ソラとシノンが結婚してから、数ヶ月たったころ・・・・
結婚が意味するのは、全アイテム及び、全ステータスの共有を指す。
つまりは、己の全てを相手に預ける行為だ。
このSAOで、そこまでいたるプレイヤーはそうそういない。
せめて、数人程度だろう。
アルゲートの町にて、少し人気の無い場所を歩いているソラとシノン。
「お、あいつらは」「狂戦士ソラと弓使いシノンさんじゃないか」「噂では結婚してるらしいよ」「手を繋いでいるからそれ事実だろ?」「いいなあ・・」
「・・・・」
「~~~///」
正直いって、見せつけるのは嫌じゃないのだが、恥ずかしい。
と、そう考えている内に、前に三人の白い服装をした集団がいた。
その内一人は見覚えのある人物だった。
「よう、アスナ」
「ん?あ、ソラ君にシノのん」
「こんにちわ。アスナ」
「何してんだ?こんな場所で」
「キリト君を探しに・・・」
「ほ~う」
にやつくソラ。
「な、何よ」
「いや~、アスナ様も女の子なんだなって思ってさぁ」
「ど、どういう意味よそれ!貴方たちこそ、どうしてここにいるの!?」
「この先にある店に用があるのよ」
「そうなんだ・・・あ、キリト君いる」
「じゃあ行くか」
そして、行きついた先は、あの黒人が経営している店だった。
「キリト君」
「ん?」
扉を開けると、そこにはどうやら買い取りの取引をしているキリトとエギルがいた。
そして、アスナが声をかけるや否やいきなり挙げられた手を掴むとこう言った。
「シェフ捕獲」
「な、何よ」
どうやら、料理の事で困っていたみたいだ。
「は!よ、ようアスナにソラにシノン。どうしたんだ?こんなゴミ溜めに顔をだすなんて」
「もうすぐ次のボス攻略だから、生きてるか確認しに来てあげたんじゃない」
「そんなのフレンド登録してるんだから追跡とかできるだろ?」
「べ、別にいいでしょ」
(素直じゃないなぁ)
(貴方が言えた事?)
(面目ない)
「生きてるならそれでいいのよ。それで、シェフがどうこうって何?」
「ああ、そうだ。アスナ、それにソラ。料理スキルって今どれくらいだ?」
それ聞かれた二人は・・・
「先週コンプリートしたわ」
「
「なぬ!?」
ソラの場合は、シノンが家に住み始めたので、かなり料理をする機会が増えたので熟練度がかなり上がったのだ。
あまり戦闘には役には立たないが、それでも活が出る。
「その腕を見込んで頼みがある」
キリトがウィンドウを可視化する。
それを見た三人は・・・
「ら、ラグーラビットだと!?」
「S級食材の!?」
「すごい!?」
「こいつを料理をしてくれたら、一口食わせてやる」
その言葉が言い終わる前にアスナがキリトの胸倉を掴み、顔をギリギリまで近づける。
「は・ん・ぶ・ん!」
「おい俺たちの分を忘れんな」
「じゃあ、四分の一!」
「お、おう・・・」
と、承諾してしまうキリト。
「やた!」
と、嬉しそうに、ガッツポーズを取るアスナ。
「それじゃあ、取引は無しだな」
「な、なあ、俺たちダチだよな?一口ぐらい食わせてくれても・・・」
「感想文を八百字以内で書いてきてやる」
「そ、そりゃ無いぜ!」
と、店を出る四人とオマケ二人。
「それで、どこで料理するの?」
「そ、それは・・・」
「どうせまともな物持ってないんでしょ?」
「うぐ・・」
「仕方ないから、食材に免じて、私の部屋を提供してあげてもいいわよ」
「へ!?」
「良いのか?」
おそらく、理解していないのでラグっているキリトを他所にアスナはオマケ、もとい護衛に向き直る。
「今日は護衛は良いです。お疲れ様」
そこで、一人護衛の男が前に出る。
「アスナ様、こんなスラムに足をお運びになって、ましてや素性の知れぬ、いや、そこの二人はともかくそこの黒ずくめの男を部屋に招き入れるなど・・・」
「この人の素性はともかく、腕は確かよ。少なくとも、あなたよりレベルは十は上よ、クラディール」
どうやらクラディールというらしい。
クラディールはさぞ不満そうにキリトを見る。
「この私が、こんな男より下だと・・・そうか、お前『ビーター』だな」
その言葉に、眉を寄せるソラ。
ビーターというのは、このゲームが始まる前に行われた『
因みに、ソラは『狂戦士』の他に、『ガ◯ツ』とかいうあの漫画の主人公の名前で呼ばれる事もしばしば・・・
「アスナ様!こいつら自分さえ良ければいいっていう連中なんですよ!」
「ともかく、今日は帰りなさい。副団長として命令します」
と、言い残し、キリトを引っ張っていってしまった。
その後をソラとシノンが追いかける。
セルムブルグ。六十一層に存在するこの城塞都市は、家の価値がアルゲートの三倍はするらしく、余程稼いでいないと手に入らない物件が多い。
ソラとシノンの家は比較的安く、とても見晴らしの良い湖が見える家なので、とても心地良いのだ。
アスナの家着く。
「おお、広い」
「一人で済むには勿体無いんじゃない?」
「これ、いくらかかってるの?」
キリトが恐る恐る聞いてみると・・・
「んー、部屋と内装合わせると、四千kくらい。着替えてくるからその辺適当に座ってて」
つまりは四百万コル。
「買えるな・・」
「なぬ!?」
更にソラの残金に驚愕するキリト。
「俺もこれぐらい稼いでる筈なんだがなぁ・・・」
と、肩を落とすキリト。
「っというか、何時までその格好でいるんだよ」
「え?ああ、悪い」
ウィンドウを出し、着替える。
剣をしまい、代わりに私服に着替える。
「お前はいつでも全身黒だな」
「いうな・・・」
と、そこで別の部屋で着替えていたアスナとシノンが出てくる。
その姿にキリトはアスナを、ソラはシノンに釘付けになる。
「な、なによ」
「ああ、いや別に」
ごまかすキリト。だが一方でシノンは嫌がる事は無く、少し顔を赤めているだけだった。
台所に案内されるとアスナは『ラグー・ラビットの肉』をオブジェクト化する。
「これがS級食材か」
「なんにするんだ?少し買い出しに行って食材を幾つか買ってきたが・・・」
「シェフのお任せコースで頼む」
「ん〜、じゃあシチューにしましょうか」
「
「じゃあ、俺はサラダとか作ってるよ」
と、他の食材をオブジェクト化し、包丁を取り出す。
SAOの料理は、面倒な手順はいらず、簡略化されているので、少し包丁で叩くだけで切れる。
ある意味詰まらない。
その内料理が完成し、食卓にシチューをよそった皿が置かれる。その傍にはソラが作ったサラダが。
『いただきます』
そして、一口、口に入れてみる。
「うまい!」
「本当!」
そのとろけるような美味しさに、ほっぺが落ちそうになる。
「ソラのサラダもだけど」
「妻にそう言ってもらえると嬉しいよ」
と、桃色な雰囲気を醸し出している。
と、ここで堂々といちゃついている二人を他所にある二人は。
「ガツガツガツガツ・・・!!」
「バクバクバクバク・・・!!」
「「・・・・」」
腹ペコ狼が如し形相でシチューを喰っていた。
「下手すると盗られるから早めに食うか」
「え、ええ・・・」
と、少しペースを上げて食べた。
「あー食べた食べた」
「美味しかった」
「今まで生きてて良かった〜」
「だな」
と、お茶を四人で嗜む。
「なんだか、馴染んじまってるな」
「そうだね」
「不思議ね、まるで初めからこの世界で生きてきたかのようで」
「俺も、最近、向こう側の事を思い出さない時がある」
「俺は、シノンがこっちにくるまでそんな事無かったけど」
「お前は本当にシノンラブだな」
「は、恥ずかしい事言わないでよ!」
「否定はしないが」
と少し脱線しかけたが、話を戻す。
「ま、確かに脱出だのクリアだの言うプレイヤーは減ってきたよな」
「うん。攻略のペースは、ソラ君やシノのんのお陰でいつも通りだけど、少しずつペースが落ちて行ってるわ。みんな馴染んできてる。この世界に」
もう、あれから2年が経つ。
ゲームの正式サービスが始まって、デスゲームになって、だんだんと周りがこの世界を一つの現実と認識していっている。
それは、攻略を誰よりも目指すソラも例外じゃ無い。
今じゃ、向こうの世界で一番、というかたった一人だけ守りたい人が側に、さらには妻となっているのだから、目的を見失い始めている。
「でも、私は帰りたい」
アスナは言う。
「だって、向こうでやり残した事があるんだもん」
そう、やり残した事が沢山ある。
もしかしたら、向こうのシノンの体は、母や妹の手によって、監禁されているのかもしれない。
「そうだな。サポートしてくれる職人プレイヤーの人間に、示しがつかないもんな」
と、キリトが言う。
キリトは珍しく素直な気持ちになり、感謝の言葉を送ろうとしたが、不意にアスナが顔をしかめ、手を突き出す。
「あ、やめて」
「なんだよ?」
「今までそう言う顔したプレイヤーから何度も結婚を申し込まれたわ」
「な!?」
「ブフォ!?」
「わ!?」
丁度、お茶を飲んでいたソラが吹き出す。
それに驚いたシノンを他所にアスナはにまっと笑う。
「その様子じゃ、他に仲の良い子とかいないでしょ?」
「良いんだよ、俺はソロなんだから」
「せっかくのVRMMORPGなんだから、もっと友達作った方がいいぜ」
と、笑っていたアスナだが、いきなり笑みを消して、キリトに問いかける。
「君は、ギルドに入る気は無いの?」
そこでキリトの表情が暗くなるのをソラは見逃さなかった。
何かの核心部分なのか。
「七十層を超えたあたりで、モンスターのアルゴリズムが不安定なってきているの。ソロじゃ、いざって時に対処しにくいでしょ?」
「安全マージンはしっかり取ってるって。忠告も有難いけど、俺の場合、足手纏いになる方が多いし・・」
「あら?」
アスナがナイフを突きつける。
「・・・わかった、あんたは別だ」
「そ」
と、満足した様にナイフを収めるアスナ。
ーっというか俺らは?
ー良いんじゃない?どうせ空気なんだし。
ーそうだな・・・
「聞こえてるぞ。お前らも別だ」
「読むなよ俺たちの領域を」
「どんな領域だよ」
と、ふざけた事をいうが、アスナが今度はこんな事を言ってきた。
「なら、私とコンビ組みなさい」
「は!?」
「ボスの攻略責任者として、君の実力を改めて確かめたい所だし、私の実力を教えて差し上げたいし、今週のラッキーカラーは黒だし」
それを聞いてソラはシノンの方をみると・・・
「・・・だからってあの鎧着ないでよ」
「わ、わかってるって。まあ、黒マントはいつもの事だし・・・」
と、苦笑いを返すソラ。
そこへビュンッ!という音が聞こえ、その音がした方向へ勢いよく向くと、細剣基本中の基本技、『リニアー』が発動しかかってるナイフをキリトに突きつけたアスナがいた。
「わ、わかった・・・」
キリトは観念した様に、指を動かす。
どうやら、パーティの勧誘をされていた様だ。
「一応、礼を言っておくわ。ご馳走様」
「こっちこそ、また頼む・・・っと言っても、もう二度と食えない物なんだろうけど・・・」
「ま、そん時はそん時だ。普通の食材だって、調理しだいだ」
「そうね。どんなに不味そうなものでも美味しくするのがソラだもんね」
と、ソラを褒めるシノン。
「良いなあ、そんなに仲良しで」
「非リア充が見たら『リア充氏ね』って言うだろうな」
ふと、夜空を見上げる。
上は鋼鉄の天井の筈なのに、夜空が見えるなんて、どういう設定なっているのかは、未だに謎だ。
そして、不意にアスナがこう問いかける。
「今、この状態、この世界が、本当に茅場 晶彦が作りたかった物だったのかな・・・?」
その問いに彼らは答える事は出来なかった。
このデスゲームが始まって二年が過ぎた。
始まったのが、二◯二二年十一月六日、今は二◯二四年10月下旬。
出来るのは、外を怖がり街に閉じこもるか、趣味に時間を費やしたり、戦う事はせず攻略に向かっているプレイヤーをサポートするか、クリアの為に前へ、ボスを倒して行くか。
ゲームの外へ救いを求めるか愚か、連絡手段も無い。
ただ、ゲームに抗うが、諦めるか。
それしか無い。
このデスゲームがクリアされるまで、あと、二十三日。