二つに分けます!
では!
ソラとシノンは、血盟騎士団から休暇を貰い、四十七層のフローリアという街に来ていた。
「わぁ・・・」
その綺麗な景色に驚きと喜びに満ちた表情で眺めるシノン。
「綺麗な所だろ?」
「ええ!」
現在彼らはデート中。
このフローリアのある四十七層は、別命フラワーガーデンとも呼ばれ、色取り取りの花が咲き誇る階層でもあり、デートスポットでもあるのだ。
その証拠に、沢山のカップルが周りに見える。
そこをソラとシノンは恋人つなぎで歩く。
「こんな風にデートしたのって、リアルで小学生以来だったな」
「そうね、こんな風には繋げなかったけど、とても楽しかったな」
二人は、懐かしむ様に、空を見上げる。
ソラもとい、地条 蒼穹は、小学の頃は、かなりの人気者だった。
一年の頃から、スポーツ万能、成績優秀、などなど、噂が絶えないほど。
そんな生活は、彼はそこまで不便とは思っていなかったのだが・・・
「今本読んでるから邪魔しないでくれない?」
「え~、これ教えてよ~」
読書家の彼にとってはその時間を邪魔する女子たちは邪魔以外の何物でもなかった。
そんな小学三年のある日。
「ん?このシリーズ・・・」
借りようと思っていたシリーズの一冊がなくなっている事に気付いた。
「誰かが借りてるのか?珍しいな・・・」
そのシリーズの名前は憶えていないが、そこまで人気の無かったことは覚えている。
そして、それが返却されている時にブックカードを調べた時、その欄には必ず記入されているのは、『朝田 詩乃』という名前だけだった。
それが、彼が初めて詩乃の名前を知った時だった。
それから一ヶ月後。
蒼穹は、新しいシリーズの本を借りる為、その本を取ろうとした時、不意に別の方向から伸びた手にぶつかってしまった。
「ああ、悪い・・」
そして、その方向を向きながら謝ろうとした時、不意に目があってしまった。
一つ年下と思われるショートカットの少女だったが、それでも、何故か見惚れてしまった。
そして硬直する事十秒、少女がまた本に向かって手を伸ばす。
「は、そ、その本好きなの?」
「・・・」
その本を手に取り、その状態で、コクリと頷く。
「そうなんだ。俺もそのシリーズ好きで・・・あ、俺は地条 蒼穹。君は?」
つい自己紹介してしまう蒼穹。
そして少女は、少し時間をおいて、名乗った。
「・・・・朝田 詩乃」
「え・・・?」
その名前を聞いたとき、脳裏にブックカードに記された名前がフラッシュバックする。
「君が・・・?」
「?」
少女は首をかしげる。
それでハッと我に返った蒼穹はごまかす様に話題を変える。
「ああ、いや。読み終わったら、貸してくれないかな?」
「・・・わかった」
それが、彼らの出会いだった。
それから一週間。
蒼穹が、図書室に行こうとしていた時。
「あの・・・」
「ん?ああ、朝田さん」
図書室に入ると、後ろから声を掛けられる。
「これ」
「あ、ありがとう」
詩乃から本を受け取る蒼穹。
そして、詩乃はそのまま立ち去ろうとする。
「あ、待って」
「・・・何?」
呼び止める蒼穹。
「ああ、いや。少し、話しないか?」
「別に、話す事なんて何もないし」
「う、まあ・・・本音言うと、俺、気軽に話せる友達いないし、こういう本の話しできる相手っていないし・・・」
と、何故か自分が落ち込む蒼穹。
「・・・はあ」
詩乃は、溜息を吐くと、そのまま何処かにいってしまった。
「あ・・・やっぱ俺って、他人と喋るのそこまで上手くないのか・・・?」
それから、というもの、蒼穹は何度も詩乃に話しかけ、本の話をして、なんとか、気軽に話せるほどまでに進歩したのは、蒼穹が四年の春半ばの頃だ。
「へえ、貴方のお兄さん、医者目指してるんだ」
「ああ、外科医っていうらしいけど、かなりの勉強をしなきゃいけないんだと」
「じゃあ、貴方は何目指してるの?やっぱり医者?」
「いんや、プログラマーって奴になろうって思ってる」
「プログラマー?何それ?」
「それは―――」
毎日がこれだった。
ただ、それを、面白くないと思っているのが何人かいたのだ。
初めに実行に移したのは、当然、彼の妹、地条
「貴方、お兄ちゃんのなんなの?」
「な、何って・・・」
学校の裏で、詩乃を壁に押し込み、問いただす円華。
「ただ、話しをしていただけで・・・」
「むかつく・・・」
「え?」
「むかつくのよ!お前みたいな目立たない地味な奴が!私のお兄ちゃんに近付くなぁぁぁ!!」
「ひッ!」
腕を振り上げ、詩乃を殴ろうとする円華。だが、それは寸での所で止められる。
「何しているんだ。円華」
「え?」
「お、お兄ちゃん?なんでここに・・・?」
蒼穹が、円華の腕を掴み、その殴打を防いだのだ。
「何をしているのかを聞いているんだ。円華」
「く・・・」
円華は、蒼穹の腕を振り払うと、さっさと行ってしまう。
「ごめん、俺の妹が・・・」
「いいわよ、どうせ、こうなるのは、分かってたから・・・」
その詩乃の意地に、微かに感嘆するも、蒼穹の声には、申し訳なさに満たされていた。
「・・・ごめん」
もう一度、謝罪する。
それからというもの、詩乃に対するいじめが増えてきた。
それは、問題にする必要がない程小さいものだったが、それでも蒼穹はほっとけず、なんとか対処法を探した。
そして、時が流れ、あの事件が起きた。
それが起きてから、やっと登校させてもらえるようになった三日後。
「詩乃の奴、今日はどこに・・・」
蒼穹は詩乃を探し、詩乃のいる五年の教室に向かった時。
何故か廊下に人だかりができていた。
「なん・・・?」
「この人殺し!」
「え・・・?」
何かを殴る音。
蒼穹は嫌な予感がし、駆け寄るとそこには・・・
「詩乃・・・!?」
周りの女子やら男子やらからリンチにあっていた。
「近付くんじゃねぇよ人殺し」
「血が付くだろうが!」
ガスッ!ドカッ!
倒れている詩乃に向かって男子二人が蹴りを入れる。
「お前がいるだけで吐き気がしてならないわ」
「消えちゃえ殺人鬼!」
女子が悪口を飛ばす。
蒼穹はほぼ反射的に野次馬を押しのけ、詩乃をかばう様に出てくる。
「やめろ!」
「な、なんだよお前!?」
「そ・・・ら・・・?」
「お前ら、いくらなんでもこれはやり過ぎだ!」
「うるさい!そいつは人殺しなんだぞ!」
「だからって・・・これは・・・」
「いいからどけよ!」
男子の一人が蒼穹を押しのけようとする。
だが蒼穹は詩乃の方へ向くと、いきなり抱えだす。
「え?」
「捕まってろ」
すると蒼穹は、人ひとり抱えてるとは思えない動きで野次馬の壁に向かって突進する。
「う、うわわわ!?」「こっちきたぞ!?」
すると野次馬は道を開け、蒼穹はその間を抜けていく。
これは、正しい判断だと言えるだろう。
逆に殴って乱闘になるよりも、逃げて急いで保健室に届けた方が騒ぎが少なくて済む。
噂は広まるが。
蒼穹の腕の中で、詩乃は、蒼穹の服を握りしめた。
「大丈夫か?」
「ええ、もう大丈夫・・いたッ」
腕を抑える詩乃。
「あんまり無理すんな。放課後になったら迎えにいくから、しばらくじっとしてろ」
「え?迎えって」
「? お前をあんな風にする奴らを近付けさせない為には、この方法が一番安全だろ?」
「そ、それはそうだけど・・・」
「心配すんなよ。俺、こう見えて高校生にも勝ったことあるから」
「高校生!?」
「そんじゃ、静かにしてろよ」
そう言って保健室を出る蒼穹。
一方取り残された詩乃はというと、ベッドにうずくまり、胸を抑える。
「・・・何なのよ、この気持ち・・・」
そして、放課後。
チャイムが鳴り、急いで支度をした蒼穹は真っ先に保健室に向かう。
「詩乃・・・あれ?」
入ると、そこには保健の刈谷 由美子以外、誰もいなかった。
「刈谷先生、詩乃は?」
「さっき、クラスメイトの女子たちが迎えに来たわよ」
「な・・・!?」
――なんで!?
詩乃を嫌うなら、何故迎えに来る必要があるのだ?
「まさか・・・」
「どうしたの?」
「いえ、ありがとうございます!」
そして、蒼穹は焦って廊下をかける。
途中、校則に厳しい教頭の怒鳴り声が聞こえたが気にしない。
急いで学校を出て、
そして、人目のつかない、廃工場で、それを見た。
「詩乃!」
それは、詩乃が酷く殴られている光景だった。
詩乃は、身動きが取れないよう、手足を縛られ、横倒しにされていた。
「アハハ!お兄ちゃんに近付くからこうなるのよ」
「ほら?蒼穹君にはもう近付かないっていいなさいよ?」
「お前のような殺人鬼が、蒼穹に近付いちゃいけないんだよ!」
それは、詩乃のクラスメイトのみならず、蒼穹の学年の男子や女子、さらには四年生までいる。
「な・・にや・・って・・」
蒼穹は絶句しながらも、ランドセルを地面に落とす。
だが、彼らは気付かない。
その中には、円華もいた。
その事に深い、憤りを覚えた。いや、それを通り越して、完全にブチ切れてしまい、蒼穹を止めていた何かが外れた。
そして、咆哮。
「円華ああぁぁァァァァァァァアァァァァァァァァア!!!」
地面を蹴り、あたり構わず殴りかかる。
男子女子、年齢問わず殴り尽くし、気付いた頃には、蒼穹は大人たちによって取り押さえられ何人かの気絶した男子や女子たちの体が転がり、中には円華もいた。
そして、詩乃の方も助け出されたが、誰も彼女の安否は確認せず、その事にも憤りを感じてしまった。
そしてそのお陰で、蒼穹は一週間の謹慎処分となった。
その際、詩乃は一時病院に行かされ、傷はそこまで深くなかったとの事。
そして、それから一ヶ月後の事だった。
「なあ、詩乃。明日、デートしないか?」
「え・・・?」
あまりに唐突な誘いだった。