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何が起きた・・・?
須郷が出て行った瞬間、咆哮を上げたシノンが勢いよく出て行ってその扉のすぐ傍で、いきなり倒れた。
あまりに一瞬の事でついて行けず、呆然と立ち尽くしている俺。
否、シノンは誰かに支えられており、それが白衣の若い医師だとい事に気付くのに、時間がかかった。
「・・・やはりか」
そういうと、その男性医師は、シノンを横抱きで抱くと、どこかへ連れて行こうとする。
「あ・・お、おいあんた!しの・・・詩乃をどこに連れて行く気だ!」
そこで俺は我に返り、その男を止める。
「ん?ああ、朝田の友人か。心配するな。ただ、俺の部屋で寝かせるだけだ」
そういい、男は再び歩き出すが、ふと、何かを思い出したように俺の方を再び見る。
「来るなら付いてこい。お茶の一杯でも出してやる」
俺は、その人に従った。
・・・・って待て、確かこの人って・・・
「地条・・・・海利・・・」
「む?確かにそうだが・・・ああ、お前が桐ケ谷か」
そして、その人は、俺が考えていた事を言った。
「地条蒼穹の兄の海利だ。よろしく、桐ケ谷」
「え・・・えええええぇぇぇぇぇぇえ!?」
海利さんの部屋に案内された俺は、海利さんはシノンをソファの上に寝かせ、毛布を掛ける。
その顔は、何かの悪夢にうなされているかのようだった。
「あの・・・詩乃は・・・」
俺は、海利さんに、シノンの状態を聞いた。
「今、朝田の精神は少し不安定になっている」
「不安定?」
「ああ。俺はカウンセリングの免許も持っているからわかるんだが、今朝田は、蒼穹の事を些細なことで話題に出すと、理性が崩れやすくなっている」
「崩れやすく・・・?」
「ああ。例えば、さっきあの須郷とかいう奴だが、あいつが最後にいった言葉なんだった?」
確か・・・
「式には蒼穹も出る、だけど、詩乃の事は跡形もなく忘れている・・・でした」
「そこに、なにか不可解な点は?」
「えっと・・・・」
あれ?しかしよく考えてみると、今蒼穹は寝ているのに、なんで式になんて出られるんだ?
それに、跡形もなく忘れている・・・って?
「詩乃の心の支えは蒼穹だ。そして、今も蒼穹は仮想の中だ。いつ失われてもおかしくない空前の灯だとあいつは思い込んでいる」
「だから・・・?」
「だから、蒼穹の事を少しでも馬鹿にしたとこいつが認識すれば・・・最悪、暴走する」
「暴・・・走・・・」
そうか、だからあんな・・・
「だから、こいつの心が安定しない限り、こいつはこの先いくらでも暴走する」
そう、海利さんは断言する。
じゃあ、こいつは・・・
「この先・・・蒼穹が目覚めるまで、これが続くんですか・・?」
「いや、お前が言った須郷のセリフが引っかかる。おそらく、例え目覚めたとしても、それが俺たちの知っている蒼穹だという事は保証できない」
海利さんは俯く。
俺は・・・何も出来ないのか・・・?
俺は・・・アスナを、ソラを助ける事が出来ないのか・・・?
「桐ケ谷」
「!?」
「落ち込むのはお前の勝手だが、何もしないより、動いた方がいい。
その言葉は、俺の心に深く響く。
「今日はもう帰れ。朝田から聞いたが、妹がいるのだろう?心配するな。朝田は俺の家に住んでいるからな。帰る時に連れていく」
そうして、俺は、家に帰った。
その帰路で、俺は、海利さんがいった言葉を思い出す。
『運命に抗え、キリト』
―――そうだな、いくらでも抗ってやりますよ。
俺は、一つの決意を胸に抱き、歩き出す。
「ん・・・んん・・・?」
ここ・・・は・・・?
気付くと、私は見知らぬ・・・いや、ここは私が借りている海利さんの家の客用の部屋だ。
なんでこんな部屋を用意しているのか、海利さん曰く。
『持病を患った奴が家の近くにいたら、いつでも受け入れるようにする為だ』
らしい・・・
私は、あの後、どうなったんだっけ?
私は、懸命に記憶を呼び戻す。
「あ・・・」
そこで、私は暴走した事を思い出した。
あそこで海利さんが止めてくれなかったら、私は、須郷を・・・・いや、あんな男、いっそ・・・だめだ。いくらなんでも殺す事なんて出来ない・・・でも、あの時は別だった。確かに私は、
間違いなく、私は須郷を殺す所だった。
私は・・・私は・・・・きっと・・・・
コワレテイルンダ・・・・
そうだ、きっとそうだよ。私は、今じゃもう、簡単に人を殺すことができるんだ。
そうだ・・・ソウナンダ・・・ワタシハ・・・・ヒトゴロシ・・・・ナンダ・・
「アハ・・・アハハ・・・」
笑いがこみ上げてくる。もうどうでも良くなってくる。
こんな私をソラは見てくれない。見てくれるわけが無い。私は・・・ヒトゴロシ、サツジンキなんだ。
視界が霞む。あれ・・?なんで、私、泣いてるの?悲しくないのに・・・
「なん・・・で・・・?」
「それは、貴方が心のどこかで悲しんでいるからよ、詩乃ちゃん」
「!?」
私は上半身だけを勢いよく上げ、飛び起きる。
ドアの方向には、時子さんがいた。
「時子さん・・・」
「詩乃ちゃん。貴方は、きっと現実から逃げてる」
「にげ・・・てる・・・?そうかもしれませんね。だって、私は、こんなにも、狂ってる」
「そうね。でもそれは、自分が何もできないから、イライラしているからでしょ?」
「何も・・・出来ない・・・?」
何が・・・?
「自分は無力だから、抗っている。いろんな事から立ち向かおうとしている。だけど、心はそう思っていても、身体は正直で、耐えられない事からは直ぐに逃げようとする」
「わ、私は逃げてなんか・・・」
「そう、逃げてない。だけど、心の奥底にある弱い心は、どうしようもなく強い心を知らぬ間に蝕む。そう、今の貴方の様に」
「そん・・・な・・・」
じゃあ、私は、弱いっていうの・・・?それじゃあ、私は・・・今まで・・・
「だけど、そんな弱い心を押さえつけられたのは、誰のお陰だと思うの?」
「え・・・・?」
「貴方の話を聞いて、確信した事があるの。貴方の心の支えは蒼穹君であり、蒼穹君の心の支えが貴方だという事なの」
「どう、いう・・・」
「まだ分からないかな~。だからあなたは蒼穹君がいるから今まで頑張ってこれた。だけど、今は、蒼穹君がいないから、貴方は立ち上がれなくなってる。だけど、それじゃあダメなんじゃないかな?」
何が?
私は、声を発さず、というか、まともに声が出ない口を、口の動きだけでそう呟いた。
「貴方は強くなろうとしてないって事。立ち上がらないようにしてるって事。それじゃあ、いつまでも前には進めない。蒼穹君を助けられない」
「助けるって言ったって・・・そもそも、その方法が・・・」
「探せばいいのよ」
「さが・・・す・・・?」
「そう、探すの。諦めずに、その方法を探し出すの。そして、蒼穹君を助ける。それが今の詩乃ちゃんに出来る事よ」
私の、出来る、事・・・・
「分かったら、いつまでもうじうじしてないで、探しにいきなさ。てがかりは、初めは無くたっていい。いつかきっと、手がかりが見つかって、そこから沢山の可能性が見つかるから」
探す・・・自分で探して・・・蒼穹を・・・
気付いたら、私は立っていた。そして、頬から流れている涙を拭った。
「うん、良い顔になったじゃない。それでこそ、私の義弟の恋人ね」
「ありがとうございます、時子さん。お陰で眼が覚めました」
「そうね。あ、でも、今日はもう遅いから寝なさい。考えるのは、また明日からにしましょう」
時計を見ると、確かに夜の一時を回っていた。
「そうですね。それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさい。詩乃ちゃん」
私は、着替えて、ベッドに寝転ぶ。
―――蒼穹、きっと助けるから。
そうして、私の意識は闇に落ちた。
次の日・・・・
「むぐむぐ」
私は出された目玉焼きを乗せた食パンを無言で食べていた。
「すっきりしているな」
「んむぐッ!?」
の、喉にぃ!?
「ほら水」
「む・・・むぐ・・・ごくごく!・・ッはあ!」
あ、危なかった・・・・
「考え事でもしていたのか?」
「ええ、まあ、はい・・・」
朝起きて、寝ぼけた頭をフル稼働させて、蒼穹を助ける方法を詮索していた。
考えたのは以下の通り。
1.ナーヴギアを強制的に外す。まだSAOの中に入っている可能性があり、そのせいで脳を焼かれると死んでしまうので却下。
2.『あの人』に頼む。論外。
3.もう一度SAOに行く。これはもう試した。
4.キリトに頼む。あいつも知らないだろう。
だめだ。全然思いつかない・・・
「うう~」
頭を抱えながら食卓に突っ伏す。
「おい、朝田」
「ん・・・?」
「メールだぞ」
「ほえ・・?」
右側を見ると、そこに置いてあるスマホ(海利さんが強制的に買ってくれた)の液晶画面に確かにメールが来ていた。
しかもキリトから。
「なんだろう・・・?」
私はスマホを手に取り、内容を見る。
そしてその内容に、私は驚愕する。
『エギルが、アスナとソラの居場所を知っているかも知れない。すぐにダイシーカフェに来てくれ。場所は台東区御徒町の裏通りだ』
それを0.2秒で理解すると、持っていたパンを一口で飲み込み、速攻で自分の部屋に戻り、着替えを取り、シャワーを最短で終えると髪が濡れたまま靴を履き、外に出る。そして、私は時子さんのロードレーサー(走る事だけに特化したレース用の自転車)に乗り、走り出す。
急いではいるが、もちろん安全運転で。
そうして私はキリトに指定された場所に着いた。
確かにダイシーカフェって書いてある・・・っというか、ここに本当にあのエギルさんが・・?
私は、とにかくいてもたってもいられないので、扉を勢いよく開ける。
「入るわよ―――!!」
とにかく声を大きくした。そして、カウンター席には、メールを送ってきた張本人キリトと、巨漢の褐色男、エギルさん。
「お前なぁ、声がでかすぎやしな・・」
「そんな事どうだっていいから話しなさい早く話しなさいそこにあるフォークで指すわよさあ話しなさい」
「お前・・・物騒な事いう様になったな」
「ほう・・・?」
「ひぃぃ!わかった!わかったからその手に持ってる物騒なものを置いてくれ頼むから!」
大きな体格には似合わない怯えっぷり・・・くくく・・・
「おいシノン、悪い笑みが漏れてるぞ」
「あ」
いけないいけない。
「それで、あの写真はいったいなんだったんだ?」
キリトがエギルさんに聞く。
するとエギルさんは、私たちの前にそっと箱を置いた。
よく見ると、これはゲームカセットだ。それも、VRMMO専用の。
しかも、端には、小さな文字で《AmuSphere》とロゴが書かれていた。
「聞いたことがないハードだな・・・」
「えーっと・・・あむすふぇ・・」
「アミュスフィアと読むんだ。お前、英語の成績どんだけだったんだ?」
「い、良いでしょ!それに今関係無いし!」
中学の頃の成績なんて教えないもん!蒼穹に教えられてもらえなくなってからかなり落ちたなんて言わないもん!絶対!
あ!今絶対成績悪いって思ったでしょ!くぅぅ。絶対見返してやる!
「絶対ッ!」
「うわ!?どうした!?」
「あ、ごめん・・・」
恥っずぅぅぅぅ!!
「それで」
あ!話進めんな!
「それで、この《アミュスフィア》なんだが、オレたちが向こう側にいる間に発売された、ナーヴギアの後継機だよ、そいつは」
つまりは、SAO事件というあれだけの大事件を起こしたのに、世間のVRMMOを求める声を抑える事は出来なかったので、蒼穹たちが囚われた半年後に『今度こそ安全』という事で、開発されたのがこのアミュスフィア。据え置き型ゲーム機とシェアを逆転させるに至って、それが結局はいくつもの新しいMMORPGを作るにいたったという訳だ。
そのアミュスフィアの事なら私も知っているのだが、お金が無いからなぁ・・・・買う機会なんて、全然無かったな。
「えーっと、アルフ・・・ヘイム・オンライン?」
「アルヴヘイムと発音するらしい。妖精の国、っていう意味だとさ」
「なんだかまったり系の感じがするわね」
「そうでもない。むしろかなりやばいハードだぜ。このゲーム」
何がヤバいんだろう?
「どスキル制。プレイヤースキル重視。PK推奨」
「「ど・・・」」
「いわば《レベル》は存在しないんだと」
「マジですか・・・」
「マジだシノン。各種スキルが反復使用で上昇していくだけで、HPはそこまで上がらないんだと。戦闘も、プレイヤー運動能力依存で、ソードスキル無し、魔法ありのSAOっていった所だな。グラフィックも動きの精度も、SAOに迫るって言われてるほどらしいぜ」
「へえ、そりゃすごいな」
あの茅場晶彦の作ったSAOに迫るプログラマーなんて聞いたことないな。でも。
「PK推奨かぁ」
「プレイヤーは、キャラメイクで、色んな種族の妖精になれるんだが、種族間ならキルが出来るんだと」
「そりゃ確かにハードだな。だけど、そんなんじゃ、人気出ないだろ?」
キリトが最もな疑問を出す。
「それがそうでもないんだと」
「なんで?」
「理由は、空が飛べるからだそうだ」
「飛べる?」
ドユコト?
「フライト・エンジンとやらを搭載していて、それで制限時間内なら自由に空を飛べるんだと」
「ああ、それで」
これで納得した。
「大体分かったわ。それじゃあ、そろそろ本題に戻りましょうか」
「ああ、そうだな」
するとエギルさんはカウンターの下から、一枚の写真を取り出した。
これは・・・
「アスナ・・・?」
栗色の長い髪にこの顔。間違いない、アスナだ。でも、どうして・・・
「どう思う?」
「似ている。すごく・・・」
「そう思うよな。ゲームの中だから、解像度が足りないんだけどな」
「早く教えてくれ、これはどこなんだ」
「その中だよ。アルヴヘイム・オンラインの」
つまり、アスナはこの中に入っているっていうの?
だけど・・・
「ソラの方はどうなっているの?」
私が聞くと、エギルさんは、今度は携帯を取り出し、一本の映像を流す。
それは、とあるプレイヤーの目線で取った映像らしく、その中には、黒い甲冑、まるで番犬の様なデザインの鎧を着た男が、何人もいるプレイヤーを無双している。
あれ・・・でも、この動き・・・どこかで・・・
「この動き、あいつに似てないか?」
「え、ええ。この剣の動かし方は間違いなく『クロスイング』」
狂戦士スキル『クロスイング』
斜め十字の二連撃技で、右斜め下から切り上げ、そのまま回転して今度は斜め上から斬りかかる狂戦士スキルの技。
でも、なんでこいつが・・・・
「見様見真似なんかじゃない。これは、ソラの動きそのものだ・・・」
キリトが、信じられないような表情で、その映像を見ている。
「エギルどういう事なんだ。なんでソラがこんな所に」
エギルさんは、ゲームのパッケージを裏返すと、大ざっぱなマップの中心にある木を指さす。
「世界樹というらしい。プレイヤーの当面の目標は、この世界樹の上に行く事だ」
「上って・・・飛んでいけば良いじゃない」
「そうもいかないんだ。時間制限があるんだ」
「時間制限・・・そこに辿り着くまでの時間が足りないと?」
「そうなんだよ。でもどこでもバカな奴がいるもんで、多段ロケット方式で、五人まとめて飛んでみたらしい」
「なるほど、バカだけど頭良いな」
「目論見は成功して、枝にかなり肉薄した。ギリギリで到着は出来なかったそうだが、五人目が到達最高の証拠にしようと何枚も写真を撮った。その一枚だけ、奇妙なものが映り込ん出たらしい。枝からぶら下がる、巨大な鳥籠がな」
「ちょっと待って、それじゃあソラはどこにいるの?」
「その世界樹にあるグランドクエストだ」
「グランドクエスト?」
「ああ、世界樹の上に行く方法はたった一つ。それは、世界樹の中にある空洞を通っていくしかない」
「空洞・・・」
「だがその中には何万という兵士がいて、その攻撃を掻い潜りながら、先にある扉に到達しなくちゃならねぇ」
「ソラは・・・そのクエストにいると?」
「ああ、ただでさえクリア不可能と言われてるこのクエストに更に無理要素をつぎ込んできたらしい。それが、《ガルム》だ」
「ガルム?それって北欧神話の、あの番犬の事か?」
「ああ、そいつの強さがめちゃくちゃで、そのアルヴヘイム最強のプレイヤーでさえ、倒せなかったらしい。最も、ダメージはかなり減らしたみたいだが」
「え・・・」
ソラ相手にそこまで・・・一体誰なんだろう?
「でも、なんでアスナとソラがこんな所に・・・」
キリトが何かを言いかけた時、いきなり険しい顔になった。私は、その視線の先を目で追うと、そこには、《レクト》と書かれていた。
「お、おいキリトにシノン?どうしてそんな怖い顔になってんだ?」
「いや・・・他にはないのか?アスナ以外のSAO未帰還者の奴とか?」
「いや、ないな・・・」
「そう」
そこで、私は須郷の言葉を思い出した。
SAOサーバーを管理しているのは自分だ、と。つまりは全ての元凶がこいつという事になる。
だったら・・・
「エギル、このソフト貰ってもいいか?」
「ああ、良いが・・・行く気なのか?」
そうしてキリトは自分が持っていたバッグの中にそのソフトを入れた。
先越された・・・
「シノン、こんなこともあろうかと、もう一つ買っておいた」
「今私の心呼んだ!?」
まあいい、これでこの世界に行ける。
「死んでもいいゲームなんてぬる過ぎるぜ。ゲーム機を買わなくちゃな」
「そいつはナーヴギアでも動くぜ。アミュスフィアは、そいつのセキュリティをただ上げただけだからな」
「そうなの」
良かった・・・ナーヴギアを残しておいてよかった。
「じゃあ、俺はもう帰るよ」
「私も」
「ああ。情報料はツケにしといてやる。・・・必ず助け出せよ、アスナを、ソラを。そうしなきゃ俺たちのあの事件はまだ終わらねぇ」
「ああ、いつかここでオフやろうぜ」
エギルさんとキリトは拳をぶつけ合わせる。
そうして店を出て行って、数分自転車を走らせた時だ。
「ねえ、キリト」
「な、なんだよ・・ゼェ・・・」
「・・・なんでそんなに息上げてんのよ?」
「お前・・・ロードレーサーとマウンテンバイクじゃスピードに差がありえないぐらいあるんだよ!それを軽々と乗りこなしてるお前も怖いわ!」
「それは少しカチンとくるんだけど」
「それで、なんだよ」
スクランブル式交差点で一旦降りた私は、キリトに向かってこういう。
「あっち行くなら、直葉ちゃんに話しておいた方が良いんじゃないかな?」
「・・・」
キリトは黙り込む。
「・・・だめ?」
「いや、確かに言っておくべきだ。だけど、それで止められたりなんて事になったら・・・」
「それならネット喫茶にでも行けば?」
「金がかかる」
「まあ、そうよねぇ・・・でも、だからって黙っておくのはダメなんじゃないかな」
「・・・・」
「私も一緒に説得するから」
「・・・分かった、言ってみる」
交差点を渡り切った私たちは、もう一度自転車に乗り、走り出す。
桐ヶ谷直葉は、マフィンを食べていた。
その姿はジャージ。剣道の稽古をする為に、急いで着替えたのだ。
「はあ・・・」
初め、家に詩乃が来た時は心底驚いた。
兄が女性を連れてくるなんてことはあり得ず、ついでに胸がとても締め付けられるような感覚に見舞われた。
誤解は直ぐに解かれ、詩乃には、明日奈同様、まだ
その時、ホッとした自分を直葉は覚えていた。
和人と直葉は本当の兄妹では無い。
従兄なのだ。その事実を知ったのは、和人がSAOに囚われて一ヵ月後の事だ。母からその事を聞かされその時はかなり当たり散らした。
親は、全てが終わり、兄が死んでしまい、《知らなかった事》を後悔させないようにとの配慮らしい。
和人自身、その事を知っていた。自身の戸籍記録を見つけ、それを親に突き付けると、親は誤魔化すことが出来ず、白状したとの事だ。
その事を思い出しながら、パクっとマフィンを齧った時、玄関方面から自転車を引きずって庭に来た和人と目が合った。
「おに・・・んぐ!?」
その時の衝撃で慌てて口に含んでマフィンを喉に詰まらせ、悶える直葉。
「んん~!んん~!」
「だ、大丈夫!?」
そこへ詩乃が入ってきて、慌てて傍にあったジュースを直葉に渡すと、直葉は勢い良くそのジュースを飲み干す。
「っぷはぁ!あ、ありがとうございます詩乃さん・・・」
「気を付けて食べろよな」
「う~」
上目遣いで和人を睨む直葉。
すると和人は直葉を真剣な眼差し見つめると、こういった。
「スグ・・・今夜、アスナを助けに行こうと思うんだ」
「え・・・?」
その言葉を、直葉は理解できなかった。
「助けに行くってどこに?」
「ゲームの中だ。そこに、彼女だけじゃない、ソラもいるんだ」
「で、でも・・・あんな事件があったのに・・・」
「悪い、もう目星はついてるんだ」
和人は、申し訳なさそうに、だが確かな決意をその眼に宿らせながら、直葉を見つめる。
「・・・・本気なの・・?」
「・・・ああ」
少し、間を置いて、肯定する。
「・・・・分かった、止めないよ。お兄ちゃんが、そこまで本気なら」
「本当か?」
「だから、私も話さなくちゃいけない事があるの」
「は、話す・・・!?」
予想外の言葉に和人のみならず詩乃もその眼を見開く。
「お兄ちゃん。私も、ゲームを始めたの」
「は・・・ハァァァァァァアア!?」
ありえない答えを聞いた和人は大きな声を上げる。
(いやいやいや、ありえない!機械音痴のスグがゲームを始めるなんてあり得る訳ない。っというかなんでそんな事に至ったんだよ!?なんで機械音痴のスグが、機械音痴のスグが!)
「なんで機械音痴のスグがゲームなんて始めたんだ!」
「聞こえてるわよ!」
「グハァ!?」
空に向かって叫んだ和人を後ろから蹴り飛ばす直葉。
「私は、ただお兄ちゃんの見ている世界を知りたかっただけだもん・・・」
「・・・」
それを聞いて理解する。
直葉も直葉なりに和人の事を理解しようとしていたのだ。
だから、MMORPGに手を出したのだ。
「そうか・・・」
「因みに、アスナさんやソラさんが捉えられてるゲームって何?」
「アルヴヘイム・オンラインだけど・・・」
「あ・・・それ私がやってる奴だ・・・」
「ナニィ!?」
「えええ!?」
その答えにまたしても驚く和人と詩乃。
「直葉ちゃん・・?もしかしてそれ結構やりこんでるとか・・・?」
「ええ、まあ。結構強いですよ。私」
「おお・・・」
それを聞いて、感嘆の声を上げる和人。
「だ、だったら、ガイドしてくれないか・・?
「いいよ。ただし!私にも手伝わせてよね」
「わかった。そんな訳だシノン。向こうで会おう」
「分かったわ」
「え?ここでログインするんじゃないの?」
「私はただ、キリトがどう説得するのか見に来ただけだから」
「そうなんですか・・・あ、なら向こうで混乱しないように、プレイヤーネームを教えてくれませんか?」
「まあ、日常でいつもキリトに言われてるけど、私は『シノン』」
「それで、俺が『キリト』だ。間違えんなよ」
「むむ・・同じ名前の人がいたらどうしよう・・・」
「合言葉でも作る?」
「お、そりゃいいな。何にするんだ?」
そこで詩乃はいくつか意見を出した。
『俺の脳細胞がトップギアだぜ』
『ベルセルク』
『ライダーキィィック!』
『アッシェンテ』
『KOB』
「おいシノン、最初と三番目と四番目はどうかと思うぞ」
「そうよねぇ・・・」
「じゃあ、いっその事アスナさんかソラさんの名前にしませんか?」
「だけどなぁ・・・じゃあ、『閃光』にしねぇか?」
「そうね。アスナの二つ名だけど、それの方がわかりやすくていいわ」
「よっし決まり。いいなスグ?」
「うん!あ、私はリーファね」
「じゃあ、私はここで」
「おう」
そうして、私はロードレーサーを走らせ桐ヶ谷家を後にした。
後ろに視線を感じて・・・・
地条家。
「ただいま」
「お帰りさない詩乃ちゃん。今ご飯作ってるから」
「ありがとうございます。あの・・・」
「
「はい・・・え?」
今なんて言った?」
「今・・・なんて?」
「ん?向こう=ゲームの世界に決まっているだろう。俺にそんな事が分からないとでも思ったか?」
「あ、
この体質は、地条家の人間にしか会得できない体質で、思考が加速し、あらゆる可能性を検討、たった0.1秒で結論を出すという一時的に頭が物凄く良くなる体質である。
「朝田。俺はお前のする事を止めない。それで蒼穹が助かるというのなら、俺はそれが悪への道じゃなければ茨の道だろうと進もう。蒼穹を助けてくれ」
そういって、海利は詩乃に向かって頭を下げる。
「俺は、現実ならある程度力がある。だが、俺はネットの世界じゃ何もできない。こんな人間で悪いが、どうか、蒼穹を助けてくれ」
「・・・」
意外だった。普段なら、自分の患者のみならず、急患までも自分でやるという海利が、初めて他人に頭を下げたのだ。
だが、そこには、何も出来ない悔しさと、助けを求める想いが籠っていた。
なら、それに応えないでなんとするか。
「当然です。だって私は、蒼穹の恋人なんですから」
ゲームパッケージを開け、中にあるRMOカードを取り出す。
電源を入れておいたナーヴギアのスロットに、それを差し込んだ。
主インジケータが点滅から点灯になった事を確認し、私は、ベッドに寝転がる。
そして、ナーヴギアを、前に掲げる。
たった三ヶ月、他のSAOサバイバーの人たちとは、短い時間だったけど、これは、もう一つの、私の相棒。だから、私は、それを、躊躇いなく被る。
―――もう一度、力を―――
そして、私はもう一度、あの言葉を叫ぶ。
「リンク・スタート!」
一瞬の浮遊感。だがそれも直ぐに収まり、何かの上に立っている感覚に見舞われる。
眼を開けると、そこは、暗闇に包まれたアカウント情報登録ステージだ。
私は、説明に従い、キャラ作成を進めた。
どうやら種族は九つで《
そこで私はケットシーがなんだがハマったのでそれにした。
プレイヤーネームで、私は《シノン》という名前にした。
ソラが気付いてくれるように。
そして、私は完了ボタンを押した。
どうやらキャラメイクは自動らしい。
服装が変わり、次の瞬間、大きな浮遊感の直後に落下しているという感覚に襲われた。
「わわ!?」
一瞬驚いたが、まあ落下ダメージでいきなり死ぬなんて事は無いだろう。
と、思いかけていた時だ。
ノイズが走った。
「え!?」
これは・・・
風景が急激に変わる。
眼下にあったケットシー領が無くなり、見知らぬ森に変わる。
「え?え?」
「うわああああああ!!!」
横から叫び声。そこには、黒い服装を来た少年がいた。
黒といえばアイツだけど・・・まさかね・・ってそんな事考えてる場合じゃなかった!
「きゃああああぁぁぁああ!!」
私はその少年と一緒に落下していった・・・・
月を見る少女がいる。
緑かかった金髪が風になびく。
その腰には物騒な事に刀が差さっている。
「リーファちゃん。そろそろ行こう!」
その少女に、緑色の髪の小柄な少年が呼びかける。
「そうね。レン」
「ん、ああ、そうだな・・・」
少女が視線を向けた先には、赤い髪の少年。
その腰には大きな野太刀。
「悪いな。俺が《レネゲイド》なのに、シルフ領に泊めて貰って」
「良いのよ。貴方は、リアルの知り合いに似ているから」
「そうか・・・ありがとう、リーファ」
「どういたしまして。さ、行こう」
少女が、赤髪の少年の手をとり、その背中に羽を出現させ、飛び立つ。
少年も、羽を出し、飛び立つ。
小柄な少年がそれを不満そうに見ながらも追いかけるように飛ぶ。
「たたた・・・」
顔面から落ちたらしく、頭が物凄く揺れる。
うう、まともに立ってられない・・・
「お、おい大丈夫か・・?」
「え、ええ・・・聞くけど、『閃光』って知ってる?」
「え、ああ・・・ってシノン?」
「そうよ、結構違う髪型をしてるわね、キリト」
「それに比べてお前はほとんど変わってないがな」
そうして目の前にいる黒髪の少年、キリトと会話を交わし、立ち上がる。
目指すは世界樹。大切な人を助ける為、二人は飛び立つ。
次回!
キリトとなんとか会えたシノン。
そして、かつてあの城で出会ったキリトの娘にして、シノンの妹、ユイと再開する。
更に、近くでプレイヤーが襲われているとユイから告げられ、そこに向かうと、シルフの少女とサラマンダーの少年が、同じサラマンダーに襲われていた。
それを助けた二人。
その少女の方はまさかのキリトの妹、直葉ことリーファだったのだ。
そして、少年の方は・・・?
「それじゃあ遅いんだ!」
「私は必ず助けなくちゃいけないの」
「なんでそこまで必死になる?」
「私はお兄ちゃんについていく」
次回『赤い少年と緑の少女』