ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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狂人と恋人と弟

央都アルン。そこは、アルヴヘイム・オンラインの中心に座す、この世界最大の都市だ。

そこの中央にそびえ立つのは、世界樹。

このゲームの最大の目標にして、最大の難関のクエストが存在する巨大な樹だ。

「ここがアルンかぁ」

リーファが、初めてくる街の壮大さに感心する。

「ものすごく賑わってるなぁ」

「そうね」

「人がいっぱいです~!」

上からキリト、シノン、ユイの順番でそう呟く。

「それじゃあ、宿を探して一度落ちましょうか。もう遅いですから」

レンがそう提案する。

「ん?お、そうだな。じゃあユイ。この辺りで一番安い宿どこにあるか教えてくれるか?」

「はい!激安のがありますよ!」

「あんた金全部渡しちゃったもんねぇ~」

と、キリトに対して呆れるシノン。

そこで丁度、定期メンテナンスのアナウンスが響き渡る。

「おっと、それじゃあ急ごうか!」

「あ、まってよお兄ちゃん!」

走り出すキリトを追いかけるリーファ。

「それじゃあレン。明日」

「あ、はい」

その後を追いかけていく二人。

 

 

 

 

 

 

 

「3・・・2・・・9・・・」

アスナは、電子ロックの数字を押し、鳥籠を開ける。

ソラから教えてもらったパスワード。それを無駄にする訳にはいかない。

須郷は定期的にこちらに来ているが、それはたったの二日に一度。五時間たった今ではしばらくはこないだろう。

それに、メリュジーヌもここには滅多にこない。

ならば、今しかない。

「キリト君、私、がんばるから」

そう呟き、走り出す。

 

 

 

 

 

「ふぁぁ・・・」

朝、食卓で盛大なあくびをする詩乃。

「昨日はかなり遅かったようだな?」

「しゅいません・・・いろいろありまして・・・」

そこで、頭に霧吹きをかけられる感触と頭を誰かが撫でる様な感触を受ける。

「まずは、その寝ぐせだらけの頭を治してからにしてね」

「ありがとうございます」

寝ぐせを治してくれた時子にお礼を言う詩乃。

それから出されたパンを食べ、軽くシャワーを浴びる。

そして、外に出て、ロードレーサーを走らせる。

 

 

 

 

「あ、あの・・」

「ん?」

待ち合わせの公園。そこで、少し赤がかった黒髪をした少年が、詩乃に話しかける。

「貴方が、シノンさんでいいんでしょうか?」

「ええ。という事は、貴方がレンね」

「はい。氷鉋 恋次です」

「朝田 詩乃よ。よろしく」

軽く挨拶をかわす二人。

「それじゃあ行きましょうか」

「あ、俺自転車・・・」

「大丈夫、病院結構近いから」

その言葉の通り、結構近かった。

ソラの病室のパスカードを受け取り、エレベータに乗る。

ソラの病室は、アスナの最上階の病室では無く、その二つしたの階にある。

目的の階に着き、部屋に向かう二人。

そして、一つの部屋で立ち止まる。

「地条 蒼穹・・・プレイヤーネームと同じなんですね」

「ええ、そういえば、貴方同い年なんだから敬語使わなくていいわよ」

「わ、わかった」

部屋に入り、詩乃がベッドの前にあるカーテンに手をかける。少し躊躇い、開ける。

そこには、とても二年間眠っていたとは思えない男性がいた。

筋肉はあまり落ちておらず、顔もそれほど痩せていない。

ただ二年間眠っていたという事を分からせてくれるのは、男性にしては伸びた黒い髪だ。

「彼が、SAOでその名を轟かせた『狂戦士』ソラ。そして、私の恋人であり、SAOに生きた全ての人にとっての、もう一人の英雄(ヒーロー)・・・」

詩乃の言葉を聞き、確信する。

 

この人は本物だ、と・・・

 

眠っているからそこまでは分からないが、その姿から出される雰囲気は、何か、威圧の様な物を感じる。

「紹介するね。彼は、氷鉋 恋次。私が、こっち戻ってきてからできた、友達」

「こんにちは、ソラさん」

返事は無い。だが、何か、感じる物がある。

「ソラさんは、どんな人だったんですか?」

「そうね・・・強くて、独りで抱え込む事が多くて、それでいて泣き虫な人だったかな」

そこから語り出されるソラという人物の物語。

彼は、誰よりもSAOクリアを願った事。犯罪者たちを殺して、恐れられた事。『狂戦士スキル』という、誰よりも過酷なスキルを持っていながら、戦う事をやめなかった事。

 

そして、世界の終焉で、虹色の光で全ての人の未来を繋いだ事・・・

 

「だからね、ソラは、SAO全てのプレイヤーにとっての、もう一人の英雄なの」

「英雄・・・」

短い沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、自動ドアが開く音だった。

「!?」

詩乃はほぼ条件反射で椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がる。

前回、彼のクラスメイトたちが来たので、それに警戒しての事だろう。

だが、入ってきた人物は、全くもって予想しなかった人物だった。

「あら?なんでここにいるのかしら?」

 

「・・・・・・・・綾香?」

 

ソラの母親にして、詩乃の最大の天敵、地条 綾香だった。

「なん・・・・」

なんでと言おうとしたが、そもそも彼はソラの母親、来て当然だ。

「なんでここにいるのかしらって聞いてるんだけど?詩乃?」

「・・・・別に」

そっけ無く返す。

すると突然、この部屋の空気が急激に重くなる。

「「!?」」

呼吸が荒くなる。何かに圧迫されているような感覚に見舞われる。

「別に・・・ですって?ふざけてるのかしら?貴方の様な()()()が、この神聖な場所に来ていい筈がないでしょう?」

それは、綾香が発する殺気。自分の息子に手出しするような輩の心を折る為の、狂った殺意。

「そ・・・んな・・の・・・わた・・しの・・勝手で・・・しょう・・が・・」

更に空気が重くなる。

「く・・・・かぁ・・・」

苦しい。まともに呼吸が出来なくなっている。

更に殺気が増せば確実に呼吸不全に陥る。

「ソラは私の物。私の所有物。私が産んだ私の子供よ。その子をどうしようが私の勝手じゃない?」

「か・・・はぁ・・・」

酸素・・・・酸素が欲しい・・だけど・・・膝を折る訳にはいかない。

ならどうする?これに勝る殺意をぶつければ相殺できるかもしれないが、そもそも人を()()()で殺した詩乃ではどうする事も出来ない。

これは、人を殺す事が出来、かつ人を殺す気でいる者だからこそ出せる殺意。

人を自分の意志で、衝動ではなく、理性で殺したことがあるソラならどうにかできるかもしれないが、ソラは今、ナーヴギアで現実に復帰していない。

「愛とは支配する事。蒼穹を愛せるのは私だけ。それを邪魔する奴は誰だろうと殺す。消す。詩乃、貴方もすぐに消せるのよ?私が一つボタンを押すだけでね・・・・だけど・・・」

そこで殺意が三倍も重くなり、とうとう呼吸ができなくなる。

「か・・・」

「どうして()()()()のよ!?誰なのよ!私の計画を邪魔するクズは!私と蒼穹の愛を引き裂こうとするバカは!勝手にこんなクズのアカウントに手出しできない様にロックしやがって!誰なんだよ!教えろよ!」

「が!?」

詩乃の首を両手で掴む。

「教えろ!教えろ!」

「く・・・あ・・・」

綾香の顔はいつのまにか、その美貌がとんでもないほどに怒りで歪んでいた。

詩乃の方は呼吸で出来なくなっているので、喋ろうにも、息を吸う事はおろか、吐き出す事さえも出来なくなっている。

そのまま首を絞めていく綾香に向かって、今まで無視されていた恋次がこの重い空気のなかで、()()と口を開いた。

 

「・・・・殺」

 

瞬間、空気の重圧が消える。

「かっハァ!!」

詩乃がまるで呼吸の仕方を思い出したかのように息を吸い込む。

「それが・・・」

恋次が、綾香に向かって叫ぶ。

「それが人のする事ですか!」

それで恋次の存在に気付いたのか、綾香がゆっくりと恋次の方を見る。

「はあ?人のする事?そうでしょ?だって蒼穹は私の物・・・」

「違う!自分は自分の物だ!他人の物なんかじゃない!」

綾香の言葉をすぐさま否定する恋次。

「貴方は間違っている!愛は支配する事じゃない!与える事だ!決して他人から貰う物なんかじゃない!」

「何言ってるのよ?頭大丈夫?蒼穹は私の中から生まれて、私が育てたのよ?だったら、私の物で決まりでしょ?」

「確かにソラさんは貴方が育てたのかもしれない。だけど、それだけだ!ソラさんの心はソラさんのもの!貴方が育てたからって、それが絶対に貴方に絶対服従するとは限らない!」

「黙りなさい」

殺意が場を覆う。だが、それはすぐに打ち払われる。

「!?」

「黙りません。貴方がどれほどソラさんの事を自分の物だと主張しても、俺は決して自分の言葉を曲げない!力の前に俺は屈しない!」

「このガキ・・・じゃあ何!?自分の子供がもう二度と手の届かない場所にいって、二度と会えないって事になったら!?自分との関係が永遠に断ち切られたら貴方はどう思う訳!?ええ!?」

その綾香の問いに恋次は・・・

「そんな物、自分の育て方が悪かっただけだ」

即答、それも正論を叩き着けた。

「恋次・・」

「ッッッ!!!この・・・」

「そこまでだ」

突然、別の声が聞こえた。

その声で、その場の空気ががらりと変わる。

「大丈夫か朝田」

「あ、海利さん・・・」

声の主は、詩乃の元に駆け寄ると、肩を貸す。

「もういいだろう?母上。こいつらは俺が出す。お前は俺の弟と()()()()()でもするんだな」

「あら、たまには気が利くじゃない?」

その人物、海利は恋次に視線を向ける。

「お前も来い。確か恋次と言ったか?」

「あ、貴方は一体・・・」

「いう事を聞いて、お願いだから」

恋次のセリフを遮る、苦しそうな表情をする詩乃。

「・・・分かった」

 

 

 

 

海利の部屋。

「あの人なんなんですか海利さん!」

「まずは落ち着け、血圧が上がるぞ」

しぶしぶ出されたお茶を飲む恋次。

ここに来る途中、海利の事を聞いた恋次は、信頼に値すると思ってはいるが、綾香の事は嫌悪の対象でしかないようだ。

「仕方ないだろう。あいつはそういう奴だ」

「ですが・・・あんな人が居ていいんですか!?」

「俺もそう思う」

詩乃はソファに寝かされ、額に濡れたタオルをあてがっている。

「だが、奴がどんなに犯罪を起こしても、奴はどんな証拠でもでっち上げる事が可能だ。どんなに証拠をそろえても、決定的な物が無ければ奴を有罪にする事など無理に等しい」

「でも、それじゃあ・・・」

それでは、一生詩乃は彼女に怯えながら生きて行かなくてはならない。

「大丈夫・・・」

「!?」

ここで詩乃が上体を起こす。

「どうせ、今日で終わらせる。そこで、必ずソラを助け出して、全部、終わる。あの事件はもう終わるから」

詩乃は、微笑む様にそう言う。

「・・・・貴方は、強いですね」

「そんな事無いわよ。寧ろ、あんたの方が強い。あの殺意に怖気づいた私と違って、あんたは払いのけた。それは、凄い事なんじゃないの?」

「いえ、そんな・・・」

詩乃の賞賛に謙遜する恋次。

「確かに、奴の殺意は尋常じゃない。それを払いのける奴とは、蒼穹意外にいなかったな」

「え?」

「蒼穹は一度、母上の殺意を見た事がある。それが自分に対してじゃなくても、あいつは、ただ一つ、守りたいという思いだけで払いのけてきた。だから、蒼穹は奴に屈する事は無く、そして、朝田の事も守れた。俺は、蒼穹以外で、そこまで強い奴は見た事が無い」

「・・・・本当に、そうなんでしょうか?」

海利の言葉に、俯いて、そう答える。

「自分が信じきれない・・・か。お前には、ある一つのトラブル抱えているな。それも、相当前から。始まりは()()()、誰かと()()して、心に深い傷でも負ったか?」

「な・・・!?」

恋次の事情を言い当てる海利。

「海利さん、今加速思考(アクセルブレーン)使ったでしょう!?」

「む?どうしてわかった?蒼穹の場合は、まだ()()に使えていないから解らないはずだが?」

「流石に家に泊まらせて貰ってるんですから、二ヶ月も経てば分かりますよ!」

「あのー」

恋次が会話に割り込みながら手をおずおずと挙げる。

加速思考(アクセルブレーン)ってなんですか?」

「ああ、俺たち、地条兄弟にしか出来ない芸当でな。自分の思考を加速させて、本来なら考えつかない結果や、正しい結果を瞬時に導き出すいわば、脳の情報処理能力を強化する能力だな」

「ああ、なるほど」

恋次が手をぽんと叩く。

「さて、そろそろ良いだろう。どうだ?まだ苦しいか?」

「いえ、もう大分軽くなりました」

「そうか。どうする?まだ歩けないのなら夜まで待って俺が送って行ってやるが・・・」

「いえ、自分で帰れます」

「そうか・・・」

ソファから立ち上がる詩乃。よろける事も無く、どうやら本当に大丈夫の様だ。

「それじゃあ、これで」

「ああ、気を付けて帰れよ」

「ありがとうございます」

そうして病院を出た二人。

「あの」

「何?」

「少し、寄っていきたい所があるんだが・・・」

「別にいいけど、まだ時間あるし」

「それじゃあ」

そうして恋次についていく事、数十分・・・

そこは墓地だった。

「ここは・・・」

「こっちです」

そこから少し歩き、一つの素っ気ない墓の前で止まる。

「氷鉋・・・恋一・・」

「これが、俺の、兄の墓です」

そこにはしっかりと、『氷鉋 恋一』と彫られていた。

「お兄ちゃんは、ゲームがとても好きな人でした。それでいて、勉強が出来て。俺は運動が出来ても勉強なんて全然できませんでしたよ」

「知の兄と力の弟・・・ね」

「はは。それで、俺にやさしくて、勉強も教えてくれたんです。ゲームは時間通りにやって、我慢も出来て、俺はそんなお兄ちゃんを尊敬していた。だから、そのお兄ちゃんが、SAOに囚われて、死んだ時は、本気で自殺しようかと思った。VRMMOも死ぬほど恨んだ。だけど、俺は《あいつ》に嫌われて、それどころじゃなくなって。その内にお兄ちゃんが愛した世界を知りたくなって。そしたら、あっという間に虜になってしまった。本当に、どうしようも無いですよね」

「そうね・・・」

詩乃は、恋次の話を聞いて、そう答える。

「なんか、陰気臭い話になってすみません」

「ううん、なんだかあんたの兄さんの事知れてよかったと思うわよ。ソラにも聞かせてやりたいな」

「ははは、詩乃さんの話だと、ソラさんって相当腹黒いんだよな?」

「まあね。あまり他人とは関わろうとしないから、いい機会になると思うな」

そうして、彼らは帰っていった。

 

 

 

 

ALO、アルンの激安宿屋からログインしたシノン、キリト、レン、リーファの四人。

「おっすシノン」

「少し遅かったわね」

「すみません。お兄ちゃんがもたもたしてるから」

「お前だって風呂長かったじゃねぇか!」

「それをいうならお兄ちゃんだって!」

「はいはいそこまで」

兄妹喧嘩に発展しそうなキリトとリーファを止めるレン。

「それじゃあ行きましょうか」

現在ALOは昼。一日が現実の二分の一に設定されているこの世界は、たとえ昼の時間にダイブしても夜である事があるのだ。

「これが世界樹・・・間近で見るとすごいな・・」

「そうねぇ・・・」

中心にそびえ立つ巨大な樹、通称『世界樹』を見て、大きな感嘆を漏らすキリトとシノン。

「うん。そうだね・・・」

「あの上に・・・オベイロンとアルフがいて、天空都市があり、アルフを最初に謁見出来た種族だけがアルフに転生出来る・・・」

それに同情する様に呟くリーファとレン。

そうして、世界樹の根元まで来た四人。

「!?」

そこでユイがキリトの胸ポケットから頭を出す。

「ユイ?」

「ママが・・・このプレイヤーIDは・・・間違いないです!ママがこの上にいます!!」

「ッッ!!」

それを聞いたキリトがいきなり上空に向かって飛翔!!

「え!?お兄ちゃん!?」

「キリトさん!?」

キリトの突然の行動に驚くリーファとレン。

「!」

「シノンさんまで!?」

その後をシノンも追いかける。

 

――ソラが、ここに!

 

アスナがいるなら、ソラもいる筈だ。

「お願い!アスナ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナは鳥かごの中にいた。

それは何故か?捕まってここに戻されたからだ。

ここまでの経緯を話そう。

アスナは、ソラから教えられたパスワードでこの鳥籠を脱出。

そこはどこかの施設の様な構造になっていて、エレベータがあったりと、いろいろだったが、途中で案内板があったのでそれを見ながら《実験体格納庫》なる場所に行き、そこでGMコンソールを発見。そこからなんとかログアウトを試みた所ここの研究員のアバターであろうナメクジ二匹に捕まってしまったのだ。だが、そこでGMコンソールに刺さっているカードを見つけ、それをバレないように盗み、それを持ったままここに戻されたという訳だが・・・

「キリトくん・・・ソラくん・・・シノのん・・・」

親しかった三人の名前を呟くアスナ。

ソラは、現在須郷やメリュジーヌの都合の良い番犬にされ、キリトやシノンはもしかしたら捉えられているのかもしれない。

もし、あの実験体格納庫で、キリトやシノンの物があったのなら、助けられた筈なのだ。

いまじゃ、パスワードを変えられ、出られなくなってしまったが・・・

そう、諦めかけた時・・・

『ママ・・・聞こえますか?ママ!』

「!?」

懐かしい声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「くそ!くそ!」

キリトは焦っていた。

世界樹の上には愛する人がいる。だというのに・・・

「なんだよッ、この壁はぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

怒りの咆哮を揚げながら見えない障壁を殴り続ける。

シノンに至ってもそれは同じだ。

「お兄ちゃん!無理だよ!その障壁はどうあっても・・・」

「でも、行かなきゃけないんだ。今すぐにッ!」

そこでユイがポケットから出てくる。

「警告モード音声なら届くかもしれません!ママ!わたしです!ママー!」

 

 

 

 

その声は届いた。

「ユイちゃん!どこにいるの?ユイちゃん!」

『ママ!ここにいるよ!』

頭に直接響くようで方向は分からないが、そんな事関係ない。

「私は・・私はここにいるよ!ユイちゃん!」

あの世界で出会った『娘』がいるのなら、『彼』もいるはずなのだ。

「キリトくん・・・」

そこでアスナは鳥かごを見回す。

何か、自分がここにいるという証拠を・・・・

あれだ。あれなら外に出せる。本来ならここにあるべきものじゃない物が!

アスナは枕の下に隠したカードを掴み、それを鳥籠の外に出し、落とす。

 

 

 

 

 

 

そして、それは彼らにも届いた。

「この!この!」

「やめろシノンさん!いくらやっても無駄だ!」

「だけど・・・!」

「あれはなんだ!」

『!?』

キリトが叫び、それにつられて全員がその方向を向く。

「あれは・・・」

何かがキラキラ光りながら落ちてくる。

いや、反射しながら、だ。

それをキリトがつかむ。

「これは・・・カード?」

何の変哲も無いただのカード。しかし、ユイにはこれが何か分かった。

「これは・・・システム管理用のアクセス・コードです!」

『!?』

つまり、これを使えば、GMアカウントで・・・アスナやソラを助け出す事が出来るのか?

「ユイ、これを使えば・・・」

「いえ、今の私ではシステムコンソールを出す事は出来ません・・・」

「くそ・・・」

悪態吐くキリト。

「・・・キリト、行こう」

シノンは、キリトにそう言う。

「ああ、そうだな」

そこでキリトはリーファを見る。

「リーファ、教えてくれ、この樹の入り口はどこにある?」

「ここの根元にあるけど・・・まさか・・」

キリトの意図を察するリーファ。

「む、無理だよお兄ちゃん!シノンさんがいるとしても、二人だけで攻略なんて出来っこないよ!」

「それでも、行かなきゃいけないんだ」

そうして、下に降りていく二人。

「お兄ちゃん!」

リーファが、キリトの事を呼ぶが、キリトが止まる気配は無い。

それは、シノンも同じだった。

世界樹の根元にある大きな扉。

その脇には大きな彫刻が置いてあり、神聖な場所とでも言うかのようだった。

「よし、行くぞ、シノン、ユイ」

「はい。でも良いんですか?今までの結果累計すると、ゲートを突破するのは難しいかと・・・」

「それでも、行かなきゃいけないのよ」

ユイの心配そうな声に、力強い口調でなだめるシノン。

『未だ天の高みを知らぬ者よ、王の城へ到らんと欲するか』

目の前に、クエストをやるかやらないかのYESとNOの表示が出される。

「キリト」

「ああ」

キリトはそれを躊躇いなくYESと押す。

『さればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい』

雷鳴の様な轟音が響き渡り扉にぴしりと亀裂が入る。

「行くぞ・・・」

「ええ」

キリトは背中にある黒鉄の大剣を抜き、シノンは、自分の身長ほどはある弓を携える。

目の前は、真っ暗だったが、入ってみると、いきなり視界が開け、巨大なドームがその眼に写しだされる。

そして、異変を感じる。

天蓋の発光部に何かが生み出されている。

それは人型、それも尋常じゃない数の。

だが、そんな事今の二人には関係無い。

「行けッ!」

「飛べぇ!」

同時に叫び、飛び立つ。

 




次回

グランドクエストに挑戦したキリトとシノン。
立ち塞がる無数の敵を斬り、射貫き、落とし、そして、天井に手を伸ばしたその時、あの日死んだ筈の英雄が立ち塞がる。

「なんでなんだ・・・ソラ!」

ぶつかる英雄(黒の剣士)英雄(狂戦士)
どんどん排出される敵。
そして・・・

「すぐ・・・は?」

「・・・・恋次?」

次回『仲間』

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