翌日・・・・
「まるで祭りだな」
「そうね」
とあるコロシアムにて、大量の人だかりがあった。
「キリトの奴、なんでヒースクリフなんかと・・・」
「知らないわよ。アスナから聞いた処、なんでもヒースクリフが売った喧嘩をキリトが買ったらしいけど」
「まあ、それはいいんだけどよ・・・・」
そこで言葉を切ったソラは・・・
「なんで俺があの『抜刀斎』とやんなきゃならないんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
抜刀斎。
本来のプレイヤーネームは『ライコウ』
彼こそが、ユニークスキル『抜刀術』の持ち主であり、唯一最大の敏捷パラメータが桁外れに高いプレイヤーだ。
その抜刀術というスキルは、いわば鞘に納めた状態からのソードスキル発動が可能なスキルなのだ。
本来、ソードスキルは抜刀から直接だせる物ではなく、一定のモーションを行わなければ発動出来ないのだ。
だが、この抜刀術は、鞘に収まっている状態からいくつもあるソードスキルを発動出来るのだ。
更に、その攻撃はこのSAO最速のスピードを誇るのだ。
キリトが手数、ソラが力、ヒースクリフが防御なら、ライコウは速さだろう。
「そんなスキルを持っている奴相手に・・・パワーでしか勝てない俺が果たしていつまでもつか・・・」
「そんな事ない。ソラは強いわよ。誰よりも」
「そう言ってくれるのが唯一の救いだよ」
そして、コロシアムの観客席に向かった。
どうやら、初めにキリトVSヒースクリフ、その後にソラVSライコウらしい。
観客席でしばらく待っていると、キリトとヒースクリフが入場してきた。
その瞬間、コロシアムが大歓声に包まれる。
「やれー!」「殺せー!」
と、物騒な事を言っている者が殆ど。
そして、試合が始まった。
一言で言って速すぎる。
キリトの剣が一瞬霞んだ様に見えたらヒースクリフの盾に当たっていて、ヒースクリフが剣で攻撃しようとしていたら盾でキリトを殴ったりと、まだ一分しか経ってないのに物凄い速度で剣と剣が錯綜していた。
そして、キリトがソードスキルを発動、『スターバーストストリーム』だ。
十六連撃の流星が如き連撃が、ヒースクリフに殺到。
ヒースクリフは僅かばかり反応が遅れ、盾が徐々にずれていく。
そして、ラスト一発の瞬間、盾が弾かる。
そして、最後の一発が振り下ろされる。
回避は不可能。これは決まった。
だが、その瞬間、ヒースクリフの弾かれた盾を持った左腕があり得ない速度で戻り、間一髪でキリトの最後の攻撃を防いだ。
「な、何が起きた・・・?」
次の瞬間、ヒースクリフの剣がキリトをとらえ、一撃をお見舞いする。
そして、決着の合図が響く。
辺りが歓声に包まれる。
だが、その観客の中で、ソラとシノンだけは、疑問が頭の中を葛藤していた。
あり得ない状態からのあの動き。あれは確実にゲームバランスを超えていた。
「ソラ・・・」
「次は俺だな・・・」
まだ、不安要素はあるが、次の試合に集中しよう。
そう思い、控室に向かうソラ。
その背中を心配そうに見送るシノン。
ソラがコロシアムに入る。
歓声がうるさい。
だが、シノンの声ははっきり聞こえる。
「がんばれ――!!」
「おう!」
手を掲げる。それに答えるように、歓声が更に盛り上がる。
そして、向こうのゲートから、正に武士と呼ぶに相応しい紅白の鎧に身を包んだ青年が現れる。
「あんたが抜刀斎か?」
「ああ、すまないな、指名したのは俺なのにこんな事になっているとは知らなかったよ」
「別にいいですよ。俺的には、シノンとの平穏があればそれで十分ですよ」
「妻がいるだけで君がうらやましいよ」
「ははは・・・さて、そろそろ始めましょうか?」
「そうだな」
ライコウがウィンドウを操作すると、ソラの目の前に決闘申請の表示が現れる。
モードは初撃決着。これならば、決闘で人が死ぬ事は無い。
OKのボタンを押し、カウントが始まる。
背中の大剣を引き抜くソラ。
一方で、ライコウは鞘からその刀を抜く。
そして、カウントが終わった瞬間、ソラは
その瞬間、剣から重い衝撃が伝わった。
ライコウが恐ろしいスピードでその刀を薙いだのだ。
それをわずかな体の動きで見切ったソラは、すぐさま防御の体制に入ったのだ。
スピードでは確実に負けているので、逆に迎え撃ってもそれよりも速く攻撃されるか躱されるかのどちらかだ。
ならば確実に防いだ方がいい。
そして、防いだのなら、反撃に転じなければこのまま一方的に攻撃される。
だから、
「!?」
これなら正面から押し込む事が出来る。
だが、逆に隙がデカいので、あまり多様していない。
ライコウは刀でその突撃を食い止めようとしているがもう遅い。ソラがそのまま刀を弾く。
そして返す刃でライコウに斬りかかる。
だが、ライコウは仰け反った体を起こす事はせず、そのままバック転をして回避。
そして、刀を鞘にしまう。
「ッ!?」
「セイッ!」
抜刀術スキル《一閃》
最速の攻撃がソラに叩きこまれる。かに見えた。
「な!?」
ギリギリの所で剣の柄で防いだのだ。
だが、そのまま弾いたが、硬直時間すぐに解け、すぐに体制を立て直し、距離を取る。
「随分、変則的な防御をするんだなお前は」
「あんたこそ、速すぎる」
「へへ、だてにこのスキルを持っているだけじゃないんでね」
その言葉を最後に、ソラとライコウはまたぶつかる。
速く、軽いライコウの剣に対し、重く、パワーのあるソラの剣じゃ、初撃で決まるこの決闘では確実に分が悪い。
だが、それでも利点はある。
袈裟懸けに斬りおろしてくる刀を大剣でそらし、そして、左拳でライコウに殴りかかる。
「うお!?」
さらに蹴り技の弦月を当てにかかる。
だがそれもかわされてしまう。
「おいおい・・・」
「ダァァァァ!!」
「!?」
体制が崩れた所をソラはチャンスと思い、『ベルセルク』を発動させる。
連続十五回の攻撃。これまでで最高のスピードで斬りかかる。
それは、かわされるも、徐々にライコウを追い詰めていく。
―行ける!!
そう思ったラストアタック。
だが、いきなり、その軌道が大きく逸れた。
「な、ん!?」
ライコウがソードスキルを発動したのだ。
この重い攻撃に対応するにはソードスキルしかない。だが、それは同時に追撃が出来ないのだ。
だから、確実な硬直時間で、結局は体制を整えられてしまう。
なのでこのまま硬直が解けたら・・・
「ソラ避けてぇ!!」
「え・・・!?」
次の瞬間、
「な・・にが・・・」
見ると、鞘がオレンジ色に輝いて、ライコウの左手に逆手で握られていた。
鞘にも、攻撃判定があるらしい。
右脇腹を強打したらしく、そこが酷く痛んだ。
さらに、決着を告ぐ表示が空中に現れた。
「・・・抜刀術二連撃技《双翼撃》」
それだけを言い残し、ライコウは立ち去っていく。
「・・・・」
ソラは茫然として天を仰ぐ。
「ソラ!」
「シノン・・・」
シノンはソラの直ぐ近くに座り込んでソラの叩かれた脇腹を見る。
「悪い、負けちまった」
「~~・・・バカ」
そして、ソラも、リングを後にした。
二日後・・・
「キリト、殴られる覚悟の貯蔵は十分か?」
「わざわざF〇te風に言わないで下さい」
キリトは、今、いつもの黒いボロコートではなく紅白のロングコートを来ている。
その理由はキリトが決闘の条件としてアスナの休暇を賭けたのに対し、ヒースクリフはキリトの血盟騎士団入団をかけたので、キリトがこんな派手な格好をしているのだが・・・
何故かソラまで、背中に血盟騎士団のシンボルが描かれたマントを羽織っているのだ。
なんでも、ライコウがソラとやる条件としてソラの入団も約束してしまったらしい。
「いや、ホント、売り言葉に買い言葉で・・・」
「でもさ?俺も巻き込む必要あったかオイ」
「条件の提供はライコウさんなんだから、あまりキリト君を責めないで」
「ぐ・・・まあ、それは信じるとして、白って嫌なんだよなぁ・・・」
「なんで?」
「妹が好きな色だからだよ」
「ああ・・・」
その話は本人から直に聞いている。
ソラ、
それで何故か劣悪な空気になった事は無い。
蒼穹はあまり気にしなかったが、詩乃に出会って、何回もあったり、一緒に帰っていると、それを気に入らなかった妹は詩乃に暴力に振るおうとしたのだが、そこに蒼穹が止めに入り、それは未遂に終わった。それで関係にそこまでヒビは入らなかったのだが、あの殺人事件が起きて、全てが一変した。
母が蒼穹を詩乃に近づけさせない為もあるが、何より、蒼穹がやった事を無理矢理隠蔽しようとした母が、詩乃が全てやったと噂を流し、それが学校に流れれば、詩乃は殺人鬼と呼び、いじめの中に入った妹及び母を、蒼穹は完全に失望したのだ。
それから、妹が話しかけてくるとすぐに追い返し、母が詩乃に近付くなと言えば「ふざけるな」と言って無視する日々が始まったのだ。
それからというもの、妹と母との関係は崩れ、唯一信じられるのが兄と詩乃だけとなったのだ。
「なんか・・・ごめんね」
「いいよ。これが血盟騎士団のイメージカラーだからな」
と、椅子に座り込むソラ。その横にシノンが座る。その顔は不機嫌その物だ。
「む~」
「いや、その、悪い」
「別にいいもん。どうせ決着が決まった時点でこうなるのは分かってたから」
「ははは・・」
もう笑うしかない。
キリトが、ベッドに倒れる。
「・・・・ギルドか」
「どうした?やっぱ嫌だったのか?」
「いや、そろそろ限界だと思ってた所だし、いい機会になったよ」
「ねえ、どうしてそこまでギルドに入る事を嫌がるの?」
アスナが問いかける。
「・・・・」
キリトは、起き上がると、語った。
「以前、ギルドに入った事があるんだ」
「そうなのか・・・・」
「ギルドの名前は『月夜の黒猫団』」
キリトは、そのギルドに本来のレベルを偽り、そこに入った。
そこで知り合ったサチという女の子とは、特に仲が良かったらしい。
楽しい日々だった。だが、幸せは長くは続かなかった。
新たなギルドの拠点として、家を買ったのだが、そこで、マスターであるケイタは、役人と交渉をしている間に、全員で、迷宮区で稼ぎいったのだ。
だが、最悪な事に、トラップエリアに入ってしまったのだ。そこでは転移結晶は使えず、キリト以外の全員が死んだ。
そして、キリト一人で帰って来た理由を話した。
自分がビーターだという事、レベルを偽っていた事、その全てを話した。
そして、ケイタは、そんなキリトに向かって、こう言った。
「ビーターである、お前が、俺たちに関わる資格なんてなかったんだ」
最もな事だ。
あらかじめ言っておけば、助けられたかもしれない。サチを助けられたのかもしれない。
ケイタ、それいった直ぐ、アインクラッドから落ちて、自殺した。
「・・・」
アスナは、表情を強張らせて、ソラは苦虫を噛み潰したような表情をし、シノンは腕を組んで、ただ、静かに聞いていた。
「だから、ケイタを、サチを殺したのは、俺だ」
悔しそうに歯を食いしばるキリト。
すると、アスナが立ち上がった。
そして、キリトを抱きしめ、こう言った。
「私は死なないよ。だって私は君を守る方だもん」
優しい声だった。
キリトはそのまま、体をアスナに預けた。
――俺らいるの忘れてね?
――まあ、良いんじゃない?
――だな。
二名ほど、その甘い空気を静かに見守っている事をお構いなしに。