二人の話   作:属物

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第二話、二人が友達と出会う話(その二)

 児童養護施設である厚徳園には子供達しか知らない秘密が幾つもある。命徳山の秘密基地を筆頭に、『お菓子とジュースのへそくり』『秘密通信用の暗号落書き』『おもちゃの闇市場』などなど、当の子供達すら総数を知らない程だ。命徳寺時代から使われていない、離れの倉庫もその一つだ。ここは極秘の会議室として使われている。実は厚徳園出身の柳も存在を知っており、時々清掃や片づけをしているから正確には『子供達だけ』とは言い難いのだが、当の子供達は誰も気づいていないので問題はない。

 

 「……で、そんな感じだったんだ」

 

 「ふーむ」

 

 夕食後の自由時間の今、LED電球に照らされる談話室の中央で、相対したピーノと利辺がなにやら話をしていた。話の内容は今日の午後の話だ。お菓子やら雑誌やらが子供らしく散らばっている中、利辺が身振り手振りを交えて、名前も知らない思い人”向井 蓮乃”や、名前を知りたくもない付属物”宇城 正太”とのやりとりを説明している。ピーノは興味深そうに相づちを打ちつつそれを聞く。カッコ悪かったところを可能な限り誤魔化しているのは利辺のご愛敬だろう。

 一通り話し終えた利辺が、大きく息を吐いて足を投げ出した。改めて胡座をかき直したピーノは、癖なのか首後ろに手を当てて考え込む。

 

 「つまり、翔を邪魔しまくったそのデブチンさえいなければ、って訳か」

 

 「うん、それで上手くいくはず……多分……きっと……そうだろうと、思う」

 

 利辺からすれば蓮乃と仲良くなる一番の障害は正太だ。正太からすればまず一番の障害はお前自身だろと言いたくなるが、自分の後頭部を見るのは難しい。自己中二病に罹患しているとなれば尚のことだ。

 そんな利辺だが、一方的に正太に叩きのめされた事を忘れたわけではない。虚仮にしたつもりが、完全に道化にされた記憶はそう簡単に消えてくれない。実際、利辺の顔は自信なく床のクッションと雑誌を向いている。ついでに蓮乃にずっと唸られていたことを思い出し、利辺の表情がさらに落ち込んだ。

 俯き気味の利辺がすがるような視線をピーノへと向ける。百戦錬磨のピーノから教えを請い、思いを寄せるあの子へのアタックを成功させるのだ。

 

 「それで確実だろうと思うんだけど、もっと確実にしたいから、その、兄貴に口説き方とか教えて欲しいんだ」

 

 「口説き方って言ってもなぁ。これと言って特別なことをしているわけじゃないから、しょーじき教えようがないぜ?」

 

 だが、いつもなら快諾するだろうピーノの表情は優れない。困ったような考え込むような顔で首を捻っている。

 ピーノはセンスと才能の固まりで、大抵のことはノリと勢いでこなせてしまう。それは女性関係においても同じ事。ピーノにとっては『これで良さそうだ』と感覚が訴えた行動をとればほぼ正解となる。それを他人に教えろと言われても、二足歩行のやり方を教えるのと同じようなものだ。

 利辺はそれでもと食い下がる。ピーノの手助けなしで正太相手に勝てる自信はない。自分で打つ手がないから恥を忍んで憧れの兄貴に頼み込んだのだ。

 

 「そりゃピーノ兄貴ならそうなるだろうけど、なんかこう声をかけるときの台詞とかさ、ない?」

 

 「ええっと、『ちょっといいかな』とか『今時間ある?』とか、そんな感じだな」

 

 「遊びに誘うときとかは?」

 

 「大抵向こうからは『遊びに行こう』って言われるな」

 

 鳥に飛び方を聞いたところで、魚に泳ぎ方を聞いたところで、人間の手段にはそのまま適用できない。それを使いたいなら重量や形状など前提条件を合わせる必要がある。ピーノの場合ならセンスと外観と才能辺りだろうか。

 利辺の首ががっくりと落ちた。そんなもんないから指導を求めている訳で、それがあったら最初からそれで何とかしている。ピーノが頭を捻って絞り出した答えは、どれもこれも何の役に立たちそうもなかった。

 

 「……兄貴ってさ、役に立つアドバイスないし、実は恋愛下手なの?」

 

 教えを求めておきながら、利辺の目が逆恨みがましく細まる。もっとも恋愛に使えるテクニックを求めて、使えないやり口ばかり返されたのだから恨み言の一言二言は呟きたくもなるだろう。それに利辺を泣かせかけたお詫びにモテのテクを教えると言ったのはピーノの方だ。

 

 「モッテモテの俺に何を言ってるんだ。俺から女の子が途切れたことはないぞ」

 

 不満をたっぷり込めた利辺の指摘をさらりとかわすピーノ。事実、それで幾多の女性をモノにしているのだ。自分が成功した手段を聞かれて、助けにならないと文句を言われても困る。それでも、微妙に目線を反らしているあたり、内心に何のやましさもないという訳ではないようだ。

 実際、過去を省みてみればピーノ自身恋愛にあまり能動的ではない。大抵が女性側から声をかけられて話が始まっている。言われてみれば、恋愛が得意でない可能性があるかもしれないような気がしないでもないけど……いや、『ピン!』と来た娘には声をかけてるし、俺モテるからダイジョブ! ダイジョブダッテ!

 自分にいろいろ言い聞かせながら、ピーノは話を別方向に逸らしにかかった。

 

 「そーいや、そのお前が好きな子ってのはどんな感じなんだ?」

 

 「ええっと、その、まんま園長先生の部屋にある日本人形みたいな感じな、すごい美人な子でさ。それで、笑うとすっげぇ可愛いんだ。それも綺麗なのと相まって、びっくりするくらいに綺麗なんだ! 月検診で始めて見たとき、もう息が止まるかと思ったくらい凄かった!それでそれで……」

 

 ピーノの話題逸らしにあっさり乗っかり、利辺は思い人について身を乗り出して語り出す。実は乗っかったというよりも、単に好いたあの子について喋りたかったのかもしれない。立て板に水どころか岸壁に大波の勢いで、好きな子について語り倒す姿は、それ以外の考えがあるとは到底見えなかった。

 話を反らせたはいいが利辺の想定以上の勢いにピーノの表情がうんざりの一言に染まる。他人の自慢話と惚気話ほど聞いていてつまらないものはない。それが可愛い弟だとしても聞いて楽しいとは思えない。なので話を反らしたピーノが、反れた話を戻しにかかった。

 

 「あ~~~っと、すっげぇハクい子なんだな、判った判った。そんでその子を落とすためにアドバイスが要るんだっけ?」

 

 「うん、何かいいの、ない?」

 

 途端にダム放水の勢いが、渇水ダムの泥溜まりに変わる。利辺の記憶は本日午後の図書館でのあれこれへと舞い戻った。惚れた相手の目の前で、その付き人相手にいい様にやりこめられ、ついには泣いて逃げ出す羽目になったのだ。その相手に勝てるビジョンは未だに見えない。

 視線と自信を下げた利辺を、ピーノは何やら考え込む顔で眺めている。そして考え込んでいた何やらについて思いついたのか、ピーノの表情が悪ガキの悪戯顔に変わった。下を向いた利辺の耳元に口を寄せて、ココアバターを塗ったかのような唇で二言三言を耳打った。何やらを呟かれた利辺の顔が跳ね上がる。天使じみた綺麗なまん丸の目が四方八方に走り出した。

 

 「え、え、え、え!?」

 

 「どうだ? 少なくとも俺なら上手くいくぜ?」

 

 これならどうだと、自信満々の面構えでピーノが豪語する。だがピーノなら成功する方法が、利辺は使えないと結論づけたばっかりだ。ピーノの兄貴なら適当にやっても成功するだろうが自分には無理だと、自信がない利辺は顔を下に戻してボソボソぼやく。

 

 「いや、でも、それ兄貴だから上手くいくんだし……」

 

 「何言ってんだ、おまえは俺の弟だろ。上手くいかないわけがねぇよ」

 

 心配すんな自信出せとピーノは利辺の肩を叩いて気合いを入れる。僅かに顔を上げる利辺の目の前で、ガキ大将の快活な笑みと共にピーノは力強く親指を立てた。憧れの兄貴からの叱咤激励に、利辺の顔にやる気が現れる。目指す理想からここまで言われて、立ち上がらなくちゃ男が廃る!

 文字通り立ち上がった利辺は、ハルマゲドンに挑む天使の面で拳を握りしめ気合いを入れる。気合い十分の利辺の姿に自分も調子が出たのか、ピーノも立ち上がり掌に拳を打ち付けた。

 

 「そうだ、俺はピーノ兄貴の弟なんだ! できないはずなんかない!」

 

 「そうだ、その意気だ! よし、思い立ったが吉日だ! でも今日は遅いから、明日帰ってきたらすぐ行こう! ……で、その子は何処にいるんだ?」

 

 ピーノがふと気づいて付け加えた一言に、利辺は口を「あ」の形にして呆けた。相手を口説きたいなら、相手の所に行かなければならない。当たり前の話だ。一番重要なことなのに、利辺は一片たりとも考えていなかった。そもそも正太にけちょんけちょんにやりこめられて、蓮乃の居場所を知るも何もなかったりするのだが。

 

 「兄ちゃんどうしよう」

 

 「オイオイオイオイ、名前を知らないくらいならどうにでもなるけどさ、流石の俺でも居場所も分かっていない相手は無理だぜ?」

 

 泣き顔寸前の視線で利辺はピーノに縋りつく。あまりのショックにピーノの呼び方も昔のそれに戻ってしまっている。勢いが乗ったところに水を差されてピーノの口からため息が漏れた。弟の大ポカに、額に手を当て天井を仰ぐ。

 再び顔面が真下を向いた利辺と、天井を見上げ首を捻るピーノ。倉庫の中は沈黙に包まれた。暗礁に乗り上げた事態を海路に戻すべく、ピーノは首と一緒に頭と知恵を絞る。場所として可能性があるのは精々が話にあがった公園と図書館、後は初めて出合った月検診の病院だろうか。どれもこれも確実性に乏しいが、他に手はなさそうだ。

 とりあえずの次善策を決めたピーノは、床に沈み込みそうな利辺へ呼びかけようとする。その時、沈黙を破りノックの音が響いた。

 

 「つかってまーす」

 

 極秘の会議室となっている離れの倉庫だが、極秘だけに使用予定がブッキングすることもままある。そう言う場合はトイレ同様に使用者が優先だ。トイレと違って内側から鍵がかけられないので、ノックがルールとなっている。そしてノックに使用者の返答が返されたら、当然来訪者は侵入できない。だが、ノックの主は躊躇なく無視した。

 

 「わかってまーす。でも、お邪魔しまーす」

 

 明るい声と共に扉が開く。倉庫のLED灯の下でも鮮やかな、茜色の赤毛が真っ先に目に入る。ニコニコという言葉を表情にしたような笑顔の中で、海の色をした両目が底の抜けた光を宿している。扉の向こうにいたのは、帰宅時にベンチに母井と二人で腰掛けていた友香だった。

 

 「友香!? なんで入ってくんだよ! 使ってるって言った……」

 

 「その子にあたし、会ったこと有るよ」

 

 極秘の会議を邪魔された利辺は当然血相を変えて詰め寄る。他人に聞かれたくないから離れの倉庫を使っていたのだ。家族ではあるが部外者にクチバシを突っ込まれる筋合いはない。だが利辺の台詞に、友香は被せ気味のカウンターパンチを返した。

 上がった血の気が引いて、利辺の血相が赤から青に変色する。どう考えても友香の言葉は、二人の会議を聞いていなければ出てこない。繰り返しになるが、他人に聞かれたくないから離れの倉庫を使っていたのだ。それを聞かれてしまっては何のために極秘の会議をしていたのか。もしも言い触らされたら、穴を掘って埋まるしかないだろう。

 それに加えて友香の言いぐさは、利辺の思い人と出合った事があるという意味だ。つまり彼女の居場所を知っているかもしれないということでもある。利辺の知らない所で出合っているのなら、少なくともそこに行けば会える見込みがあると言えるだろう。

 

 「何でそれ知ってるんだよ!?」

 

 秘密を握られた事実と、愛しのあの子に出会える可能性。二重の衝撃に利辺は目を剥いて友香に迫る。だが大声を上げて詰問する利辺に対して、ピーノの顔は冷凍庫に放り込まれたチョコレートの如くに酷く冷めていた。

 

 「そりゃ、月検診で翔が会ったこと有るんだから、友香も会ったことくらい有るだろ」

 

 「ありゃ、バレちゃった」

 

 ちょっとした冗談がバレたと言わんばかりに、悪戯っぽく舌を出す友香。目を除いてテヘペロと誤魔化すように笑うが、それを見るピーノの目は冷たいままだ。ピーノは厚徳園の皆を家族として大事に思っている。だからこそ、家族内で嘘を付き合う様な間柄は御免被る。

 冷えきったピーノの視線とは対照的に、利辺の目線は燃えそうな程の高熱を帯びていた。血走った目付きの利辺は、舌を出す友香に再び詰め寄る。正太に秘めた気持ちを暴露された時同様に、暴発直前の様で今にも飛びかかりそうだ。

 

 「ふざけんな! っていうかやっぱ話を聞いてたのかよ!? 言うなよ、絶対言うなよ! 言ったら魔法使うぞコノヤロウ!」

 

 「落ち着けよ、翔。ここで魔法使ったら警察が飛んできて全部喋る羽目になるぞ」

 

 冷めた顔のままピーノは立ち上がると、暴発寸前な利辺の肩を掴み力ずく座らせる。炸薬に火がついた利辺が無理矢理立ち上がろうとするものの、能力も魅力も腕力もピーノが上だ。結局、突撃を諦めた利辺は不完全燃焼の面で友香を睨みつけた。

 魔法使いの証である『腕輪』には、魔法使用を感知する機能と魔法使用を通報する機能が備わっている。つけたまま設定感度以上の魔法を使用すれば警告の電子音が鳴り響き、それでも魔法を使い続ければ近くの警察署へと通報される仕様だ。当然通報されれば近所の警官が大急ぎで厚徳園へやってきて、利辺は事情全部を話す羽目になる。小学生の恋愛事情で呼び出されたお巡りさんはさぞかし微妙な顔だろう。

 

 「友香も急にどうした。この話は利辺の話で、友香にはマジに関係ないだろ?」

 

 一酸化炭素が吹き出そうな荒い呼吸を繰り返す利辺を押さえ込みつつ、いぶかしげなピーノは友香に問いかける。ピーノが口にしたように、これは利辺の惚れた腫れただ。同じ厚徳園の住人である以上の関係性は友香にはない。そう言う意味ではピーノも同じだが、利辺の内心を言い当てて協力を言い出した分関係はある。

 

 「関係で言うならあたしだって翔くんと大体同じでしょ? あたしもその子に会いたいから、ついて行かせてもらえる?」

 

 ピーノの疑問に友香は肩をすくめて返すとマットに腰を下ろした。普段と違う調子に面食らったのか、鳩が豆鉄砲の代わりにアーモンドチョコレート食らった顔でピーノが見つめる。ピーノの記憶にある普段の友香は、年相応にもっと子供子供していた筈だ。

 

 「なんでお前を連れて行かなきゃならないんだよ!」

 

 だが、頭に血が登り切った利辺は、ピーノの抱いた疑問に全く気付く様子はない。ピーノが首根っこを抑えていなければ、今にも飛びかかって噛みつきそうだ。ピーノの表情にカカオ一〇〇%の苦みが混じる。いつもは兄ちゃん兄ちゃん言って後をついて回る可愛い奴なんだが、恋愛ごとになるとこうも暴走する奴だったとは。

 

 「あたしが勝手に付いてくだけ。それにその子と翔は上手く行ってないんでしょ? それに翔くんが女の子の気持ちが分かってないってのもあるんじゃない?」

 

 前のめりに食ってかかる利辺を、友香は軽く手を振ってあしらう。

冗談めかして小首を傾げた友香の言葉に、急所を突かれた利辺は顔を歪めて下を向く。記憶を遡ってみれば、愛しのあの子は随分とあのデブチンな付属物に親しい様子だった。憧れの兄貴相手ならともかく、あのデブチンに顔立ちで負けている部分はない。ならば他の理由があるはずだ。

 正太が聞いたら納得しつつも殴りかかるだろう思考を、利辺は黙りこくって考え込む。利辺の様子を観察し、一番の反対者は言い負かしたと結論づけた友香は、場の主導権を握っているピーノへと向き直った。

 

 「あたしがついて行ってもいいかな?」

 

 「まあ、それはいいけどさ」

 

 余りにあっさりと出された許可に利辺が顔を跳ね上げた。驚愕に塗りつぶされた表情でピーノを見つめるが、ピーノはそれに気づくことも気にすることもなく言葉を続けた。

 

 「舞と一緒でなくていいのか? 友達だろ?」

 

 ピーノと利辺が帰ってきたときもベンチで一緒だったように、母井と友香はいつも一緒の親友関係だ。風呂も寝るのも遊ぶのも常に二人で、一人の姿など便所に行くとき位しか見たことがない。それどころか、トイレも大抵連れ立っている。正直、ピーノは友香が一人で離れにやってきた時点で意外に感じていた。

 そして友香が見せた表情は意外という言葉を越えていた。子供っぽいニコニコと書かれた笑顔の下から姿を見せたのは、嫌悪の形に大きく歪んだ表情。年以上に大人っぽい母井とは対照的に、年相応に幼い友香は感情豊かだと、厚徳園の皆は認識している。時に喜び、怒り、泣き、笑う。少なくともピーノも利辺もそう思っていた。だが目の前で嫌い厭う顔を見せる友香は、記憶の姿と結びつかない程に年齢不相応の暗く濁った感情を漂わせていた。

 終ぞ見たことのない友香の表情に、ピーノと利辺は驚愕に呆ける。ギョッと書かれた呆然の面を向けている二人に気付いたのか、友香は大急ぎで常の笑顔の下に歪んだ表情を沈めた。だが鎮めきれなかった気持ちが揺れ動く視線から漏れ出てくる。弁明の言葉を口に出そうとするものの、焦りからか声は上手く出てくれず、一度深呼吸してからようやく姿を見せた。

 

 「……友達だからって限度ってものがあるよ。プライベートはプライベート、プライバシーはプライバシー。親しき仲にも礼儀あり。きっちり分けなきゃ、ね?」

 

 遅れが始めに出たせいか、友香の言葉は微妙に早口だ。それに出した言葉もいつもの幼げなそれではない。一〇という歳には相応しくないほど大人びた口調だ。何でもないと言外に言うように、最後の「ね?」を強めて口にする。異常を誤魔化す笑顔の仮面も、少しばかり浮いて見える。

 

 「まあ、いいんじゃない?」

 

 驚いた割にはピーノの返答は淡泊な肯定だった。あどけない印象の強い友香だが、何かと園を留守にする自分の知らない顔があっても可笑しくない。ましてや人間は成長するものだし、思春期女子の変化はなおのこと著しい。想像もしてない面の一つや二つあるかもしれない。それに親友同士とはいえ、巧く行かないこともあるだろう。

 

 「……兄貴がそう言うなら」

 

 一方の利辺も不承不承ではあるが、首を縦に振った。既に秘密の話は聞かれているし、自分の隠したいこともバレている。厚徳園中に言い触らし回されるよりはずっとマシだ。それにさっきの顔は友香にとっても隠しておきたいことだろう。お互いの秘密を握っておけば裏切ることはない、その筈だ。

 二人の返答を聞いた友香の表情に変化はないが、まとう空気には安堵したような雰囲気が醸し出される。どうやら利辺の想像は的を射ていたらしい。

 

 「じゃあ、何処でその子を探すか考えるとするか!」

 

 利辺と友香の様子を確認し、ピーノは話は終わりと両手を打ち鳴らす。三人は額をつきあわせて相談を始めた。


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