夢見る乙女達と英雄王は舞踏会へ   作:969

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本の少女

とあるお客side

 

「…今日も来たんですね」

 

「当たり前だ、我の目に狂いは無い。 貴様は民衆の偶像になるべくして生まれた存在だ」

 

古びた本屋、お客は私を含めて2人だけ

店員さんと金髪スーツのお客さんがいつもの様に何かを話している。

 

「…あまりそういう事は分からないので」

 

「構わん、貴様は決断すれば良いだけだ。この書庫で一生を終えるか終えないかをな」

 

「それは…」

 

まるで小説のような、そんな言葉

あの男の人は何者なのだろう?

 

「まぁよい…もう少し時間をやろう。店内を見回らせてもらうぞ」

 

 

あ、こっちにくる…

歩いてきたのは金髪赤眼、それでいて何処か本に出てきそうな騎士様の様な方だった

 

 

「む…? その本を見せろ」

 

「へ、え? こ、これですか?」

 

私が読んでいた本を見ると目の色を変え…

 

笑っていた

 

私が読んでいた本のタイトルはギルガメッシュ叙事詩

古代メソポタミアの文学作品。 実在していた可能性のある古代メソポタミアの伝説的な王、ギルガメッシュをめぐる物語だ

 

「やはり我は偉大であったか!

この時代にまで名が残っているとはな!」

 

その本を持ったまま店員さんへと歩を進める唄うように言葉を紡ぎだした

 

「鷺沢文香よ、この世に意味の無い本など無い。 一つ一つ駄作と言われようとつまらんと言われようと必ず書き手の意味がある。 それは読む者が汲み取れるかどうかだ」

 

「……」

 

「しかし…だ。 書かずに終わってしまうモノは物語ではない。 ましてや、貴様の物語はここで本を読み過ごす…それだけ。

本で言えばあらすじにもならん」

 

「では、どうしろと」

 

「自ら書け。 事実は小説より奇なり…よく言ったものだ。 貴様は、この書庫から飛び出、人々の偶像に…アイドルになるのだ! 誰が想像する? 街の本屋の少女がアイドルなぞ!

超展開というやつだ

貴様の物語は、貴様が踏み出したその瞬間に色付き広がる!」

 

自らの物語…アイドル…

 

「…私の物語…書けるのでしょうか?」

 

「書ける! 我が保証しよう!!」

 

「…ふふ、可笑しな人ですね。 分かりました、精一杯やらせてもらいます」

 

店員さんとお客さん、その2人のやり取りを見るのは今日が最後になりそうだ。

事実は小説より奇なり…まさにそんな瞬間だった。

…私も、一歩踏み出してみようかな?

 

店を出ると空は鮮やかなオレンジ

夕飯の食材を買いに来た親子や部活帰りの高校生が沢山歩いている。

ここに居る人、それぞれの物語がある

 

 

「ふぅ……よし!」

 

 

私の…七尾百合子の物語は今から変わるんだ!

 

 

 

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英雄王side

 

 

やっとだ

 

やっと駒が揃った

些か不安が残るがこやつらが居れば美嘉も

まぁ、まだ先の事だが手を打っておくのは早い方が良い

 

「む、武内から電話か。ヤツめ行き詰まったか?」

 

言峰に買ってもらったスマホの操作も慣れたものだ最初はガラケーというヤツだったがこの時代の人間共は貧弱ながら昔に比べ繁栄に対する力は凄まじい執念だ

 

「我だ。 我に電話をするなどよほどの事があったのであろう?」

 

英雄王たる我がこの様な人間の猿真似をし他人に意識を向けるとは思いも寄らないことだったが折角の道楽だ。やるところまでやろう

 

「…ほう、美嘉をか。

貴様らのために前座をしろと? 」

 

内容は至極簡単

夏のフェスにてシンデレラプロジェクトの【前座】として美嘉に出てもらえないかという話だ。

 

言うにことかいて前座だと…?

美嘉を?

 

随分と思い上がっているではないか雑種

 

あれは我が見出した…よいか

 

「我に聞くな。その返答は美嘉がする」

 

ブチッと切り言葉を遮る

 

「ギルガメッシュ、珍しいなこの様な場所で」

 

すると背後から声をかけられた

 

「言峰ではないか。様子を見るに買い出しか?」

 

「そんなところだ」

 

「…そうだ、言峰よ。 今宵は何処かに飯でも食いに行こうではないか。

今後の話もあるしな。 我が全額払おう」

 

「ほう、ならば荷物を置いてからだな。

まさかギルガメッシュが自ら本当に働き稼ぐとは露にも思わなかった」

二人の男は闇へと歩を進める

少なくとも平穏な闇だが…

 

 

 

 

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美嘉side

 

 

 

「オッケー★ いいよいいよ出てあげるっ」

 

武内プロデューサーからの電話だった内容は夏フェスに出てもらえないか…ということ

アタシとしても仕事を貰えるのは嬉しいし何より莉嘉たちのことが気になるから都合がよかった。

 

「それじゃ、打ち合わせは近いうちにねー★

お疲れ様っ」

 

あの人がアタシ達と関わるようになってからだいぶ経つ

前よりは幾分かわかりやすくなったものだ…

 

考え事をしているとぐぅぅ…とお腹が鳴った…乙女として恥ずかしい

コンビニでも行って何か甘い物買ってこよ

 

 

帽子を深く被り、伊達眼鏡を掛ける

よし、変装完璧…かな?

 

歩いて数分、さほど遠くない所にあるコンビニ

この系列にあるプリンが絶品なのだ

今日は沢山レッスンして動いたし多少なら大丈夫と自分に言い聞かせ棚に残った唯一のプリンへと手を伸ばした

 

重なる二つの手

一つは勿論アタシの

もう一方は男の人だった

 

身長はアタシより少し大きいくらいかそこら

短髪で赤みがかった感じ

 

「あ、す、すみませんっ」

 

「あー…こちらこそ…。 アタシ他の買うからいいですよ?」

 

「い、いや俺が他の買うんで」

 

ここで押し問答をしても変わらない

ここは男の人を立てる為にも譲られておこうっ

 

「それじゃあ…ありがとうございますっ」

 

「先輩、これ美味しそうですよ? 買いませんか」

 

そんな彼の後ろからシアン色…珍しい色の髪と目をした少女が現れた

染めてたりするのかな?

 

「お、美味しそうだな。買っていこうか」

 

「はいっ」

 

微笑みながら歩く2人はどこか幸せそうで…

 

 

 

 

それでいて儚く壊れそうな2人だった

 

 

 

また何処かで…そう遠くない内に会えるような気がした

 

 




いやー、EXTELLA面白いですね
アルテラが一気に好きになりました

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