新章!『フェアリィダンス編』!
この物語では、詩乃が主人公です!
ではどうぞ!
ウシナッタモノ コワレタココロ
暗いなぁ、何も見えないや。ここはどこだろう?上も下も分からない。そんな場所。私はここで一体何をしているんだろうな・・・・
あれ?そこにいたんだね。もう、どこに行ってたの?
こっちを向いてよ。ねえってば。
・・・・・
・・どうしてこっちを向いてくれないの?
なんで、そっちに歩くの?
ねえ、待って!置いて行かないで!お願いだから!
待って、待ってよ・・・・ねえ・・・
――――ねえ!
「ソラァ!!」
ベッドから飛び起き、つい手を滑らせ、床に落ちてしまう、灰色に近い茶色の紙をした少女。
「いたたた・・・」
お尻をさすりながら、立ち上がる少女。
年は十五か十六。
メガネを探し、それを身に着ける。
そこで、彼女は泣いている事に気付いた。
「あ・・・」
その涙を手で拭う少女。
そして、小さな手鏡を見る。
「・・・・私、すっかり泣き虫になっちゃったよ。ソラ」
これが、今日の朝田 詩乃の朝だ。
ソードアート・オンライン 狂戦士が求める物
第二部 フェアリィダンス 弓兵の願う物
「おはようございます」
「あら、起きたのね」
「おはようございます、時子さん」
エプロン姿の女性、
「朝食は机にあるわ」
「ありがとうございます」
そして食卓へと移動する詩乃。
「おきたか」
「おはようございます、海利さん」
そしてその食卓に座るのは、時子の夫にして、詩乃の恋人、地条 蒼穹の兄、天才外科医、地条 海利がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
ここは、埼玉県川越市にある、普通の一軒家。そこには世界でも屈指の医療技術を誇る蒼穹の兄、海利が住んでいる。
詩乃は、SAOから目覚めた後、軽い心神喪失状態に見舞われ、まともに会話が出来なくなっていた。
だがそれは一週間だけの事で、そこへ海利がやってきて、蒼穹の生存を告げる事実を話した瞬間、喪失状態から脱した。
そして、詩乃は何故自分がSAOにログインしたのかを理解できた。
海利が妹の円華が買っていたナーヴギアを隠し、それをある場所に保管。
一方で詩乃は、蒼穹がいなくなった事でいじめがより陰湿に、より激化し街を追い出される形で東京に逃げた。
そして、海利は町の施設じゃ頼りないと無理をいい、蒼穹を埼玉県所沢市にある総合病院に入れたのだ。
そして、一年半頃、詩乃とコンタクトを取った海利は、彼女にナーヴギアを渡したのだが、それが母の綾香にバレていて、それを阻止しようとして、詩乃がログインするタイミングを見計らって妨害。
そこで記憶に障害が起きたのだ。
そして、現実に帰って来た詩乃は、早く蒼穹に会いたいという思いで、リハビリにかなりの無茶をかけ、たった二週間で走れるようにまで回復したのだ。
「愛の力というものは、やはりそこまで強いものなのか・・・」
「か、からかわないで下さい!」
「でもでも~、そこまで頑張れる詩乃ちゃんって、やっぱりすごいわよねぇ~」
「あう~」
顔を真っ赤に染める詩乃。
「それで、俺はこれから病院に行くが、お前はどうする」
「あ、和人の家によってから、行きます」
「そうか、気をつけてな」
「・・・はい」
桐ケ谷家。
そこは、あの黒衣の剣士の実家だ。
「き・・・和人ー、いる?」
その正門で、危うく名を間違えながらも名前を呼ぶ詩乃。
「あれ、いないのか」
「メェェェン!!!」
バシーン!
「・・・あの馬鹿」
甲高い女性の声と同時に聞こえた衝撃音。
間違いない、誰かが試合をやってどちらかが面を取った音だ。
詩乃は、桐ケ谷家のすぐ隣にある道場に向かう。
「だ、大丈夫お兄ちゃん」
「大丈夫大丈夫、いやぁ、スグは強いなぁ。ヒースクリフなんて目じゃねぇよ」
流石にそれは無いと思う。
道場のスライド式ドアの隙間から中を覗く。
すると、中には二人の防具を着た人物が二人。
片方は相手を心配そうに、もう片方は頭を押さえている。
「うん、もう終わりにしよう」
そう言うと、頭を抑えていた方が半歩さがり、剣を一回振って背中に持っていく。
「あの馬鹿・・・」
本日二度目のその言葉。
「あ・・・」
「なーにやってんのよ」
「げっ!?シノン!?」
「人をプレイヤーネームで呼ぶなぁ!」
「ぐほ!?」
詩乃の名を呼んだ方を殴り飛ばす詩乃。
「あ、詩乃さん!」
「ったく」
そして、防具を脱いだ二人。
黒い道着を着ていたのは、かのSAOクリアの立役者の一人にして、『黒の剣士』、キリトこと、桐ケ谷 和人。
白い道着を着ていたのは、その和人の妹にして、全国ベスト8の少女、桐ケ谷 直葉だ。
「全く、ソードスキルはこっちじゃ使えないのに、なんで試合とかやるかなぁキリトは!」
「いやぁ、血が騒いで・・・っていうか、お前もバリバリプレイヤーネームで呼んでんじゃねぇか!」
「はあ?先に呼んだのはあんたでしょバカキリト」
「理不尽だぁ!!」
そう漫才をする二人を見て唖然とする直葉。
「・・・」
「全く・・・さっさとシャワー浴びてきなさい!」
「へーい」
と、すたこらさっさとシャワーに向かう和人。
「あの、詩乃さん」
「ん?なに?」
「お兄ちゃんとは、向こうではいつもあんな感じなんですか?」
「まあね。まあ、ここまで話す事は無いけどさ」
「そうですか・・・」
直葉は、和人に大切な人が出来たのを知っている。
SAOが終わり、二ヶ月が経つ。
和人は、直葉に、ある事を話した。
それは、和人の恋人、アスナの事だ。
それは一ヶ月まえの話だという。
「・・・お兄ちゃんって、昔はこんな風に話す事なんてなかったんです」
「そうなの?」
「はい、お兄ちゃんが剣道やっていた事知っていますよね?」
「ええ、きり・・・和人から・・・ね」
「お兄ちゃん、すぐにやめてしまって、それから渇きをうるおそうとゲームなどにのめり込んで、全く話をしてくれなかったんです。ですけど、こっちに戻ってきてからは、とても明るくなって、これもきっと、詩乃さんやアスナさん、そして、ソラさんのお陰だと思うんです」
「そうね・・・」
その後、軽く世間話をして、二人は和人がくるのを待った。
所沢市にある総合病院。
そこにアスナとソラは収容されている。
「じゃあ、私こっちだから」
「おう」
廊下の角でキリトと別れ、私はソラのいる病室に来た。
ネームプレートには、『地条 蒼穹』と書かれている。
自動式のドアが開き、入る。
そして、カーテンの向こう側に、彼がいる。
藍色のヘルメット、『ナーヴギア』を被り、頭全体をすっぽりと包んでいるが、顔はしっかりと見える。
二年間は寝ているとは思えない体つきに、キリトの女性に見える顔とは対照的な男らしい顔に、そのキリトと同じほど黒い黒髪。
「また、来たよ、蒼穹」
それから、一時間はたったと思う。
この病室の自動ドアの扉が開く音が聞こえ、いくつもの声が聞こえた。
「・・・・?」
誰だろう・・・?
その中に、いくつか、いや、全て聞き覚えの声がした事に、私は気付いた。
ああ、嘘であって欲しい。
「それでよー・・・ん?」
「あ・・・」
そんな私の願いとは裏腹に、彼らは来てしまった。
かつての、彼のクラスメイトたちだ。
「お前・・・朝田か?」
「ひ、久しぶりですね・・・」
とりあえず挨拶しておく。すると、七人はいるであろうメンバーの内のギャルっぽい女が私に歩み寄る。
「なんでお前が・・・!」
「ッ」
その女、
「おい、やめておけ。ここで騒ぎを起こしたら面倒な事になるぞ」
体つきががっしりとした男、
「チッ・・・」
「大丈夫だって剛介、こいつが殴られた所で騒ぐことなんてないんだからよ」
ひょろっとした体つきの男、
「ふ、それもそうか・・・」
「ねえ、さっさとどっか言ってくれないかしら?困るんだけど」
黒髪の大和撫子を思わせる女、
「本当にそうだよねぇ。お前のような
横にデカい男、
「ッ・・・」
耐えろ。耐えるんだ。
「貴方もこんな奴がいると、目障りだよねぇ?」
くせっけの短髪の少女、
をしながら触る。
――お前に何が解る・・・ッ!蒼穹に触るな・・・ッ!
―お前たちに、蒼穹の苦しみが解ってたまるか・・・ッ!
その時、私の中で殺意が僅かながらに溢れた。
そして、次の瞬間、何かに引っ張られる感覚と、背中に大きな衝撃を受けた。
「う・・・ッ!?」
私の眼前に、凶悪そうな目付きをし、それとは矛盾した顔立ちをした男の顔があった。
あの学校でも、先生でさえ手の出せない不良、
「何殺気だってんだよ朝田?俺らは蒼穹の友達なんだぜ?それで触ってもおかしくねぇよな?なのになんで殺気だってんだよ?お前は蒼穹のなんだ?」
「ッッ・・!」
こいつ・・!
もし腰のナイフやらダガーがあれば、首を搔っ切って殺してやるのに・・・ッ!!
「へえ・・・俺に向かってそんな表情が出来るようになるとわな・・・」
「!?」
いきなり投げ飛ばされる。
「あう・・・!?」
周りから笑い声が聞こえる。
「あ~、見てらんない。ねえ、さっさと出て言ってくんない?」
夕子がこっちを見て、笑いながら見下してくる。
―――ウ ザ イ コ ロ ス ゾ―――
「!?」
夕子がびびって下がる。いい気味だ。
私は立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「おい、朝田」
「・・・?」
まだなにか・・・
「 バ ン 」
あ
「う・・・!?」
マズイ、ハキケガ・・・
「け、まだこれが弱点なんだな」
コイツ・・・!
私は、口を押え、そこにうずくまる。
「お前好きだもんなぁ、ピストル」
そう、私は、銃器に関するものを見ると、あの光景を思い出し、ひどい発作を起こすのだ。
相当、深い
そして、手をピストル型にしたのは砂重だ。
―――コ ロ シ テ ヤ リ タ イ―――
私は、なんとか吐き気を押え、病室を出た。
ああ、いつから私は、ここまで殺気を出せるようになってしまったのだろう?
アスナの病室。
そこのネームプレートには『結城明日奈』と書かれている。
「キリト」
「ん?ああ、シノンか、もういいのか?」
「ん、ちょっとね・・・」
「・・・なにかあったのか?」
ああ、やっぱりばれちゃうか・・・
私は、蒼穹の病室で起こったことの顛末を話した。
「そうか・・・」
気付けばもう正午だ。
「そろそろ行くよ、アスナ」
「また後でね」
そして、外に出ようと、ドアの方向に体を向けた時、ドアの開く音が聞こえた。
まさか追ってきたのか・・・?
そんな予想を軽く裏切って、まったく別の人物が現れる。
「おお、桐ケ谷君。来てたのか。たびたびすまんね」
それは、とても仕立ての良いブラウンのスリーピースを着込んだ大人の男性。
「この人は結城
「そうなの・・・?って、結城彰三って・・・」
「ああ、総合電子機器メーカー《レクト》の社長さんだよ」
「社長!?じゃあアスナって社長令嬢なの!?」
なにそれ初耳なんだけど!?
「まあ、そういう事かな」
「はっはっは、そこまで驚いて貰えるとは。ところで君は?」
「あ、アスナの友達で、朝田 詩乃といいます」
ぺこりとお辞儀をする。
「どうも、私は結城彰三、明日奈の父だ。友達も多い方が、この子も喜ぶ」
そして、彰三さんは、持っていた花束を、アスナの眠るベッドの横にある机の上に置いた。
「ああ、彼とは初めてだな。うちの研究所で主任を務めている、須郷くんだ」
気付くと、確かにもう一人いる。
「須郷伸之です。――そうか、君があの英雄キリトくんか」
「・・・桐ケ谷和人です。よろしく」
「朝田詩乃です」
第一印象は人が良さそうな人だ。
「すまんね。ここじゃあ向こうでの話はNGだったな。あまりにもドラマティックな事なので、つい喋ってしまった。かれとは、私の腹心の息子でね。家族同然の付き合いをしてきたんだ」
「ああ、その事なんですが社長――」
何を喋り始めたんだろう・・・?
「来月にでも、正式にお話を決めさせて頂きたいと思っています」
「そうか。しかし、君はいいのかね?まだ若いんだ、新しい人生だって・・・」
「僕の心は昔から決まっています。明日奈さんが今の美しい姿でいる間に・・・ドレスを着せてあげたいのです」
待って、いったい何の話をして・・・・
「そうだな、そろそろ私も覚悟を決めなければならないな・・・・」
私たちが沈黙をしている間に話が進んでいく。
「では、私はそろそろいくよ。桐ヶ谷君、朝田さん、また会おう」
そうして彰三さんは出ていく。
するとここには須郷さんと、私とキリトしかいなくなる。
「・・・君は、向こうで明日奈と暮らしてたんだって?」
「ええ、まあ・・・」
「なら、僕らは少し複雑な関係だという事になるという事だね」
どういう意味だ?
と、思った瞬間、私の第一印象が大きな間違いだという事に気付いた。
須郷の口角が吊り上がり、その顔は酷薄な感じがする。
――この男・・・
「さっきの話はね、僕と明日奈が結婚するって話なんだよ」
「な・・・」
それに私たちは絶句した。
アスナが・・・結婚・・・?
「そんな事・・・出来る訳が・・・」
キリトが震える声でそう呟く。
一方で須郷は笑うのをやめない。
「確かに今のままでは法的な入籍は出来ない。書類上では、僕は結城家の養子と言う事になる。だけどこの子は子供の頃から僕を嫌っていてねぇ」
須郷は左手の人差し指をアスナの頬にはわせる。
「やめろ!」
キリトが声を上げる。
「貴方、アスナの昏睡状態を利用する気なの!?」
「利用?いやいや正当な権利だよ。ねえ桐ヶ谷君に朝田さん。SAOを開発したアーガスが、あの後どうなったか知っているかな?」
「・・・・解散したと聞いた」
キリトが答える。
「うん。開発費に事件の補償で莫大な負担を抱えて、会社は消滅。SAOサーバーの維持を委託されたのがレクトのフルダイブ技術研究部門だ。つまり、僕の部署だよ」
なら・・・どうすると?
「つまり、彼女の命は僕が預かってるといっても良いんだよ。なら僅かばかりの対価を要求したっていいじゃないか」
この男は、アスナの人権のみならず、生命さえも手玉に取ってるというの?
そして、それを己が目的の為に利用すると・・・・?
須郷が、薄笑いを引っ込め、代わりに冷たい視線をこちらに向ける。
「君がゲームの中でこの娘と何を約束したか知らないけど、今後一切ここには近寄らないで欲しいな。結城家との接触も遠慮して貰おう」
その瞬間、胸の中に何かがずあっと渦巻く。
だめだ。これを外に出してはならない・・・!
「式はこの病室で行う。君達も呼んでやるよ。せいぜい最後の別れを惜しんでくれ。あ、そうそう」
須郷が何かを思い出したように肩から視線を覗かせ、こう言った。
「式にはソラ君も出るよ。まあ、君の事は跡形も無く忘れてるけどね」
ド ク ン
「シノンッ!!」
「!?」
あれ・・・私・・・・何を・・・して・・・・
息が荒い。場所は・・・・動いていない・・・私は・・・今、何を・・・
ド ク ン
あ・・・れ・・・私・・・
ド ク ン
寒気がする・・・おかしいな・・・発作なんて・・・おきて・・・
◯ ◯ ス
無い・・・のに・・・私・・・
◯ ロ ス
あ・・・れ・・・何・・・これ・・・まるで・・・知らない・・・私に・・・飲み込まれるような・・・
「それじゃあ、英雄くん」
ア・・・・ソラ・・・・タスケ・・・・
コ ロ ス
その時、私の意識が暗闇に落ちた。
次回・・・
自身が壊れている事を知り、一時絶望する詩乃。
だが、海利の妻、時子が慰めてくれた事で再起する。
その直後、キリトから一本のメールが。
『エギルがアスナとソラの居場所を知っているかもしれない』
そして、今いくはあらたな仮想世界『アルヴヘイム・オンライン』へ
「リンクスタート!」
次回『再起、取り返す決意』
次回をお楽しみに!