二人の話   作:属物

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第三話、三人でお出かけの話(その五)

 --外人さんのセンスは良く判らんな

 

 正太はつまみ上げたグミキャンディの紙袋をLED電灯にかざすように眺める。その表面には各種フルーツに人間の目口をそのまま直付けしたイメージキャラクターが描かれていた。日本人である正太の感性からすると『かわいい』『親しみのある』といった感想よりも『気持ちが悪い』『違和感がひどい』といった所感が出てくる。

 何処の国だろうか。書かれている文字が大体アルファベットだから、欧州系であると想像は付く。だが、学校で習った英語とはまるで違っている。そもそも英語にない記号もいくつも書かれている。これでは判らないと言うことしか判らない。絵のセンスも判らない。

 結局、考えることを諦めた正太は肩を竦めるとグミの紙袋を元の場所に戻した。そこには同じ様なお菓子が深海、あるいは地層を模して堆積している。どれにもこれにも日本語は印字されていない。全部高価な外国製だ。

 

 そしてお菓子の大海原もしくは大平原からは数mはある巨大な影が突き上がる。ゴリラとクジラを足したかの様なその姿はまごうこと無き大怪獣だ。海洋生物の滑らかさと類人猿の二足歩行を併せ持つ巨大生物は、これまたお菓子の袋から出来ている。

 こちらは正太にもよく理解できた。よくできたディスプレイだ。デカいと言うことはそれだけで人目を集める。巨体はそれだけで憧憬を誘わずにいられない。圧倒的な大きさはそれだけで人の心をがっちり掴むのだ。ましてやお菓子の怪獣である。幼い男の子なら無条件で惹かれるだろう。

 実際、正太もそうだった。一目見た時点で視線は釘付け。足下でしゃがみ込んだ筈の蓮乃と友香が、何をしているのか全く気にも留まらなかったくらいだ。今も気には留まっていなかったが、思い返した拍子に思い出したので釘を外して目線を下げてみる。

 

 「ぬ~に~」

 

 「私はこっちかな」

 

 蓮乃は常と変わらぬ理解の埒外な声を上げて、友香と一緒にお菓子の袋を見比べているご様子だ。表紙の絵からしてチップスの類だろう。片方はイメージキャラクターがタマネギと一緒にクリームに浸かって、もう一つは蜂蜜の壷にマスタードをそそぎ入れている。どうやら蓮乃は友香が挙げたハニーマスタードフレーバーに決めたらしく、サワークリームオニオン味をお菓子の平原へと戻した。

 正太には蓮乃が抱えるお菓子の袋と同じ絵を見た覚えがあった。記憶の通りに目を上げれば怪獣を構成する袋の一つがクリーム+タマネギの絵をしている。ただし蓮乃が抱えるそれに比べて倍近く大きい。大怪獣は構成するお菓子まで大なのか。それだけではない。お値段までビックサイズでビックリサイズだ。むちゃくちゃ高い。一袋で二千円ってなんなんだ一体。

 思わずわき上がった嫌な予感に、正太は顔半分だけひきつらせて蓮乃を見つめる。蓮乃は個人の小遣いを貰っていない。必要な物があるときは母親である睦美に買ってもらう。そしてこの場には睦美はいないが保護者代理の正太はいる。つまり……

 

 「なーもーぅっ!」

 

 悪い想像は大当たり。イイ笑顔の蓮乃がひきつった顔の正太めがけてイイお値段のお菓子を突き出したのだ。立ち上がった蓮乃が差し出す蜂蜜辛子風味チップスは「(高級な海外由来の)舶来品」「(還元デンプンでなく)ポテトチップス」「(それらがタップリ入った)大袋」と値段を高騰させる三重苦をしていた。当然、今の正太の財布には余りにも高値に過ぎる。無理に購入した日には正太の懐は絶対零度を下回るに違いない。つまり物理的に不可能だ。

 

 「ダメだ、買わん。俺の財布にそこまでの余裕はない」

 

 そういう訳なので厳しい顔をして正太は首を横に振る。買ってくれないのと拗ねた蓮乃は頬をまん丸く膨らませるが、正太は静かに首を振るばかり。トートロジーでは無いが無い物は無いのだ。無い袖は振れない。振れるのは首だけだ。

 お菓子を両手で抱きしめて、蓮乃は色々と込めた視線でじっと正太を見つめる。ひたすらな目線で見つめる。穴が空きそうな目つきで見つめる。それでも正太は厳めしい顔のまま頑として譲らない。曖昧な笑みを浮かべていた友香も流石に無理だと諭しにかかる。

 

 「う~に~」

 

 「蓮乃ちゃん、しょうがないよ」

 

 結局、正太の面構えよりも豚じみた文句を漏らして蓮乃はお菓子の袋を元の場所に戻した。これ見よがしに溜息をはき、ことさらゆっくりと時間をかけてサワークリームオニオンの隣に置く。合間合間、名残惜しげに正太へとチラチラ視線を向けるのを忘れない。

 そんな演技じみた蓮乃の動きに対して、正太もえらく大仰に顔を左右に振って見せる。蓮乃のノリに乗ってはやるが、許可を出すつもりはないのだ。一歩も譲歩を見せない正太の態度に最後にもう一度溜息を吐くと、蓮乃はアヒル風に唇を尖らせる。正太に向ける目も判りやすく湿っぽい半目だった。正太も正太はドスのこもった細目で睨み返した。

 

 --買ってくれたっていいじゃない!

 

 --金はねぇんだ、我が儘言うんじゃねぇやい

 

 真っ正面から睨み合う二人だが、その耳に忍び笑いが聞こえてきた。そういった物を気にする正太が辺りを見渡すと、しかめ顔を突っつき会わせた二人を見て周囲の客がクスクスと笑いを漏らしている。オッサン臭い正太とガキ臭い蓮乃が感情むき出しで威嚇しあう姿は、仲のよい親子のように見えたのだろう。友香も周囲に混じって忍び笑いをこぼしていた。

 周囲からの視線に射竦められた正太は居心地悪そうに首を竦める。周りの視線が如何に優しいものであろうと、今の正太には針のむしろとさほど変わらない。前の虐め以来、注目を集めるのは大の苦手なのだ。

 

 それを見た蓮乃の顔に悪戯を思いついた悪ガキの面構えが浮かぶ。言葉の通りなのだから「めいた」とか「じみた」とかの接尾語はいらない。しかも不運なことに、周りの視線から逃れようとする正太は蓮乃の表情に気づいていない。だから蓮乃が顔に手を伸ばすのにも気づくのが一瞬遅れてしまった。

 

 「なっ!?」

 

 「なっ!!」

 

 頬を平手で押さえてぐいっと顔を近づける蓮乃。驚く正太が反射的に顔を遠ざけようとするのを、蓮乃は逃げるのは許さんと無理矢理近づけ更に睨む。急に近づいた蓮乃の顔に辺りの目線が密度を増した。周囲からの視線の援護射撃で正太は思わず目を逸らす。だが背けた視線の分、正太の首をねじ曲げて蓮乃は無理矢理目を合わせにかかる。

 これぞ必殺の圧力攻撃である。これで兄ちゃんにお菓子を買ってもらうのだ。どうだ買いたくなったかと、鼻と鼻がくっつきかける距離で蓮乃は力ずくで目を合わせる。蓮乃の勢いづいた鼻息が正太の顔にかかってなま暖かい。

 年齢に性別に体格にと、腕力勝負なら勝負にならないくらい正太の力が強い。二人きりなら軽く引っ剥がして拳骨落として終わりだろう。しかし衆人環視な現状がある。蓮乃を強引に引き剥がす姿は余りに外聞が悪すぎる。正太には冷たい視線の十字砲火で四面楚歌になる様が容易く想像できた。

 もっとも周囲を気にするとしても見せ方如何でどうとでもなる。例えば親に見える正太と娘に見える蓮乃の事だから、親が子を叱るようにすれば和やかな光景の一つとして処理されるだろう。単に正太が考え過ぎで人の目を気にし過ぎているだけである。

 

 それでも正太の心情としては打つ手なしに違いない。視線を泳がす度にグイグイ顔の向きを変えられて、視線の空間密度が増すばかり。濃度を増した眼差しの数にコミュ症気味の正太はアップアップだ。もういっそ蓮乃の望み通りにお菓子を買ってしまおうか。そんな現実逃避が脳裏に浮かぶ。正太の白旗が上がりかかっているのに気づいたのか、蓮乃の鼻息が太さをまして悪戯面にドヤ顔が混じり出す。

 

 --こいつ、そういうつもりか

 

 それで蓮乃の狙いは全部バレた。スイッチの入った正太の目つきが変わる。慣れ親しむのと甘えは別物である。それを判らせねばなるまい。代理とはいえ今の保護者は自分なのだ。

 逃走仕様から闘争仕様に顔つきを変えた正太はドヤ顔を決めている蓮乃の顔を掴むと、広い額に自分のそれを打ち付けた。ボーリングの玉同士をぶつけたような鈍い音が互いの頭蓋に響く。痛みと衝撃に蓮乃が表情を変えるより速く、両目を見開き歯を剥いて正太は本気の威嚇を叩き込んだ。

 ほぼゼロ距離で食らわされた正太の威圧に今度は蓮乃が目を逸らして体を引こうとする。だが、圧倒的筋力差で頭を固定された蓮乃は動けない。

 

 「オイ、親しき仲にも礼儀ありだ。やっていいことと悪いことがあるぞ、バカタレ」

 

 「……!」

 

 逃げ場無く叩きつけられたドスの利いた声音と強烈な表情に、正太の怒りをようやっと察したのか蓮乃は俯く。額がぶつかる音とヤクザじみた声に周囲がざわつくが正太は無視する。と言うよりも意識にない。常は周りの目にビビっているくせに、こと激昂すると周りが目に入らなくなるのが正太なのだ。

 

 「あの、お兄さん?」

 

 「後にしてくれ」

 

 だから正太は心顔の友香の言葉もただ一言で退けた。そのまま腰を落として蓮乃と高さを合わせると無言で手を差し出す。言葉もなく蓮乃は差し出した手に会話用ノートを乗せた。無言でそれを受け取った正太は手持ちのペンで一言を書き込むと、俯く蓮乃の目の先に差し出した。

 

 『俺は怒っている。理由は判っているか?』

 

 『……我が儘言ったから?』

 

 下向きの蓮乃が返した一文に、正太の気分も思いっきり下を向く。よりにもよって自分のやらかしに自覚なしである。できるなら拳骨落として説教して終わりにしたいが、人前となると拳骨一発で解決と言うわけにはいかんのだ。それにそもそも二人きりなら今の事態は起きていない。

 どーしたもんかと正太は表情を歪めて頭を抱える。だが行動のないところに解決はない。歪んだ顔を意志力で真面目な形に叩き直すと、正太は蓮乃を邪魔にならなそうな隅っこの方に引っ張っていく。

 その背中を呆気に取られた顔で周り中の客は見つめる。痴話喧嘩めいた仲良し親子のやりとりから一転して、ヤクザの恫喝じみた脅し混じりの怒り声だ。青天の霹靂じみた急転直下な空気の変化に、端から見ていた誰もがどう反応していいのかあぐねている。

 

 それは二人を知っている友香も同じだった。友香は蓮乃が正太を大好きなことも、正太が蓮乃を大事にしていることも理解している。だからこそ正太が蓮乃の行動に本気の怒りを示したことは驚きだった。それが大切な蓮乃であろうと正太は怒るときは怒るのだ。

 それは同時に友香にとって好都合でもあった。『あいつ』がやらかしたなら、正太は決してなあなあで終わらせないということだ。常の友香なら表面上は驚いて見せながら、冷静な頭の中でそう算盤を弾いていただろう。

 しかし今の友香には何故かその発想は思いつかなかった。父親のように真摯な叱責の声を上げる正太に、ただ言葉を失うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 基本的にラ・マンチャのディスプレイは碁盤目状に並んでおり、客の死角や袋小路が出来ないように工夫されている。それでも仮置きされたワゴン商品やディスプレイのサイズ、消火器等の消防設備のために、死んだスペースが一時的に生まれることはままある。無論そういった空間が生まれても、天井に張り付けられた視覚素子や重量を感知するスマートフロアは、そこで何が起きているのか決して見逃さないのだが。

 それでも取りあえず人目は凌げると陳列前の商品とお菓子怪獣で出来た物陰に、覚悟を決めて正太は蓮乃を引きずり込んだ。正太は頭一つ分背の低い蓮乃と中腰姿勢で頭のY軸を合わせると、床を見つめる蓮乃の顔を片手で上向かせて目線を合わせる。そして移動中に書き込んだノートをその眼前に突きつけた。

 

 『俺が怒ったのには我が儘言ったのも確かにある。だが一番は、こっちが拒んだ理由も聞かずに周囲を利用して我が儘を押し通そうとしたからだ』

 

 『兄ちゃんにもなんか理由があるの?』

 

 蓮乃の頭上に幾つもの疑問符が浮かぶ。いきなり理由と言われても想像もつかない。そもそも正太が怒っている理由だってよく判っていないのだ。我が儘が理由じゃなけりゃいったいなんなんだ。

 その理由を理解させるのが保護者代理である正太の役柄である。厳つい顔をさらに厳つくして考え込んだ正太は、出来るだけ平易な言葉でノートに書き込んだ。

 

 『どんなものにも理由はあるんだ。ぶっちゃけて言うと俺の財布の中身が少ないのが理由だ。で、お前の我が儘は俺の理由を無視してでも押し通すものなのか?』

 

 実の処、正太は蓮乃が我が儘を言うこと自体にはさほど文句はない。常々蓮乃に「言わなきゃ判らんから、言いたいことがあったらちゃんと言え」と言っているのだ。我が儘だって言いたいことの一つではあるし、言いたいことを我慢しても言いたいことは伝わらない。

 だから要求があるならちゃんと言葉にして欲しい。しかし要求されたからといって必ず要望を通すとは限らないのだ。正太の側にも事情というものがある。蓮乃の欲求を通すだけの都合のいい存在ではない。正太にも相応の利益があるか、最低限納得させるだけの訳がいる。

 なので今回は金がないと言う理由で拒否をした。そして拒否を示した以上、それを覆すだけのものがないのに蓮乃が無理を通していい道理はない。

 

 『理由知らなかったから判んない』

 

 正太の突き出した一文を目にして蓮乃は唇を尖らせて顔を逸らす。理解していないのではない。判った上で拗ねて理屈をこね回しているのだ。それに蓮乃としてはそんな理由は聞いていないのは確かである。

 蓮乃は他人の音声を理解できない。だから正太が文字にしなかった言葉は当然判らない。以心伝心してしまっていることに甘えた正太のミスと言えるだろう。

 

 『なら聞け。「言わなきゃ判らん、聞かなきゃ判らん」っていつも言ってるだろ』

 

 『後半分は言ってなかった気がする』

 

 いつもの負けず嫌いが出たかと歪みかける表情を正太は根性で眉根に封じる。ここで大声出して糾弾すればますます意固地になるだけなのだ。それに思い返してみれば、蓮乃の言うとおり「聞かなきゃ判らん」とは言ってなかったような気もしないでもない。なら、まずは謝罪が必要だろう。

 内心の溜息を太い鼻息に代理させて正太は文字をノートに刻む。ひねて横を向いた蓮乃は目線だけをノートと相対させた。

 

 『そうだな、なら聞かなかったことについてどうこう言うのは筋違いだな。すまなかった』

 

 「ぬー」

 

 自分の言い分が認められたのだと蓮乃が文句を声に乗せて突きつける。兄ちゃんが謝ったから正しいのは私で、だから叱られる筋合いもない。しかし、正太は揺るがない。相応の理由があるから叱るのだ。保護者代理として無責任に甘やかすわけにはいかない。

 

 『だが、我が儘を通していいのか判らないことと、押し通していいことは別問題だ。例えば、俺がお前に聞かずに面倒くさくなったからと勝手に家に帰るようなもんだ。そうしていいのか?』

 

 「う~」

 

 蓮乃としてもそれは嫌だ。正太に帰ってもいいかと聞かれたら『NO!』と答えるだろう。聞かれずに帰られたらもっと嫌だ。立場を変えれば自分がお菓子買って欲しいと我が儘を押し通そうとしたことを、正太が嫌だと感じていたという事になる。

 私は兄ちゃんに嫌な思いをさせていたのだ。自分のやったことがいい加減判った蓮乃は、バツと居心地が悪そうに視線を床に泳がせる。その頭を上から掴んで無理矢理正面を向かせる。目前には端的で強い一文。

 

 『それで言うべき事は?』

 

 理解できたことは重要だ。それ無しでは叱ったのではなく怒鳴っただけと変わらない。しかしもう一つ必要な事がある。それ無くして叱責は終わらない。蓮乃はそれをノートに書いた。

 

 『……我が儘を無理矢理通そうとしてごめんなさい』

 

 ノートに謝罪を書いて頭を下げる蓮乃を見て正太は深く頷いた。これで蓮乃を叱る件に関しては事は済んだ。そしてこれからは別の件に関わらなければならない。まずは楽しい時間を邪魔してしまった友香に対する謝罪の件である。特にさっきは邪険にするような台詞をぶつけてしまった。その分も謝らなければならない。

 

 『よし、これでお仕舞い。そんで俺と一緒に氷川さんにも謝るぞ』

 

 『友香ちゃんに?』

 

 これは私と兄ちゃんの問題じゃないかと小首を傾げる蓮乃に正太は頷いてみせる。せっかく遊びに誘ってくれたのに、蓮乃の叱責で放り出した分の詫び入れをする必要がある。

 だが蓮乃からすればそれは正太が始めたことだ。私の責任じゃないじゃないとフグよろしくブスくれたくもなる。

 

 『それ、兄ちゃんが私を怒ったからじゃないの?』

 

 『そらそうだが、我が儘言ったお前をお咎めなしでよしとする訳にはいかんのだ。実際、言わなきゃ判んなかっただろ?』

 

 「……ん」

 

 俯き気味ではあるが確かに蓮乃が頷いたことを確認し、じゃあ行こうかと振り返った正太は凍り付いた。

 仮置き商品の向こうから、あるいはディスプレイ越しにこちらを見つめる幾つもの目。何が起きているのかと興味半分好奇心半分で何人もが凸凹な二人を観察している。人集りとまでは行かないものの随分な数とそれをかき分ける人の姿に、正太の額から脂汗が吹き出した。

 固まる正太を不思議そうに見つめる蓮乃。正太の視線を辿ってみればただ一人に固定されている。仮置きの商品を乗り越えるその人物は、『ラ・マンチャ』の文字とロバのイメージキャラクターを印刷したジャケットを羽織っている。間違いなくラ・マンチャの店員であろう。

 こちらを見つめる誰かしらが人を呼んだに違いない。正太のヤクザ者じみた面構えと蓮乃の整った顔立ちを考えれば、自動的に美少女(蓮乃)が犯罪者(正太)に襲われているという発想が浮かぶだろう。親子だという勘違いを追加するなら、DV父親とその被害者の娘になるのだろうか。

 

 「済みません、ちょっとよろしいですか?」

 

 「……はい、判りました」

 

 正太はひきつった顔で受け答えしながら、最悪な予感に胸の内で涙をこぼした。


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