やはり、戦闘描写は難しいですね。全然迫力とかスピード感がない。こうしたらいいんじゃない?とかあれば是非教えてください。
この度非公開にさせて頂いた【一番星は輝かない】ですが、詳しくは活動報告をご覧ください。
今回の話は前半がレット視点、後半がリーファ視点です。
「なあ、リーファ。領主会談の場所はどの辺りなんだ?」
「ええと、今抜けて来た山脈が世界中央を囲んでるから……、ここから西側の《蝶の谷》の出口で行われるわ」
「了解。残り時間は?」
「──20分」
飛行時間は問題ない。後はサラマンダー達より先に着けるかどうかだ。
「あいつらの方が先に行っているかもしれません。急ぎましょう、キリトさん!」
「ああ。ユイ、サーチ圏内に大人数の反応があったら教えてくれ」
「はい!」
ユイちゃんの反応を受け、俺達は翅を鳴らして加速に入った。
洞窟の時よりも遥かに速いスピードで飛んでいく。さっきとほんとんど状況は同じだが、一つだけ違う。それは、辺りにモンスターの姿が見えない事だ。
「それにしても、モンスターを見かけないなあ?」
キリトさんも同じ事を考えていたらしく、その疑問を口に出す。それに答えてくれたのは、俺の隣を飛ぶリーファだ。
「この《アルン高原》にはフィールド型モンスターはいないの。だからわざわざ会談をこっち側でするんじゃないかな」
「なるほどな。確かに、会談中にモンスターが沸いたら邪魔だもんな。でも、この場合はありがたくないな」
「どういう事?」
キリトさんの考えが読めてしまった。もしもそれが実現していたと思うと、その後が怖い。
「さっきみたいにモンスターを山ほど引っ張って、奴等にぶつけてやろうかと」
「うわあ、えげつないわね」
「……多分それ、シルフとケットシーもタダじゃ済みませんよ」
その作戦なら、とりあえずサラマンダーに討たれるという事はないだろう。いや、もしかしたら、その混乱の最中に殺す可能性もあり得るか。サラマンダーの大部隊が数だけなら嬉しいのだが、それは望めないだろうな。
「あっ、プレイヤー反応です!」
不意にユイちゃんが叫んだ。
「前方に大集団──68人! サラマンダーの強襲部隊だと思われます。さらにその奥に14人、会談出席者と予想します。接触まで、およそ50秒です」
その言葉が終わると同時に、雲が切れて視界が広がった。斜め下にはサラマンダーの大部隊、その奥にはシルフとケットシーの会談出席者。まだ彼らは、自分達を狙う奴等には気づいていない。
「──間に合わなかったね」
リーファがぽつりと声を漏らす。
今からでは、どうやっても全員を逃すのは不可能だ。12人と俺達が盾となり、領主2人をケットシー領の《フリーリア》に逃す事が出来るかどうかも分からない。
「ありがとう、2人共。ここまででいいよ。君達は世界樹に行って。……短い間だったけど、楽しかった。友達って言ってくれて、嬉しかったよ。またいつか、機会があったら──」
リーファが必死に笑顔を作りながらそう言った。また俺の嫌いな顔だ。
「──レット。頼むぞ」
「……りょーかいです」
キリトさんはそれだけ言うと、翅を鋭角に畳み、そのまま急角度のダイブを敢行した。
「──えっ……ちょっ、ちょっと!」
「諦めなよ、リーファ。キリトさんが、ここまで来て見捨てるわけないだろ。まあ、もちろん俺もそうだけど」
そして、そのままさりげなく彼女の手を握る。
「安心してよ、俺達がついてるから。だからさ、
「……レット君。うん、わかっ……てないよ! 泥舟じゃ沈むじゃん!」
俺は最後にリーファの手を強く握り、そして離す。彼女の反論を無視し、キリトさんがしたように急降下した。
そして、既に下ではキリトさんが何かをやらかしているのが見える。どうせ、その場の勢いで何か言ったのだろう。彼はその尻拭いを「頼むぞ」と言ったのだ。
「さてと……、まずは文句からだなっ!」
「……護衛の1人もいない貴様を、大使だと信じろと言うのか?」
「──護衛ならここにいるぜ」
サラマンダーのリーダーの問いに対し、俺はキリトさんの隣に着地しながら答える。そして俺はキリトさんの方を向き、
「……キリトさん。頼むから、こういう事はもうやめてくださいよ」
「悪い悪い。気をつける」
絶対反省していないという事は分かるが、それを咎めるのは後にする。
「これで、彼が大使だと信じてもらえたか?」
「まさか。たった2人、大した装備も持たぬ貴様らの言葉を、にわかに信じるわけにはいかないな」
まあ、当然の答えだろう。
俺やキリトさんの装備は、ほとんどが《スイルベーン》で購入したもの。目の前の彼のようなハイレベルプレイヤーは、己の装備をプレイヤーメイドかレアドロップ品などで固めるのだ。実際、俺やキリトさんもSAOの頃はそうだった。
「だが、この劣勢な状況の中、助けに飛び込んで来た勇気と度胸に免じて、貴様らにチャンスをやろう。──俺の攻撃を30秒耐え切ったら、貴様らの言葉を信じてやろう。もちろん、2人一緒で構わない」
「──そんなの、俺1人で十分さ」
「ほう」
飄々とした声で言ったキリトさんは、背から自分の剣を抜く。だが、俺はそれを阻止するため、彼の襟を強く引っ張る。
「グエッ……。な、何すんだよ、レット」
「何でキリトさんがやるんですか? キリトさんはさっき暴れたんですから、次は俺でしょう」
ルグルーでの戦いでも、ほとんどはキリトさんが倒してしまった。俺がやったのは、キリトさんが討ち漏らした奴を倒す事。そんなんでは、俺は満足出来ない。
「で、でもなあ……」
「大体、大使が護衛よりも前に出るなんて事、あってはいけませんよ」
「………………分かったよ。レットに任せる」
渋々といった様子で、キリトさんはリーファがいるシルフ=ケットシー側に下がる。
「ちょっと、レット君! 何でキリト君と一緒に戦わないのよ!」
「俺が勝てないって言うの?」
「レット君が強いのは知ってる。……でも、彼はユージーンって言って、ALO最強のプレイヤーよ。いくらレット君でも……」
心配してくれるリーファの言葉を遮り、俺は言った。
「大丈夫さ。ここで負けてたら、
憎き白髪の男の顔を思い浮かべながら、俺はサラマンダーの男──ユージーンの元に向かった。
「──ふぅ」
鞘から刀を抜き、目の前の男の双眼を睨みつける。その目に映るのは、自身の強さに対する絶対的な自信。こういう相手を倒すのは、中々大変だ。
俺もユージーンも、構えたまま動かない。お互い隙を探しているのだ。
しかし、太陽の光が彼の刀身に当たり一瞬光り、俺は眩しさに少し目を細めてしまった。その時、奴は予備動作なしに動き出す。
迎撃するには間に合わない。とりあえず防ぐため、俺は手に持った刀を頭上に掲げた。
「──ッ⁉︎」
しかし、受け止めるはずだった奴の剣は、気づけば俺の身体に紅い傷を刻んだ。その予想外の衝撃に耐え切れず、俺は地面まで叩き落される。
「──何だよ、今の」
俺の目がおかしくなければ、ユージーンの持つ赤い剣が俺の刀を文字通り
「ったくっ。面倒な相手だな」
俺は右手に力を入れ、奴の元まで向かって行く。そして、鍛え上げたステータスに任せて全力で振り抜いた。もちろん、ユージーンはそれを容易く防いだ。
「ほう……、よく生きていたな。今ので終わりだと思ったのだが」
「一撃で終わるほどヤワじゃないぜ──ッ」
リアルとSAOで鍛えた連続攻撃を仕掛けるが、それもユージーンは最低限の動きで防いで見せる。どうやら、装備のスペックに見合うだけのプレイヤースキルは持っているようだ。
ステータスや装備の性能上、俺の方が不利だ。
「ウオォッ!」
「くそ──ッ!」
再び刀身が透過する攻撃を仕掛けてきたが、今度は防具の表面を掠る程度で躱す。完璧に躱したつもりだったのだが、やはり空中戦の経験不足のせいで感覚と僅かな誤差がある。
「……おい。もう30秒軽く経ってるだろ!」
「悪いな、やっぱり斬りたくなった。首を取るまでに変更だ」
「この……ッ。自分で作ったルールだろうがっ」
いよいよマズい。こちらの攻撃は敵にも対処が出来るのに、ユージーンの攻撃はパリィに頼らず躱さなくちゃいけない。空中戦の経験は向こうの方が豊富。勝てる要素がなさ過ぎる。
「はあぁぁッ!」
ソードスキル《辻風》を再現するが、掠った程度でダメージは微々たるもの。
そもそも、俺には戦いの幅が狭い。元々刀の腕に自信があるだけに、それが通用しない場合、取れる戦法がないのだ。ALOでは補助用に魔法を取り入れているが、それもこの高速戦闘中では使えない。
キリトさんなら、こんな時でも勝ってしまうのだろう。だって、彼はあのSAOをクリアした英雄なのだから。ユニークスキル《二刀流》を持った勇者なのだから。
「──レット君ッ!」
「……リーファ?」
下からリーファの声が聞こえた。
「お願い、勝って!」
「…………これで、勝つ以外に選択肢がなくなったな」
女の子の声援を受けてやる気になるなんて、なんてベタな展開なんだろう。だが、これで本当にやる気が出るのだから不思議だ。
さらに、キリトさんやシルフ、ケットシーのプレイヤーの声も聞こえる。
──カッコつけた手前、ダサい姿は見せられないな。
「ウオォッ!」
視線を外したのはほんの一瞬。だがその間に、ユージーンは剣を振り上げ突進して来ていた。
俺はそれを、翅を力一杯動かして上に避ける。
「ここまで俺の攻撃を避けて見せたのはお前が初めてだ。だが、それも終わりだッ!」
いつまでも避けては勝てない。勝つためには迎撃するしかない。だが、それはあの剣の効果か何かで出来ない。一度でいい。一度だけでいいから、あの剣を防げれば……、
「……一度だけ、防げれば……。──それだッ!」
再び攻撃を仕掛けて来るが、上に思いっ切り飛翔して躱す。そして、ある程度の高さで止まる。
「いつまで逃げるつもりだ!」
「じゃあ、ここでやめるよ」
「ほう。斬られる覚悟が出来たという事か」
ユージーンの目には、勝利しか映っていない。俺はニヤリと笑い、こう答えた。
「お前に勝つ覚悟が出来たのさ。お前の〝最強〟の名は、今日から俺のものだ!」
「面白い。その自信、打ち砕いてやるわッ!」
◆◆◆
レット君はユージーンを見下ろす形で空中で静止している。静寂は一瞬。ほぼ同時に2人は距離を詰める。
「ドアアアァァァッ!」
どデカイ気合と共に、ユージーンがロケットの如く飛翔。《魔剣グラム》を振り上げ、レット君と交錯するタイミングに合わせる。
「ウオォォッ!」
対するレット君は、左下に刀の先端を置いた体勢のまま突っ込み、抜刀の要領で一気に放つ。迎撃のための一撃は、やはりユージーンの剣をすり抜けてしまう。だが、レット君はその勢いのまま身体を捻り、左手で逆手に持った
「──なッ! 鞘だと……」
「連続では透過出来ないみたいだなッ!」
そのまま力一杯鞘を振り切り、ユージーンの剣をパリィする。そして回転して刀で斬りつける。
「──くッ!」
「うお……ッ!」
レット君がやっているのは、鞘を用いた擬似的な
だけど、レット君はそれを自在に操る。鞘を主に防御に使い、その隙に素早い斬撃でユージーンのHPを削っていく。
「すごいな。レットの奴、いつの間に二刀流なんて練習したんだ?」
「レット君、あれが初めてなの?」
隣で見ていたキリト君が、驚いた表情でそれを見る。
「ああ。でも、あいつなら出来てもおかしくない。だってあいつは《真紅の鬼神》──《紅鬼》なんだ。あいつが本気を出したら、
その《紅鬼》というのが、いわゆる二つ名である事は間違いない。どうしてそんな風に呼ばれていたのかは分からない。でも、想像出来る。彼が《紅鬼》と呼ばれ、戦っている姿が。
「はああぁぁッ!」
レット君が擬似的な二刀流を披露してから、戦況は大きくレット君に傾いた。ユージーンの攻撃を二段構えのパリィで完璧に防ぎ、自分は確実にHPを削る。元々レット君の剣の腕はユージーンよりも上のため、それは当然だと言える。
上から下へ。左から右へ。時折鞘による打撃も組み合わせる事で、ユージーンの気を逸らし続ける。そして遂に、ユージーンの体勢が崩れた。
「ウオォォォッ!」
レット君の全力の袈裟斬り。剣を大きく上に弾かれたユージーンに、それを防ぐ手立てはない。
「ぬ……おおぉぉぉッ!」
しかし、ユージーンの声に呼応するように炎の膜のようなものが現れ、レット君の一撃を防ぐ。その衝撃でレット君は僅かに下がった。その隙に腕を引き戻し、ユージーンは再び剣を横薙ぎに振るう。
「もうその攻撃は、見切ったッ!」
今までで一番速く鋭く繰り出された刀は、ユージーンが持つ《魔剣グラム》の柄を叩いた。
「なんと……。《魔剣グラム》を完璧に抑え込んでいる」
「すごいヨ! あの子、一体何者?」
過去のデュエル大会で、一度も防がれた事のない《魔剣グラム》の《エセリアルシフト》。レット君はこの戦いの中で、それを完全に抑えて見せた。
「いけぇッ! レット君──ッ!」
「はあぁぁぁッ!」
鞘を持ったままの左手を前にかざし、右手の刀を肩の上に大きく引いて構える。翅で空気を思いっ切り叩いて加速。そして、振り絞ったその腕を力一杯前に突き出した。
「ぐあっ!」
限界を超えてブーストされたスピードと、ステータスに裏付けされた力を乗せた一撃が、ユージーンの胸を貫いた。そして──、
「…………!」
ユージーンの身体は巨大なエンドフレイムに包まれ、そして爆散した。レット君の勝ちだ。
こんな戦い、見た事がない。
ALOでは珍しい、剣と剣との戦い。それも、超高速の
その衝撃に、場が一瞬静まる。
「見事、見事!」
「すごーい! ナイスファイトだヨ!」
サクヤとアリシャさんに続き、敵であったサラマンダーさえも、レット君の勝利を讃える。
「わぁ……!」
レット君はあまりの声援の大きさに動揺していたが、あたしの姿を見つけると、真っ直ぐにこっちを見る。そして、恥ずかしそうに頭を掻くと、控えめなピースサインをした。
「……カッコよかったよ、レット君」
あたしは誰にも聞こえないぐらいのボリュームで、そう呟いた。
分かりづらかったと思うので、少しだけ解説をします。
レットside
・レットvsユージーンがスタート
・《魔剣グラム》の《エセリアルシフト》に苦戦し、レット劣勢
・リーファが声援を送る
リーファside
・ユージーンの攻撃を鞘を使った擬似二刀流で防ぐ
・レットが勝つ
大まかな流れ、というか今回の話を書く際に自分が作ったプロットの一部です(笑)。書いている分には、これが映像になっているんですけどね……。それを上手く書けない。
原作や作者のツイッターで、防具の《エクストラ効果》で攻撃を防いだという箇所があったので取り入れました。
そして、戦いの最中にレットは《辻風》使っていましたが、もちろん再現です。また、最後ユージーンを貫いた攻撃は、《ヴォーパル・ストライク》の再現です。レットはナイトにそれでやられてから、刀で再現出来るほどそれを研究していました。今回最後に使ったのは、翅によるブーストでシステムアシストを代用してあります。
そして最後。サラっと流しましたが、鞘を使わずに刀だけでパリィをしています。これは、《魔剣グラム》の効果が持ち手までには及ばないという、作者の独自解釈です。柄まで透過したら、もしもそこを武器が通過した時、自分の手に当たってしまうため、そこは透過しないというのが考えです。
ダラダラ書くのもよくないのでここら辺で締めさせて頂きます。
それではっ。