ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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暗殺教室の方が滞ってるなぁ。今日明日でそっちも更新したい。
では、こちらの方も張り切っていきましょう。レットvsヴァイスです。彼との出会いがレットを変えます。とはいえ、短いかな?


07.血塗れの白

「じゃあ、始めようぜ! イッツ・ショウ・タイムだ!」

 

 その言葉と共に、俺の方へ向かって来るヴァイス。俺はタイミングを計り、刀を振り下ろす。

 

 ガキィンッ

 

 俺の刀とヴァイスの剣が静かな聖夜に金属音を響かせる。

 

「オレンジのくせに、かなりのプレイヤースキルだな。お前、攻略組に入らないか?」

 

「生憎、この世界からの解放に興味はない。オレが求めるのは、人を殺す時の快感。さぁ、お前もオレの前で死んで見せろ!」

 

「誰が、死ぬか!」

 

 再び、2本の武器が金属音を響かせる。しかし、次第に両刃の剣が片刃の刀を押し始める。

 

「くッ! 重いッ!」

 

 でも、負けるわけにはいかない!

 

「ぃやぁぁああああ!」

 

 俺は上段からソードスキルを使う。ヴァイスは大きく仰け反り、初めて、決定的な隙を見せる。

 

「そこだ!」

 

 俺は、ここぞとばかりに連続技を使う。多くは剣によって防がれたが、何発かは当たった。奴のHPがイエローゾーンに突入する。俺はまだグリーンだ。

 

 いけるッ!

 

「うおぉぉぉっ!」

 

 再び、俺はソードスキルを使う。隙の多い連続技。だが、これが決まれば勝てる。

 

「“上段の構え”。剣道では2番目によく使われる構え。攻撃特化でお前のスタイルにもよく合ってる。1vs1なら、確かに有効だ。だが、この世界は剣道の世界じゃねぇ。剣道の癖が、ちょっと出過ぎなんじゃねぇの?」

 

 バレた……。確かに分かりやすいかもしれないけど、ここまでしっかりと分析されるなんて。

 

「例えば、こんなのはどうだ?」

 

 ヴァイスは右手を左手の前にかざし、左手の剣を肩の上に大きく引きながら構える。そして、左手に持った剣が鮮やかなライトエフェクトに包まれる。そのまま、剣は俺に向かって真っ直ぐ伸びて来る。

 

「ッ! なっ……嘘だろ……今のって…………《ヴォーパル・ストライク》……」

 

 俺はヴァイスの攻撃によって、背後の木に叩きつけられる。そんな事よりも、俺は奴の使ったソードスキルに驚いた。奴は片手剣の熟練度が950を超えないと使えない《ヴォーパル・ストライク》を使ったのだ。攻略組でも、現時点で使えるのはキリトさんとナイトだけだ。

 

「どうした? 立てねぇなんて事はねぇよなァ、《真紅の鬼神》。それとも、所詮はその程度って事か?」

 

 挑発してる。でも、俺はそれに乗る事は出来ない。なぜなら、俺は突き系の攻撃に一切抵抗出来ないからだ。大抵の技は剣道と同じ要領で受けられる。だが、突きだけは別だ。俺はまだ中学生だったため、突きは禁止されていた。だから、どう受けていいか分からない。槍を使う相手なら戦った事があるが、スピードに欠けていた。しかし、《ヴォーパル・ストライク》は威力もスピードも兼ね備えている。

 

「オラオラ、どうしたァ! 攻めて来ねぇならこっちから行くぞ!」

 

 奴は再び、《ヴォーパル・ストライク》の構えを取る。反射的に俺は刀でガードを試みる。しかし、実際にはそれが放たれる事はなく、ただ真っ直ぐ突っ込んで来た。俺の目の前で止まり、《バーチカル・アーク》を繰り出す。

 

「くそッ! 次はただのフェイントか……」

 

 強力な突き技がある。それだけで、俺は手も足も出なくなった。警戒すれば別のソードスキル。怠れば、《ヴォーパル・ストライク》。俺はヴァイスにとっての相手からサンドバックへと成り下がってしまった。

 

「はぁはぁ。チッ……くそッ!」

 

 ダメだ……勝てない。でも……諦めるわけには……いかない!

 

「うおぉぉぉっ!」

 

 俺は勢いよく立ち上がり、規定のモーションをして、ソードスキルを立ち上げる。カタナの3連撃ソードスキル《緋扇》だ。

 

 しかし……、

 

「……甘いな」

 

 そう一言呟き、ヴァイスは《ホリゾンタル・スクエア》で俺の刀を弾く。

 

「《真紅の鬼神》も所詮はその程度か……」

 

 地面と背中合わせになっている俺の手には刀はない。弾かれた時に後ろに飛ばされ、地面に刺さっている。

 

 ヤバい……死ぬ。殺される……。

 

 視界を少し左上に移すと、残り数ドットのHPが目に入る。

 

「ッ! か、勝てっこねぇ…………」

 

 ヴァイスが一歩ずつ俺に近づいて来る。

 

 俺は“絶望”と“恐怖”によって支配されていた。指先さえも動かせない。走馬灯さえ見えた。“ああ、もう少し、メグミと向き合ってもよかったのかなぁ”なんて、今までじゃ考えられない様な事まで考えてしまう。

 

 ヴァイスの持つ剣は全身が白く、赤いラインが入っている剣だ。情報屋によると、とあるクエストの報酬で手に入る《クリムゾン・ヴァイス》という剣らしい。まさしく、ヴァイスと呼ばれる由縁となった剣だ。その剣の赤いラインが、今までその剣によって斬られた者たちの血が滴っているかの様に見える。

 

「おい、《真紅の鬼神》。最後に聞かせろ。お前にとって“大事な物”って何だ? 他の誰にも“譲れない事”は何だ? そして、そのために、他の全てを差し出し、犠牲にする覚悟が、お前にはあるか?」

 

 これが噂の質問か……。どうせ死ぬなら、堂々と言ってやる。恥ずかしくて言えなかったけど、今なら言える。

 

「じゃあ……よーく聞いとけよ。俺は、“この世界に囚われた人々に希望を与えたい”。必ず、この世界から出られる。そう伝えたい。それが俺の“譲れない事”だ!」

 

 そう言い放った俺は、黙って()を受け入れる準備をした。

 

 しかし、いつまで経っても俺のHPバーが空になる事はなかった。

 

「……何の真似だ。殺すなら殺せよ」

 

「いい答えだ。気に入ったぜ、《真紅の鬼神》。お前の事はまだ殺さねぇ。もっと強くなって、オレをまた楽しませろ」

 

 そう言うとヴァイスは剣を右腰の鞘に納めて立ち去る。

 

 助かったのか……。でも……こんなに悔しい敗北は初めてだ。現実でもこの世界でも味わった事がない。

 

「待てよ!」

 

 気づけば、俺は声をかけていた。どうしてか、自分でも分からなかった。

 

「ヴァイス! 俺は必ず強くなる! そして、お前ともう一度戦って、今度は俺が勝つ!

 俺は、スカーレット! いつかお前を倒す者の名だ! 覚えとけ!」

 

 こんなセリフ、普通は恥ずくて言えねぇよ。でも、今はなぜか言えた。言わなきゃいけない気がした。

 

「……スカーレットか。覚えておこう。次、戦う時を楽しみにしておく」

 

 今度こそ、ヴァイスは去って行った。

 

 俺は、その場を動く事が出来なかった。絶望、恐怖など、色々な感情があった。だが、その中の何よりも大きかったのは“悔しさ”だった。

 

「くそーーッ!」

 

 強くなったつもりだった。攻略組の中でもカタナ使いとしては最強だった。でも、負けた。だから……、

 

「俺は……強くなる。もっともっと強く。そして、希望を与え続けるんだ」

 

 最後に地面を強く殴り、俺は動かなくなった。死んではいない。気絶したわけでもない。ただ悔しくて、動けなかっただけだ。

 

 その後、レットはクラインによって発見されるまで、ずっと横たわっていた。その間に一度もモンスターが来なかったのは彼の運がよかったからだろう。どれぐらいそこにいたかはレット自身も分からない。それを表す唯一のものは、レットの上に降り積もった雪だけだった

 

 

そして、時は流れ、大晦日の夜。野外パーティーを楽しんでいた中層の小規模ギルドが襲われた。犯人は自らをオレンジプレイヤーとは別の存在である“レッドプレイヤー”と称した。そして翌日の元旦、殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の結成が宣言された。

 

リーダーの名は《PoH》。《血盟騎士団》の団長ヒースクリフとはタイプの異なるカリスマ性で個性派揃いのレッドプレイヤーを束ねている。

 

そして、副リーダーは《血塗れの白(クリムゾン・ヴァイス)》。攻略組に匹敵するほどの強さを持つプレイヤー。実際のキャラネームも分かっておらず、《PoH》と同じ様に警戒されている。

 

この2人を中心に、この先、ラフィン・コフィンはアインクラッドを恐怖のどん底へと突き落として行く事になる。




【DATA】

・《血塗れの白(クリムゾン・ヴァイス)
通称ヴァイス。レッドプレイヤー。全身白の装備の左利きの片手剣士。武器は《クリムゾンヴァイス》。実力は攻略組に劣らない。


次回もお楽しみに!

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