ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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囚われのお姫様と記憶を失った番犬

ALO・・・その中に存在する超巨大オブジェクト、『世界樹』・・・

その上には、天空都市だかアルフだがオベイロンだがいるらしいが、そこにあるのは鳥籠たった一つのみ。

黄金の鉄格子に大理石で出来た床に机に椅子、そして大きなベッドが一つだけだ。

そこにいすわるは、栗色、一部の物は、ロイヤルナッツブラウン色ともいうらしいが、誰もが目を引く、美しい少女がいた。

しかし、普通の人間とは、少し異なる点があった。とんがった耳と、背中に生えた羽だ。鳥というよりは、昆虫に近い。

しかしその少女の顔に、笑顔は無かった。

いまにも押しつぶされそうな不安に耐え、いつ開放されるのか分からない、そんな気持ちしかなかった。

 

 

「その表情が一番美しいよ、ティターニア」

どこからか声が聞こえてきた。その根元は籠の扉の先にあった。

そこには、醜悪な笑みを浮かべた男がいた。

波打つ金髪に、それを額で白銀の円冠が止めている。体を包むのは濃緑のゆったりとした長衣、これも銀糸で細かい装飾が施されている。背中からは少女と同じ羽があるが、こちらは半透明では無く、まさしく蝶の物だった。

その男に嫌悪の眼を向ける少女。

「貴方なら思いのままでしょう?システムで好きにすればいいわ」

「またまたそんなつれない事を言う。僕が今まで君に無理矢理にでも触れた事があったかい?ティターニア」

「その名前で呼ぶのはやめて。私はアスナよ、()()()()()。いえ、()()()()さん」

アスナは、須郷伸之が操るスーパーアカウント、《妖精王オベイロン》の顔を見上げる。

「やれやれ、興覚めだなあ。ここでは僕は妖精王オベイロン。君は女王ティターニアじゃないか?いつになったら、僕の伴侶として心を開いてくれるんだい?」

「何度言っても無駄よ。貴方に与えるのは軽蔑と嫌悪、それだけだわ」

「やれやれ・・・・」

オベイロンは技とらしく首を振る。

そしてアスナに向かって歩み始める。

「でも、そんな強気の君を無理やり屈服させるのも良いかと、最近思うんだよね・・」

そしてオベイロンはアスナの顎を親指と人差し指で掴むと、まるで万力にでも動かされる様に、顔を向けられる。

「ッ・・!」

そして、オベイロンはアスナの着る露出の多い服の中央にある血の様に真っ赤なリボンの一端を掴むと、ゆっくりと、ゆっくりと引かれていき・・・

「やめて」

なんとかかすれ声を絞り出すアスナ。

そこでオベイロンはその反応が面白いのか、より一層その顔を醜悪ににやけさせる。

「まあ、さっきも言った通り、僕は無理矢理、手をかけない。どうせ君の方から僕を求めるようになるのだから」

「何をバカな事を、気は確かなの?」

「ふふ、そんな口を利けるのも今の内だけさ。すぐに君の感情は僕の意のままになるんだから。ねえ、ティターニア」

そこでオベイロンは大きく身の乗り出し、広大な空に目を向ける。

「見えるだろう?この広大な世界を。何万人というプレイヤーがダイブし、ゲームを楽しんでいる。だけどねぇ、彼らは誰も知りもしないのさ。このフルダイブ技術が、ただの娯楽の為だけの物じゃ無いってことをねぇ!!」

そしてオベイロンは技とらしく両手を大きく広げる。

「冗談じゃない!!こんなゲームは副産物に過ぎない。フルダイブ用インタフェースマシン、つまりナーヴギアやアミュスフィアは電子パルスのフォーカスを脳の感覚野に限定して照射し、仮想の環境信号を与えているわけだが・・・・もし、その枷を取り払ったらどういう事になるか・・・」

オベイロンの瞳に、どこか逸脱した輝きが宿る。アスナはそれに恐怖する。

「それはね。脳の感覚処理以外の機能・・・すなわち思考、感情、記憶までも制御できる性能があるってことだよ!」

あまりに常軌を逸したオベイロンの言葉に、アスナの顔が強張る。

「そんな事・・・許されえる訳が・・・」

「あら?誰が許さないっていうのかしら?」

「!?」

更に別の声。今度は女性だ。そこに目をやると、入り口には黒髪の女性がいた。

その後ろには黒い甲冑を来た男。

「《メリュジーヌ》・・・」

「今では各国で密かに研究されてる事よ?でもまあ、これには必ず人間の実験体が必要なのよねぇ。ちゃんとコトバで何考えてるのか言ってもらわないといけないからねぇ」

黒髪の女性、メリュジーヌ―――名前の由来はフランスの伝承に存在する蛇女の事だ―――は、醜悪にみちた顔でそういう。それを続ける様にオベイロンが口を開く。

「脳の高次機能には個人差が多い。だから大量の実験体が必要なんだよ。それに、脳をいじくりまわす訳だからね、おいそれと人体実験なんてできない。それでこの研究は遅々として進まなかった。ところがねぇ、ある日ニュースを見ていたらいるじゃないか、恰好の研究素材が、()()()もさ!!」

再びアスナの肌を冷気が思いっきり撫でまわす。体が強張り、まるで石化してしまったかのように動けなくなる。

「茅場先輩は天才だけど大馬鹿者だよ。あれだけの器を用意しておきながら、ゲーム制作だけで満足するなんてね!流石にSAOサーバー自体には手をつけられなかったけど、ルーターを細工して僕の世界に誘う事はそれほど難しくなかったよ。それに三百人も手に入れられたのは彼女のお陰だよ!」

「あら、それは光栄の至りですわ、閣下」

メリュジーヌはドレスのスカートの一部をつまみ上げ、お辞儀する。

更に言葉を続けるオベイロン。

「旧SAOプレイヤー諸君のお陰で研究はかなり進んだよ。たった二ヶ月で人間の記憶に新規オブジェクトを埋め込み、それに対する情動を誘導する技術は大体形が出来た。魂の操作――実に素晴らしい!」

「そんな・・・そんな研究、お父さんが許すはずが無いわ!」

「無論、あの無能なジジイは何も知らないわ。研究は須郷さん以下極少数のチームで秘密裏に進められているわ」

「そうでなければ商品に出来ないからね」

そこである一つのワードに食いつくアスナ。

「しょう・・・ひん・・?」

「アメリカの某企業が涎をたらして研究終了を待っている。せいぜい高値で売りつけるさ。―――いずれはレクトごとね」

「・・・・」

「僕はもうすぐ結城家の人間になる。まずは養子からからだが、やがて名実ともにレクトの後継者となる。君の配偶者としてね。その日の為にもこの世界で予行演習しておくのは悪くない考えだとは思うけどね」

どうにか背中をかけめぐる悪寒を抑え込み、アスナはきっぱりと言い放つ。

「そんな・・・そんなこと絶対にさせない。いつか現実世界に戻ったら、真っ先にあなたの悪行を暴いてあげるわ」

「やれやれ、彼を見て、まだそんな事言えるかい?ガルム」

オベイロンが、甲冑の男の名前らしき言葉を発する。

ガルムと言えば、北欧神話に登場する番犬の名だ。

そして、その男が、頭に被った兜を脱ぐ。

「・・・・・・え?」

その正体を知ったアスナの顔は、絶望に染まる。

「ソラ・・・くん・・・?」

目の前の男は、あの日死んだはずのソラだったのだ。

しかしその顔にいつかの生気は無く、眼に光は無く、また、感情も映っていなかった。

「彼は、試験体一号でね、一番初めに記憶消去を受けて貰ったんだよ。まあ、副作用として()()()()()()()()()()()()()()のは、こちらの落ち度だがね」

オベイロンがくくくと笑う。だがメリュジーヌはそれを見て、さきほどまで浮かべていた微笑をひっこめ、殺意のこもった視線をオベイロンにぶつける。

「笑い事じゃないわ。私の()()がこんな事になって、貴方はどう責任を取ってくれるのよ」

「おっと、それはすまなかった」

「むす・・・こ・・?まさかあなたは・・・地条 綾香!」

その名は、今じゃ茅場晶彦に次ぐ天才で、天性の情報処理能力と、頭脳を持ち、SAOのメンタルモニタシステムを作り出した張本人だ。

「酷い・・・自分の子供になんて事を・・」

「何が悪いっていうの?子供は大人に従うものでしょ?それに私の子供である蒼穹をどうしようが私の勝手じゃない。たかが名家で育ったお嬢様風情が口出ししないでくれる?」

「な・・・!?でも、それじゃあ・・・」

「黙れっつってんでしょ?」

「ッ・・・」

メリュジーヌが放ったありえないぐらいの殺気に気圧されるアスナ。

 

――こんな・・・尋常じゃない。

 

ソラからも聞いていた事だったが、これは酷い。

「愛とは支配する事。それ以外の何物でもないわ」

「ッッ・・・!!」

 

――狂ってる。

 

アスナは、内心で強くそう思った。

「今行く、指示を待て」

そこでオベイロンの声が聞こえた。

「そろそろ時間だメリュジーヌ。それじゃあ僕たちはそろそろ行かせてもらうよ。次に会う時は、もう少し従順でいて欲しい所だがね」

そしてオベイロンは部屋を出ていく。

その後をメリュジーヌを着いていく。

「お母さん」

「何?蒼穹?」

そこでソラが口を開いた。あの世界でも聞いた、あの声だ。

「彼女と少し、話しをさせて貰えないでしょうか?」

「え・・・?」

その事に、驚きを隠せないアスナ。

「・・・良いわ、長くならないようにね」

「それほど重要な話をする訳じゃなにので『盗聴』の方も外してくれないでしょうか?終わったら連絡をしますから」

「・・・」

これには不満そうな表情をするメリュジーヌ。だが、息子の頼みは断れないようで、ウィンドウを開くと、あるコマンドを押したらしい。

「・・・必ず連絡するのよ」

「わかった」

そして、メリュジーヌは出て行った。

そして、ソラは彼女が見えなくなるとアスナに向き直る。

「・・・・」

アスナは警戒して、近寄らない。

「・・・君は・・・誰だ・・・?」

「え?」

「どこか聞き覚えのある、声だけど、それがどうしても分からない。教えてくれ、君は誰なんだ?」

ソラは、無表情なのに、必死に何かを求めるような声音を口から紡ぐ。

アスナは、これはソラが記憶を取り戻すチャンスなんじゃないかと思い、口を開く。

「私の名前はアスナ。ねえ、覚えてない?ソラくん?」

そこでソラの体がぐらつく。

「ソラくん!」

「アスナ・・・・アスナ・・・なんでだ・・こんなにも、呼んだことある名前の筈なのに、思い出せない・・・」

ソラは頭を押さえ、顔をしかめる。

 

「こんなにも、()()に響くのに・・・・」

 

「あ・・・」

ソラは胸を押え、そして、無表情だというのに、涙を流していた。

アスナは、更に言葉を発する。

「私は血盟騎士団、副団長、閃光のアスナよ。そして、貴方は、狂戦士ソラ、アインクラッドで活躍した、皆のヒーローなんだよ。そして、貴方は、()()()を愛した唯一の人」

そこでソラが激しく悶絶する。

「あああああああ!!」

「ソラくん!」

アスナはソラに近寄る。

「あああ!」

「ソラ君!しっかりして!ソラ君!」

「し・・・のん・・・シノン・・・・だれ・・なんだ・・・だれ・・・!?」

そこでソラは勢いよく飛び起きる。

「来た」

まるで先ほどの事が無かった事の様に涼しい表情をしているソラ。

「ソラ・・・くん・・・?」

「また、後で」

「え・・?あ、待って!待ってよソラ君!」

鉄格子の扉が閉まる。

「ソラ君!ソラ君――――――――!!」

彼女の叫び声の一切を遮断し、ソラは歩く。

 

ここからは、ガルムの仕事だ。

 

世界樹を攻略しようとするプレイヤーを(排除)し、その行く手を阻む。

転移フェーズに以降。転移開始。

視界が真っ白に染まるが、それは一瞬の事で気付くと、そこは巨大なドームの中。

そこは今戦場となり、おそらく六十人はいるであろうプレイヤー集団の内何人かが四分の一に達した処だった。

背中の大剣を抜く。

 

―さあ、始めよう。

 

この作業を早く終わらせるために、少年は戦場を飛ぶ。




次回

ルグルー回廊の前に到達した、キリト、シノン、リーファ、レンの四人。
そこで一時ローテアウトを行った時、レンは自らのリアルをシノンとキリトに打ち明ける。
そして突入したルグルー回廊。
そこで、突然サラマンダーの集団に襲われてしまう。
さらにそこには他の種族のの影が。

「なんであんたたちが!?」

「お前たちの最初の旅はここで終わりだ」

「お兄ちゃん!」

「死ね朝田ァ!」

「俺が生きている間は誰も死なせない」

次回『ルグルー回廊大規模戦闘』

次回お楽しみに!

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