七十四層安全地帯
「お前ら覚悟は出来てるんだろうな?」
「「「・・・・」」」
今ソラの目の前で、三人の人物が正座させられていた。
「いや、ね・・・ちょっと、おっかなかったじゃん?」
「でも、あれほど大声出す程か?」
「いやぁ、ちょっと叫ばれちゃって・・・」
「ビビったと?お前今まであれほど叫んだ事あったか?」
「だ、だって、四人だけだったし・・・」
「俺、パーティ一個分の戦力だよな?」
「・・・・」
「で、なんでシノンは何も言わないんだ?」
「そういえば・・・」
さっきから黙りこくっているシノン。
すると・・・
「ソラになら・・・何されても・・・」
「「「・・・・」」」
頬を紅潮させながらとんでもない事を言い放った。
「く・・・ったく、まあ、あれは苦労しそうだな」
「ああ、武器はあの斬馬刀だけだとして、特殊攻撃ありだろうな。前衛に盾装備の奴を並べて、どんどんスイッチしていくしかなさそうだな」
「盾装備・・・ねえ・・・」
「なんだよ?」
アスナが怪しげにキリトを見る。
「君、何か隠してるでしょ?」
「い、いきなりどうしたんだよ?」
キリトがギクッとなる。
「片手剣の最大のメリットは盾を持てる事だ。だけど、お前が盾持っている所見た事無いぞ」
ソラも疑問の眼でキリトを見る。
「リズに作らせた剣も使ってないみたいだし」
リズとは知り合いの鍛冶屋だ。
ただし、リズとは略称で、本来のプレイヤーネームはリズベットである。
キリトは全力で視線を逸らす。
「まあ、良いわ。スキルの詮索はマナー違反だもんね」
「ふう・・」
「三時か・・・そろそろ飯にするか」
「そうね」
ソラとアスナがウィンドウを操作し、弁当を出す。
「なに!?て、手作りですか!?」
「なに食いついてんだオメーはよぉ」
「まあいいじゃないソラ君。ちゃんと手袋外してから食べるのよ」
「お、おう」
キリトは手袋を外し、アスナが取り出したサンドイッチを手に取る。
そして大きな口を開けて、頬張る。
「う、うまい!」
一方で、ソラの弁当は、定番のハンバーグ弁当。
キリトの感想を聞いて、少し拗ねたシノン。
「ソラの方が美味しいもん」
「相変わらずの愛ね・・・」
若干引くアスナ。
「しかし、この味どうやって・・・」
アスナがウィンドウを操作する。
すると、周りに大量の画面が展開する。
「長年の研究と研鑽の成果よ。アインクラッドで手に入る約百種類の調味料が味覚エンジンに与えるパラメータをぜ~~んぶ解析して、これを作ったの。まあ、大体がソラの研究成果だけど」
「マジか!?」
「醤油がなかったからな、ムカついたんで作った」
「そんなあっさりした理由で!?」
「醤油は日本の代表的な調味料だろ!?それのどこがあっさりした理由だゴラァ!」
「なんかスンマセン!」
と、そうこうしている内に、昼食を食べ終える四人。
そこへ、索敵スキルが反応する。
その瞬間立ち上がる四人。
だが・・・
「あ~、疲れたな・・・おお、キリト!」
キリトの友人クラインだ。
キリトは一瞬、気まずそうな表情をして、すぐにもとの表情に戻る。
「よお、クライン。生きてたのか」
「オメェもな、ん?なんだキリト、ソロのお前が女連れなんて珍し・・・」
―あ、フリーズした。
心の中でそう思ってしまったソラ。
「攻略で、なんどか顔を合わせてると思うけど紹介しておくよ。こいつはギルド、風林火山のクライン。それでこっちが血盟騎士団副団長のアスナで・・・クライン?」
未だにフリーズしているクライン。
「おい?どうした?ラグってんのか?」
と、キリトがクラインの顔の前で手を何度か振ってみる。
するといきなりクラインが手を差し出し、緊張したような口調で喋り出す。
「くくくクライン、二十四歳、独身、仕事はゴハァ!?」
そんなクラインの腹に一発パンチをかますキリト。
『り、リーダー!?』
その光景を見た風鈴火山はキリトに近付く。
このまま大乱闘に発展するかと思ったが・・・
「アスナさんだ!」「マジか!?」「あ、握手を」「抜け駆けすんな!」
と、標的を一瞬にしてアスナに切り替えた。
それをキリトが抑える。
「ま、まあ、根は悪い奴らじゃねぇよ」
その足に誰かが踏む。
「い!?く、クライン!?」
「へへ!お返しだ!」
と、その光景にあっけにとられていたアスナ。
「面白い人達ね」
「根は悪そうじゃないな」
と、関心するシノンとソラ。
「ぷ、あはは!」
そして笑い出すアスナ。
「ど、どういう事だよ、お前がなんでアスナさんと・・・」
「ああ、いや、それは・・・」
そこへアスナが小さな爆弾を投下した。
「こんにちは、しばらくキリト君とパーティ組む事になってるからよろしく」
「な!?キリト、テメェ!」
「お、落ち着こうぜ、な?」
それを聞いて怒る風林火山の一同。今にもキリトに襲い掛かりそうだが・・・
「おい、どうやらそんな事している暇はなさそうだぜ」
『!?』
さらなる集団。
それは、このアインクラッド最大規模を誇るギルド、『アインクラッド開放軍』だ。
「『軍』の連中がなんでこんな所に・・・・」
すると、リーダー格の男が、部下に向かって『休憩!』というと、まるで溜まっていた疲労が一気に開放されたかのように地面に座り込む。
そしてリーダー格の男は前に出る。
「アインクラッド開放軍、中佐のコーバッツだな?」
「ほう、私の事を知っているのか?」
「こう見えて、記憶力は高い方でな」
っというか、全てのギルドの幹部クラスの名前と顔は全て暗記している。
一番大変だったのは勿論、『軍』だが。
「お前たちは、この先に進んだのか?」
「そうだと言ったら?」
「マッピング情報を提供してもらおう」
それを聞いたクラインは叫ぶ。
「な!?お前、マッピングがどれほど大変なのか分かってんのか!?」
「我々は一般プレイヤーの開放の為に戦っている!諸君が協力するのは当然の義務である!」
まさに傲慢。一体何様のつもりなのか・・・・
「ちょっと貴方ねぇ・・」
「てめぇなぁ・・・」
激発寸前のアスナとクライン。
だが、ソラとシノンは呆れた様な表情をしている。
そんな二人を片手で制するキリト。
「どうせ街に戻ったら公開しようと思っていたデータだ、構わないさ」
「おいおいキリト、人が良すぎるんじゃねえのか?」
「マップで商売する気は無いさ」
そして、マップ情報をコーバッツに渡したキリト。
「協力感謝する」
そして、部下たちを立ち上がらせると、先に進んで行ってしまった。
「まったく、これで全滅したら自業自得だな」
「まあ、様子でも見に行くか」
と、追いかける事になった。
しばらく進んだが、モンスターが邪魔して中々進めない。
「どけやぁぁぁぁ!!!」
ソラが叫んで、狂戦士スキル『ガイアクラッシャー』でオーバーキルしていた。
「お、おいおい・・・」
「ソラ、落ち着いて」
「ああ、悪い」
相当イライラしていたようだが、シノンが止める事で一旦落ち着いた。
「そろそろの筈なんだがなぁ・・・」
と、キリトが頭を抱えていると・・・・
「ギャアアアァァァ!!」
『!?』
「まさか・・・!?」
「あのバカ!」
既にソラは走り出していた。そして、それを追いかけるようにシノンが追随する。
敏捷力じゃソラに負けないスピードで走るシノン。
さらにアスナとキリトも追いかける。
クライン達も追いかけようとしたが、モンスターがタイミング悪くポップし、足止めを喰らってしまう。
「・・・ッッバカ!!」
アスナが苦悶の表情で言う。
そして、ボスの部屋では・・・
「くそったれがァ!!」
軍のメンバーのボロボロの姿だった。
「な、何してるんだ!早く転移結晶を使え!!」
キリトが叫ぶ。
「だめだ!転移結晶が使えないんだ!」
「な・・・!?」
転移不能エリア。
今までのボス部屋にこんな機能は無かった筈だ。
更にキリトの思考に
「ッッ・・・!!」
それにより、入る事を躊躇ってしまう。
「我々に『撤退』の二文字はあり得ない!」
「!? まさか・・・やめろ!」
ソラが叫ぶ。
だが・・・
「全員・・・突撃――!!」
「だめだァァァァァァ!!」
全員まとめて飛び込めばうまく連携が取れず、スイッチもやりにくい。逆に多大な被害を受けてしまう可能性が高い。
そして、ソラの叫びは
「あ・・・」
シノンが口を押えてその光景を茫然と眺めた。
コーバッツは、ソラ達の前に落ちると、頭部の鎧が砕け散り、唇がかすかに
ありえない
と、動いた。その瞬間、コーバッツはポリゴンとなり、消えた。
「・・・・」
「うわああ!?」
「!?」
誰かの悲鳴が聞こえた。
そちらを見ると、軍の一人がグリームアイズに殺されかけていた。
「だめ・・・だめよ・・・」
アスナが震えながら腰のささった細剣の柄に手をかける。
それは、ソラも同じだった。
そして、グリームアイズがその大剣を振り下ろそうとした瞬間、ソラとアスナは同時に駆け出す。
「だめぇぇぇぇぇぇ!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
引き抜き、背後からアスナは三連撃のソードスキル、ソラは単発の水平斬りを喰らわす。
ほぼ不意打ちで決まったそれはグリームアイズの攻撃を中断するに至ったが、逆にソラが標的となってしまった。
そして、ソードスキルによる硬直で動けないソラ。
斬馬刀が振り下ろされる。ギリギリで硬直が解け、体を右へなんとか動かした。だが・・・
「ぐぅあああああああぁぁぁぁぁぁあ!?」
左腕が吹っ飛んだ。
部位欠損ダメージがゲージに表示され、左腕が地面に落ちた瞬間、ポリゴンとなって消えた。
「そ・・・」
シノンが彼の名を叫びかけたが、その前に、グリームアイズが、着地したアスナごとソラを吹っ飛ばす。
「があああぁぁぁぁぁ!?」
「きゃあああぁぁぁあ!?」
この世界では、例え腕が吹っ飛ぼうが足が吹き飛ばされようが、時間がたてば元に戻るのだが、それはプレイヤーに多大な恐怖心が植えつけられる。それは、ソラのそうな痛みを遮断されていないプレイヤーにとっては尋常じゃない程の恐怖だ。
「ソラ!」
「だ、大丈夫だ・・・」
「そんな訳ないでしょ!待ってて」
シノンがポーションを取り出し、ソラに飲ませる。
一方でアスナの方はグリームアイズの追撃を受けていた。
グリームアイズの攻撃を間一髪でキリトが反らす。
「下がれ!」
アスナはそれに従い、下がる。
更にキリトがグリームアイズと戦っている間に、クライン達が軍のプレイヤーを運ぶ。
キリトがグリームアイズと一人で交戦する。
だが、たった一人でボスに立ち向かおうなど、死にに行く様な物だ。
せめて、ヒースクリフやソラと同じ『
(もう・・・『アレ』を使うしかないのか?)
徐々にダメージを負っていく。
ダメージが確実に蓄積されていく。
まわりを見る。
ダメージが危険領域に突入している軍のプレイヤー達。
片腕を失ったソラ。
軍のプレイヤーを担ぐ風林火山のメンバー。
ソラの傍でポーションを飲ませるシノン。
そして、誰よりも守りたい、アスナ・・・
グリームアイズが剣を振り上げる。
それをなんとかエリュシデータで防ぐ。
――もう、迷っている場合じゃないッ!!
もう、あんな過ちを犯さない為に。
「アスナ!クライン!シノン!頼む!十秒だけ持ちこたえてくれ!!」
キリトが叫ぶ。
それに応える様にアスナが前に出る。
シノンが弓を構える。
クラインが刀を抜く。
キリトは左手を振り下ろし、ウィンドウを出現させ、目まぐるしい程のスピードでスキル画面を操作する。
ワンミスも許されない。
スキルの設定、完了。
武器のオブジェクト化、躊躇いもなくYESを押す。
「良いぞ!!」
キリトが走り出す。
アスナがソードスキルを放ち、スイッチ準備が完了する。
「スイッチ!」
そして、アスナと入れ替わり、攻撃、及び、反撃が開始される。
グリームアイズが仰け反る。
キリトの右手には、漆黒の黒い剣。
そして左手には、蒼白の輝ける剣。
その名は『
両手が瞬く間に振られる。
それだけでグリームアイズのHPが大きく減る。
だが、それでは止まらない。グリームアイズの拳がキリトの顔を捉える。
それでは止められない。止まってはいけない。止めた瞬間、全てが終わってしまう。そんな気がする。
剣を光速で振る。既に肉眼では捉えられない程のスピードでソードスキルを連発する。
――速く、もっと速くッ!!
加速する。加速する。
――もっと、もっと、もっと速くッッ!!
蒼い光が両手の剣の刀身を染める。
――音よりも、光よりも、誰よりも、ソラよりも、ヒースクリフよりもッッッ!!
二刀流上位剣技《スターバーストストリーム》
それは流星群が如き煌きと軌跡を残し、グリームアイズに殺到する。
――誰よりも速く、アスナに届く程、速くッッッッ!!!
グリームアイズも黙っている訳が無い。
その斬馬刀をデタラメに振り回す。
キリトの双剣が縦横無尽に振られる。
そして、最後の攻撃。
これで全てが決まる。
「行ッけぇぇぇぇ!!!キリトォォォォ!!」
ソラが叫ぶ。
―――速くッッッッッ!!!
光が舞い上がる。
その場に立っているのは、キリトだけだった。
目の前にクリアの表示が出されていた。
「・・・・終わった・・・?」
どっと疲労がキリトを襲い、後ろに大きく傾く。
そして、倒れると同時に、意識を手放した。
―――ん、―――くん、――キリト君ってば!
誰だ・・・?
眼を開ける。
そこには、今にも泣き出しそうなアスナの顔があった。
「キリト君!」
「あれ・・・俺・・どれくらい意識を・・・」
「ほんの数分よ。バカ、無茶して!」
アスナがキリトに抱き着く。
「・・・・あまり絞めつけ過ぎると、俺の残りのHP無くなるぞ」
こんな状態でもジョークをかますキリト。
「ったく、心配させやがって」
「俺にとってはお前の方が心配なんだが・・・」
左腕が吹き飛ばされたソラだが、既に二の腕までは治っていた。
「大丈夫なのか?」
「まだ結構痛いが、それほどじゃない」
「そんな訳ないと思うんだけど・・・」
ふと、辺りを見回す。
そこには、ボロボロになった軍と、クライン率いる風林火山のメンバーがいた。
そこで、クラインが前に出る。
「コーバッツと、後、二人死んだ」
「そうか・・・犠牲者が出たのは、六十七層以来だな」
「こんなのが攻略って言える訳ないでしょ。コーバッツのあほが」
シノンが毒づく。
だが、そんな陰湿な空気を振り払うかのようにクラインが話題を切り替える。
「そんな事より、なんだよあのスキル。隠してたなんて水臭いじゃねぇか!」
「・・・言わなきゃダメか?」
「当たり前だ」
「当たり前よ」
ソラとシノンも興味深々らしい。
「・・・・」
キリトは観念したように、告げた。
「エクストラスキルだよ、『二刀流』」
まわりがどよめく。
「しゅ、出現条件は!?」
「分かってりゃ、とっくに公開してる」
「情報屋のスキルリストにも載ってない・・・つまり、お前専用、『ユニークスキル』じゃねぇか」
ユニークスキルとは、習得出来るプレイヤーが一人しかいない、超レアスキルの事だ。
現在、分かっているのはソラの『狂戦士』、ヒースクリフの『神聖剣』、シノンの『弓兵』、そしてもう一人、血盟騎士団のメンバーの中に、『抜刀術』と呼ばれるスキルを持つプレイヤーがいる。
そして、キリトの『二刀流』を加えると、計五個のユニークスキルが発覚した事のなる。
「ネットゲーマーは嫉妬深い。こんなスキルを持っているって知られたら、色々聞き出されかねない」
「そうよね・・・」
と、唸るソラとシノン。
「まあ、努力も修行の内と思って頑張りたまえ若者よ」
と、キリトと抱き着いているアスナを見て、にやつくクライン。
「クライン・・・とにかく、お前ら本部まで帰れるか?」
「は・・はい・・」
「よし、なら今日起きた事をしっかり上に報告しておくんだ、わかったな?」
「はい、ありがとうございます」
そう言い残し、帰っていく。
「俺たちは転移門のアクティベートに行くが、お前たちも来るか?」
クラインがキリト達に問いかける。
「いや、任せるよ。俺はもうへとへとだ」
「俺は、腕がな」
「そうか、気を付けて帰れよ」
そして、階段を上りかけたクラインだが。
「その、キリトよ。おめぇがよ、軍の連中を助けに飛び込んでいった時な・・・おれぁ、なんつうか、嬉しかったよ。そんだけだ、またな」
そう言い残し、行ってしまった。
そして、そこにはソラとシノンとキリトとアスナしかいない。
「お、おい、アスナ・・・」
「怖かった」
「・・・」
「君が死んじゃったらどうしようかと、思って・・・」
震えていた。それほどまでに、怖かったのだろう。
「何言ってんだ。先に突っ込んで行ったのはそっちだろう?」
アスナの肩に、キリトは手をそっとかける。
あまり、あからさまに触り過ぎると、何故かハラスメント防止コードに阻まれてしまうが、今はそんな事気にする必要は無い。
ふと、アスナが呟く。
「私、しばらくギルド休む」
「え?大丈夫なのか?」
「君としばらくパーティ組むっていったの、もう忘れた?」
そこで、キリトの心の奥底で、強烈な渇望に似た感情があらぶった。
キリトは、この世界で、二年前、友人に背を向け、かつての仲間たちを見殺しにした、卑怯者。そんな自分に、仲間を、それ以上の存在を作っていいものなのか?
ここで突き放せば、それで済む。そう、済むのだ・・・・
「・・・わかった」
そう、答えた。
二十四層、ソラとシノン宅。
「着いたな・・・」
左腕はすっかり治った。
だが、それでも疲労は取れない。今回のは、かなりきつかった。
ベッドに腰掛けるソラ。
「部位欠損は初めてだったな・・・シノン?」
シノンの反応が無い。
すると、いきなり突っ込んできてソラをベッドの上に押し倒す。
「し、シノン!?」
慌てるソラ。だが、次に聞こえた嗚咽で、止められる。
「うう・・」
「シノン・・・?」
「ソラの・・・腕が・・・吹っ飛んだ時・・・もし、これが現実だったら・・・て思うと・・・」
ああ、そんな事か・・・そんな軽はずみな事で、シノンはここまで悲しむのか。
「ごめん。次からは気を付けるから」
「ぜったい・・・ぜったいだから・・・」
シノンの顔が映る。
その顔は涙で濡れていた。
まずい。次の一手で今夜の事が決まるだろう。
そして、顔が近付いてきて、唇が重なる。
そこから先は、覚えていない。
翌日・・・
エギルの店にて。
「軍の大部隊を全滅させた青い悪魔。それを単独撃破した二刀流使いの五十連撃。こりゃ大きく出たな」
「笑うなよエギル。そのお陰で、朝から攻略組やら情報屋に押しかけられて、まともに自宅にいられなくなったんだぞ」
「それはあんたの自業自得でしょ?」
すると、奥から、武器の素材に使われるものを入れた箱を持った少女が出てきた。
ピンクの髪にくせっけの髪型。この少女こそが、キリトのダークリパルサーを作り、ソラのサンライトイエローを作り、アスナのランベントライトを作った張本人。
おそらく、アインクラッド一の鍛冶屋プレイヤーだろう。
その場には、エギルの他に、ソラとシノンもいる。
「そういや、アスナはギルドに休みを取りに行ったんだよな?」
「ああ、それがどうかしたんだ?」
「いや、さらなる波乱の予感が・・・」
ソラが何かを言いかけた瞬間、ダダダダダッという音の次に、バンッという音と共にアスナが部屋に入ってくる。
「アスナ?」
「ど、どうしようキリト君・・・大変な事になっちゃった!」
どうやら、また一波乱ありそうだ。
ついにやってしまいましたねソラとシノン。
次回も心して待っていて下さい!