ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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 色々と言いたい事はありますが、まずは、長い間更新せずすいませんでした。これからボチボチ、スローペースで更新していきたいと思います。

 私が更新してない間に、外伝のGGOが始まって終わりましたね。何なら再放送が始まっています(笑)
 しかも今作のヒロイン:リーファ/桐ヶ谷直葉やGGOの主人公:レン/小比類巻香蓮、MORE DEBANのMORE:リズベット/篠崎里香、SAO屈指の人気キャラ:ユウキ/紺野木綿季の誕生日が終わり、来月にはシノン/朝田詩乃の誕生日も迫るという……。ついでに、今作のオリキャラ:スカーレット/紅林蓮とナイトの誕生日も終わってる……(涙目)
 時間が経つのは早いですね(白目)

 さて今回は、リハビリ兼リクエストお答え用に書いたリズとアクアの番外編です。まだ後半は出来上がってませんが、更新再開しますよ、という宣言代わりに投稿です。
 全部リズ視点です。因みに何一つ物語は進んでおりません。官能ならば前座以下です。でもこういうのが一番書いてて楽しい。


番外編3 リズとアクアの休日inアインクラッド【前編】

 もうすぐ9月。夏休みの終わりがすぐ傍まで迫り、同時に宿題の締切も迫る頃。片付ける度に新たな宿題が出現し、遊び呆けていた1ヶ月前の自分を恨む、そんな時期。

 2年前までのあたしも、そんな哀れで可哀想な、全くもって救いようのない学生の内の1人であった。しかし今は違う。なぜなら、SAOに囚われているあたしには宿題なんてものは存在しないからだ。果たしてそれは喜んでいいものなのか、未だに自分でも測りかねているのだが、とりあえずそういう事だ。

 

 では宿題のないあたしは暇なのかと言うと、全くそんな事はない。

 

 

 今から約3週間前にSAO最悪のレッドギルド──《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》が、攻略組の精鋭50人によって討伐された。以来攻略速度は明らかに早まり、我が〝リズベット武具店〟に以前よりも多くのプレイヤーが訪れ、大盛況となっている。新たな層が解放される度、出現するモンスターのステータスやアルゴリズムも強化され、プレイヤーは攻略と同時にレベル上げや装備の強化に追われていた。

 そのため、NPCよりも遥かに高確率で、レアドロップ品よりも簡単に手に入るプレイヤーメイドの装備の需要は跳ね上がっている。今日は10人のプレイヤーのオーダーメイドをこなし、明日以降にもまだ30人以上のプレイヤーがあたしの武器を待っている。今も丁度、その武器の作成を行なっている所だ。同時に店に並べる武器も補充しなきゃいけないから、もうしばらく休みはなさそうだ。好きでやっているこの仕事だけれど、宿題とどちらが楽かと聞かれると即答出来ない。

 

「ふぅ……。まあこんなものかしら」

 

 完成した片手剣のプロパティをウィンドウで確認する。悪くはない。悪くはないのだが、2ヶ月前にあたしが鍛えた翡翠色の剣──ダークリパルサーには遠く及ばない。

 しかし、あの剣が特別なだけであって、この剣も十分強い。若干の耐久値の低さが気になるが、そこに目を瞑れば最前線でも十分通用するレベルだと思う。他のステータスは高いのでこれで妥協するか、マスタースミスのプライドにかけて更なる高みを目指すか、あたしは思わず迷ってしまう。

 

「……んっ。……一度、休憩でもしようかしら」

 

 考えても答えは出なそうなので、一度ここで思考を打ち切る。腕を上げて上体を反らして声が漏れる程思い切り伸びをすると、さっきまで感じていなかった疲れが一気に押し寄せてくる。ハンマーを金床の上に置いて肩を回してみるが、どこかに引っ掛かっているような違和感は消えない。だがこれは、ハンマーを振り続けた事によって発生した疲労感というより、風邪を引いている時の倦怠感に近い。

 それもそのはずで、SAOには隠しパラメータというものがいくつかあり、その内の一つに疲れというものがある。これが溜まると、あきらかに動きの質が悪くなる。SAO開始初期には、これのせいで身体が思うように動かず、その結果死んでしまったプレイヤーもいた程深刻なバッドステータスだ。

 あたしは毎日のように増えていく仕事の依頼に、自らの睡眠時間を削って対応している。十分な休養が出来ているとは言えない。常に定期テスト前の気分だ。

 

 その時金床脇のテーブルに、後ろから白いティーカップが置かれる。中には特徴的なオレンジ色の液体。仄かに香るのはリンゴのような甘い匂い。

 

「それでも飲んで、少し休んだ方がいいよ。忙しいのも分かるけど、根を詰めてもかえって効率が良くないから」

「あ、ありがとう……って、アクア────⁈」

 

 後ろに立っていたのは、いつの間に帰って来たらしいアクア。あたしのSAOにおける夫だ。彼は攻略ギルド《血盟騎士団》で参謀長を務め、《流水の槍兵》の二つ名で知られる攻略組屈指の槍使い。

 彼のそんな不意打ちとも取れるその行動に、あたしの心臓が大きく跳ねた。後半、あたしの声が裏返っていた気がする。

 

「ただいま、リズ」

「お、おかえり……アクア」

 

 

 

 あたしは一度仕事をやめ、この家の2階のリビングに向かった。そしてそこのソファに寄り添うように座る。アクアが足してくれたアップルティー──厳密には、似た風味を持つ食材を使った()()──を一口飲み、カップをソーサーに置く。

 

「注文、結構溜まってるのかい?」

「そうね……。今の所は30件ぐらいかしら? でも今日も来たからそれ以上かな」

 

 それを聞いて、アクアは大きく溜息を吐く。疲れていると見て分かるのに、未だその膨大な仕事量を抱えるあたしに呆れているのだろう。

 

「いいのよ。あたし達みたいな生産職には、これぐらいでしか攻略に貢献出来ないんだから」

「そんな事ないさ。僕達が攻略出来るのは、君達生産職が常に後ろで控えてくれているからだ」

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいわ」

 

 そう笑顔を作って返したのだが、アクアはいい顔をしない。疲労のあまり、上手く笑えていないのだろう。

 彼の視線から逃げるため、ふと浮かんだ疑問を口にした。

 

「と、ところでアクア。あんた、今日はやけに早いじゃない。今大変なんじゃないの?」

 

 アクアは頭を掻いて、視線を斜め上に逸らす。それは彼がこういう時に良くやる癖だ。しばしばその様子を見る機会があるのだが、容姿の整っている彼はそんな日常の仕草でさえ絵になってしまう。そんな些細な癖でさえ、あたしは目で追ってしまうのだ。

 

「うーん、何て言ったらいいのかな……。まあ、あれだ。休みをもらったんだ。明日と明後日の2日だけだけど」

「あのKoBが休みを? 随分と珍しい事もあるものね。あんたが取った休みって、最後はあの3月の療養期間だけじゃない」

 

 KoBがブラックギルドだと言いたいわけではないのだが、彼らは元々攻略に対するモチベーションが高く、攻略にかなり積極的な姿勢で臨んでいる。その筆頭であり、かつて《攻略の鬼》と呼ばれたアスナがその鳴りを潜めてからは、以前と比べて緩くはなったのだが、やはりその意識の高さは健在であった。

 その最大の要因が、SAOで確認された2つ──正確には、キリトが所有し、まだその存在を明かしていない《二刀流》を含めて3つ──の内の最初のユニークスキル、《神聖剣》の使い手のヒースクリフにあった。彼自身はあまり迷宮区の攻略をしないのだが、彼の持つカリスマ性や存在感、そして何よりもその絶対的な強さが、KoBの士気を高め、SAO最強の攻略ギルドへと押し上げている。

 休みを許さない、なんて風潮はKoBには全くない。ただ、何においても結局は攻略が優先、というイメージがあたしの中にはあるのだ。

 

「別にそんなに珍しい事もないんじゃないか……、いや、言われてみればそうか……」

 

 再び頭を掻くアクア。今度はすぐにやめて答える。

 

「まあでも、今回は快く取らせてくれたよ。いや、正しくは取らされたのか……」

 

 ハッキリしない言い方。どうやら今回の休みには、一筋縄ではいかないような事情があるらしい。

 

「……その、団員達──特にアスナに無理矢理ね」

「あー、なんかアスナらしいわね、その強引な所」

「でも今のリズを見てると、アスナは僕らに気を遣ってくれたんだなあ、って思うよ。攻略ばかりで君の疲労に気づけなかった。もっと早くこうして話をするべきだったって、僕は今ものすごく後悔してる」

 

 そう言うと、その真剣な表情であたしの方を向き、頭を下げた。

 

「本当にごめん、リズ。気づいてあげられなくて」

「べ、別にそんな事いいわよ。あたしは好きでやってるんだもの。それに最近は、急に注文が増えてペースが掴めなかっただけ。だから心配しないで」

 

 これでもまだアクアは納得していないようだが、あたしは最後の一言で強引に打ち切る。そもそもこれはあたしの問題だ。そんな事で忙しいアクアの手を煩わせたくはない。

 

 しかし、まだアクアはまだ何かを言いたそうな顔をしている。

 

「何よ、アクア。まだ言いたい事があるわけ?」

「い、いや……、そういうわけでもなくはない、というか……何というか……」

 

 さっきまで、あんなにも頼り甲斐があり、力強い言葉をかけてくれたアクアだが、急にその勢いを失った。その煮え切らない態度に少しイライラしつつも、そんな彼の姿を可愛いと思ってしまうあたり、惚れた弱みというやつなのだろう。

 

「……せっかく休みをもらったからさ、実は君とデートでもどうかなって、思ってたんだけどね……。ほら、僕達って夫婦らしい事はおろか、恋人らしい事すら、ほとんどしてないわけじゃん……。それでさ……」

「──あっ……」

 

 アクアは攻略組、あたしは鍛冶師と、お互いプライベートな時間が取り辛い立場にあり、スキルも軽い気持ちで弄る事が出来ない。夫婦らしい事と言えば、同じ家で生活している、とか、毎晩同じベッドで寝ている、とかだけ。だが決して現状に不満があるわけではないし、むしろ彼と共に過ごすだけであたしは十分満たされている、と思っている。

 でも、ふと考えてしまう時がある。アクアはもっと、あたしと夫婦らしい事をしたいのではないのか、と。彼は優しいから、あたしに鍛冶屋を辞めろとは絶対に言わない。それを真正面から尋ねられる機会は、今日まで一度も訪れる事はなかった。

 

「でも仕方ないよ。君の武器を待つプレイヤーがこのアインクラッドには大勢いる。僕の勝手な都合で、この店を空けるわけにはいかないよ」

 

 アクアが何か言っているが今回ばかりはその言葉を全て無視し、脳内でオーダーメイドの依頼リストを展開する。手持ちの金属と、受け取りに来る日付を確認し、これからのスケジュールを瞬時に立てていく。

 

「……問題ないわね。よし、もう疲れも取れたし、残りを一気に片付けて来るわ」

「な、何言ってるんだ、リズ。仕事があるとはいえ、休みは取らないとマズい」

「大丈夫よ。疲れなんて、もうとっくに吹っ飛んだわ」

「アップルティーにそんな即効性はないよ。今日は休んで明日──」

「──明日じゃダメなのよ」

 

 アクアの言葉に被せるようにそう言った。そして彼の目を見つめる。

 

「あんたの事だから、実は明日に向けて結構準備してたんでしょ。そんなの勿体ないじゃない」

「でも……君は疲れてるし、仕事だって……」

「息抜きは必要よ。それに、疲れは取れたって言ったじゃない」

「だから……、アップルティーにそんな効果は……」

 

 あたしは盛大に溜息を吐き、やれやれと肩を竦める。

 

「違うわよ。あたし達女の子は、好きな人が傍にいてくれるだけで、その人が自分の事を見てくれてるだけで、疲れなんて簡単に吹き飛んじゃうの。つまりあたしへの特効薬はあんた自身なのよ」

 

 言っている途中で恥ずかしくなり、あたしは思わず顔を背けてしまう。でもアクアの反応も気になり、チラリとそちらを見ると、彼も顔を真っ赤にして俯いていた。目が合うと、あたし達は照れ臭そうに笑い合った。

 

「よしっ。じゃああたしはもうひと頑張りしてくるわ」

「僕にも、何か手伝うことはある?」

「そうね……。それじゃあ、ストレージの中と箱の中の武器を整理してくれるかしら。店に並べるやつと、そうでないやつを仕分けてくれると助かるんだけど……。って、言わなくても分かるわよね」

「もちろん。任せてよ」

 

 あたしは時間が経って温くなった紅茶を飲み干し、作業場に向かう。店内でウィンドウを見ながら作業するアクアを想いながら、あたしはハンマーを握る手に力を入れる。そして振り被って叩いた。

 工房に重量感のある音が響く。その音を聞きながらあたしは集中力を高め、再びハンマーを振り下ろした。

 

 

 

 他の生産職がどれほどのものかは知らないが、鍛冶師は想像以上に儲からない。その理由は、武器製作に必要な素材の安定的な確保が難しいからだ。特にあたしのようなギルドに籍を置いていない鍛冶屋は、そのルートの確保だけでも苦労している。マスタースミスになってからは、それなりに余裕が出来てきたのだが、贅沢はまだまだ出来ない。

 何が言いたいかというと──、

 

「……どんな服着て行けばいいのかしら」

 

 今まで鍛冶一本でやって来たあたしは、SAOにおけるオシャレというものに疎い。そんなものにかけるお金があるなら、素材を一つでも多く仕入れた方が有意義だ、なんて乙女をどこかに忘れて来たかのような思考回路だった過去の自分にげんなりする。

 そもそもデートだというのに、当日着て行く服について考え始めたのが起床後という大失態。せめて昨日の夜、寝る前ならばアスナに聞くなり色々対策はあったというのに。

 

 と言うものの、この寝間着姿のままでいるわけにもいかない。それこそ、アクアに幻滅されるどころの話ではない。とにかく、今ある服の中で個人的にお気に入りの、所謂〝勝負服〟に着替えた。

 とは言え、アスナが持っているようなアシュレイ作の最高級品とは違う。普通の、安過ぎず高過ぎずのもの。あたしの好みやセンスに任せて購入したもの。もちろん、当時はアクアとデート出来たら……的な事を考えていた。そんな事は本当に今日まで実現しなかったのだが。

 

 準備が出来て、入念に鏡をチェックする。そこには、緊張でいつも以上に固い笑い方しか出来ないあたしの顔。普通に笑えるようになるには後一時間程必要な気がするが、そんなに待たせるわけにはいかない。覚悟を決め、アクアが待つリビングのドアを開けた。

 

「お、お待たせっ」

 

 声が上擦ってしまったのは許してほしい。リアルも含めてこういったことは、生まれてこの方したことがないのだ。その初めてがデスゲームの中で、しかもそこで恋人をすっ飛ばして夫婦となった相手となんて、また随分とぶっ飛んだ話だが。

 

「ううん、待ってな、い……よ……」

 

 アクアが振り向きながらそう言ったが、あたしの格好を見た途端に急に尻すぼみになった。やっぱり、どこか変だったのだろうか。

 

「へ、変よね。似合ってない、よね? あはは、ごめんね。あたしこういうセンスなくってさ」

「そ、そんなことないよ。ただ、想像以上に……似合っててさ。その……見惚れてたってやつ? つまり……、可愛いよ、って事」

「そ……そういうの反則っ!」

 

 あたしは今、このアインクラッドで一番幸せかもしれない。そう思えるほど満たされていた。因みに、まだデートは何も始まっていないのだが。

 

「ま、まあ、……そういうあんたもカッコいいわよ」

 

 紅みが残る頰を隠すようにそっぽを向き、チラリとアクアの方を見る。そして仕返しにあたしも顔を真っ赤にしてやろうと、ぼそっと聞こえる程度の声でそう言った。しかし言われ慣れているのか、当の本人はただ普通に嬉しそうにこう返してきた。

 

「ありがとう、リズ。君の隣を歩くのに、だらしない格好じゃダメだと思ってね。ちょっと張り切ってみたんだ」

 

 この女たらしに色々と言い返してやりたかったのだが、返り討ちにあったあたしはただ頰を再び染めるだけ。そしてそんなあたしに出来るのは、このだらしない顔を見られないように隠すという細やかな抵抗のみ。そして多分これも無意味だ。

 そしてこの時分かった。こうやってこの男(アクア)は、大勢の女を無意識のうちに落としてきたということが。

 

 まあ、あたしもそんな女の一人なのだが。

 

 近くで買って来たホットドッグを朝食に食べ、店に《closed》の看板をかける。改めて忘れ物がないか確認し、どちらからともなくそっと手を繋ぐ。そして、アクアがその繋ぎ目を嬉しそうに見てから言った。

 

「じゃあ行こうか、リズ。今日は思い切り楽しもう」

「うんっ!」

 

 何はともあれ、こうしてあたしとアクアの()()()()()()()デートが幕を開けたのであった。




 ね、進んでないでしょ。でもリズの可愛さ、結構伝わったと思うんですよ。

 そもそもリズって、アニメでは出演シーンが増えてたけど、原作じゃキリトとのコンビの表紙絵のない唯一のヒロイン。あのシリカだって、2巻でキリトと2人で表紙だというのに。さらには、あのヒースクリフでさえ、キリトと2人で表紙に載ったのに……(白目)新章では是非とも、リズにも表紙をあげてください。お願いします。

 でもホント、リズってすごく素敵な女の子だと思うんですよ。アスナみたいな才色兼備な完璧少女でなければ、シリカみたいなアイドル並みのルックスな訳でもなければ、リーファやシノンのような王道な属性がある訳でもない。
 でも何か、とても等身大の女の子みたいな感じ。現実で友達になりたい、と思わせてくれるような性格。派手さはないけど、真剣で真っ直ぐで真面目で、そういう所がリズの魅力だと思うんだよなぁ。だから川原先生、リズに出番を!

 番外編の続きだけでなく、本編の続きもボチボチ更新出来そうです。あとは、私が納得出来るものになるかどうか。なるべく早い更新を目指して頑張ります。

 次回はこれの続き。それではっ!

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