先ほどの男子だ。

「チッ・・・やれ」

「あいよ」

部下三人がその男子に向かっていく。

「無駄よ」

女子が大和に向かって言う。

「どんなに数が多くても、蒼穹は負けない」

「へえ、どんなもんなんだ・・・」

大和は振り向くと、大きな音が鳴り響いた。

そして次の瞬間、部下の一人が大和の横に飛んできた。

「な・・・」

そこに佇むのは、蒼穹と呼ばれた男子だけ。向かった三人は、飛ばされた奴も含め、全員伸びていた。

「そういえば、噂程度だけど聞いた事があったな。この街には、手に負えない不良がいて、そいつが何人もの部下を引き連れてるって、お前だったのか、大和」

ドスの効いた声がその場に響く。

「こ、こいつ!」

部下の一人が蒼穹に殴りかかる。

蒼穹は右の大振りを左手で逸らすと右手で胸に掌打を打ち込む。

それだけでその部下は地面に倒れ、沈黙する。

「この野郎!」

今度は高校生が懐からナイフを取り出し、蒼穹に襲い掛かる。だが、蒼穹は大きく飛び、ナイフを持った手を踏み付け、そのまま顔面を蹴り飛ばす。

更に他の部下が二人同時に飛びかかるが、僅かな差をつけて、交互に殴り飛ばす。

「・・・・まだやるか?」

普段は大人しい蒼穹だったが、どうやら、この詩乃と呼ばれた少女の事になると熱くなるらしい。その証拠に、拳を血が滲め出そうな程に握りしめて・・・というか本当に血が滲み出ている。

「いい・・・いいねぇ・・・」

それに対し、大和は昂っていた。

ここまでやれる相手とは戦った事は無いからだ。

大和は手を鳴らし、蒼穹に向かって歩き出す。

「・・・」

蒼穹は態勢を低くし、構える。

そして、大和が間合いに入った途端、仕掛ける。

右拳を真っすぐ突き出す。

常人では反応できない速度で出されたその拳は蒼穹の顔を捉えた・・・筈だった。

「な!?」

いきなり視界が飛ぶ。いつの間にか地面に倒れていた。

同時に左頬に焼けるような痛みがある。

「ぐ・・あ・・・!?」

なんとか上半身を起き上がらせ、右手で左頬を抑える。

(殴られた!?いったいいつ!?)

大和でも反応出来ない速度で、確実にワンテンポ遅れて動いた蒼穹が、どうやってあの一瞬で大和を殴ったのか?

「予備動作」

蒼穹の声が聞こえ、上を向く。そこには大和を見下す蒼穹がいた。

「視線の先、筋肉の動き、呼吸の回数と荒さ、歩幅、重心の移動、その全てからお前の次の行動を導き出し、攻撃の瞬間、かわして反撃した」

「な!?」

つまりは予測した。

僅かな大和の動きで大和が右のストレートを放つことを予め予測して、それをどう反撃に持ち込むかさえも考えて、実行に移したのだ。

(んなばかな・・・!?)

大和はありえないとでも言うかのように、急いで立ち上がる。

認めない。そんな事、認めない。

「この野郎!」

もう一度右のストレート。

蒼穹は、それをかわそうとする。

(取った!)

だが、それはフェイクであり、本命は左のボディーブロー。

すぐさま右を途中で引き戻し、左を弧を描く様に、蒼穹の腹に向かわせる。

決まった。そう思った。

だというのに・・・・蒼穹はそれを全て見透かしたかのように、()()()()()()()()()()()()()()()()

「ぐ・・・あ・・・!?」

蒼穹の左の大振りが態勢が右に倒れていたので、斜め上から顔面に突き刺さり、吹っ飛ばす。

「セイ!」

さらに追撃と言わんばかりに、ふらついている大和の懐に入り込み、右手で左手首、左手で胸ぐらをつかみ、背負い投げを出す。

「があッあ!?」

背中から落とされ、肺の中にある空気が無理矢理吐き出される。

(つ、つえぇ・・・)

暗転する意識の中、蒼穹が詩乃の元に急いで駆け寄る姿が見えた。

そして悟った。彼女が蒼穹の足枷になっているのだと・・・

 

もし、蒼穹を詩乃から引き離せば、蒼穹は一体どれだけ強くなるのか・・・あるいは、彼女を人質に取った時、彼はどれほど弱くなるのか・・・・

 

それはすぐに思い知った。

参加のグループの一つが詩乃を人質に取り、蒼穹は当然駆け付けたものの、詩乃を人質に取られているので手が出せず、たこなぐりにされたらしい。

それが証拠に、その次の日、蒼穹の顔や体には包帯やら絆創膏やらがあり、それで大和は、詩乃が彼の弱点だと知った。

だから、蒼穹から詩乃を離そうとした。

蒼穹がこれ以上弱くなる前に、自分に打ち勝った最初の人物として、彼を讃える為に。

その目論見は全て失敗した。どう捏造しても、蒼穹は自らそれを解決してまわったのだ。

ただ、黒幕は大和だと最後まで分からなかったらしい。

そして、いつの間にか、蒼穹と友達になっていた。

過去の事は全て水に洗い流し、会話したり、笑いあったり、しかしそれでも、詩乃という存在は邪魔だった。

いつでも蒼穹の隣を歩き、笑い、彼と本当の意味で対等になっている彼女がどうしても邪魔だった。

蒼穹は、自分たちと同じになるべきだ。その力を思う存分振るうべきだ。

だが、詩乃の存在が蒼穹をあちら側に引き留めている。

だから邪魔だった。

だから排除したかった。

 

 

 

「消えろぉぉぉぉ!!」

モードレッドが声を荒げ、詩乃にその剣を振り下ろす。

「ぐああぁ・・!?」

その衝撃でよろけるシノン。

そこへ足払いをかけ、仰向けに転ばす。

「テメェさえいなければァ!」

「ぐうああああああ!?」

直剣を何度も振り下ろし、シノンに叩き着ける。

シノンは何とかダガーで防ぐも、徐々にHPが削られていく。

「テメェさえいなければ!蒼穹は!その力を思う存分使えた!その力で、支配出来たはずなんだ!それをお前がいたからァ!」

「ぐ・・・ああ・・!」

最後の一撃は無理矢理押し込み、シノンの左肩に食い込む。

「お前がいたからあいつは頂点に立つ事が出来たんだ!その可能性をお前は潰した!その挙句、あいつはあのゲームに囚われた!」

蒼穹が、SAOに囚われたと知り、大和は荒れた。

生涯の親友の筈の彼が、いつ死んでもおかしくない不安に押しつぶされかけ、その不安を振り払うように喧嘩に明け暮れた。

更に、詩乃が街から出て行った事を知り、その時は歓喜した。

これで蒼穹を縛り付ける物は無くなった。こちらの道に誘い込める。

だが、そんな喜びも束の間、蒼穹さえもこの街からいなくなった。

埼玉県の総合病院に運び込まれたと知り、すぐ向かったが、そこには、安らかに微睡む蒼穹の姿しかなく、その姿に、大和は酷く絶望し、同時に後悔もした。

何故、この事を知らなかったのか、何故彼がこのゲームをやったのか、どうして自分も買わなかったのか。

「俺がどれほど後悔したのか!お前に分かるか!?ええ!?」

その言葉にシノンは()()()()()

「後悔した・・・ですって・・・?」

いきなりモードレッドの直剣が押し返される。

「そんな暇があったんなら・・・どうして()()()()()()()()()!?」

「!?」

そして弾かれた。

「ソラと一緒に帰る為に!どうしてソラを追いかけなかったのよ!?」

左に差した小太刀を左手で引き抜く。

そしてその小太刀を左から上段から叩き着ける。モードレッドはその攻撃を右手に持った剣で防ぐ。そこから重い衝撃が響く。だがシノンは右のダガーを振り上げ、小太刀の上から追撃した。

「ぐお!?」

剣を下に弾き、モードレッドの右肩から左脇まで斬りつける。

そこからは縦横無尽に左右の剣を振り回す。

「あの世界で!どうしてソラと一緒に戦わなかったの!?どうしてソラと一緒にあの世界の行く末を見なかったのよ!?」

「お前に・・出来たのかァ!」

モードレッドが剣を上段から振り下ろす。

だがシノンはその攻撃を両手の剣を交差させ防ぎ、弾く。

「出来たわよ!!」

そして両脇にダガーと小太刀を構え、そこから同時に突きを放つ。

モードレッドはギリギリの所で体を捻り、その突きが両の脇腹を掠る。

「ダアァ!!!」

「な!?」

だがそれでは止まらず、刃を上に向け、剣を上に向かって振り上げる。

そして脇を斬る。

「あの世界に来たおかげで私は強くなれた!」

右のダガーを左上段から斜め下に向かって斬り下ろし、更に同じ方向から小太刀で下段から斜め上に向かって斬りあげる。

「あの世界で私はソラに思いを伝える事が出来た!」

そのまま回転し、右足の水平蹴りでモードレッドを蹴り飛ばす。

「あの世界があったから!私はキリトやアスナ、沢山の人たちと繋がれた!」

その右足で思いっきり地面を踏みつけ、駆け出す。

「あれは・・・!?」

それを見てキリトは驚く。

シノンは横に地面から平行に飛び、左の小太刀を突き出し、モードレッドの右肩を抉る。

「うあああああああああッッ!!!」

そのまま左回転して、右足が地面に着いた瞬間、右のダガーを思いっきり左下段斜め下から右肩まで斬りあげる。

 

二刀流スキル《ダブルサーキュラー》

 

それは見様見真似の真には程遠いものだが、それはしっかりとモードレッドに直撃した。

ただ、何度かあの世界で見せた技だが、それをここでトレースして繰り出すとは、キリトも思っていなかった。

モードレッドのHPがレッドに入るのが見えた。

状態を大きく仰け反らせ、倒れる寸前の所で踏みとどまっている。だが、大きな隙がある事には変わりない。

シノンは大きく飛び、小太刀を捨て、ダガーを逆手に持ち、モードレッドに向かって落下する。

「大和ォォォォォォ!!!!」

シノン(詩乃)は絶叫し、それを、モードレッド(大和)の胸に突き刺した。

「ぐ・・あ・・・・」

地面に倒れ伏すモードレッド。

そのモードレッドにダガーを突き刺し、馬乗りになっているシノン。

「・・・俺の負けか・・」

「ええ、その通りよ」

モードレッドは、シノンを見上げながら、そう言う。

「・・・・思いを伝えたって言ったよな?それは、恋愛の意味でか?」

「・・・ええ、そうよ」

少しの間を置いて、シノンは、詩乃はそう答えた。

「そうか・・・ああ、向こうで蒼穹に殴られるな・・・」

モードレッド・・・大和は何か吹っ切れたかの様に、笑う。そして、すぐ元の表情に戻り、詩乃に、初めて頼み事をした。

「蒼穹を助けてくれ」

それを最後に、大和はその体を消滅させ、赤いエンドフレイムとなった。

「・・・ええ、必ず」

詩乃は、その炎が消えるまで、見続けた。

 

 

 

 

 

直葉は、考えていた。

今まで、恋次を苦しめたのは私だ。私の軽はずみな言動が、恋次を傷付けた。

なら、どう償えばいいのだろう・・・

剣を振り下ろす?否。

もう一度話し合う?否。

なら、どうする?

直葉は、まだ最初の姿勢のまま、動かずそう考えた。

もしこのまま竹刀を振れば、この手に持つ竹刀が、恋次の命を奪わないまでも、大怪我させてしまうかもしれない。

ならどうする?

(決まってる)

直葉は、それが最も最良の償いだと思い、竹刀を上段に大きく構える。

同時に恋次も同じように構える。

(恋次・・・ごめんなさい)

直葉は、心の中で恋次に謝り、そして、踏み出す。同時に。

 

そして、直葉は、()()()()()()()()()()

 

直葉、最もな償いとして、恋次の剣を受ける事に決めた。

こんなもの、彼は受けた痛みに比べれば、ずっと軽いものかもしれない。だけど、これ以外に、思いつかなかった。

そして、突き進む勢いを殺さず、眼を閉じて、いずれくる竹刀の打撃の衝撃を待った。

だが、次に来た衝撃は、予想とは違うものだった。

何か壁にあたったようだが、それは暖かく、直葉の体よりも大きい、頼もしい誰かの胸板。

「・・・・え?」

いきなり体から力が抜け、床に膝を着き、座ってしまう。

背中にはいつの間にか、手が回され、抱きしめられている。

「れん・・・じ・・・?」

「ごめん」

恋次の声がすぐそばで聞こえた。

「本当は、離れたくなかった。だから、このまま直葉の剣を受けて、全ておわりにしようと思った。あの時の様にはいかなくても、もう一度、直葉と一緒にいたいって思ったんだ。思ったんだ・・」

恋次の嗚咽が聞こえた。

「なによ・・・」

直葉は、恋次の胸に顔をうずめ、恋次の上着の裾を握りしめ言い返す。

「私だって・・・恋次がいままで受けた仕打ちを、全部償おうと思って・・・だから、恋次の剣を受けて、全部、終わりにしようと思って・・・ふぇぇ・・」

直葉がとうとう泣き出す。

恋次も、より一層直葉を抱きしめる。

「ごめん・・・ごめん・・・直葉・・・」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・恋次ぃ・・・・」

眼から涙を流し、互いに謝罪を繰り返す。

やがて、涙が止まり、直葉が恋次の胸から離れ、互いに見つめ合う。

そして、恋次が口を開く。

「直葉、改めて言わせてくれ。俺は、君が好きだ」

その言葉に、直葉は満面の笑みを浮かべて、答える。

「うん。私も、君の事が好き、大好き」

しばし、見つめ合い。恋次が、直葉に顔を近づけ、残り三センチの所で止まる。

直葉は目を閉じ、それを待つ。

そして、恋次がまた近付き、唇と唇が触れ合う。ただ、それだけ。

それだけの、キスだった。

やがて、唇を離し、気付くと直葉の眼はとろんとしていた。

「恋次・・・」

「お前・・・あれだけでそんなにふけるのか?」

「べ、別にいいでしょ!」

少し顔を赤らめ、そっぽを向く直葉。

だが、すぐに恋次の顔を見ると、何か決心したような眼差しを向ける。

「行こう。お兄ちゃんとシノンさんの所へ。アスナさんとソラさんを助けるために」

「ああ、そうだな。きっと、待ってる」

そして、二人は立ち上がり、それぞれの家に向かう。

ただ、二人は、別れるまで、手を繋いだままだった。

「恋次!」

「ん?なんだ?」

別れ際、直葉は叫んだ。

「大好き!」

それに、恋次も答える。

「ああ、俺も大好きだ!」

そうして、彼らは、あの世界に向かった。

 

 

 

 




次回

レコンを加えた、キリト、シノン、リーファ、レン、ユイの六人。
彼らはグランドクエストに挑むべく、その門をくぐる。
その先にある答えとは?

「よくわからないけど、何か、大事な事なんだよね?」

レコンの自爆。だが無造作に量産されるガーディアンの数に万事休すと思われたその時!
思わぬ救援が駆け付けた!

「遅くなってすまない!」

「ごめんね~」

そして、決死の攻防戦が始まる!

「後ろを頼む!」

「飛べッ!」

「斬ッッ!!」

「行って、どこまでも・・・行っけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


次回『世界を支える樹の頂上へ』

「行くぞォ!シノン!」
「撃ち抜けぇぇぇぇッ!!」

次回をお楽しみに!

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