二人の話   作:属物

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第五話、三人でお菓子づくりの話(その二)

 正太がラムネのビー玉を押し込むと、軽い空気音と共に炭酸ガスがきめ細やかな泡をまとって溢れ出た。南国色のビンにラムネの泡が滴り、下敷きの付近に吸い込まれた。急いでコップに注ぐと、人工的にさわやかで甘い芳香が周囲に満ちる。

 正太は胸一杯に工業生産のレモン香を吸い込んだ。夏場の暑いときなんか、この臭いと炭酸の弾ける音だけで汗が引くような気がする。自然志向の人間からは文句を付けられるかもしれないが、自分としてはこの臭いがとても好きだ。そもそもレモンの取れない日本でレモネードを作ろうとしたのがラムネなんだから、自然主義なら炭酸水にレモン絞って砂糖入れてレモネードを作ればいいのだ。

 下らないことを考えつつ、正太はラムネを二つのコップに注ぐ。一つはもちろん正太の分、もう一つは目の前で俯いたままの蓮乃の分である。

 

 「ほれ」

 

 約六割五分ほどをラムネで満たしたコップを滑らせて、ソファーに体を沈ませた蓮乃の前に押し出す。ほんの少しだけ顔を上げてテーブルの上のコップに目をやるが、蓮乃は手を伸ばさない。その様子を見て小さく嘆息すると、電話横から持ってきておいたメモに同じく持ってきたボールペンで『飲め』と書き込んでコップの横に付き出した。それを読んだ蓮乃がおずおずとコップに手を出したのを見て、正太はもう一つ息を吐いた。

 蓮乃が落ち込んでいるとどうにも調子が狂う。いつもは日本晴れ脳天気娘も、今日の日和は雨模様らしい。事情を聞くに聞けんが聞かぬ訳にもいかないわけで、意味のない文言がどこかばつ悪げな正太の口から漏れ落ちる。

 

 「あーその、なんだ」

 

 蓮乃は障害の関係上、言葉を聞き取ることはできない。なので正太は頭を掻きながら、メモにペンを走らせた。

 

 『なんかあったのか? 話せるなら話してくれ』

 

 さっき箇条書きにした一.から三.を満たすものの、相手への配慮と婉曲表現にやや欠けた文章だ。それでも正太のさほど大きくもない器の残量から考えると、できる限りのことをしたと言えなくもない。

 だが、蓮乃の返答はなかった。ちらりとメモに目をやってそのまま俯くだけだった。静寂と沈黙が居間を満たした。窓の外からわずかに人の声が漏れ聞こえるが、部屋の中にはメダカの水槽で稼働中のブロワーと、残りの炭酸を吐くラムネしか音を出すものはない。

 

 後頭部を掻きむしる手を強めながら、正太は渋面を深くした。爪を立てて掻くせいで、頭皮が削れてフケが落ちる。こんなことをしていれば、ただでさえ暗い正太の毛髪の未来が暗黒に包まれてしまうだろう。もっとも反射率的な意味ではずいぶんと明るくなりそうだが。

 正太は頭を掻く手を一度止めて頬杖を突き、下を向く蓮乃へと顔を向けなおした。とりあえず自分の将来の頭部については一時置いといて、目の前の蓮乃のことを考えねばなるまい。蓮乃は自分が書いたメモの文面を見ている。その上で何も書かない以上、「なんか」について話す気がない、と判断すべきだろう。少なくとも「なんでもない」ということはあるまい。そうならば、そう書けばいいだけの話なのだから。

 代名詞だらけで自分以外解らないような思考をつらつらと進め、正太は身も蓋もない結論に達した。

 

 ――つまり、聞いたところで無駄か。

 

 さて、どうしたもんか。話す気になるまで放っておくのがいいだろうか。正太はむやみやたらと長いため息を吐くと、上体を起こして左右にひねった。先の首のように脊椎内の間接液でぱきりぱきりと気泡が生まれる。同時に伸びる背筋に心地よさを味わいながら、正太は長い息を吸う。さらに続けて指を組んで肩と腕を伸ばすと、固くなった体から強ばりと凝りが絞り出されるのを感じた。

 一方蓮乃は、何が気になるのかちらりちらりと正太の挙動に視線だけを向けている。叱られた子供のように上目遣いでおそるおそる正太の様子を観察している。だが、正太の視線が向けられると、途端にバネ仕掛けのように目線は下向きに舞い戻ってしまう。

 その様を見ながら正太はラムネを口にした。しゅわしゅわと爆ぜる炭酸が舌を刺し、続いて果糖の甘みが口中に広がる。ともすれば喧嘩し出す二つの感覚を柑橘の風味がまとめあげ、炭酸水はするりと喉を通り抜けた。しかし、好物であるラムネの味も喉越しも無意識のまま正太の脳裏をすり抜けてゆく。代わりに正太の脳内に居座っているのは、下を向いたままちびちびラムネをすする蓮乃の顔立ちについての、益体も無い感想だった。

 

 ――ほんっとにこいつ、顔立ちは整ってんなぁ

 

 母親である睦美の顔を見れば解るように、蓮乃の顔は日本中の同年代と見比べても最上位に入り込めるだけのものを持っている。いつもは元気一杯の百面相に気を取られて、BGMの様に顔立ち自体が強い印象を与えることは少ない。

 しかしこうしてその表情を大人しくさせると、本来の美麗衆目な目鼻立ちが存在感を発揮し出すのだ。そしてその顔は、女性の外観に対する審美眼のない正太から見ても、美を売りにする業界で食っていける水準であった。いや、素のまま生のままそのまんまでこれだけのものを持っているのだ。メイクアーティストやプロ写真家による底上げなしで対等と思えることを鑑みれば、その上を行っていると言えなくもない。

 ある種の公にし難い趣味をお持ちの方なら、この顔を見ただけで涎が止まらなくなるだろう。

 

 そう言えば、と正太はコップをテーブルに戻しつつふと気が付いたことを脳裏に浮かべる。そんな素敵な外観をお持ちの蓮乃に対して、何で俺はあんだけぞんざいに扱えるのだろうか。いやまあ、そこまで無茶なことをしているつもりはないが。というか無礼なことをしているのは主に蓮乃の方だろう。

 口周りに残ったラムネの滴を行儀悪く舐め取りながら、正太は理由を考える。答えはあっさりと出た。

 

 慣れだ。

 

 「美人は三日、ブスは三年で慣れる」というが、蓮乃と顔を付き合わせるようになってからゆうに三日以上が経過している。顔立ちにショックとインパクトを受ける時期は等の昔に過ぎていた。

 ただ、「三日たっても美人は美人、三年たってもブスはブス」であり、蓮乃の顔立ちが整っていることを否定するつもりはないが。それと、先に考えていたように、蓮乃の場合顔立ちよりも表情のインパクトの方が強い。だから外観を気にしないで対応できるのだ。少なくとも自分としてはそう考えられる。

 しかしながら、その性格だからモデル業やアイドル業で食っていくのは非常に難しいと言えるだろう。なにせ自分の浅薄な知識によれば芸能業界とは「阿片窟と魔窟を足して倍にした所」であり、「ドブの汚泥を排泄物で煮詰めて汚染物質を隠し味に入れた多粘性の何か」が満ち溢れているのだ。このお気楽極楽道楽娘が、その業界の闇を泳ぎきるのはほぼ確実に不可能だろう。

 

 業界の人が聞けば整形が必要なレベルまで殴りつけられそうな、非常に偏った考えのもと正太は思考を進める。燃費の悪い脳味噌に燃料の糖分を注ぐべく、正太はもう一口がぶりとラムネをあおる。残りコップ一/三程度のラムネはあっと言う間に食道を通り抜け、空のコップがテーブルの上に戻った。そして空っぽになったコップに、正太は音を立ててラムネを注ぐ。膨れ上がった真っ白い泡が表面張力と一瞬の綱引きの後、コップの中にすごすごと引き下がった。

 ちらりと蓮乃に目をやると、さっきよりも勢いよくラムネを口の中に注いでいる。甘いものを飲んで幾らか気分も回復したようだ。ありがたいことである。ただ、こちらが目を向けていることに気が付くとあっと言う間に、元の下向きに戻るのは少々閉口する。

 

 顔を戻した拍子に、重力を忘れたように長い黒髪がふわりと舞った。烏の濡れ羽色の髪が、紗(うすぎぬ)の如くに顔を覆う。天井からの有機EL灯が髪を照らして、テーブルには半透明の影が映っている。それを見て正太の取り留めのない思考が、締め損ねた半端な蛇口のようにだらだらと流れ落ちる。

 そう言えば清子の奴が蓮乃の髪をいじりながら「反則だ」とぼやいていた。「風に乗るくらい柔らかくて軽いのに、首の一振りで寝癖が取れるくらいしなやかで、そのくせ腰があるなんて卑怯」なんて言ってたか。

 我らが母から自分たちは天然パーマのくせっ毛を受け継いでいるが、女子である清子にはそれが悩みの種らしい。だから蓮乃の髪をいじくりながら、羨ましさと妬ましさをやり切れなさでくるんだような顔をしていることが時々あった。

 その点、男子は楽だ。スポーツ刈りにすれば、くせっ毛だろうが天然パーマだろうが何の関係もなくなるのだから。それに父の頭部をみるに短くしておいて損はない。遺伝子がその実力を発揮すれば、丸刈りか坊主頭以外の選択肢を失ってしまうのだから。

 

 下らないことを考えながら、さらに正太はコップの中のラムネをあける。気がつけばラムネはコップの半分を下回っていた。正太は飲んだラムネを補充すべく瓶を傾けるが、注ぎ口からわずかに滴るだけだった。ラムネは瓶一本で三〇〇ml程度。二人で飲めばあっと言う間に空っぽだ。

 口の中で小さく舌打ちすると正太はソファーから立ち上がった。まだなんか飲み物残ってただろうか。それにラムネばかり飲んでると口の中が甘ったるくなってくる。いい加減塩っ辛いものもほしい。それとなんか食わせれば蓮乃の機嫌ももう少しましになるだろう。

 

 ラムネ以上に甘い希望的観測を前提に、残り少なくなったラムネをくぴくぴと飲む蓮乃を置いて、正太は居間と直結している台所へと歩きだした。そして、空っぽになったラムネ瓶を蓋とビー玉と瓶本体に分解して流しに放り込むと、飲み物とおやつを求めてお菓子置き場にしている開きをのぞき込む。その視線の先には「なにもない」という事実だけがあった。

 形而上学的な「不在の存在」についての思索はさておき、思い返せば先日蓮乃に宇城家のお菓子を半分以上食いつくされてから、補充をまともにしていない。その状態で蓮乃が遊びに来る度にお菓子を毎度出していたのだ。それでお菓子が残ってる方がおかしい。空虚な空間を眺めながら、正太は一つため息を吐いた。最近、ずいぶんとため息が増えた。

 

 「どーしたもんだろ」

 

 いつもの口癖をぼやき顎に手を当てて、おやつの不在という現実について正太は苦い表情を浮かべた。これが母か妹ならば上新粉やらデンプン粉やらからぱぱっと素甘の一つくらい作って見せるのだろうが、生憎自分は食う専門で「料理のさしすせそ」もまともに知らぬど素人だ。塩と醤油のどっちが「し」だ? 「せ」は背油だっけ?

 さらにお菓子づくりが趣味の妹が言うには「お菓子づくりは化学実験の一種」とのことだ。曰く「正確な計量と正確な時間、正しい温度に正しい手順が必須」とのことである。となれば、「目分量」「勘」「大ざっぱ」「適当」「バカ舌」のロイヤルストレートフラッシュをキメた自分が手を出すのは不可能に等しい。下手をすれば台所で大惨事を起こしておいて、焦げた砂糖ができあがりました、なんて落ちが待っていたとしてもおかしくない。

 

 してどうしたものか。空っぽの開きを前に、和式便器で踏ん張る体勢の正太は、首を捻ってアイディアを捻りだそうとする。だが便秘一週間目の朝の如く、腹の底からはなにも出てくる様子はない。ホットケーキミックスや懐中汁粉でもあれば自分でも何とかできなくもないが、そんな都合のいいものは我が家にはない。強いて言うならば非常用の持ち出し袋に保存食が入っているが、それを日常のおやつに使ったら両親からの非情なるお仕置きが待っているのは確実だ。

 何とかして何とかしようと、正太は首ならず上半身まで捻り出す。やっぱり現状突破の発想が出てくる気配はない。体を捻りすぎたせいで片足が浮き上がり、四股を踏む姿勢へと変化する。その拍子にバランスを崩したのか台所の床に転がると、シンクの下に頭をぶつけた。勢いが無いからさほどでもないが、少々痛い。

 

 もうこうなったらしょうがない、無いものは無いのだ。正太は体勢を仰向けに変えると、天井の有機EL灯を見ながら結論づけた。頭を捻ってなんにも出てこない以上、いい加減諦めるしかあるまい。都合のいい解決策が、窓の向こうから飛んでくるわけでもないのだから。蓮乃にはお菓子がないことを話して、粉飴たっぷり入れて甘くした豆乳で我慢してもらうか。

 お菓子の不在に一応の決着をつけた正太は腹筋の力で上体を起こすと、フローリングに手を突いて立ち上がった。そしてそのまま粉飴の瓶を手にとって、豆乳を出すべく冷蔵庫の取っ手に手をかけた。その時だった。

 

 「たっだいま~~~」

 

 さほど長くない正太の人生の内、六/七ほど聞き覚えのある声が聞こえてきた。どうやら、都合のいい解決策は飛んでこなかったが、歩いて帰宅してきたらしい。さてさて、「噂をすれば影が差す」というが、頭に浮かべていただけでそいつが来た場合は何というのだろうか。

 どうにも都合がいいタイミングに苦笑しながら、正太は妹である”宇城清子”へ挨拶を返した。

 

 「あーーー、おかえんなさい」

 

 

 

 

 

 

 荷物をおいて居間にやってきた清子は、静かに周囲を見渡した。清子の目に見えるのは、テレビ横のソファーに向かいで座った正太と蓮乃の姿だ。正太はどこか憮然としたような表情で空のテーブルに頬杖を付き、所在なさげな様子の蓮乃は豆乳を舐めるように飲んでいる。清子の姿に気がついたのか、何か安堵したような様子の正太は「おかえり」と軽く手をあげて帰宅の挨拶を返した。一方の蓮乃はというと、ちらりと清子に目を向けると「んっ」と小さく返事をしただけで、下を向いて豆乳を飲む作業に戻ってしまう。

 二人の様子を見た清子は何か考え込むように目を細めて口を手で覆った。それから三〇秒ほど経って、考えのまとまった様子の清子は口を開いた。

 

 「つまり、蓮乃ちゃんが落ち込んでるのでお菓子を上げたいけれどお菓子がないと」

 

 開口一番状況を把握しきった清子の台詞に、正太は目を丸くした。

 

 「オイ、俺まだ何も言ってねぇぞ」

 

 「周り見ればだいたい解るよ」

 

 何でもないことのように清子はさらりと答える。ただ、正太は気づかないが清子の口元に、自慢げな笑みがほんのわずかだが浮かんでいる。

 

 先ほど居間にやってきたばかりの清子が周囲を見渡して気付いたのは、

 一.いつも元気が溢れている蓮乃ちゃんが妙に大人しい

 二.兄と蓮乃ちゃんの二人がお菓子を食べずにジュースばかり舐めている

 三.ここ数日お菓子をよく食べたが補充した覚えがない、の三点だ。

 

 蓮乃ちゃんと出会った初日にすごく落ち込んでいたことがあったので、そのときの様子から一.は「何かあって気分を落とした」状態であると想像できる。そして、その時に兄は「お菓子とジュースで」蓮乃ちゃんのご機嫌をとったので、今回も同じようにするだろうと予想できた。なのに二.の事実があるわけで、それに三.を加えれば現在の状態を推察するのはさほど難しくないのだ。

 

 「まぁ判ってるんなら話が早いや。ちょっとなんかお菓子作ってくれないか?」

 

 首を何度も縦に動かし一頻り感心した様子を見せた正太は、まるで「ちょっと近くのスーパーに買い物に行ってくれないか」とでも言うように清子にお菓子作りを依頼した。清子はお菓子作りを趣味としているわけで、簡単なものならば、一時間少々もあれば作るのは難しくないだろう。

 

 「あのさ、お菓子作るのだって相応の時間と手間がかかるんだけど。それとも何? 兄ちゃんがスーパーでお菓子買ってくるのは、そんなに難しくて大変なことなの?」

 

 しかし正太の気軽な言葉を聞いた瞬間、清子の視線は冬の雨のようなじっとりと冷たい色彩を帯びた。この世には質量保存の法則があり、魔法でも使わない限りポケットを叩いたところでビスケットは増えたりしない。増やしたければ必要な材料を持ってきてもう一枚焼き上げる必要があるが、当然それには相応のコストがかかる。それにもかかわらず気安く頼んでしまったおかげで、清子内の正太への評価は、紐無しバンジーよろしく急降下真っ最中であった。

 

 「いや、そーいう訳じゃなくてさ」

 

 色々鈍い正太といえどもさすがに清子の機嫌がフリーフォールしているのに気が付いたのか、言い訳る様に両手を付きだし反論を試みた。

 

 「おあしがないのは言い訳にならないよ」

 

 清子は最近の正太の懐がずいぶんと涼しいことを知っていた。確かに自宅にある材料で家族の一員である自分がお菓子を作るならば、「兄にかかる」コストはほぼゼロとなるだろう。だが先ほど口にしたように、お菓子作りをする自分は時間と手間をそれなりにかけなければならない。その分の労働コストは一体どこの誰が払ってくれるのだろうか。目の前にいる兄か?

 

 「……それもあるけどそれだけじゃない」

 

 冷たいジト目で睨む清子の発言を認めつつも、正太は反論を続けた。自分の財布の中身がうら寂しいのは清子の言うとおり事実だ。しかし、お菓子が要るのは蓮乃の落ち込みっぷりを何とかするためである。あわよくばと思わなかったと言えば嘘になるが、ちゃんとした理由もほかにあるのだ。

 

 「お菓子づくりの手伝いをさ、蓮乃にやらせてくれないか?」

 

 正太が発した予想外の言葉に清子は目を丸くする。下手な考えなら門前払いのつもりだったが、以外や以外に結構いけるかもしれない。清子の中で急降下爆撃している正太の評価がわずかに機首をあげた。

 

 「蓮乃ちゃんに?」

 

 「そうだ。おやつ食わせるのも効果がないわけじゃないと思うけど、そっちの方が気分転換になるだろうと思う」

 

 真剣な表情で正太は詳細を話す。思いがけなかった正太の真っ当な考えに、清子は顎の下に手を当てて考え込む姿勢に入った。

 確かに単にお菓子を食べさせるよりも、ご機嫌回復の効果がありそうだ。受動的にぼんやりと甘いものを口にするよりも、能動的に手を動かして作業する方が気が紛れるだろう。それに自分で作ったお菓子ならば喜びもひとしおだ。事実、自分はそれが好きでお菓子作りをやっているのだから。

 

 「なら、いいかな」

 

 納得した清子は正太のアイディアに頷いた。

 

 「でも、働かざるもの食うべからず。兄ちゃんも手伝ってよ」

 

 「え」


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