ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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赤鼻のトナカイ編に突入です。とはいえ、キリトと一緒に行動するわけではないです。そのため、メインはレットと噂の奴との勝負です。更新速度の維持は苦手なので、気長に待っていてください。


06.聖なる夜の出会い

「うおぉぉぉっ!」

 

 俺は三連撃のカタナのソードスキル《緋扇》を使う。

 

「……甘いな」

 

 その一言と共に、奴は片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》を放つ。その剣は俺の刀をいとも容易く破り、俺を地につける。

 

「《真紅の鬼神》も所詮はその程度か……」

 

 ヤバい……死ぬ。殺される……。

 

 俺の視界の左上には、残り数ドットしかない赤いHPバーがある。

 

「……ッ! か、勝てっこねぇ…………」

 

 俺を死の淵のギリギリまで追いやった男が一歩ずつ、まるで俺を焦らすかの様にゆっくりと近づいて来る。HPバーが空になり、ナーヴギアが俺の脳を焼き切る、その瞬間が徐々に近づいていた。今の俺の中では、“絶望”と“恐怖”、その2つの感情が渦巻いていた。

 

 俺がこの《ソードアート・オンライン》という名のデスゲームに囚われて、1年が過ぎた。そして今日、この世界で二度目のクリスマスを迎えた。雪が降り続ける聖夜の日に、それは起きた。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 1人の少女が少年に向かって飛びつく。少年はそれを容易く躱す。

 

「もう! 避けなくたっていいじゃん!」

 

「関わるなっていつも言ってるだろ。何で来るんだよ。ていうか、どうやって場所を知った?」

 

「レモンさん」

 

 メグミは即答する。ていうか……あの女。アルゴさんとは違って口が軽い。ホント、ああいうのは迷惑だ。

 

「ねぇ、どうしてそんなに嫌がるの? お兄ちゃんが《真紅の鬼神》って呼ばれてる攻略組だって事は知ってるよ。だけど……もう少し、私の事、構ってくれてもいいじゃん……」

 

 さぁ? 何でだろうな。多分、俺がお前の事が嫌いなせいだな。お前が天才で、俺が凡人だからさ。見てるだけで、出来ない自分が嫌になる。出来るお前が羨ましくなるからだよ。

 

「俺は……攻略組だ。実の妹だったとしても、余計な事に時間をかける余裕はない」

 

「……じゃあ、私も強くなればいいの?」

 

 ……どうしてそうなった? つまり、メグミも攻略組を目指すって事か?

 

「私じゃ、攻略組は無理かもしれないけど、いつか、お兄ちゃんと剣を交えられるぐらい強くなる。そうすれば、少しは話してくれる?」

 

 無理だな。今更レベルやスキルを上げて、攻略組に追いつくなんて不可能だ。でも、メグミがそれを目指すなら、俺はコイツと会う機会もなくなって、好都合なんじゃ……。

 

「いいよ。お前が俺と並ぶほどの強さを身につけたら、話してやるよ。ついでに、派手な兄妹喧嘩でもするか。まぁ、やれたらの話だけどな」

 

「分かった。やる。絶対にやる。やり遂げる! 必ず、追いつくから。並んでみせるから。それまで、絶対に死なないでよ」

 

「当たり前。お前の方が先に死ぬとは思うけどな」

 

 メグミは俺の最後の言葉を無視して、転移門に向かった。おそらく、レベリングをするのだろう。まぁ、これで会う時間も少なくなってよかったかもな。だが……、

 

「はぁ……もう無理そうだなぁ、《背教者ニコラス》。蘇生アイテムはともかく、ソイツのドロップするアイテムはレア物揃いだって聞いてたんだけどなぁ」

 

 メグミのせいだ。最後にまだ探していない所をささやかな抵抗として探すつもりだったんだけど、時間がなくなってしまった。

 

 そんな時、効果音が鳴った。フレンドからのメッセージを受信した時の音だ。

 

「クラインさんか……。えーと、何々? 【35層主住区ミーシェに来い。今すぐ】……は? 何で?」

 

 クラインさんが要件さえも言わずに呼び出すのは珍しい。まぁどうせ、“せっかくのクリスマスなんだから、華がないとな。よしっ、今日は合コンだ!” とか言いながら俺を呼んだんだろう。というわけで、俺は無視する事にした。

 

 すると、すぐに例の効果音が鳴る。何だと思って見るとふたたびクラインさんだ。そこには、

 

【合コンとかナンパとかじゃねぇから! 頼むから来てくれ! でねぇとキリトが!】

 

 とあった。

 

 キリトさんが……。よしっ!

 

 俺はすぐにクラインさんに返信をした。そして転移門に向かう。

 

「転移“ミーシェ”!」

 

 俺の体は光に包まれた。その光が消える頃には、俺はそこにいなかった。

 

 

「よかった! 悪いな、レット。つーかよぉ、何で最初返信してくんなかったんだよ」

 

「日頃の行いのせいです」

 

 俺は正直に答える。クラインさんはとても面倒見のいい人だ。ギルドのリーダーでもあり、尊敬はしている。だが、普段の言動に難があり、どこか信用出来ない部分もある。

 

「そんな事より、キリトさんに何が……」

 

「アイツ……1人でニコラスを倒すつもりなんだ。最近無茶なレベリングばかりして……。キリトは絶対にそのモミの木を見つけてる。だから、お前の《索敵》で追跡してくれ。フレンドでも、そこまで詳しい所までは分かんねぇんだ」

 

 そういう事か。もう、大分前とも言える頃、キリトさんはギルドに入っていた。しかし、何があったかは知らないが、ギルドは壊滅し、キリトさんだけが残った。おそらく、キリトさんは亡くしたメンバーの中に蘇らせたい人がいるのだろう。

 

「まぁ、《索敵》にボーナスのつくアイテムを使えば、キリトさんの《隠蔽》を破れますね。分かりました。俺も、キリトさんには死んでほしくない。行きましょう、クラインさん!」

 

「おう!」

 

 俺は、一度戻って宿から《欲求の指輪》を取って来た。これは《索敵》にボーナスがつき、モンスタードロップのレア度が高くなるというありがたいアイテム。その代わり、俺の攻撃力は下がる。それと、効果としての説明はないが、すぐに腹が減るし、眠くなる。色々と面倒なアイテムだ。まぁ、最後の効果は大して関係ないが。

 

 戻ると、クラインさんが、《風林火山》のメンバーを連れていた。目指すは《迷いの森》。ここにキリトさんは向かっている。

 

「いました、キリトさんが。コッチです!」

 

 

「キリトさん!」

 

 俺が声をかけると背中の剣の柄に手をかけていた。大分ピリピリしてるのが分かる。

 

「……()けてたのか」

 

 クラインさんが俺の頭に手を乗せながら答える。

 

「まぁな。コイツの追跡スキル、ナメんなよ」

 

 なんか……子供扱いされてるみたいだな。まぁ、クラインさんの方が年上だけど……。

 

「お前ェを、こんな所で死なすわけにはいかねえんだよ、キリト!」

 

 キリトさんは何も答えない。

 

「キリトさん。俺らと組みませんか? 《風林火山》と俺、それにキリトさんが加われば、フラグボスなんか楽勝ですよ」

 

 俺は説得を試みる。しかし、キリトさんには伝わらない。

 

「それじゃあ、意味ないんだよ……俺独りでやらなきゃ……」

 

 キリトさんの柄を持つ手に力が入る。これは……俺も覚悟を決めないといけないのか?

 

 だが、俺がそんな事を考えていると、後ろから何者かがワープして来た。

 

「お前らも()けられてたな、クライン、レット」

 

「……ああ、そうみてェだな……」

 

 あのマークは……。

 

「キリトさん、クラインさん、あいつら、《聖竜連合》ですよ。オレンジになるのも気にしない奴等です。まずいですよ。下手すりゃ……」

 

 俺はその先を言わなかった。戦闘になる、そんな事があっていいはずがない。

 

「くそッ! くそったれがッ!」

 

 クラインさんがいち早く、抜刀する。そして、《風林火山》のみなさんも武器を構えた。

 

「行けッ、キリト! ここは俺らが食い止める! お前は行ってボスを倒せ!」

 

 そして、俺も腰にある愛刀《菊一文字》の柄に手をかける。

 

「レット、お前もだ。お前はキリトに着いて行け! あいつ、危なっかしいからな。支えてやってくれ。でも、お前ら死ぬなよ。ぜってぇち許さねェぞ!」

 

 クラインさん……。ありがとうございます。

 

 俺は心の中でそう言って、先に駆け出したキリトさんを追いかけた。雪が降り、足場の悪い森の中をただひたすら走る。

 

 目の前を走るキリトさんの前に、誰かがいた。白いローブを身に纏った男。左手には大剣を形そのままに小さくした様な白い片手剣。

 

「……ッ! まさか……」

 

 あの格好……間違いない。最近、中層を中心にPKを繰り返している左利きの剣士、“血塗れの白(クリムゾン・ヴァイス)”。

 

 それに気づいた俺は自分の敏捷力の限界までスピードを上げ、キリトさんの前に出る。《菊一文字》を鞘から抜き、奴の剣を受け止める。

 

「キリトさん! コイツは俺が! 早くボスを!」

 

 キリトさんはいきなり飛び出した俺に驚いたのか、少し目を見開いていたが、すぐに頷いて、走り出した。

 

 《背教者ニコラス》は任せましたよ、キリトさん。俺は……コイツを食い止めます。

 

「お前、呼び方はヴァイスで大丈夫だよな。何が目的か知らないけど、キリトさんの邪魔はさせない。お前は俺がここで倒す!」

 

 俺は《菊一文字》を上段に構える。これは剣道において俺の一番得意な構えだ。格上相手に対してやると失礼とされる構えだが、この世界でそんな事は言っていられない。

 

「面白い。やれるものならやってみろ。そして、お前の力を見せてみろ、《真紅の鬼神》。このオレを楽しませてみろ」

 

 ヴァイスの声は生身の人間とは思えない様な機械的な声だった。元々こんな声なのかもしれないが、声を変えるアイテムを使っているのかもしれない。

 

「攻略組ナンバーワンのカタナ使いの力、見せてやるよ」

 

 ヴァイスは左手の力を抜いて、剣先を真下に向けている。おそらく、それが奴の構えなのだろう。隙だらけにも関わらず、斬れる気がしない。

 

「じゃあ、始めようぜ! イッツ・ショウ・タイムだ!」




【DATA】

・スカーレット(「06」時点でのデータ)
レベル:64
二つ名:《真紅の鬼神》
武器:《菊一文字》… 「05」の後、《ゴブリン・ソードマン》よりドロップ。現時点では最強クラスの刀。
主なスキル:《カタナ》、《索敵》、《隠蔽》、《武器防御》、《疾走》、《体術》、《料理》etc


次回もお楽しみに!

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