つまり完全な続きです。
成長したアイドル達をお楽しみください。
因みに、カルデアからやって来たギルガメッシュは既に聖杯の泥による汚染はありませんので以前より更にハッチャケてると思いますがご了承ください。
「ちひろ! ちひろは居…ぐはっ!?」
ステージから降りスタッフルームの扉を開け放つと同時に凄まじい威力の一撃を頬にくらった。
放ったのはもちろん…あの守銭奴だ
「ギルガメッシュくーん…? 何か申し開きはありますか? ありますよね? でも、あと3発入れられてから話してください」
右に左にと往復ビンタをかますこの女、ほとほとシドゥリのようだ。我が冥界から戻った時もこの反応にソックリだったな。
「えぇい、いい加減にせんか!!」
「まぁまぁ、千川くん。いいじゃないか…僕が生きてるうちにまた会えるとは思ってなかったよ王様くん」
ちひろの横暴に憤慨していると部屋の奥から久しい声が聞こえた。今西か…
「息災であったか。王の不在の間よく城を守ったな。 ……貴様もいるのであろう美城」
「まったく、急に消え急に戻ってくるとは勝手な男だな。キミは」
「許せ、あの時はどうしても果たさねばならん事があったのだ」
美城は呆れながらも懐から一つの封筒を出した。それは以前、我が突き出した辞表
…この女、まだ持っていたのか?
「これはキミに返そう。キミは新しいアイドルのスカウトをする為に遠出をしていた…違いないな?」
「フハ…フハハハハ!! まさか、貴様がそんな事をするとはな? 歳を食って頭の中身でも変わったか?」
「その失礼な物言い…本当に変わらないな…」
「プロデューサーさんの部屋、あの時のまま残っていますからちゃんと事務所に戻って仕事してくださいね?」
「ハハハ、ギルガメッシュくんも戻ってきて早々大変なことになってしまうね?」
呆れる美城、怒るちひろ、微笑む今西
何一つ変わらぬ場へと王は帰還したのだ。
「む、そうだ…我が消えた時から何年経っている」
「そうですね…ざっと5年ぐらいでしょうか?」
5年?
つまりだ、この世界も人理は焼却されずに今に至っている。
ならば、成り行きで連れて来た藤丸に盾子、ジャンヌ共を元に返す手立ても見つかったと言っても過言ではない。
「よし我は連れて来た小間使い共を引き連れ一度事務所に向かうとしよう。 ちひろ、悪いがアイドル共は任せたぞ」
「え、あ、ちょっと!?」
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「本当に何一つ変わっておらぬとは思わなんだ…」
「へぇ、ここが王様が働いてた場所…」
「凄いです先輩。カルデアには無かったようなものが沢山…」
「なるほど、ここでアイドルについて知ったのですね」
「それをつい最近まですっぽりと忘れていたのだからしょうもないわね」
次々に喋る連中を無視しデスクへと歩み引き出しを開ける。
我があの戦いに挑む前にまとめて置いた資料が中に入れてあったのだが…
「我が戻ってきた。即ち不要だな」
左右に引き裂き屑箱に叩き込む。
部屋はホコリ一つ無く、窓も輝く程綺麗だった。
「何時戻ってくるかも分からない部屋の主の為に掃除をしていた私に労いの一つぐらいくれんかね」
「貴様の仕業だったか衛宮士郎。ご苦労であった」
いつの間にか部屋の入口に佇んでいた掃除人に労いを送る。
奴もそれには虚をつかれた様だ。
「まさか…名を呼ばれるとは思いもよらなかったよ。光栄だな」
「あ、あの…エミヤ先輩…ですか?」
「あぁ、そうか。マシュや藤丸とはある意味初対面だったな。私は衛宮士郎…キミ達が知る赤い外套の弓兵とは似て非なるモノ…とでも覚えてくれたまえ」
奴らが話に花を咲かせ始めた所で一度プロジェクトルームへ降りてみようと思った。
そもそもこの5年で部屋はなくなってしまっている可能性もあるが…
部屋を出、エレベーターを待つ…
「む、この我が汗を流している…だと?」
妙な悪寒を感じる。我の直感は間違いなく当たるのだ。このエレベーター…ナニカが乗っている
「……」
チンっ…と音を鳴らし扉が開く。開く速度があまりに遅く感じた。
その扉の奥に居たのは悪鬼の如き面構え、並み居る英雄共など比にするのも烏滸がましい程のオーラを漂わせた城ヶ崎美嘉。
「おぉ、美嘉。ライブごくろ「フンッ!!!」ごぉ……!?」
場を誤魔化そうと以前のように労いをかけた瞬間、跳ぶように美嘉が間合いを詰め腰に構えた腕を突きの如く的確に我の鳩尾にぶちかましてきた。
「ぐぅぅ…はぁ…はぁ…」
「あんたが帰ってきたら必ず一発はぶち込んでやるって決めてたの。はぁ、スッキリした」
憑き物が取れた顔をしこちらを見下ろす美嘉だが以前の様な乙女らしさは言葉の端から微塵も感じない。
「しかし先程の一撃…独学ではなかろう」
「うん、ギルガメッシュのお父さん? に5年間教えてもらったんだ。八極拳っての」
我の父だと…?
「ハッ、言峰か!!!」
「せーかいっ」
「ぬぐ……常人ならば死体の一つ出来ていてもおかしくないぞ…」
「アンタはタダの人間じゃないから大丈夫じゃん?」
それにアンタが居なくなった後、自分の身は自分で守れなきゃいけなかったしね? と呟く美嘉の顔は膝をつく我には見えんが…
5年の時は残酷なものか。あの初々しく可愛げのあった美嘉をこうも凶暴に成長させてしまうとは…何が原因なのだ
「はぁ…おかえり、プロデューサー」
「うむ…戻ったぞ美嘉」
溜息をつき肩を落とした後に見せたのは久しぶりに見た笑顔だったがな。
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時は既に日を跨ぎ深夜となっているがプロジェクトルームの灯は消えない。
「それでね、プロデューサー。アタシと莉嘉が一緒に映画に出たの!」
「ほぉ…それは興味深いな。アイドルとしてだけでなく役者としての仕事も始めたのか。いや、その素質は元々のモノか」
「最初は瑞樹さんがね? 主演をやる事になって…それがもう大評判で! 他の子も女優やってみないかって事になったんだ」
美嘉の口から話が尽きることは無く、この5年間どのような事をしてきたのか次々と話してゆく。その瞳には喜びと嬉しさが混じっているのだがギルガメッシュが気付くことは無い。
「ふっ…立派になったものだな美嘉よ」
「…へ?」
唐突な言葉に理解が追い付かず目を点にして固まる。仕方の無いことだ。何せ、あの傲慢で意地っ張りで何を考えているか分からなくて…そんなギルガメッシュが素直に自分を褒めた。
その一言を受けたくて。
その一言を聞きたくて。
ギルガメッシュの目に狂いはなかった、と思わせたくて。
ここまで頑張れた。
「うっ…うぅ……ずるいよぉ…」
別れても再会しても流さなかった涙が次々と溢れ止まらない。
「はっ、齢20を超えてると言うのに子供のように泣きじゃくりおって」
「う、煩いよ…!」
考えれば2度目だったかも知れない。ギルガメッシュの胸の暖かさを感じるのは。
翌日、プロデューサーが他の子達からメタメタにされたり質問攻めされたり、アタシが揶揄われるのはまた別のお話。