夢見る乙女達と英雄王は舞踏会へ   作:969

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王の叱咤

「ごめんね…しぶりん、しまむー…」

 

事務所に行かなくなってから数日が経った

あの日から雨が降りしきり

まるで私の気持ちのような…晴れない空

 

憧れのアイドルになれて、やっとスタートをしたと思ったのに

 

 

 

今は家に1人

家族みんな出かけていた。はずなのに…

 

 

ドンッ… ドンッ…

 

 

音が響く…ベランダ…?

恐る恐る近づき閉め切ったカーテンに手を掛ける

その時、稲光でシルエットが映し出された。人のシルエットが

 

「ひぃっ!?」

 

ここはマンションの上層階だ

人がベランダに来れるはずがない…

慌てて窓際から離れようとしたが腰が抜けて動けない。

もうダメだ…

 

「おい、本田なんちゃら! さっさと開けろ! 雨が強すぎて敵わん」

 

「へ…?」

 

その声は何処かで聞いたことのあるエラソーな声だった

カーテンを空けると予想通り

ギルガメッシュプロデューサーが居た

 

「いやどうやって来たの!?」

 

「飛んで来た」

 

「とん…はい!?」

 

どうやら規格違いらしい

 

とりあえず部屋に上げお茶を出すと私を見て嗤った

 

「貴様、何故アイドルを辞める?」

 

「それは…「勝手に期待して現実が違って恥をかいた自分が嫌になったからか?」…ち

違う!」

 

「ほう、ならばファンがあまりにも少なくて嫌になったからか」

 

確かに…期待したより全然人が居なかった…でも…そうじゃない…はず…

私は…私はまだアイドルを…

 

「貴様は道化だな。しかし面白くない、気分次第では我の目の前に立つことも許さん…が、346の関係者である手前まだ許そう」

 

「な、何が言いたいの?」

 

「我はまだしも…だ」

 

 

「武内とちひろ、今西…シンデレラプロジェクトの石ころ共の期待を裏切るな。裏切るようならば…」

 

言葉を切り茶を飲み干したあとこちらを睨みつけ言い放った

 

「この世に居場所は無い」

 

背筋に一気に汗が流れ再び腰が抜けた

 

「ではな、暫くすれば武内が来るだろう。決着をつけろ」

 

茶、馳走になったと言い捨て窓から飛び出た王を私は追うことが出来なかった…

 

 

 

 

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卯月side

 

 

風邪をひいてしまった

アイドルなのに体調管理が出来ないなんて失格だ…

早く治してまた頑張らなきゃっ

 

「卯月、お客さん来てるけど…大丈夫かしら?」

 

「へ?」

 

つい先程、プロデューサーが来て凛ちゃんと未央ちゃんのことは任せてって言ってくれたばかりだ。

それにお母さんの反応からプロデューサーではない事も分かる…では誰だろう?

 

「うん、大丈夫…」

 

「お通しするわね」

 

扉を開け入ってきたのは意外な…想像もしなかった人

ギルガメッシュプロデューサーだった

 

「ふん、病に伏せるなどプロとしての意識が足らんな」

 

「す、すみませんっ!」

 

「よい、そのまま布団に入っておれ」

 

ほとんど話した事がない

でも、怖そうな人だとはオーディションの時から思っていた…

何か用があって…?

 

「本田未央がアイドルを辞めるようだな」

 

「っ!!」

 

あの日、私たちのデビューライブの日に未央ちゃんが言っていたあの言葉

信じたくなかった、必死に目をそらしていた

悔しかった…何も出来ない自分が…

 

「しかし案ずるな、武内が何とかする」

 

「え……?」

 

「我の目は確かだ。貴様も、渋谷凛も本田未央も…この程度では終わらん。

むしろ終わってしまったら我の目が腐っているという事になるからな。終わらせはしない」

 

安堵した

まだやれる事がある…気付かされた

でも、少し引っかかることが出来てしまった…それなら、なんで…

 

「なんで、私を一次オーディションで…落としたんですか?」

 

虚をつかれた様な顔を見せたギルガメッシュプロデューサーは口角を上げ笑った

 

「フハハハ! 我に意見するか!」

 

「い、いえ! ごめん…なさい…気になったもので…」

 

「何れ教えよう。今は身体を休めろ。武内が二人を連れ戻したらまた仕事があるのだからな!」

 

何処までも強く、どこか人を惹きつけるギルガメッシュプロデューサーは私の中で怖い人から少し優しい人になっていた

 

 

 

 

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凛side

 

 

「ハナコ…私はどうしたら良かったのかな…」

 

プロデューサーがあんな言い方するとは思っていなかったわけではない。

元々不器用そうな感じだったし、でもあの時の未央…それに私にはキツかった

夢を見すぎていたかもしれない

 

 

「ハナコ…?」

 

いつも大人しいハナコが急に唸りだし私の前に立って遠くに向かって吼えた

 

「ほう、主の危険を察知し自ら前に立つか…中々の忠犬だ。しかし、犬っころよ! 実力者を把握出来ぬ訳ではあるまい。命を投げ捨てるようなものだ」

 

ハナコが吼えた向こうから美嘉のプロデューサー、ギルガメッシュが悠然と歩いてきた

 

ワン! と力強く吠えたハナコはゆっくりと私の横に戻ってきた

…守ろうとしてくれたの?

 

「ふっ、そうか犬っころではなくハナコか。覚えておこう! 貴様の家族は逞しいな渋谷凛」

 

「な、なんなのアンタ…」

 

「城ヶ崎美嘉のプロデューサーだ」

 

「そうじゃなくて何でここにいるの? プロデューサーの差金?」

 

「我が武内の? ナメられたものだな。

それになんだ、その腑抜けた眼は」

 

腑抜けた…?

冗談じゃない、アンタに何が…

 

「何がわかるとでも言いたそうだな」

 

…口に出してないはずなのに

 

「何もわからんさ。貴様のような雑種の考えなどな! 所詮石ころは石ころ…貴様如きではアイドルに成りえなかっただけ。違うか?」

 

「だったらなに? クビにするならそう言えばいいじゃん」

 

「貴様をクビにするかどうか決めるのは貴様と武内だ。 辞めるならば話し合え…もっとも辞めるとしても雑種、貴様だけだがな」

 

…私…だけ…?

 

「未央は? 未央はどうなったの?」

 

「今の雑種よりは…まだ前を見ていた。 あやつなら立ち直れるであろう…

貴様自身も考えぬけ!

悔いの残らぬように、明日その命が尽きても構わんぐらいに足掻け!

死ぬ間際まで足掻き続けたものは美しい!」

 

まるで歌うように告げたコイツは近寄ってくるとしゃがみこみハナコをひとしきり撫でた

 

「ハナコ、貴様の主人は愚かではない。

しかし、間違えることもあるだろう…その時は貴様がリードを引っ張ってやるのだ。よいな?」

 

ワフッ! と先程とは違う…まるで王様の命令を受けた騎士のように…凛々しくて穏やかな返事だった

 

「良い返事だ。今度は何か土産をやろうではないか」

 

「ちょ、ちょっと! 好きなだけ言ったら帰るの?」

 

「我は多忙でな、明日からアメリカに行かねばならん。 誰かを頼るな…とは言わない。 所詮貴様らは人間…雑種なのだ」

 

 

公園を後にし事務所の方へと歩いていく彼を見ていると…何故かすぐにでも卯月と未央に会いたくなった…

 

「ごめんねハナコ、散歩は終わり。私レッスン行ってくるよ」

 

情けない自分はもう要らない

アイツを見返す為にも頑張らないと

 

 

 

(というか、アイツ…ハナコと話していた?)

 

 




少し女の子と人間に甘いギルガメッシュですね
でも、そんな彼がこの先どうなるか
石ころと呼ばれた少女がどうなるか
もう暫くお付き合いください

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