夢見る乙女達と英雄王は舞踏会へ   作:969

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4人目は太陽みたいに鬱陶しい女

「ねー、ギルガメッシュ。最初は美嘉で、次は楓さんと瑞樹さん…その次は誰だったの?」

 

ギルガメッシュがカルデアから空間を引き裂き、無理矢理帰還してから早一ヶ月、事務所には以前の様な騒がしさ…もとい、事件が起きまくっている。

そんな日常のある日の事。

双葉杏は一番クーラーが効く部屋ということでギルガメッシュの自室でだらけていた。

 

「貴様、アイドルならばもう少しシャキッとしたらどうだ」

 

「はぁ…わかってないねぇ。5年前と違って杏は今や清楚系アイドルの頂点に立ってるんだよ。カリスマの美嘉、清楚の杏って呼ばれてるんだから」

 

「世間が狂ったか…」

 

「酷いこと言うなぁ…ま、仕事の時はギルガメッシュもシローも困らせないから許してよ」

 

それで4人目は誰だったの、と聞いてくる杏に対して思い返す事にした…4人目…

 

「あれは今日のように茹だるほど暑い夏であったな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「暑い…暑い………」

 

ジリジリと肌が焼けるような、英霊の癖に受肉なんぞしてしまった手前、この手の自然現象にはめっきり弱くなっている。

 

「ギルガメッシュくーん、次に暑いと言ったら3000円貰いますからねー」

 

「鬼め…大体、何故クーラーとやらを使わぬのだ!?」

 

「この前、壊れちゃったんですよねぇ…」

 

黄緑の上着を脱ぎシャツを腕まくりした状態で溜息をつくのは千川ちひろ。 いつもの余裕がある笑みは何処へやら、珍しく疲れきった顔をしている。

 

「なら修理をすればよい! 財政難でもあるまい」

 

「どっかの誰かが高層階のここの窓をぶち割ってしまって修繕に予想以上にお金がかかったみたいで暫く反省の意を込めて我慢しろ…と美城常務からの御達しです」

 

「誰だ、そんな事をした愚か者は…我が説教してやろう!」

 

鏡でも見てくださいねーと言葉を吐き捨てるちひろはいつに無く辛辣だったが、そんな事はお構い無しにギルガメッシュはプンスカと腹を立てている。

 

「そんなに我慢出来ないようなら外にスカウトでもしに行ったらどうです?」

 

「馬鹿め、暑いのにわざわざ外に出る阿呆がどこに……いや、待てそうか外にはクーラーが効く施設が沢山あるからそこでサボってこいと、ちひろ…貴様はそう言いたいのだな!」

 

 

では早速行ってこようッ!! バリーン

 

「また……ふ、ふふふ…帰ってきたら覚えておいてくださいね…」

 

怨嗟の声か、はたまた呪詛か。ゾクリと背筋に感じたソレにギルガメッシュは非常に嫌な予感がしたのだが… まぁ、何とかなるだろ。の精神で事務所からグングンと離れて行きクーラーが効いている施設を探す事にした。

しかし時刻は昼少し前、何処も彼処も人、人、人で溢れかえり王の不快指数は極限まで上り詰めている。

 

「いっその事、エアでサラ地にしてしまうか……いや振るうのも面倒な暑さだな…」

 

夏の暑さが街一つを危険に晒し、同時に守ったことになる。

 

「何処の店も入れぬのならば…昔の知恵だ。河川へと行けば多少なり涼しいだろう」

 

周りの目など気にするか、とばかりにギルガメッシュは地を蹴り高層ビルの屋上へと一気に跳躍し、ビルからビルへ渡り飛び河川を目指す事にした。

 

 

 

 

日差しは暑いものの風が出てきた為か心地よく、子供たちの遊び声が聴こえてくる。

 

「平和なものよ…」

 

戯れる天使の様な童達を特に何も考えずに眺めている英雄王ははたから見たらタダの不審者なのだが顔立ちの良さから誰も警察を呼ばない。武内とは大違いである。

 

 

ボンバーーーーーー マダマダイキマスヨォォォォ

 

 

さて、ちひろはスカウトと言っていたが我の目に適う人材は居るだろうか。 居なかった…などと手ぶらで帰っては奴がなんと言うか分かったものじゃない。

王の財宝から酒を引っ張り出し飲みながら考えるとしよう。

 

 

ウォォォォォマダマダァァァァァ!!!!!!

 

 

「………」

 

 

ボンバァァァァァァァァァアアア!!!!!!!!!!!!

 

 

「鬱陶しいぞ戯けェェェ!!!!!!」

 

川を挟んで反対に居る女が先程から叫びながら右に左に走っている。

折角ののどかな雰囲気が台無しではないか。 我慢の限界を超え全開で怒鳴ったギルガメッシュはゼーゼーと肩で息をしながら件の人物を睨みつける。

 

 

オニーサン コエオオキイデスネ!!! マケテラレマセン!!!

ボンバァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアア!!!!!!

 

「クソ、埒が明かん…」

 

阿呆を黙らせ子ども達の平穏を取り戻すのも王の勤め、などと考えながら川を飛び越え走り込む少女の目の前に着陸し仁王立ちで向き直る。

 

「おい、貴様…暑苦しいぞ場所を考…「うぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!」 がふぅ!?」

 

少女が止まることはなく英雄王ギルガメッシュをタックル一つで吹き飛ばした。

 

(こやつ、まさかサーヴァント…ではないな…)

 

セイバーもビックリなほどの一撃に一瞬血迷うがすぐに思考を取り戻し腹部に埋もれジタバタしている少女の首根っこを掴み引き上げるとハッ、とし顔になり…

 

「おにーさん大丈夫ですか!?」

「貴様が突っ込んで来なければ何ともなかったわ阿呆!」

 

何処かズレている少女にイライラしながら見つめていると…幼い顔ながらも整った顔立ちに好みではないが程よいスタイル。 声に関しては煩いモノの良い声をしており文句はない。 それにあれほど走りながら叫べるスタミナは驚異的だろう。

 

「お詫びを! せめてお詫びをさせてください!!」

「よし、ではアイドルになれ」

「はい!!! ………はい?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…え、終わり?」

「終わりだが?」

 

本当にこの人はノリと勢いでスカウトしてるんじゃないか。 しかしノリと勢いの割には彼が目をかけスカウトされたアイドルは軒並み桁外れに売れている。

うーむ、王様ミステリー…

そう言えば、自分もギルガメッシュに合格にしてもらったんだっけ? と首をひねりながらゴロゴロしている杏に対しギルガメッシュは眉を顰め口を開いた。

 

「…この身が焼けるオーラ…来るぞ」

「へ?」

「プロデューサー!!! お仕事終わりましたぁぁぁ!!」

 

ドカーン! と音を鳴らしてドアが変な方向にひん曲げ入室してきたのは4人目にスカウトしたアイドル…日野茜だった。

 

「貴様は一々扉を壊さんと入ってこれないのか!」

「アンタは一々窓を割らなきゃ外に出られないのかギルガメッシュ。 戻ったぞ」

「何のことかわからぬな衛宮。 我がルールだ」

 

ゲンナリしながらも報告書をギルガメッシュのデスクに上げるあたりシローの苦労さがよく分かる。そもそもギルガメッシュが居なくなってから武内プロデューサーとシローは来る日も来る日も働き皆に仕事を割り当てたりついて行ったり大忙しだった。 その辺りから杏も休みが欲しい! とは言わなくなったのだが…自分では気が付いていない。

 

「今日のお仕事楽しかったです!!」

「それは良かったな。 してそれを言う為だけに来たのか?」

「はい!!!!!」

 

単に久々にギルガメッシュと話がしたいだけなんだろーなぁ…と思い杏は這う這うながらシローと二人で部屋を出る事にした。 部屋からは暫く笑いと怒号が絶えなかったようだった。

 

 


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