覚えておられる方はいらっしゃるのでしょうか。
この外伝はまだギルガメッシュがプロデューサーをしていた頃。舞踏会の前の話となっております
その日、事務所は異質な雰囲気に包まれていた。
そしてギルガメッシュも珍しくも焦っていた。宝物庫からあるモノが無くなって…否、盗まれていたからだ。
「おのれ…我の許可無くアレを使った阿呆は何処の雑種だ!!」
ズカズカと廊下を歩く彼の腹に弾丸と言うべき速度で何かが突っ込んだ
「うぉぉぉぉ、ぼんばーーーー!!!」
「ぐぼぉ!?」
不意打ちの一撃、前々から人間にしては能力が可笑しいと疑っていた日野茜のタックルをくらった。
しかし、何時もならばくらわずに避けることが出来るギルガメッシュだが…なぜ避け無かったか?
それはだ…
「こんにちは、おにいさん! ところでここどこですか!!」
「えぇい、貴様もか茜!」
腹部に抱きついた日野茜は普段よりも少し…いや、かなり小さくなっていた。
年齢にして7歳と言ったところか
「はい、あかねです!!」
話が噛み合わん…!
とりあえず抱き上げプロジェクトルームへと急ぐ。彼処になら誰かかしらは居るであろう…と
「 瑞樹!! 楓!! 誰でもいいから出て来い!!」
「きゃ!? ちょ、ちょっと誰ですか?」
ギルガメッシュの怒鳴りに反応した女、それは二人目にスカウトした川島瑞樹だった。
「丁度いい、茜の様子を見ておれ。我はこの元凶を探しに行く」
「だから、アナタは誰ですかって聞いてるんですけど」
「貴様、まさか我の顔を忘れ………瑞樹、貴様少し若くなったか?」
呆れた物言いに彼女の顔を見るとそこには普段と変わらぬ川島瑞樹が居た…のだが、幾分肌の張りが若々しく見える。まさかな…
「ちょっと、18歳に向けて若くなった…って失礼ですよ!」
あぁ…こやつもか…
「あ、あのー…すみません。私、メイド喫茶でバイトしてた筈なんですけど…ここ何処です?」
全く見てくれは変わってないもののアレの影響を受けたとみて間違いないであろう安部菜々。
「………ふふ」
同じく、高垣楓
「あ、キャッツの試合やってんじゃーん」
少し縮んだ姫川友紀
「揃いも揃って…貴様らという奴らは!!」
抱え上げられたままジタバタする茜を余所に頭を抱え座り込んだ。
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「へぇ、それじゃあ十年後の私はアイドルをしてるってことですか。…十年後…28歳ですけど…」
「え、ナナもですか!? な、ナナは永遠の17歳だから〜…でもアイドルですか…えへへ」
「私も…ですか? 驚きました…」
「キャッツは!? あの選手は何処に移籍したの!?」
10年ほど若返ってこの反応、つまりコイツらは10年経っても成長しなかったわけか…
茜にケーキを与え行動を抑止している間に大まかな説明を渋々した。
この事務所で若返りパンデミックが起きているのだからこの事務所内に犯人はいる。しかし子供の妨害を受けながら探すとなると骨が折れるので協力者が必要だったからだ。
「つまり、その若返りの薬をばら蒔いた人を探せばいい訳ね。わかったわ」
「ナナも手伝いますよ!」
「犯人探しは半人前…だったんですね。ふふ」
「キャッツの試合観るからパース」
何時もならば友紀を引っ叩くのだが今は子供なので許す。
「そこでだ、貴様らには子供たちの保護及び拘束の命をくだそう。邪魔されてはたまらんからな」
「任せなさい。未来の自分居場所ですものやれることはやるわ」
「あ、じゃあナナはお菓子買って来ますね」
「私は皆さんを探しますね」
「えー…それならあたしはみんなと遊ぶよ」
我はいってらっしゃい、と軽く手を振り自分を見送る未来のアイドル達を背に何とも言えぬ違和感を抱いていた。
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「………あの、図書館は…何処でしょう」
パッチりとした目を輝かせキョロキョロとした黒髪少女。
「ふんふんふふーん ふれでりかー」
十年後と変わらぬ鼻歌を歌う金髪少女
「ふふーん、ぼくはカワイイですねー!」
鏡に映る自分に見惚れるアホ
「えぇい、いったい何処までこの感染は拡がっているのだ!? アレはそもそも飲むものであろう。 飲まねば若返らぬぞ!」
行く先々で子供化した我がアイドル達を前に珍しく狼狽える。
ある日出社したら周りが皆幼児化していた…という新ジャンルのホラーかもしれない。
幸いなことにありすや仁奈など年少組が来てなかった。奴らまで居たら赤子に戻っていたかもしれぬ。
「あれ、ギルさんどしたの」
ロビーを通り抜けようとした時、一つ上の吹き抜けから声をかけてきた影が居た。
「貴様は無事なのだな周子」
「はい? 何が?」
ヒョイっと、ひとっ飛びし上の階層に上がってきたギルガメッシュに特段驚かない。周子にとっては慣れたものだった
「そーいやさ、この子誰かの子かな? 迷子みたいなんだけど」
目線を落とせば周子と手を繋ぐ幼女がいた。オドオドした自身なさげな幼女だった。
「ふむ…誰だこれは」
「イヤわかんないんだって。名前聞いても答えてくれないしさ」
「おい、名前はなんだ」
「…っ」
ビクッと震え周子の後ろに隠れる。
「ちょっと、ギルさん怖がらせないでよ」
「名前は、と聞いておるのだ」
「………………で」
「「うん?」」
「……はやみかなで…です」
「へぇ、同姓同名の子が居るなんて珍しいねギルさん」
今とは似ても似つかぬ様子の奏を一瞥しより一層事態の収束を早めねばと思うギルガメッシュであった。
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「ギルくんギルくん!! 大変!!」
周子に奏を連れさせプロジェクトルームへと送った我の元に走ってきたのはシンデレラプロジェクトの城ヶ崎莉嘉だった。
「ふむ、貴様も影響を受けてないようだな…」
「へ、何のこと? じゃなくて、お姉ちゃんが! お姉ちゃんが大変なの!!」
美嘉が…?
「もしや、突然縮んだ…とかではあるまいな?」
「そう、その通りなの!!」
「ちっ、遅かったか……。莉嘉、奴が縮む前に何か飲んでいたりしていたか?」
「え…うぅん、なんか志希ちゃんから貰ったアロマの匂い嗅いでいたかな…って、ギルくんどこ行くの!? お姉ちゃんはこっちだよ!?」
つまりだ、あのバカめが何らかの手を加えた所為で薬の効果が狂い記憶まで過去に退行した…と考えるべきか。
しかし犯人はわかった。奴を引っ捕えねば
確か、この事務所のどこかに我と同じで志希は住んでいた。
「む、黄金の王よ。其の様な振る舞いらしくないではないか(ギルガメッシュプロデューサーさん。そんなに慌ててどうしたんですか?)」
「ぬ、蘭子ではないか。貴様も無事なのだな」
「うむ、我は神秘なる力に護られている故に呪いの類は一切効かぬのだ!!
して、この騒ぎは何かの儀式か(はい、私は特に問題が無いですよ。でも、何故か皆さん子供になっちゃってて)」
「ハッ、儀式ならばまだマシであったわ!! 志希のバカが問題を起こしたらしくな。我は奴を探しておるのだ」
「なんと! ならば我も手を貸そう。くくっ、何案ずることは無い。我の瞳には手に取るように居場所が分かる!(そうなんですか!? 私、志希さんのラボの場所知っています。案内します!!)」
「ほう、ならば案内せよ! さっさと奴の根を止めるぞ!!」
「断罪はさせぬぞ!?(息の根は止めないでくださいね!?)」
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「志希!!」
「おー、ギルちんどしたの?」
「どしたの? ではないわ戯け!! 貴様の作った薬で事務所が大混乱ではないか!!」
「いや、アタシはギルちんの机の上にあった小瓶の中身を薄めて配っただけだにゃー」
「それを窃盗というのだ!」
「不用心に置く方が悪いっ」
ギャーギャーと言い合う2人をオドオドしながら見つめる蘭子はふと、気がついたことを言ってみる。
「アルケミストよ! 斯様な発明が出来るならば、その逆も出来るのではないか!(志希さん、そんなことが出来たなら逆に老けさせる薬も出来るんじゃ)」
「はっ、そうであった! 我が持っている薬を使えばヤツらは戻るな…ちっ、志希! 貴様も配るのを手伝え」
「んー、いや…匂いを嗅がせるだけで大丈夫だと思うよ? 元の薬をかなり薄めたからねぇ」
「む、そうなのか! ならば話は早いな、我がばら蒔いてくるとする!」
この後、さらなる悲劇が起こることは蘭子と志希の2人は予期できたのだった。