ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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幕間の物語 追憶 後編

詩乃—side—

 

それは、あまりにも唐突すぎた。

それは、学校での事。

屋上で、いつも通り、愚痴を零し合っていた時の事だ。

「なあ、詩乃」

「なに?いきなり改まって・・・なんでそんな真剣なの?」

何故か、蒼穹が大真面目にこちらを見てくる。

何だろう?

「明日、デートしないか?」

「え・・・?」

本当に唐突だった。

そして、私はあらん限りの声で叫んだ。

「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇえ!?!?!?」

私の脳内ではあらゆる自我やら理性やら本能やらが緊急会議を始める。

理性『デートってあれよね?男と女が手を繋ぎ合って・・・』

自我『いやいやいや蒼穹に限ってそんな事言う訳ないでしょ?』

本能『ああああああああ!!!デーーートぉぉぉぉぉ!?』

自制心『誰か本能を止めてぇぇぇぇ!!』

腹黒『この機会に色々と弄り回して・・・』

理性『なんで貴方はそんな事考えるのかなぁ!?』

神経『め、命令が多すぎて・・・あああああ!?』

自制心『神経があまりの命令の複雑さにオーバーヒートして自滅したぁ!?』

本能『デートぉぉぉぉ!行こぉぉぉぉぉぉ!!』

怠け心『え?ちょ!?まぎゃぁぁぁぁあ!?』

自制心『本能が怠け心を吹っ飛ばしちゃった!?』

怒『お前らぁ!いい加減にしろぉ!』

自我『じゃあ貴方は何か良い案とか出せるの!?』

中枢『着いていけない・・・』

自制心『中枢の貴方が考えるの諦めちゃだめぇぇぇぇ!』

「あー、詩乃?」

「は!?」

しまった、今脳内会議がカオスな事になって現実から切り離されていた。

と、とりあえず落ち着いて、気付かれないように・・・

「そう、で、デートね、いつい()()の?」

かんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!かんじゃったぁぁぁぁぁぁぁ!!!

「あ、ああ、明日、公園で待ち合わせて、デパートに行こうぜ?」

「え、ええ、そうね。うん。わ()()った」

またぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!

もうダメ、死にたい・・・

「よし、わかった。じゃあ、明日な」

そうして、蒼穹は行ってしまった。

「さ、誘われちゃった・・・・」

最後に私は、そう呟き、考えるのをやめた。

 

 

 

蒼穹—side—

 

詩乃をデートに誘い、屋上から出た俺は、扉のすぐで立ち止まる。

 

や、やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!

 

つ、ついに言ってしまったァァァァ!!

どうしよう、服はどうする?それなりにカッコいい恰好で行くか?いや、目立っても困るし・・・なんとか目立たない恰好で・・・ダメだ。まともに頭が回らん。

というか詩乃の奴噛んでたな。それでもポーカーフェイス貫いていたのは凄かったと思うが、思うが・・・・

これを円華や母さんにばれないようにしなくちゃならない。

仕方ない、兄さんに頼むか。

あの人、口は悪いのに、性根は良い人なんだよなぁ・・それに結構腹黒い。

からかわれるかも知れないが、頼るしかないなぁ。(遠い目)

よし、明日はしっかりとエスコートしよう!

絶対に恥じないように・・・うん。絶対に。

 

 

 

 

帰宅

「あら、お帰りなさい」

「・・・」

返事は返さない。

この人は母ではあるが、信用は出来ない。

なんとかバレないようにするしかないな。

階段を上り、そのまま兄さんの部屋へ・・・・目の前の扉が開く。円華の部屋だ。

「まず・・・」

「あ、お兄ちゃん!」

くっそこの愚妹がぁぁぁぁぁあ!!!

「お帰りなさい!」

「おう・・・」

とにかく逃げよう。こうなった以上は自分の部屋に逃げ込むしかない。

「もー、また私を無視してぇ。こんな可愛い妹を無視するなんて、お兄ちゃん失格だぞ?」

兄の幸せを考えてやるのも妹の仕事だと思うのだがオイ。

さっさとどっか行けよ。

「む~。何か喋ってよぉ」

こいつ、あの事件があったって言うのに何で気にしてないように俺に近付くんだ?

毎回思うが。

とりあえず。

「どっか行け」

そして部屋に入る。なんとか逃げ切れた。

いつもこれだ。

あの事件があってから、色々な事が起きた。

円華の奴が詩乃のいじめの主犯だったとか、母さんがあの事件を全て詩乃がやったっていう事にしたりとか、ああ、むかつく。

そのまま部屋着に着替え、夕飯を食べるために一階へ。

どうやら今日は、ハンバーグらしい。くそ、俺の好きな料理を毎日出しやがって。

その後色々聞かれたがすべて完全黙秘。

さっさと食い終わり、俺は直行で兄さんの部屋に行く。

 

俺の兄さん、地条 海利(かいり)はこの時代きっての天才外科医の才能を持つ人だ。

中学三年の身で弾丸の摘出をやったり、心臓病の蘇生をやったり、どうやったのかガンの摘出手術をやったりと・・・

父さん顔負けじゃねぇか。

そして、その腕を買われて県隣の医学専門学校に現在入学中。

毎日遠い所まで電車で疲れないかな?

「兄さん?入ってもいい?」

『蒼穹か、良いぞ』

向こうでテノールの効いた声が聞こえる。

ドアノブを回し、中に入る。

「どうした?」

「頼みたい事があって・・・」

「ふむ、さしずめあの朝田をデートに誘ったから愚妹や母上の足止めをしろって事か?」

「寸分狂わず言い当てるなあんたは」

本当に何でもかんでもお見通しだなぁこの人。

「まあ、良いだろう。とうとうヘタレの愚弟が女を誘ったのだからな」

「ほっとけ、とりあえず上手くやってくれよ?」

「いいだろう。明日は休みだからな。楽しんで来い、蒼穹」

よし、これで家族の中から邪魔者が来る事は無い。後は、学校の奴らが邪魔してこない事を祈るだけだな。

まあその場合は()()()()が。

さて・・・・・明日何着て行こう?

 

 

 

 

詩乃—side—

 

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!!!

明日なに着て行けば良いのか分かんない!とりあえずおしゃれしてみる?地味っぽいのばっかだからダメだ!

もうどうすれば良いの!!

「ああああ・・・・」

「詩乃?」

「キャウワ!?」

壁に頭ぶつけた!?痛い!

「あ、おじいちゃん・・・」

「どうしたんだそんなに慌てて」

「あ、いや、なんでもないよ!大丈夫だから!」

「そうか・・・いや、やっぱり何かあっただろう?」

「ギクゥ!」

「ほう・・・」

おじいちゃんがニヤニヤしてる・・・怖い。

「ほ、本当に何も・・・」

「蒼穹くんにデートの誘いでも受けたのかね?」

「グッサァ!」

私の脳裏にクリーンヒット。千ポイントのダメージ!

「ほう?」

「そ、そんなバカな話あるわけないでしょ?」

「じゃあなんで服が散らかっておるのだ?」

「ひぃぃ!」

更にクリーンヒット!残り三百ポイント!

「だ、だからぁ・・・」

「ハッハッハ!楽しんで来い!」

毒を受けた。一気にHPがゼロに!

「・・・・・・・お」

私は息を吸い・・・

「おじいちゃんのバカァァアァァァアアァア!!」

私はたぶん忘れないだろう。

この人生一番荒れた日だと・・・

 

 

 

 

デート当日・・・

どうしよう・・・・二時間も早く来ちゃった・・!

楽しみ過ぎてまともに眠れなかった・・・・と、とりあえず髪型整えた方がいいかな?

そう思って水面に顔を覗きこみ、水面を鏡代わりにして髪を整えていると・・・

「あれ?詩乃?」

「きゃあ!」

いきなり後ろから見知った声が聞こえたので慌てて振り返ったら水に落ちそうになってしまった。

「あぶねぇ!」

「わ!?」

手を掴まれ、引っ張られる。そのまま勢い余ってその腕を引っ張った人物の胸に飛び込む。

「大丈夫か?」

「そ、蒼穹ぁ・・」

なんでこんな早くから!?」

「予定より二時間も早いと思うんだけど・・・」

「そ、それはこっちのセリフよぉ。な、なんでこんな時間に・・・」

「いや・・・正直言って・・・楽しみで・・・」

「え・・・?」

それって・・・私と同じ理由で・・・?

えへへ・・・なんか嬉しい。

「お前もそんなに楽しみだったんだな?」

「!?か、顔に出てた?」

「ああ、とっても嬉しそうにしてたぞ」

「~~///!!」

は、恥ずかしい!!

「いたたたた!ポカポカ殴るなよ」

「うるさい!忘れろ!」

「はいはい」

蒼穹は楽しんだのか、愉快そうに笑う。

うー、腹ただしい!

「そんじゃ、予定より早いけど、行くか」

そう言って、手を差し出す蒼穹。

私はその行動の意味は、最初は分からなかったが、直ぐに理解して、頭に少し血が上るのを感じた。

「う、うん・・・」

私は、その手を手に取った。

 

 

デパートに着くと、そこは人でいっぱいだった。

普段、外出する事が無かったから、こんな所に来たのは初めてだ。

「さ、どこに行く?」

「あ、えーっと・・・蒼穹が行きたい所に・・・」

「そっか、じゃあ・・・」

F4映画館。

「さて、今やってるのは・・・お、これなんかどうだ?『加速世界~時を超えた出会い~』全年齢対象」

「う~ん・・・これは・・?」

「何々?『絶対ナル孤独』?グロ注意・・・・R-15指定・・・俺らまだ十二と十一だよな?」

「そうねぇ・・・じゃあ、これは?『貴方に出会えて』」

「お、いいんじゃね?」

映画の予約をして、それまで時間があるので、服屋に行く事にした。

「いろいろあんなぁ・・・」

「ね、ねえ蒼穹?なんでも買っていいと言ってるけど・・大丈夫なの?」

「ん?ああ、大丈夫大丈夫。○○(ピーッ)万円持ってきてるから」

「な!?」

な、なんちゅー金額持ってきてるのよこの男はーー!!

「あまり人前には出さない様に」

「分かってるって」

本当にこの男は・・・

そう思っていると蒼穹は服を一枚取り出すと、私とかぶせる様に向ける。

「蒼穹・・・?」

「詩乃、これ来てみてくれないか?」

そう行って、出したのは、縞々のTシャツと、白い少し透ける上着、そして短パンを出してきた。

「え、でも・・・」

「いいから!」

「わ、わかった・・・」

蒼穹に急かされ、試着室に入る私。あ、そうだ。

「覗かないでよ?」

「覗くか!」

とりあえず、着替えてみましょうか。

 

~少女試着中~

 

着替え終わったけど・・・なんか恥ずかしいな。

「着替えたわよ?」

「お、きがえた・・・か・・・」

ん?どうしたんだろう?

そういえば偶然ここを通りかかった店員さんも何故かフリーズしている。

そこでやっと蒼穹が動いた。

「詩乃・・・」

「え?そんなに似合わなかった?」

「いや、似合っているよ。すごく」

「そ、そうなんだ・・・」

(今一瞬、詩乃を自分だけの物にしたい)(なんて言えない。死んでも言えない・・・)

「え?なんて?」

「いや!何も言ってないですよ詩乃さん!」

「???」

「とりあえず・・・買うか?」

「あ、どうしよ・・・」

折角蒼穹が選んでくれたんだし・・・それに、似合ってるって言ってくれたし・・・

「か、おう、かな?」

「よし、これの会計お願いします!」

「は、あ、はい!ではこちらに」

そのまま買ってしまったが・・・なんでだろう、なんか十人に五人がこっち向くんだけど・・・

なんか怖いので、つい、蒼穹の左腕の裾を掴む。

「詩乃?」

「あ、ううん、なんでもない」

それに気付いて、手を放してしまう。

だけど、蒼穹は、私の右手を左手で掴んだ。

「蒼穹?」

「こうしてると落ち着くんだろ?なら、このままでいようぜ?」

「う、うん・・・」

なんか、恥ずかしい・・・

 

上映時間が近付き、私たちは、フードコートで、バター味のポップコーンを二袋と、私はウーロン茶、蒼穹はペプシネックスを買い、その映画が上映される第七スクリーンに向かって、指定された席に座った。

「おいおいおいおいおい・・・」

何故か、私たちを入れて十人程度だった。

「そこまで人気じゃないのかなぁ?」

「いや、今調べたけど、かなり人気あるぞこの映画」

蒼穹のスマホをのぞき込んでみると、確かに沢山のコメントが書かれていた。

そのどれもが、この映画を褒める内容ばっかりだった。

「偶然にも、人が来ない時間帯を選んじまったって事だな・・・・」

「ははは・・」

もう笑う事しか出来ない。

そして、その映画が始まった。

 

その映画は、とても、切なく、そして、愛がしっかり伝わる映画だった。

その物語は、顔の知らない男女の文通から始まる。

偶然にも、手紙を送った男が、間違えて別の相手に届き、その内容に感動した女は返事を書き、その内容に男も心を打たれ、そこから文通が始まる。

何度もしている内に、互いに会いたいという欲求に満たされるも、互いに家の事情もあってか、中々会いに行けなかったのだ。

更に、女性の方は、とある名家のご息女で、家訓もあってか、中々に厳しい生活をしていた。

一方、男の方は、条件である、学年一の成績を収める事に成功し、夏休みの間にそこに行ってもいいという許可を貰えたのだ。

そして、そこに行ったは良いものの、中々その相手に会えない男想いの余り、なんとか家に侵入したが、見つかってしまい、逃げている相手に、遂にその女とあったのだ。

互いに直観的に文通の相手だと思ったが、後ろからくる警護の人間に追いかけられているせいか、まともに挨拶も出来ず、男は逃げて行ってしまう。

だが、それだけで、二人の情熱が終わるわけが無く、今度は女の方が勝手に抜け出し、会いに行ったのだ。

一方で、侵入したというだけで女の家の人間に追いかけられている男も、なんとか女に会えないかと町の中を走りまわり、そして、やっとの事で、海岸で、再開を果たす二人。

そして、互いに本心を言い合い、そして二人は結ばれ、そこで終わった。

 

『貴方に出会えて・・・・良かった』

 

 

 

 

「いつまで泣いてるんだ・・・」

「だ、だってぇ・・・」

あんな感動的な映画を見させられて泣けない訳ないじゃない!

蒼穹も泣いていたのに、もう涙引っ込んだわけ!?

「ほら、あそこで昼食べようぜ」

「あ、うん・・・ぐす」

そこはハンバーガーショップだった。

そこで私たちは、私は普通のハンバーガーを、蒼穹はダブルバーガーを買って、互いにフライドポテトを頼んだ。

「むぐむぐ・・・あの映画、本当に感動したな」

「そうね・・・」

なんとか涙を抑え、ハンバーガーにかぶりつく。

「この後どこに行く?」

「ん~、そうねぇ・・・」

どこに行こうかしら・・・

「じゃあさ、少し、あそこに行かないか?」

「ん?」

そこは、飾り物などを取り扱っている売店だった。

 

 

 

そこには、色々な物があった。

髪飾りやブレスレット、ネックレスなど、色々な物があった。

「・・・」

その品揃えに、半ば驚く私がいた。

「いろいろあるなぁ・・・」

私は何かを探している蒼穹を他所に色々なものを見て回った。

だけど、どれもピンと来なかった。

「む~・・・ん?」

そんな中、不意に目にとまった物があった。

ドックタグネックレスだ。

軍隊などで使われるそれは、銃を見るだけで失神する私にとっては、少し、恐ろしいものだったが、良いとも感じてしまう。

「・・・」

「これが欲しいのか?」

「わあ!?・・なんだ、蒼穹かぁ」

「人をお化けみたいに言うなよ」

「ごめんごめん」

チラリと、そのネックレスを見る。

「・・・」

まあ、いいか。

「何か見つかった?」

「いや、全然」

「そっか、じゃ、次行きましょ」

「ああ」

そして、店を出たが・・・

「・・・・」

蒼穹が何故か立ち止まる。

「蒼穹・・・?」

「悪い、やっぱ買いたいものあったわ」

「え?ちょ!?」

「ちょっと待っててくれ!」

そうしてまた店の中に入っていってしまった。

どうしたんだろう?

そうして、何分か待った後。

「悪い、遅れた」

「遅い!」

「ごめん」

「もう、じゃあ、次どこに行く?」

「じゃあ、外にある遊園地いくか?」

「遊園地か・・・いいわよ」

そうして、一旦デパートを出た私たちは、近くにある遊園地に行った。

そこで、私たちは、定番とも言えるジェットコースターに乗ったは良いが・・・

「た、高くない?これ?」

「そうか?たった()()()()()()だぞ?」

「それって高くないいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!」

そしてものすごい勢いで急降下!!

右へ左へ曲がり、上へ下への上下へ揺れ、更に時速百五十キロのスピードでそれがやられるのだからたまったものじゃない。

「きゃああああああああああ!!!」

「あははははははははははは!!!」

なんで笑ってられるのよこいつぅ!

そして、ジェットコースターから降りた時には、かなりグロッキーになった。

「はあ、はあ、はあ、もう二度とジェットコースターには乗らないわ!」

「ははは、確かにあれはお前にはキツかったな」

「もう!」

なんで楽しそうに出来るのよ!もう!

「こんどはあれに乗ろうぜ」

「ふぇ?」

それはゴーカートだった。

まさか飛ばすのではないのかオドオドじながら乗ったが、案外ゆるかやに走ってくれたので、安心した。

そして、そのまま色々なものに乗って、楽しんだ。

そして、気付けば、もうあたりはすっかり夕焼け色に染まり、暗くなり始めていた。

「もう遅くなっちまったなぁ」

「そうだね」

そろそろ帰らなきゃいけない。だけど、まだ帰りたくない。

こんな楽しい時間を、まだ失いたくない。だから・・・

「ねえ、蒼穹」

「なあ、詩乃」

被ってしまった。

どうしよう・・・・

でも、やっぱり・・・

「私から、行ってもいい?」

「良いけど・・・」

「・・・観覧車に乗らない?」

そうして、私たちは観覧車に乗った。

 

 

「綺麗だね」

「ああ」

夜景は、確かに綺麗だった。

やっぱり、まだ、別れたくないな。

「詩乃」

「ん?何?」

「渡したいものが、あるんだけど・・・・」

そう言うと、蒼穹はバックの中から何か、光が反射する物を取り出した。

「あ・・・」

それは、私が見惚れていたドックタグネックレスだった。

なんで?

「どうして、それを?」

「いや、お前が欲しそうに見てたからな・・・もしかしたらなって・・・」

そんなに分かりやすかったかな?

「でも、どうして・・」

「ん~、なんていうか、詫び・・・かな?」

「詫び?」

「あの事件で、お前一人に背負わせてしまった事に」

それって、あの・・・

「い、良いわよ。そんな事の為に・・・」

「でも、俺は、あの時、何もできなかった。詩乃の母さんは、壊れて、周りから酷い仕打ちを受けて、それで俺に出来たのは、ただ、殴る事だ。それじゃあ、何の解決にもならないのに・・・俺は・・・」

気付くと、蒼穹は、あらん限りの力で、拳を握りしめていた。

そっか、蒼穹も、それなりに苦しんでいたんだ・・・・

「ありがとう。蒼穹。そこまで、言ってくれるだけで私は嬉しいよ」

「だけど、俺はぁ・・・」

あの時、蒼穹が撃っていれば、今頃は蒼穹が『殺人者』って呼ばれていたかもしれない。それは、私は嫌だ。

ただ・・・

「ただ、私は、一緒にその重みを背負ってくれる人がいるだけで良いの。私は、それだけで、幸せだよ」

これは、曇りなき本心だ。

「だけど、それじゃあ、俺が納得いかないんだ!勝手かもしれないけど、俺は、そんな重みをお前に背負わせてしまった事に、もう、申し訳なさしか無いんだ!だから、俺は・・・せめて、お前に楽しんで貰おうと思ったんだ!」

「もう、男が泣くなんてだらしないぞ」

「え?」

蒼穹の顔は、泣いていた。そんなに、苦しかったんだね。

私は立ち上がり、蒼穹を抱きしめる。

「ごめんね。そしてありがとう。私のせいで、こんなに頑張って。私、今とっても幸せだよ。貴方に、こんなに沢山の事をして貰えて。プレゼントも、貰えて」

無意識に、ドックタグネックレスを受け取る。

そして、それを首にかける。

「とっても、感激してるよ。ありがとう、蒼穹」

蒼穹が、その顔をくしゃっと崩し、嗚咽を漏らして、涙を拭う。

突然、電気が消える。

「あ・・・」

「な・・・」

『只今、停電により、ご迷惑をおかけしますが、一時停止させてもらいます。そのまましばらくお待ちください』

こ、このタイミングで!?ど、どうしよう・・・

そんな事考えていると、蒼穹が動いた。

そして、私の隣に座ると、私の膝に、頭を乗せた。

「そ、蒼穹?」

「悪い、少し、このままでいさせてくれ・・・」

あ、甘えん坊の蒼穹!?なんか新鮮・・・・

「しょうがないなぁ。電気が着くまでだよ?」

「ああ」

この日は、とっても、楽しかった。

きっと、私は忘れないだろう。この日を、永遠に。

 

 

帰り、私は、公園まで蒼穹と恋人つなぎをして、別れた。

その時の感触は、今、この瞬間まで忘れないだろう。きっと。

 

 

 

第三者—side—

「今、思えば、めっちゃ恥ずかしいな・・・」

蒼穹は、そう呟く。

「ふふふ、あの時の蒼穹は可愛かったなぁ」

「うぐ・・・」

花道を歩くソラとシノン。

過去を思い出しながら、今ある幸せをかみしめながら歩いた。

 

 

 

だが、そんな平穏は、直ぐに崩れる事になる。

 

 

デスゲームクリアまで、あと、二日。




次回!

偵察隊の全滅の知らせが届き、一時の平穏が終わりを告げる。
次のボスは、これまでの敵とは訳が違う。
大切な人を必ず守ると誓う者。
「優先するのはアスナだ」
大切な人を失う事に恐怖する者。
「いつまでもキリト君と一緒にいたい」
必ず帰ると決意する者。
「私は、ソラと帰りたい」
そして、己の信念を貫こうとする者。
「俺は必ず、次の層をクリアする」

屠るは、七十五層ボス、スカルリーパー。

「鎌は俺たちが引き受ける!」
「シノン!頭を狙って!」
「撃ち抜く・・・・!」
「うおおおおおぉぉぉああああ!!」

次回「スカルリーパー」

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