ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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やっとここまできましたよ皆さん!
遂に!アインクラッド編、完結です!


世界の終焉、心を繋ぐ虹色の光

キリトのヴォーパルストライクがヒースクリフに決まる。

だが・・・

「!?」

その攻撃は、見えない壁によって弾かれる。

「キリト君!何を・・・」

アスナがキリトの傍に駆け寄る。だが、ヒースクリフの頭上に浮かんだ文字を見た瞬間、絶句する。それは、この場にいる全てのプレイヤーも同じだ。

《immortal object》・・・・ユイと同じ、不死の存在。

「団・・・長・・・?」

「やっぱりか・・・」

ソラが確信した様にヒースクリフを睨み付ける。

「ソラ、ヒースクリフって一体・・・」

シノンが、まるでありえない物を見ているかの様にヒースクリフを見る。

「これが、あのチートみたいな防御力の正体だ。言ってやれキリト、こいつの正体を・・・」

「ああ、そうだろう?茅場晶彦」

あたりが騒めく。そうだろう?だって本来ここにはいない筈の人物がここにいるのだから。

「どうして気付いたのか、参考程度に教えてくれないかな?」

「否定はしないんだな?」

「当然だ。本来なら、九十五層で自分から言うつもりだったからね」

「そうか・・・初めにおかしいと思ったのは、キリトとのデュエルだ。あの時、確実に決まるタイミングだったのに、お前はありえない速度で反応して、それを防いだ。それは、お前がシステムのオーバーアシストを使ったからだろう?」

「ほう、そこまで気付いていたか・・・」

そして、ヒースクリフこと、茅場はあたりを一周し、そして自らの正体を自白する。

 

「確かに私は茅場晶彦だ。本来なら、このアインクラッド最上階の紅玉宮にて、君たちを待つラスボスでもある」

 

「最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスかよ・・・」

キリトが皮肉たっぷりに言う。

「良いシナリオだろう?」

それを茅場はまるでいい気分の様に言う。

すると後ろにいた一人の血盟騎士団の団員が、両手剣を構える。

「俺たちの忠誠を、希望を・・・・返せよ・・・返せよぉぉぉぉ!!」

そして、茅場に向かって走る。だが、茅場が剣が届くよりも早くウィンドウを操作する。

すると、その団員がいきなり力が抜けたように倒れる。

そのHPバーには、麻痺の表示があった。

「麻痺?」

「GM権限か・・・」

さらに立て続けに他のプレイヤーが倒れる。

「!? キリト君・・・」

「ソラ・・!」

そして、アスナとシノンも麻痺で動けなくなる。

だが、キリトとソラを除いて・・・

「どうするんだ?このまま全員殺して隠蔽する気か?」

「いや、流石にそこまで理不尽な事はしない。不本意ながら、私は一足先に紅玉宮にて、君たちを待つ事にするよ。ただ、私が育て上げた血盟騎士団や攻略組の君たちなら、無事、最上層に辿り着けるだろう。だが、私の正体を見破ったキリト君とソラ君には、報酬をやらねば。チャンスをやろう」

「チャンス」

キリトは、疑問に思っているが、ソラは疑う事無く立ち上がる。

「ソラ?」

「つまり、ここでお前と俺たち、二対一で決闘をしろって事だろう?」

「流石だね。はて、先ほどから疑問に思っていた事なのだが、どうしてそこまで先の事までわかるのかね?」

「なら、教えてやるよ」

そうしてソラはいったん切ると、こう言った。

「今の俺頭はトップギアなんだ。読みの速さなら今なら絶対に負けねぇ」

「なるほど、そういう事か・・・良いだろう。二刀流スキルは、全プレイヤーの中で最高の反応速度を持つものに与えられ、狂戦士スキルは、最も想いの力が強い者に与えられる。本来なら、二刀流スキルを持つプレイヤーが勇者の役を担い、狂戦士スキルを持つ者が戦士の役を担うのだが、これは、運命とも呼べるものか・・・」

「つまり、俺はキリトのサポート役って事か、まさに俺にお似合いのスキルだな」

ソラが剣を抜く。

「ここでお前を倒せば、ゲームはクリアされる事になり、生き残った全プレイヤーが纏めてログアウトされる。こんな機会、他にねえよ」

「だめよ、ソラ君!ここで貴方たちを消す気なのよ!」

アスナが止める。

「ソラ・・・」

シノンが心配そうにソラを見る。

「・・・・」

キリトは俯いたまま、回想に浸っている。

ソラは、茅場を見据えたままだが、動くことは無い。

「・・・・」

 

 

―俺は、今まで、他人との関わりを絶ってきた。

―俺は、繋がりを作れても、それを簡単に断ち切れることができる。

―だがら、俺は、誰かが近寄ってきたら、直ぐに振り払うようにしてきた。

―つながりを作ったら、俺は・・・きっと・・・

 

―――そんな事は、無いと思うよ

 

「!?」

なんだ?さっきの声は・・?

 

―――貴方は今まで、沢山の人たちを繋いできた。貴方は、その力で、沢山の人たちの手を繋いだ。貴方がいたから、キリトや、アスナさんが、繋がれた。ユイちゃんとも、繋がれたんだよ。

 

――お前は、誰だ・・・?

 

―――お願い、ユイちゃんが、言った様に、皆を笑顔にして、皆を助けて。

 

――教えろ・・・・お前は・・・誰だ・・・!

 

―――・・・私の名前は・・・・サ・・・・

 

 

 

「・・・ふざけるな」

「!?」

現実に引き戻される。

「キリト君・・・」

「大丈夫だよ、アスナ」

「・・・死にに行くわけじゃないんだよね?」

「ああ、きっと、勝ってくるから」

「うん、絶対だよ・・・」

キリトが立ち上がる。

そして背中にある二本の剣を抜く。

「良いのか?」

「ああ」

そこへ、クラインの叫び声が聞こえた。

「キリトォォ!!」

「・・・エギル。剣士クラスのサポート、ありがとな。知ってたよ。お前が稼いだ金が、中層クラスのプレイヤーの育成に使ってたこと」

エギルが、表情を驚愕の色に染める。

「クライン・・・お前を、あの街に置いて行ったこと、悪い」

「・・謝んなよ・・・今ここで謝るなよ!オメェ・・向こうでメシの一つぐらい奢ってからにしろよぉ!オイ!!」

クラインが涙を流しながら、そう叫ぶ。

そして、キリトは、アスナを視界に入れた後、再び茅場の方を見る。

「悪いんだけど、頼みがある」

「なにかな?」

「簡単に負けるつもりはないが、俺が死んだら、しばらくで良い、アスナを自殺できないようにしてくれ」

これには少し驚いたようだが、微笑し、承諾した。

「よかろう」

「キリト君・・・そんなの・・・そんなの無いよぉぉぉぉ!!」

アスナが絶叫を迸らせる。

「君は何かないのかね?」

茅場がソラの方を見る。

「・・・・一つだけ聞かせろ」

「何かな?」

「シノンの記憶を消したのはお前か?」

それを聞いた茅場、まるで心外の様に笑い、こういう。

「いや、いくら私でも、そこまではしない」

「そうか、なら、せめて怒りに飲まれず戦えそうだ」

そして、正眼に大剣を構えるソラ。

茅場が、ウィンドウを操作し、不死属性を解除した表示と、ゲージがイエローになる所を見る。

おそらく、互いに一発クリーンヒットすれば、確実に相手のHPを全損させる事が出来る。

茅場が剣を抜く。

構えた瞬間、仮想の空気が、剣気で張り詰める。

「・・・」

「・・・・殺すッ!!」

「!?」

キリトから漏れ出た言葉。それに驚愕し、出遅れるソラ。

キリトの剣が、茅場の盾に激突。そこからは目まぐるしい程の剣劇。

二本の剣が交差し、盾と剣がぶつかる。

(は、入れねぇ・・・!?)

その速度についていけないのか、剣を構えたまま棒立ちになるソラ。

ここで下手に入ったら、キリトの邪魔になるかもしれない。

「畜生・・・!」

完全に互角の勝負。ならば、これは気持ちの強さで勝負が決まる。

だから、キリトは()()()()()()()()()()()

キリトの剣が光る。

「・・・!まずい!」

 

二刀流最上位剣技《ジ・イクリプス》

 

正面八方から繰り出されるプロミネンスが如き二十七連撃が茅場に殺到するが、茅場は、その軌道を先読みして盾を動かし、防ぐ。防ぎきる。

「キリトォ!」

ソラが走り出し、まだ技の途中のキリトを横から突き飛ばす。

「な・・・!?」

その隙を茅場は見逃さない。

だが、危機一髪のところでソラが柄で受け止める。

「おおおおおお!!」

ソラが大剣を振り回す。

右へ左へ上へ下へ。技術も糞も無い縦横無尽の攻撃。

それを茅場は全ていなす。

それでもソラは攻撃をやめない。『狂化』を発動させ、更に速度を高める。

「セイッ!」

右斜め受けから斬り下ろす。それを盾で受け止める茅場。そのカウンター気味に放たれる長剣の攻撃を剣の腹で受け止める。

 

―だめだ。これじゃあ勝てない。

 

キリトが加勢し、攻撃が激しくなるが、それでも涼しい表情を崩さない茅場。

 

―だめだ。まだ足りない・・・!

 

倒せる可能性・・・・それさえも分からない。

 

―どうすれば、どうすれば・・・

 

「ソラ!」

「!?」

呆けた。一瞬だが呆けた。それが致命的だった。

ソラの大剣が弾かれ、大きく仰け反る。

「ぐお・・・!?」

「ふんッ!」

そこへ、茅場の長剣の突きが放たれる。

「くお・・・!」

それを間一髪で()()で受け止める。

HPが僅かに減少する。

「くっそぉ!」

剣を振り払い、離れる。

 

―どうしたら・・・茅場に勝てるんだ!

 

 

 

 

―にぃにはまだ、そのスキルを使いこなせていません。

 

「!?」

今の声は・・・ユイ!?

 

―茅場さんも言っていたでしょ?そのスキルは『想い』の力が最も強い人に与えられるって。

 

この声は、君か・・・

 

―お前の手は、誰かの手と手を繋ぐ為の物だろ?ソラ。

 

お前・・・なんで・・・

 

―はは、何情けない顔してんだよ?らしくねぇぞ。

 

そんな・・・俺は、お前を・・・

 

―殺した・・・ねえ・・・あれはもともと俺が悪い訳だし、お前は、そんな俺を止めてくれただけに過ぎねぇだろ。

 

でも・・・

 

―あーもう、一体いつまでうじうじしているんですか!にぃにはそれでも私のお兄ちゃんなんですか!?

 

どうしろっていうんだよ・・・・?

 

―君は、沢山の人たちの心を繋いだ。君のお陰で、救われた人もいるんだよ?

 

―そうだぜソラ。お前はどんな時だって、くじけなかった。すぐに立ち直って、また新しい人の心を、繋いだ。そうして、今のアインクラッドがあるんだ。

 

―さあ、キリトを助けてあげて。私はもう、彼とお話が出来ないけど、貴方は、そんな私と彼を繋いでくれる。

 

―繋ぐんだ。沢山の人たちの心を。今、キリトが断ち切ろうとしているつながりを、繋ぎとめてやってくれ。

 

ああ、そうだな・・・・本当にそうだ。

 

―頑張ってください!にぃに!

 

―がんばって、ソラ。

 

―頑張れソラ!

 

ああ、言ってくるよ、ユイ、サチ、ヨウ!

 

 

 

 

キリトが、もう一度ソードスキルを発動させているのが見えた。あのバカ、結局システムにたよってんじゃねぇか。

しゃあないなぁ。止めるか。

そう想い、俺は立ち上がる。

そして、走り出す。随分と軽いな。俺、こんなに速く走れたっけ?

そして、キリトのラスト一発が、茅場の持つ十字盾にぶつかり、ダークリパルサーが折れる。

そして、茅場の持つ長剣がクリムゾン色に輝く。

「さらばだ。キリト君」

それが思いっきり振り下ろされる。

目の前を誰かが通過する。

ああ、やっぱ、そこまで愛してんだな。だったら、死なす訳にはいかねぇな。

そして、俺は、自らが緑色に輝いている事を知る。否、それは、光輝く虹の全ての色が混ざり合った、色。決してよどみ無きその色は、遥かに深い闇を持つ人間でも、照らせるような、そんな優しい色。

それを、一秒眺め、そして、視線をキリト達に移す。

そして俺は、キリトと()()()を突き飛ばした。

「え・・・?」

「ソラ・・・くん・・?」

そして、その紅い死の残光が俺に突き刺さる。

 

 

 

 

 

嘘・・・だろ・・・?

「いやぁぁぁぁぁぁあ!!ソラぁぁぁぁぁあ!!」

シノンの絶叫が聞こえる。

なんで、お前が死ななきゃならないんだ。ソラ。

茅場の長剣が、ソラの左肩から心臓まで深々と入っている。

「おい・・・ソラ・・・」

「・・・情けないな。こんな事になるなんて」

気付くと、ソラの鎧の赤かったラインが、緑、いや、虹色に輝いている。

「ほう・・・そこへ辿り着いたか」

茅場は何かを知っている様に呟く。

「はは、こんな死に際となると、なんか、死ぬのが惜しいな」

もうHPはとっくにゼロになっている筈なのに、しゃべり続けるソラ。

「ただ、最後に、キリトやアスナを助けられてよかったよ」

ソラの体が光り輝く。

やめろ、行くな・・・ソラ!

とたん、ソラの体を中心に、まるで水面に水滴が落ちてきたかのように、虹色の光が、部屋に広がり、包み込む。

 

―キリト・・・

 

「!?ソラ!」

 

―悪い、ここまでの用だ・・・・

 

「何言ってんだよ・・・シノンはどうすんだよ!」

 

―それは、お前がどうにかしてくれ・・・

 

「ふざけんな!お前が死んだら、シノンは、一人になるじゃねぇかよ!」

 

―そうだな。でも、シノンは、詩乃はもう一人じゃない。

 

「どういう・・・」

 

―キリトやアスナ、リズやシリカにクライン、エギル、シンカー、ユリエール、ハクヤやライコウがいるじゃないか。だから、あいつはもう、一人じゃない。

 

「だけど、それじゃあお前が救われねぇよ!」

いつの間にか涙が溢れる。

 

―そうだな。だけど、俺は、お前にあえて良かったよ。今まで沢山の事を教えてくれて、沢山の人たちに合わせてくれた。それだけは、俺にとって、孤独だった俺にとって、大事な、幸せな時間だった。

 

「おい、待て、まだ行くな・・・ソラ!死ぬな!」

膝まづいているソラの頭が動き、茅場を見上げる。

『ソラ!』

『ソラさん!』

「ソラ君!」

「おい、死ぬなよソラ」

「ソラァ!」

やめろ、その先を言うな・・・

 

 

 

 

「ありがとう、そしてごめんな。さよなら」

 

 

 

 

 

―あとは任せた、キリト。

 

 

 

 

「ソラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラがポリゴンとなり、消滅する。

「・・・・」

シノンは、俯いたまま、何も話さない。

「これは驚いた。アスナ君が動ける様になる上、まさかソラ君が狂戦士のその先に辿り着くとは、これは予想出来なかった」

一本取られたといわんばかりの口調でそう告げる茅場。

「死んだ・・・ソラが死んだ・・・死んだ・・・」

無表情で、まるで呪詛の様に、言葉を繰り返すシノン。

「・・・・」

 

―後は任せた。

 

「ああ、わかったよ。ソラ(親友)

アスナの細剣の柄を握る。

「キリト君?」

「貸してくれないか?」

穏やかに、そう言う。

その声音に一つの決意を乗せて。

「わかった」

アスナは、その意志を汲み取ってくれたかのように、頷いてくれた。

本当に、良い妻を持ったよ、俺は。

立ち上がり、茅場に向かって歩く。

「・・・・」

茅場は、真っ直ぐに、剣をこちらに向ける。

 

もう、間違わない。

 

青い光が、アスナの細剣を包む。

単発の『リニアー』だ。

茅場は、それを盾で反らす。

普通なら、ここで硬直が起きて、そこを攻撃される。だけど・・・

「うおおおおお!!!」

「何!?」

すぐさま右手に持つ剣で『スラント』を発動、その剣を弾く。

そして、その攻撃はまだ終わらない。

両手の剣を離す。

「!?」

これには茅場も驚いたようだ。だけど、決めるのは体術じゃない。

俺は、足元にある物の端を蹴り上げ、それを両手で掴む。

ソラの『竜殺しの剣』だ。

「うおおおおおおおおぉぉぉぉおお!!」

懐かしい感触が、俺の手を包む。

かつて失ってしまった少女の手の温もり、俺とアスナの初めての娘の手の温もり。

だが、もう一つ包まれる手は、俺の知らない奴の感触だ。

だけど、不思議と信用出来る。

 

―行け!俺の親友の、もう一人の親友!!

 

言われるまでも無い。当たり前だ!

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉおおお!!!!!!」

剣が、茅場の胴体を、薙ぐ。

その瞬間、茅場は、笑った様に見えた。

そして・・・・

「ゲームクリア、おめでとう、キリト君」

茅場はポリゴンとなり、消えた。

俺は、膝を付いた。

 

―これで、良いよな?ソラ・・・

 

瞬間、俺の胸元から、何かが込み上げてくる。

まあ、吐き出しても、良いよな?

「うわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁああああぁぁああああ!!!!!!!」

そして、俺はその場にうずくまり、泣いた。あらん限りの声で泣いた。

「ソラァ、ソラァあああああああああああああああぁぁぁぁぁあああぁあ!!!!!」

周りにいる誰もが泣く。

アスナも、クラインも、エギルも、ハクヤも、ライコウも。

そして、無表情でも、その頬に、光る雫を流すシノン。

 

『最終ボスが倒されました。ゲームはクリアされました。これより、全プレイヤーのログアウトを開始します。繰り返します・・・・・』

 

アナウンスさえも耳に入らない声で、俺たちは、泣いた。

 

 

 

 

 

 

謎の場所・・・・

ここはどこだ?何故俺はここにいる?俺は、死んだ筈だ。

っというかここ空の上じゃねえか!?しかも夕焼け!?

もしかしてここは天国か何かなのか?

と、色々と考えを巡らせてみたとき、視界の隅で、何かを捉える。

「あれは・・・アインクラッドか・・・!?」

じゃあ、ここはまだ、ゲームの中と言うことか・・・

どんどん崩れていくアインクラッド。

みんなは無事、ログアウト出来たのだろうか・・・?

「絶景だな?」

「うおわおい!?」

いきなり聞こえた声でおおきなリアクションで驚いてしまった。

「って、茅場晶彦!?」

「随分な驚き様だな、まあ、無理もないか」

茅場の姿は、あの血盟騎士団のヒースクリフの姿ではなく、写真で見た、リアルの白衣の姿だった。

「・・・」

思考加速・・・もとい、アクセルブレーン、開始。

あらゆる可能性を掌握、そして、答えを導き出す。

「データの完全消去か・・・・」

「その通りだ。現在、アーガス本社の地下五階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置で、それを行っている」

「全員、ログアウトしたんだよな?」

「無論、今、生き残った六千百四十七人のログアウトが完了した」

その様子なら、キリトやアスナ、そしてシノンも無事、あっちへ帰ったことだろう。

「なら、良かった。ここは、俺と少しだけ話をする為に作った時間だろう?だったら、教えてくれ、なんでシノン・・・詩乃の記憶は消えていたんだ?」

これに茅場はこう答えた。

「彼女は本来、君たちが出会う一ヵ月前にログインするはずだった」

「何・・・?」

「その理由は、彼女のダイブを、外部から妨げた者がいたからだ」

「おい待て、じゃあ詩乃は・・・」

「ああ、彼女は、一ヶ月もずっと、この世界と現実の間を彷徨っていたんだ」

そんな・・・じゃあ、詩乃の記憶が消えていたのって・・・

「一時的に、()()()()()()()()()()()()()()()っていうのか・・・!?」

「そう考えるのが打倒だろう」

「・・・」

絶句するしかなかった。

じゃあ、詩乃は・・・・

「心配するな、彼女が記憶を取り戻したおかげで、体とのリンクは回復した。無事に向こう側に帰れる」

「そうか・・・良かった」

俺は、安心すると、膝を見えない地面に着き、安堵の息を漏らす。

そして、もう一度、アインクラッドの方を見る。

「・・・なあ、茅場」

「何かね?」

「あんたがこんな事をした理由、これが見たかったんだな」

「ふ、やはり君には何もかも御見通しか」

「子供は誰しも必ず、空想上の物を思い浮かべる。そしてあんたは、その欲求が強すぎたからこそ、この世界を作った。本当に誰もがこの世界で生き、誰もがこの世界をもう一つの世界だと認識する。それが、あんたの追い求めた理想なんだな」

「まさしくその通りだ。そして、私の世界の法則を超えるものを見ることが出来た・・・・」

茅場は、懐かしそうに、崩れゆくアインクラッドを眺める。

「さて、私はそろそろ行くよ。ああ、言い忘れていた、ゲームクリアおめでとう、ソラ君」

「ああ、あんたもお疲れ様、茅場晶彦」

そして、茅場は去った。

残ったのは俺一人。

「・・・死ぬのか・・・俺」

なんだか、実感わかねぇな。

鎧やあの剣は無い。あるのは、その下に来ていたインナーだけだ。

「最後に、詩乃の成長した姿見たかったな」

・・・・

「・・・キリト、アスナ」

ぽつりぽつりと、今まで、会ってきた、友に戦ってきた、命の奪い合いをした、相手の名前を全て述べる。

「クライン、エギル、ハクヤ、ライコウ、ゴドフリー、クラディール、シンカー、ユリエール・・・」

今まで会って来た人々。

今まで殺してきた人々。

今まで見殺しにしてきた人々。

今までこんな俺についてきてくれた人々。

「ああ、確かに絶景だな」

夕焼けの空を眺め、それを、しっかりと目に焼き付ける。

視界が霞む。

「ああ・・・・」

その理由が、俺が泣いている事だと自覚するまで、それほどかからなかった。

 

 

―寂しい―

 

 

「せめて・・・」

 

 

―寂しい―

 

 

「せめて・・・」

 

 

視界が純白に染まる。

本当に寂しい。

 

「せめて、この夕焼けを・・・・皆と、詩乃と一緒に、見たかったなぁ・・・・」

 

ひとりは・・・・いやだ・・・・

 

 

 

 

 

 

あれ・・・・ここは・・・・?

くらい・・・くらい・・・・へやなのかここは?

目の前にある扉が開く。

「だれ・・・・だ・・・?」

たちあがり、みがまえる。

「あら?貴方、母親の顔を忘れたの?」

「はは・・・おや・・?」

おい・・・まて・・・まさか・・・

「ふふ、気付いたみたいね。そうよ。貴方のママ、地条綾香よ」

「あやか・・・だと!?」

このやろう!!

「む~、悪い子だなぁ。実の母をママやお母さんじゃなく、名前で呼ぶなんて」

「ふざけるな!」

「全く、悪い子にはお仕置きをしなくちゃね」

すると、あやかはてをそうさしている。おいまて、そのうごきは・・・メニューウィンドウをそうさしているうごきだ・・・!?

「おい、なにを・・・ああ!?」

なんだ!?あたまに痛みが・・・!?

 

初めてあの女の子とあった記憶が消えた。

 

「!? おい、やめろ・・・アガァ!?」

「だめよ。あの女の記憶は全て消さなくちゃ、貴方は一生私の物にならない。一生」

だめだ・・やめて

 

誰かとデートした時の記憶が消える。

 

「いやだ・・・いやだ・・・わすれたくない・・・やめてくれ!」

「だ~め」

 

泣いているあの子を抱きしめた記憶が消える。

 

こことは違う世界に初めて来た時の記憶が消える。

 

初めてその世界で出来た友達の笑顔が消える。

 

「やめろ、やめろやめろやめろ!」

 

あの子がこの世界に来た時の記憶が消える。

 

あの子に告白され、告白した記憶が消える。

 

黒衣の少年と紅白の少女が結婚したときの記憶が消える。

 

「いやだ、いやだいやだ!」

 

黒衣の少年が、二刀流で大きな敵を倒した時の記憶が、

 

デュエルで初めて負けた記憶が、

 

消える、消える、消える、消えていく。

 

「いや・・・だ・・・いや・・・だ・・・」

 

男の長剣が突き刺さる記憶が消える。

 

そして、そして、そして、そして・・・・

 

 

朝田 詩乃という女の子の名前が・・・・俺を、俺という存在を繋ぎとめてくれるもう顔も思い出せない、その名前が・・・・全ての思い出が、全て、全て、全て、全て・・・・

 

 

 

 

 

    キ  エ  タ

 

 

 

 

 

 

 

ドアから、一人の女が出てくる。

「・・・おや?今ごろ終わったのかい?」

それを迎えるわ、金髪の男。

「ええ、ちょっと予想外だったわね。記憶の抹消に、あれほど抵抗を見せるなんて。でも、もう心配無いわ。来なさい」

どちらも、外国人、というよりも、とんがった耳をしている時点で、人ならざるものの筈なのに、まるで日本人の様に喋る二人は不適な笑みを浮かべている。

そして、女が出た扉から、一人の少年が出てくる。

「貴方の名前は?」

「地条 蒼穹。またの名を、ガルムと言います」

「貴方の母親は誰?」

「地条綾香です」

「良いわ。良いわ!成功よす・・・いえ、オベイロン閣下、成功よ。記憶の抹消は完璧。書き換えるのは少し問題が生じたけど、成功よオベイロン閣下」

「う~む、記憶消去はともかく、人格の書き換えに問題か・・・これは修正する必要があるな。まあ、成功は成功か」

クックックと笑う男。

「ああ、ああ、遂に、遂に!蒼穹が私の物になった!なったのよ!」

アハハハハハ!と高笑いをする女。

「だけど、確かに感情は必要ね、私色に染めなくちゃいけないからね」

そんな彼女を見ている彼、ソラの目には、光は無い。

ただ、与えられた命令は、

 

ここに来る者たちを消せ。

 

母に害する者を消せ。

 

彼らの研究を妨げる者たちを消せ。

 

      だけだ。

 

 

―ソラ・・・

 

「・・・・?」

誰かの声がした。懐かしいような、そうじゃないような。

だが、彼はそんな思考を振り払い、自らの母に着いていく。

 

全てを忘れ、余計な事は一切考えずに・・・・

 

 

 

 

 

 

一つの病室で、一人の少女が起きる。

その頭には、藍色のヘルメット。左腕の動脈には、一本のチューブがあり、それは、ある棒の上にある点滴のパックに繋がっている。

少女は、瘦せこけた腕を持ち上げ、次に状態を起こす。

そして、ヘルメットを脱ぐ。すると、伸びた髪がヘルメットから落ち、下に垂れる。

「・・・う・・・あ・・・?」

言葉にならない声を発しながら、周囲を見渡す。

そして、ヘルメットに眼を落す。

「・・・・」

すると、何かを思い出したかのように、その顔を強張らせる。

すると少女は、辺りを見渡す。今度は、必死に。

そして、左腕に刺さっている点滴に眼を付け、それを引き抜く。

「いっ・・・うう・・・」

それに涙を流すも、それを首に向ける。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

息を荒げ、それを、ゆっくりと、頸動脈に近付ける。

「はあ・・・はあ・・・ッ!」

そして、それをいざ首に刺そうとした時・・・

 

―――生きてくれ。

 

「!?」

愛した人の声が、耳の中でこだまする。

すると、手から点滴の針が落ち、代わりに、涙が溢れ出る。

「うああ・・・うああ・・・」

そして、何かを悔しむように、歯を食いしばり、俯きながら、かつて、愛した人の名前を呼ぶ。

「そ・・らぁ・・・そらぁ・・・そらぁ・・・・」

何度も、何度も、何度も、その名を呼んだ。呼び続けた。

 

 

 

 

 

アインクラッド編、完結・・・




次回!フェアリィダンス編突入!!


どうも今回は次回予告を削ってあとがきにしました。
おはようこんにちはこんばんは、幻在です!
此度はこの『ソードアートオンライン 狂戦士が求める物』を呼んでいただきありがとうございます。
このアインクラッド編のラストがかなり陰湿な物になってしまいましたが、結構、上手く書けたと自分は思っています。
ラストで出てきた二人の内、片方の名前は明かしましたが、もう片方の方はわかりますよね?
今回の話で使ったネタの数々ですが、主に『るろ剣』『落第騎士』『ベルセルク』から引用しました。他にもあるのですが、バレバレと思うのであえて言いません。

次編ですが、新たなオリキャラを登場させる予定です!
どうぞ楽しみにしていて下さい。

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