「それで、ここどこ?」
「俺が知りてぇよ」
シノンとキリトは今、レクトが開発したVRMMORPG『アルヴヘイム・オンライン』、通称『ALO』の中の見知らぬ森にいた。
本来なら、それぞれが選んだ種族の領地に転送されるはずだったのだが、何故か、その途中でノイズが走り、今の状況に陥っているという訳である。
そこでキリトは人差し指と中指を揃え、振ってみる。
だが、キリトは首を傾げ何度もその右手を振る。
「ね、ねえ?もしかして・・・」
「いや、そんな筈はない」
と、今度は左手を振った。
「お」
と、今度は成功したようで、キリトは、左手を何度か振ると、目的の物を見つけたらしく、「あった」と呟いた。
シノンもそれに続いて左手を振る。
すると、空中にあのウィンドウが出現する。
それはSAOのものと同一のものだった。なので、ログアウトと書かれている表示を押してみると、フィールドでは、即時ログアウトは出来ません云々と、YES/NOの表示が表れた。
それでホッとしてしまうシノン。
「とりあえず、ログアウトは出来るってことね」
「ああ」
とりあえず、ここが何処かのかを探る為に、マップを開こうとした時、あることに気付いた。
「え・・・?」
「うわ」
ウィンドウ最上部には、シノンというお馴染みのキャラクターネームと、ケットシーなる種族名に加え、下に
それぞれ、400、80といういかにも初期値然とした数字だ。
だが、問題はそこではない。下にある習得スキル欄だ。
どれもこれも、シノンがSAOで培ってきた物で、ソラのお蔭でわずか一週間で、攻略組と渡り合える所まで上げてもらったのだ。
その数値が歴然と刻まれていた。
それは、キリトも同じらしい。
「おれは一体・・・」
「まさか・・・SAOの中なの?ここは・・」
空白と化した脳を引き戻すまで数十秒はかかり、考えていても仕方ないので今度はアイテム欄を探ってみることにした。
「うわ・・・」
「これは・・・」
その欄には文字化けだらけの名前がびっしりと書かれていた。
「うわぁ・・・・ん?」
一つ、何故か文字化けしていない物が一つ。
「これ・・・って・・・」
それを新たにオブジェクト化する。
手には、懐かしい形の物が乗っかった。
それは、短剣。しかもただの短剣ではない。
「それって・・・確かソラの・・・」
ソラは、あんな大きな大剣を振り回している癖に、短剣スキルまで鍛えていたのだ。そして、その彼が愛用していた短剣。
その名は『ナイト・オブ・ナイツ』、意味は、『夜と騎士』。
おそらく、ソラと結婚していて、その特権である全アイテムの共有、及び、ソラがあの時ゲームオーバーとなったお蔭で、アイテム全てがシノンの物になったのだろう。そのお蔭か、今ここに彼の短剣がある。
「うう・・・ソラ・・・」
シノンはその場に膝まづくと、嗚咽を漏らした。
キリトは、そんなシノンを眺めながら、少し、アイテム欄の方を見た。
「あ・・・」
そこには、とても見覚えのある《名前》が書かれていた。
キリトは、それをオブジェクト化する。
「キリト・・・?」
目尻に涙を浮かばせながらキリトを見るシノン。
だが、キリトの手にある物を見た瞬間、シノンの目が見開かれる。
キリトの手には、雫型のクリスタル。
それを、キリトが指先でこつんと叩く。するとそのクリスタルは眩い光を放ち、クリスタルが爆散する。
「あ・・・!?」
その光は徐々に増していき、周りの木々を明るく照らし、月さえもその光を失う。
そして、その光の中に、一つの人影をシノンは見た。
初めは分からなかったが、だんだんと見覚えのある姿になっていく。
そして・・・・
「ユイ、俺だよ」
確かな確信を持って言える。
この人物、いや、この女の子は・・・
「ユイちゃん・・・お帰りなさい・・・」
キリトとアスナの娘であり、ソラとシノンの妹でもある女の子、『ユイ』だ。
黒い長い髪と、幼い、可愛らしい少女が、空中で目を開く。
「また、会えましたね。パパ、ねぇね」
ユイが、目に涙を浮かべる。そして、思いっきりキリトの胸に飛び込んでくる。
「パパ、パパ!」
「ユイ・・・!」
そして、キリトはユイを、目いっぱい抱きしめる。
「奇跡は・・・起きるのね・・・」
シノンは、そう呟いた。
「それで・・・これは一体どういうことなんだ?」
キリトがユイに問いかける。
すると、キリトの腕の中で、至福の笑みを浮かべていたユイはキョトンとした顔でキリトを見る。
「?」
「ここはSAOじゃ無いのよ」
そして、これまでの経緯をかいつまんで説明した。
ソラがユイを圧縮して、キリトのナーヴギアに保存した事。
SAOとアインクラッドの消失。そして、新たな世界、《アルヴヘイム・オンライン》だということをユイに話した。だが、アスナとソラが、まだ目覚めていないということだけは、言えなかった。
「ちょっと待ってくださいね」
そこでユイは、耳を澄ますかのように耳を傾けた。
すると・・・
「この世界は、《ソードアート・オンライン》サーバーのコピーだと思われます」
「こ、コピー?」
「はい。基幹プログラム群やグラフィック形式は完全に同一です。私がこの姿を再現できていることからも、それは明らかです。ただ、カーディナル・システムのバージョンが少し古いですね。その上に乗っているゲームコンポーネントは全く別個のものですが・・・」
アーガスの技術資産を吸収したレクトなら、それは十分に考えられる。考えられるのだが・・・
「それじゃあ、なんでSAOのデータがここにあるのよ・・」
それが最もな疑問だ。
するとユイは・・・
「ちょっとパパとねぇねのデータを覗かせて下さいね」
と、キリトのおでこに自分のおでこをくっつけた。
その後にキリトの腕から離れると、今度はシノンの額と自分の額をくっつける。
「間違いないですね。これは、パパやねぇねが使ってたキャラクターデータそのものです。セーブデータのフォーマットがほぼ同じなので、二つのゲームに共通するスキル熟練度が上書きされたのでしょう。ヒットポイントとマナポイントは別形式なので、引き継がれなかったようですね。アイテムは・・・完全に破損してしまってますね。ねぇねのその短剣だけは何故か破損せず、逆に復元されたようですが、それ以外は破棄してしまわないと、エラー検知プログラムに引っかかってしまいますね」
「そ、そうか・・・」
「そ、そうね・・・」
とわ言っても、このアイテム全ては、ソラが二年間、溜め込んできたアイテムであり、その中にはシノンが集めたアイテムも存在する。
それを彼の断りもなしに消してしまうのはどうかと思うが・・・・ソラを助ける途中で引っかかってデータを消されたりでもすればもうそれ処じゃない。
「く・・・!」
シノンは、アイテムの全破棄ボタンを押し、全てのアイテムを消した(ナイト・オブ・ナイツ以外)。
「「はあ・・・」」
「?」
「それで、この熟練度はどうする?」
「人間の
「そ、そうか・・・これじゃあもうビーターじゃなくてチーターだな」
「そうね・・・」
ビーターとは、キリトのもう一つのあだ名だ。
ベータテスターに
なんでその汚名を被ったのか、どうやら第一層のボス戦が原因らしいのだが、ソラはそもそもその時は一人でレベル上げをしており、その攻略には参加していない。実の所、知らなかったらしい。
「そういや、ユイはここじゃどんな扱いなんだ?」
「えーっと・・・どうやら『ナビゲーション・ピクシー』という物に分類されているみたいですね」
するとユイは突然光だし、その体を急激に小さくする。
「お、おいユイ!?」
「ユイちゃん!?」
光が収まると、そこには可愛らしい妖精と呼ぶにふさわし少女がいた。
恰好は違うがユイだ。
「これがピクシーとしても姿です」
「「おお!」」
その姿に魅せられ、頬を左右からなんどもつつくキリトとシノン。
「あう、くすぐったいです!」
「いいじゃない、もうちょっとだけ・・・」
「ああ!く・・パパ、シノンさんの尻尾・・あ・・掴んでみてください・・あ!?」
「え?こうか?」
つつくのをやめないシノンに少しムッとしたのかユイがキリトに良く分からない事を言い、キリトがそれに従い、シノンの無意識なのか、おもしろいからなのか、左右にゆらゆら揺れているシノンの尻尾を、思いっきり掴む。
「フギャア!?」
するとシノンは素っ頓狂な声をあげ飛び上がる。
「・・・・」
その光景に半ば茫然とするキリト。
「き、キリトぉ~」
「わ、悪かった・・・・」
よ、といおうとしたが、不意にシノンの水色の髪に紛れて見える猫耳が目に移った。
「・・・」
「何よ?」
「ああいや・・・・あ!」
「え?」
キリトがいきなりあらぬ方向に指を指す。それにつられてシノンが視線をそちらに向ける。
その隙を狙ってキリトの手が閃く。するとその手はシノンの耳を正確につかむ。
「ふにゃあ!?」
そしてまたもや裏声で悲鳴を上げるシノン。
「ぷ・・」
「くく・・・」
「あ、あんたたちぃ~!!」
羞恥で顔を真っ赤にするシノン。
「ははは!・・・ってと、そういや、ここでは飛べるんだったっけ?」
「はい。左手を立てて、こう握るようにして下さい」
「後で覚えてなさいよ・・・ぐす・・・」
笑いあきたのか、キリトが話題を変え、ユイがそれに応じ、シノンは目じりに涙を浮かべている。今度は別の意味で。
「おお、これが羽か」
背中に羽を出現させるキリト。それは、鳥というより、昆虫の羽に似ている。
シノンも続くように羽を出現させる。
そして、先ほどユイが言った通りにすると、左手にコントローラーらしき物が現れる。
「手前に引くと上昇、前に倒すと下降、左右で旋回ですね。それで、ボタンを押すと加速、離すと減速です」
「ふーん」
そこでキリトはコントローラーを手前に引くと、キリトの体が浮き上がる。
「うおわ・・・おお!」
地面から解放された気分の様に空中を自由に飛び回るキリト。
シノンもコントローラーを動かす。
「わわ・・・おお!」
初めは驚いたが、実感してみると、とてもいい。
「すごいなこれ」
「ええ」
「そういえば、ユイは以前と同じ様に、管理者権限は持ってるのか?」
すると、ユイはしゅんとうなだれる。
「いえ、出来るのは、リファレンスと広域マップデータへのアクセスくらいです。接触したプレイヤーのステータスなら確認出来ますが、主データベースには入れないようです・・・」
「そうか・・・実はな・・・」
そこで、やっとの事で切り出す。
「ここにママとにぃにが・・アスナとソラがいるんだ」
「え?どういう事ですか?」
そこで須郷の事を話そうと思ったキリトだったが、そもそもユイが壊れたのは人間の負の感情だ。これ以上、ユイに負担はかけられない。
「SAOがクリアされて、サーバーが消滅しても現実に復帰してないんだ。俺たちはここでアスナとソラに似た人を見たという情報を得てここにやってきたんだ。もちろん、他人の空似かもしれないけど・・・藁にも縋るって奴かな・・・」
「そんな事が・・・ごめんなさいパパ、ねぇね、わたしに権限があればプレイヤーデータを走査してすぐに見つけられるのに・・・」
「いいのよユイちゃん。それに、もう検討はついてるしね」
「どこですか・・・?」
「確か・・・世界樹だっけ・・・」
「場所分かるか?」
「はい、ええと・・・ここから大体北東の方向ですね。でも相当遠いです。リアル距離置換で五十キロメートルはあります」
「遠・・・」
「それはすごいな・・・アインクラッドよりもあるんじゃねぇか?でも、どうして俺たちはこんなところに・・・」
「それは、位置情報が破損したか、近隣でダイブしている方と、回線が混雑してしまったのでしょう」
「ん・・・?近隣でダイブ・・・?」
「どうかしましたか?」
「いや、それなら知り合いがここに・・・」
その言葉でシノンもハッとする。そういえば、キリトの妹の直葉も、このゲームをやっていると。つまり、この近くで彼女がいるかもしれないという事だ。
「ユイ。この辺りにプレイヤーはいるか?」
「ええと・・・はい、確かにいます。八人ほどですが、その内の二人を、他のプレイヤーたちが包囲してるようですね」
「そうか・・・・シノン」
「ええ」
キリトとシノンは、視線を交わせると、コントローラを操作する。
「ユイ、そのプレイヤーたちの所につれていってくれ」
最悪だ・・・・
「おうおう、そこをどけよ『レネゲイド』。俺たちはお前じゃなくて後ろにいる奴に用があるんだ」
サラマンダーのレンは、同じサラマンダーのプレイヤーに取り囲まれていた。その後ろには、金髪の少女。
その手にはその少年の背丈以上もある野太刀。
もう一人、レコンという仲間がいたのだが、そいつは敵の内の一人と刺し違えて現在領地に戻されている。
「悪いが、そうはいかない。こいつは、大事な恩人だからな」
「チ、お前じゃあ俺たちを攻撃できねぇって事知ってんのか?追放者であるお前を攻撃した場合は別だがな」
「く・・・」
確かにその通りだ。
追放者であるレネゲイドは、領地に立ち入れないどころか、仲間に攻撃を喰らう羽目にもなるのだ。
「れ、レン!私は大丈夫だから、せめて貴方だけでも・・・」
「だめだリーファ!女の子を置いていける程、俺は落ちぶれちゃいないし、そもそも恩人であるお前を見捨てていける訳ないだろ!」
「で、でも・・・危ない!」
「!?」
敵の一人がしびれを切らしたのか、襲い掛かってくる。
「くそ!」
リーファを抱え、避けるレン。
「いい加減にしてくれよ。じゃねえと、今度は確実に当てるぞ」
「それなら好きにしてくれて構わない。だけど、リーファにだけは何もするな」
「そいつは出来ない相談だ。俺たちはそもそもそいつらを狩るために来たんだからよ」
「ッ・・・外道が・・・」
「もういい、死ね」
そして、残り全員が武器を構える。
絶対絶命と思われたその時・・・・
「ふむぐ!?」
「ぎゃん!?」
誰かが、その横から落ちてきた。
「いてて、着地がみそだなこれは・・・」
「そうね・・・でも間に合った」
それは、黒髪のスプリガンと、水色髪のケットシーだった。
「スプリガン!?領地は結構東の筈なのに!?」
「ケットシー・・・増援か?」
と、あっけに数秒取られた襲われている二人。
「えーっと・・・女の子庇ってる男一人相手に、多人数でかかるってのは大人気なんじゃないのか?」
しかもどちらも初期装備。さらには結構なめた口調で話しかける。
「んだとゴラ!」
「一人でノコノコ出てきやがって!八つ裂きにしてやる!」
と二人襲い掛かってくる。
「な、何してる!早く逃げろ!」
声を上げるレン。
だが、逃げるそぶりを見せない二人。
「えーっと・・・別に倒しても構わないのよね?」
「相手はそのつもりよ!」
「それもそうよね。
「おう」
瞬間、豪風が舞い上がる。
さらに少年の方が消える。否、眼で追いつけなかった。
「な・・・!?」
襲い掛かっていた二人は、一瞬で死んだ後に出てくる炎、『リメインライト』に変わる。
かなりの実力があると自負しているレンですら見えなかった斬撃。
「き、キリト・・・?」
一方でリーファは困惑していた。さきほどケットシーがいったスプリガンの名前に物凄く聞き覚えがあるからだ。
「く・・・なら、先に女を!」
すると、敵の一人がケットシーの少女に襲い掛かる。
「あ!」
そこでレンは、守ろうと走り出すが・・・
「大丈夫だ。あいつは強いから」
スプリガンに止められるが、止まる気配は無い。
「えぶねえ!」
「邪魔!」
「は!?えええええええぇぇぇぇえ!?」
間に入ろうとした途端、ケットシーの女が見事な回し蹴りでレンを吹っ飛ばす。
ふっとんでいく中で、レンは見た。
ケットシーの少女が、腰から短剣を抜き放ち、男の槍を踊るようにかわし、首を斬り飛ばす。
「おっと」
「うお!?」
吹っ飛んでいくところをスプリガンの少年に助けられるレン。
そして、先ほどの少女の方を見ると、いつの間にか弓を取り出し、それを使って他の空中にいる二人を狙撃する。
その矢は見事に眉間を貫き、一撃でリメインライトに変える。
「さて、後はあんただけだが、どうする?このまま戦うか?」
それを聞いた空中にいる男は、とんでもないという様に首を振る。
「いや、もうすぐ魔力スキルが九百なんだ。
「正直な人ね。じゃあ見逃してあげるわ。感謝しなさい」
と、ケットシーの少女は弓を下す。
今度はレンとリーファに視線を向ける。
「それで、君たちは彼と戦うか?」
「・・・・いや、いい」
「私も同意見だわ。今度はきっちり勝つわよサラマンダー」
「君とのタイマンはご遠慮したいね」
そう言い残し、男は立ち去る。
そうして、ここにはレンとリーファ、スプリガンの少年とケットシーの少女だけが残された。
そして、その場にあるリメインライトが、一分すると消えた。
「・・・それで、俺らはどうすればいいんだ?お礼を言えばいいのか?それとも戦うのか?」
「う~ん・・・・合言葉は『閃光』」
「は?」
「いや、少しな。それで、そこにいるのはスグか?」
スプリガンがリーファの方を見る。が・・・
「人をリアルネームで呼ぶなぁ!」
「あぶな!?」
見事なドロップキックが飛んできて、それをギリギリでかわすキリトと呼ばれた少年。
「ここはゲームの中なんだからリーファと呼んでよ
「悪い!悪かったから!」
剣を振り上げ、鍔迫り合いを始める二人。
「ん?ちょっと待てリーファ」
「あ・・・」
「お前、今そいつの事お兄ちゃんって呼んだか・・・・?」
そこで表情が硬直するリーファ。
「えーっと、はい・・・お兄ちゃんです」
「な・・・・」
絶句するしか無かった。
「なるほど、大体の事情は分かった。だけど助けてやろうとしたのになんで吹っ飛ばす必要があるんだ」
「邪魔だったからに決まってるでしょ?」
「ぐ・・・」
確かにあれだけ強いのなら邪魔と言われても文句はいえない。
「それでユイ?ちゃん。確かにアスナさんは世界樹にいるのよね?」
リーファは、キリトの顔の直ぐ横にいる小さな少女に話しかける。
「はい。パパがいうからには本当です」
「そうね・・・よし、ここじゃあなんだし、ちょっと遠いけど北に中立の村があるからそこまで飛んでいきましょう」
「え?スイルベーンって街の方が近いんじゃ・・・」
「何も知らねぇのか?あそこはシルフ領だぞ」
「だから?」
「そこだと、私たちシルフはお兄ちゃんたちを攻撃できるけど、逆は出来ないのよ」
つまり、領地じゃ、シルフは攻撃出来るが、逆に攻撃する事はできないという意味だ。
「でも、大丈夫じゃねぇか?す・・・リーファがいるんだしよ」
「そうね。っというか、貴方はいいの?見た所、さっきの奴らと同じ、サラマンダーみたいだけど?」
「いいんだよ、ちゃんと領主には許可貰って済ませて貰ってるんだ」
「そうなのか?」
「そうなの。それじゃあいきましょうか」
そこで羽を出現させるリーファとレン。
「あれ?リーファやレンはコントローラー使わなくて良いのか?」
「随意飛行っていうんだけど、教えよっか?」
「「是非お願いします」」
「じゃあ後ろ向いて」
リーファの話しによると、背中に架空の骨と筋肉が伸びてると想定してそれを動かすのらしい。
「お、良い感じじゃんお兄ちゃん!」
「シノンも結構できてるな」
「ぐぐぐ・・・」
「うぎぎ・・・」
羽が震え、かなり集中しているという事がわかる。
そこでいたずらしたくなったのか、リーファが二人の背中を思いっきり押す。すると。
「「ギャアアアアアァァァァアア!!」」
二人仲良く飛んで行った。
「・・・・あ!」
「やべぇ!」
「パパ!ねぇね!」
急いで上昇する三人。
木の高さを超え、二人を探す。
「うおわああああぁぁあ!!と、止めてくれぇェェェ!」
「きゃあああぁぁぁああ!!た、助けてぇェェェ!!」
『・・・・』
その光景をしばし茫然と見る三人だったが・・・・
『ぷ・・・』
「あはは!ご、ごめん!」
「ご、ごめんなさいですパパ!」
「アハハハ!情けねぇ!」
「御託はいいから助けなさいよぉぉぉぉぉ!!」
「うわあああああぁぁああ!!!」
「ッッッッひゃっほぉう~~!!」
空中を自由に飛び回るキリトとシノン。
「いや~、慣れると良いものね!」
「でしょ?」
「ったく、子供みたいにはしゃいでよ」
「もうちょっとスピードを速めてもいいが?」
「言ったな」
すると、リーファとレンは加速する。
それを追いかけるキリトとシノン。
しばらくすると、街が見えてきた。
おそらくあれがスイルベーンらしい。
途中ユイが「もう無理ですぅ~」と言って、キリトの胸ポケットに入ったが、それでもスピードを緩めない四人。
「真中の塔の根元に着陸するぞ!」
「って、お兄ちゃんにシノンさん、ランディングのやりかた分かる?」
それを聞いて、青ざめる二人。
「「知りません・・・」」
「あー、もう遅い。ご武運を」
「ごめんね~」
と、下に降りて行ってしまう二人。
「ちょ・・・」
「んなバカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「いやああぁぁぁぁぁああぁああああ!!」
ドォォォン!!!
シルフ領の塔から、物凄い音が鳴り響いた。
「ひ、ひでぇよリーファ・・・」
「きゅぅ・・・・」
「眼がまわりました~」
仰向けに倒れているキリト、その下敷きになっているシノン、そして胸ポケットから頭だけを出して目を回しているユイがいた。
「ごめんごめん。
リーファは、キリトとシノンに向けて右手を掲げるととあるスペルを唱えた。
すると、二人の激突と落下によるダメージが瞬時に回復した。
「お、これが魔法か」
「そうだ。結構すごいもんだろ?」
「そうね」
そうして立ち上がる二人。
「高位の治癒魔法はウンディーネじゃないとなかなか使えないんだけどね。必須スペルだからお兄ちゃんたちも覚えておいたほうがいいよ」
「へえ、種族によって魔法の得手不得手があるんだな。スプリガンってのは何が得意なんだ?」
「えーっと、トレジャーハント関連と幻惑魔法かな、どっちも戦闘には不向きなんで、不人気種族ナンバーワンなんだよ」
「うへ、やっぱり下調べは大事だな・・・」
「ま、そんな暇はお兄ちゃんには無いと思うけど」
はははと笑いあう二人。
「それじゃあ・・・」
「リーファちゃんー!!」
「ってレコン!?」
声がする方に目を向けると、そこには小柄な少年がこっちに走ってきているのが見えた。
「無事だったの!?」
「ええ、まあ」
「おいこらレコン俺はどうした俺は?」
「い、いやぁ、気が付かなかったなぁ・・・」
「よしもう一度死ね」
「ひぃぃ!?ご、ごめん!!」
「リーファ、こいつは?」
「ああ、レコンっていって、シノンさんたちが来る前にサラマンダー一人と刺し違えちゃって」
「そうなのか」
そこでレコンはキリトとシノンの存在に気付く。
「ってスプリガンじゃないか!?」
いきなり飛び退り、腰のダガーに手をかけるが、リーファがそれを止める。
「大丈夫、この人たちが助けてくれたのよ」
「え?」
レコンはキョトンとしているが、シノンは一つの疑問を抱いた。
「ねえ、なんで私は無視したの?」
「え?」
「ああそっか、シノンさんはまだ始めたばかりだから知らないんだっけ。シルフとケットシーは互いに協力関係にあって、だから警戒する必要が無いのよ」
「そ、そうなの?」
「そう事らしい。俺はキリトだ。で、こいつがシノン」
「よ、よろしく」
「あ、どもども」
と、キリトが差し出した右手を握り、握手するレコン。
「まあ、ケットシーと知り合いならいいんだけどさ・・・スパイじゃないんだよね?」
「心配するな。このキリトって奴はリーファの兄だ」
「え"!?」
「そういう事だから、スパイなんて、私の知る限り、お兄ちゃんは絶対にしないわ」
「そ、そうなんだ・・・」
そこで咳払いするレコン。
「リーファちゃん、レン、シグルドたちは先に《水仙館》で席取ってるから、分配はそこでやろうって」
「あ、そっか、う~ん・・・」
このALOでは、自分が誰かに殺されると、アイテムの三十パーセントは奪われてしまうのだが、パーティを組んでいる場合は別だ。
自分が死んでも、仲間に指定したアイテムを仲間に転送する機能があり、それで最終的に生き残ったリーファとレンが、全てを所持している事になる。それが理由で執拗に他のサラマンダーに追いかけられていたわけだが。
「あ~、アイテムを渡すから、今日は四人で分けて」
「え?リーファちゃんは?」
「私はお兄ちゃんとシノンさんにお礼として一杯奢ることになってるから」
「悪いなレコン。俺もいらねぇや」
そこで若干色が違う警戒心が滲むのがレコンから感じられた。
「ちょっと、変な勘ぐりないでよね?別にお兄ちゃんとは血が繋がってない・・・っていうのはあるけど・・・レンとは何にもないんだからね!」
「おいマテ
「次の狩りの時間とか決まったら連絡して!それじゃ!」
「あ、リーファちゃん!レン!」
その場にレコンを置いていき、キリトの背を押しながらその場を去る四人。
「・・・知ってたのか・・」
「うん、お兄ちゃんがSAOに囚われてからお母さんから聞いたんだ」
「そうか・・・悪かったな。黙ってて」
「ううん、いいよ」
「「・・・」」
なんだか神妙な空気になっている二人。
「だー!重い!」
「わ!?」
「うお!?」
そこでレンが二人の背中を叩く。
「いつまでもその事話題にしてないで、さっさと店に行こうぜ!」
「そうだな。じゃ、行くか」
「うん。じゃああそこに行こうか」
リーファが指さしたのは、《すずらん亭》という所だった。なんでも、リーファが贔屓している店らしい。
中に入り、席を取る四人。
「さ、ここは私が持つから何でも自由に食べてね」
「じゃ、お言葉に甘えて」
「でも、あんまり食べ過ぎると向こうで辛くなるから注意してよね」
そして、それぞれが自分の品を頼み、それを聞いたNPCのウェイトレスが即座に注文の品を机に並べる。
「それで、確か世界樹について知りたいのよね?」
「ああ、出来る限りの範囲で教えてくれないか?」
「と言っても、このALOにいるプレイヤー全てが求めてる事だと思うよ」
「というと?」
「あの樹自体がこのALO最大のグランドクエストだからだ」
「どういう事?」
「滞空時間があるのは知ってるでしょ?どんな種族でも、連続して飛べるのはせいぜい十分が限界なの」
「へえ・・・」
「それで、世界樹の上にある空中都市にいる《妖精王オベイロン》に会うと、その姿を謁見した種族全員が《アルフ》っていう種族に転生できるの。そうなるの、滞空時間が無限になるの」
「なるほどねぇ・・・あ、そういえば、あの世界樹の中はドーム状になっていて、その中を通過しなくちゃいけないのよね?」
「そうなんだ。だけど、一ヶ月前からその攻略がやばい事になってな」
その言葉にぴくりと反応するシノン。
「《ガルム》っていって、こいつが滅茶苦茶強くてな、あのユージーン将軍でも勝てない程だって聞いて、ほとんどのプレイヤーが諦めかけてるんだ。まあ、ガーディアンの強さは前よりはかなりマシになったって聞いたけど・・・」
「ガーディアン?」
とある単語に疑問を持つキリト。
「ええ、もうALOがオープンしてからもう一年がたつのよ?それでまだ誰もクリアしてないクエストなんてありえると思う?」
「確かに・・・」
「今年の秋にレクトに抗議した事があったんだが、返ってきたのは決まって『適切なゲームバランス』だと一点張りだ」
「それじゃあ、何かキークエストでも見落としてるとか、あるいは単一種族じゃ攻略できないとか?」
「お、流石SAO
「確かに、矛盾してる。アルフになれるのは一種族だけ。それを他の種族と協力してするなんて出来る訳ないものね」
シノンが腕組をしてそう言う。
「まあ、その内クリアされるだろ?何年かかってもいつかは・・・」
「それじゃあ遅すぎるんだ!」
キリトが立ち上がり、押し殺した声で叫ぶ。
シノンも冷徹な雰囲気を漂わせる。
ユイが持っていたクッキーを皿に置いて飛び上がり、キリトの肩に乗ると、なだめるように頬に手を這わせる。
「ごめん、驚かせて」
ふっと力が抜けたかのように椅子に座るキリト。
レンは、そんな二人の様子を見て、ある言葉を投げかける。
「どうしてそこまで必死になる」
一瞬、シノンの殺気が強まった気がしたが、それは直ぐに収まり、口を開く。
「私は、必ず助けなくちゃいけない人がいるの。それはキリトも同じ。手遅れになったら、もう、元も子も無いから」
その声音には、確かな感情があった。
それは、レンがいつか感じた事のある感情だった。
「そこまで時間が無いのか・・・」
「ああ、そうなんだ」
自身の食べ物を食べ終えた二人は立ち上がる。
「お、おい!世界樹に行く気なのか!?」
「ああ、この目で確かめる為にな」
「無茶だ。あそこまでは遠いし、途中で強いモンスターも出る。二人だけじゃ・・・」
「私もお兄ちゃんに着いていけば良い」
「り、リーファ!?」
リーファの申し出に驚くレン。
「ほ、本気なのか!?」
「本気よ。だって、お兄ちゃんとシノンさんだけじゃ、心もとないでしょ?ここは、このALO経験者である私がついていってガイドしてあげないとでしょ?」
「そ、それもそうだが・・・」
しどろもどろになるレン。
だが、いきなり立ち上がり、叫ぶ。
「だーッ!分かった解りましたよ俺も着いていくよ!ったく」
「良いのか?」
「んだよ、人数は多い方が良いだろ?こう見えて、結構強いんだ、俺」
「へえ、剣道全国ベスト8のす・・・リーファとはどっちがつよいんだろうな」
「ここでリアルの話しは厳禁!」
「うお!?」
リーファがキリトに向かって殴りかかるが、キリトはそれを避ける。
「もう、シノンさん。明日って時間ある?」
「ええ」
「じゃあ明日の午後三時にここに来て」
「わかったわ」
「ログアウトはここの上で出来るから」
「ああ、わかったよ」
「また明日な、シノン、レン」
そうして、二階に行く四人。
「・・・・なあ、シノン」
「何?」
「あんたのいう、アスナさんやソラさんってどういう人なんだ?」
「そうね・・・二人とも強いわ、すごく。それでソラは、私のまえでは滅多に見せないけど、泣き虫なんだ」
「なんだそれ」
「でも、本当に便りになるんだよ。危ない時は助けてくれるし、料理も出来るし、誰かの心を繋ぐ事も出来る。そんな人なんだよ、ソラは」
笑うシノンの顔は、恋する乙女というよりは、愛する夫を待つ妻のようなものだった。
「そう・・・か・・・」
それを聞いて、どこかつらそうに俯くレン。
「それじゃ、明日ね」
「ああ」
そうして部屋に入っていくシノン。
自分の部屋の前で立ち尽くすレンは、呟いた。
「もう一度・・・向こうで、直葉とやり直せたら・・・」
とある会社のオフィスで、一人の女性が携帯で誰かと通話していた。
「・・・失敗した?」
『申し訳ございません。どうやら、あらかじめ何者かが強力なプロテクトをかけていたみたいで、場所を移動させる事しか出来ませんでした』
「場所は?」
『シルフ領のスイルベーン近隣の森です』
「そう、ちなみに桐ヶ谷和人の使うアバターである『キリト』の場所は?」
『回線が混雑し、奴が飛ばされた場所の傍に落ちました』
「そう・・・他に協力者は?」
『はい。サラマンダー一人にシルフが一人。他のサラマンダーに襲われていた所を助けたようでして、行動を共に一緒にいくと』
「そう・・・わかったわ。『彼ら』に邪魔させるから、絶対に詩乃を近づけさせないで」
『わかりました』
通話を切り、携帯をポケットにいれ、女性が、外を見る。
「・・・・詩乃、貴方は蒼穹にはふさわしくないわ。彼の傍にいてもいいのは、私だけ。そう、私だけ。だから、絶対に行かせないわ」
女性は、冷徹な笑みで、夜空を見上げる。
次回!
スイルベーンを、多少トラブルはあったものの無事とびたったキリト、シノン、リーファ、レンの四人。
だが、途中でいきなり紫色の女プレイヤーとウンディーネの男が立ちはだかる。
「死ね、朝田ァ!」
「邪魔するなぁぁ!!」
次回『弓兵の実力、黒の剣士の剣技』
次回をお楽しみに!