AUOペイ
「時代の波に乗り遅れる我ではないわ! 今の時代、支払いはこのAUOペイよ! 」
フッハッハッハッハッ!!! と、若干耳障りな高笑いと共に英雄王ギルガメッシュが煌びやかな店内でスマホを掲げている。
…そんな、映像が都内の至る所の大型ビジョンでCMとして流されていた。
美嘉や凛は呆然とした。
必ず、かの自由気ままの王を何とかせねばと決意した。
いや、そもそもだ。何故プロデューサーである彼がCMに出ているんだろうか?
大方、私達の仕事を取りに出掛けてあれよあれよという間に自分が主演を飾ってしまったとかその程度のお話なのだろうけど。
さて、そのプロデューサーことギルガメッシュと言えばだ。
俗世に染まり過ぎたことも気が付かずに今日もコンビニでアイスを買っている。
「人間は脆弱になった、とは思ったがこのコンクリートジャングルの熱に耐えれるあたりは凄まじいかもしれんな」
超リッチアイスを手に取りレジに並ぶと目の前の小娘はカゴに多くの菓子類を入れており長々とレジに時間をかけていた。
ちっ、アイスが溶けるではないか! 何をちんたらやっているのだ。 そんな器の小さいことを思いながらも待ち続けていると前に居るやけに整った顔をした小娘はこちらに気が付いたようで振り向き微笑みながらヌカしおった。
「財布ないわ」
「いやぁ、助かった」
「ふん、王の気まぐれよ。 感謝するがいい」
先程、我のAUOペイで事なきを得た小娘が何故か後ろを着いてきた。
「それで貴様は何故付いてきている」
「わからないね」
イラッとしたのは言うまでも無い。
一ノ瀬志希や宮本フレデリカなど自分の周りに居る小娘はどうにも頭の何処かが外れている気がしてならないのだが、件の財布なし娘も特に気にした様子もなくギルガメッシュの横に腰をかけてお菓子を食べているのでヤツらと同類だと結論付けた。
会話もなくただただ、互いに何かを食しているだけの異質な空気。
2人とも見てくれはいい為に遠目から見たら美男美女が並びデートをしているようにしか見えないし、現に勘違いをしてパニクっている人物も居た。
「あわわわ…り、凛! あれ!あれ!」
「いい加減慣れなよ美嘉…あいつに限ってそういうのあると思ってるの?」
「でも、今度こそって事ない!?」
「ないと思う」
「貴様らは何をしてる」
「何ってそりゃプロデューサーをたまたま見かけたから後を付けようと」
「ストーカー?」
「違うから! って、プロデューサーと…誰?」
唐突にギルガメッシュに声をかけられた美嘉はすんなりと答え、2人の姿に目を点にする。
いつの間にバレたんだろうか…そしてこの女性は誰なのだろうか…
「んー、私は私だよ」
「そうじゃなくて…」
「そろそろ行かなくちゃ。 じゃあね…あ、あとその子にもよろしく言っといて」
手を振りながらお菓子が詰まったレジ袋を片手に引っ提げて公園から出ていく姿はまさに自由人というか不思議ちゃんというか。
かの英雄王たるギルガメッシュですら後に彼女のことを「なんだったのだアイツは」と語る程だ。
そんな不思議な出会いはさて置き、最近の彼の露出を問いたださなければなるまい。
「ところでプロデューサー。 最近やたらテレビに出てない?」
「当たり前であろう。王たるもの民草の前に姿を現さなければ不信と不満を与えてしまうものだ」
「いや、何言ってるか分からないから」
「顔がいいからな」
「言ったよ。この人自分で言っちゃったよ!」
「悔しければ貴様らも名指しで仕事を貰えるように励むことだな! フハハハハハっ!!!」
「他にどんな仕事してたの?」
「CMを数本に雑誌の表紙、ポスター撮影など一日に何度かこなして来たわ!」
もうこの人プロデューサー辞めて俳優とかになった方が…ダメだ、業界の人達が軒並み胃を痛める未来しか見えない。
でもプロデューサーが辞めちゃったら…自分も嫌だとモジモジし始めた美嘉をなんだコイツという顔をするギルガメッシュとまた始まったと呆れる凛。
「ところで凪はいつ挨拶をすればいいのでしょうか」
いつの間に現れたのか。ギルガメッシュの背中からヒョコッと顔を出すように現れた銀髪の少女はジーッと凛と美嘉を見つめている。
「貴様、いつの間に来たのだ?」
「Pが女の子にPpayをしたあたりから後ろに。先程もよろしく言われてましたよ凪」
「貴様の隠密具合にはまゆもビックリであろうよ。 という事で、新たなアイドルだ。 貴様らは先達としてしかと導くことだ」
「いやいやいや、急に!?」
「相変わらず唐突だねあんたって…」
「わーお。歓迎されてませんね」
「あ、いや違うよ? 凪ちゃんは大歓迎だけどプロデューサーの事は一回殴らないといけない気がするんだ★」
「王を殴るというのか無礼者め」
笑顔で拳を握る美嘉の脳天に手刀を落とす。
もちろん十二分に手加減をしてだが。
「という事でそやつは任せたぞ」
アイスの当たり棒を見て交換に行かねばなるまいと呟き、袋に入っていた残りのアイスを美嘉も凛に手渡し、手を軽く振ってショートカットとばかりに近くのビルの上へと飛び上がる。
人外の動きを見せられてもまぁギルガメッシュだし…と諦めている美嘉と凛は任せたと言われたし先程の凪という少女を事務所に招こうとしたのだが…
「あれ? さっきの子は?」
「…消えた?」
「はいよーPー」
「むっ、貴様いつの間に背中に引っ付いていた」
「凪が羽根のように軽いから気が付かなかったと」
「ふん、我からすれば誰もが羽根のように吹けば飛ぶ軽さよ」
ピッタリと背中に張り付いている凪の言葉に高らかに笑いながら次々とビルを飛び移り、川を超え駄菓子屋へと辿り着いた。
ギルガメッシュはそうそうに当たり棒を新たなアイスに引き換えて咥えている。
凪はそのギルガメッシュの片手にカゴを持たせてどんどんと駄菓子を詰めていった。遠慮というものを知らないらしい。
「仕方あるまい。我の奢りよ。好きなだけ買え」
「流石は凪とはーちゃんのプロデューサーですね。 これは箱買いしていきましょう」
「ほう美味いのか?」
「チョコといえば黒い雷が最近の流行りです」
「貴様、適当なことをサラサラと言葉にしていないか?」
余った菓子は事務所の幼年組に分ければ良いか、と細かい事を考えるのはやめた王であった。
「店主! 支払いはAUOpayで頼もう!」
「うち、現金だけです」
「む、そうか?ならば領収書を。名は千川ちひろで」