ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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 遅くなって申し訳ありません。

 やはり、戦闘描写は難しいですね。全然迫力とかスピード感がない。こうしたらいいんじゃない?とかあれば是非教えてください。

 この度非公開にさせて頂いた【一番星は輝かない】ですが、詳しくは活動報告をご覧ください。

 今回の話は前半がレット視点、後半がリーファ視点です。


14.紅鬼vs猛炎の将

「なあ、リーファ。領主会談の場所はどの辺りなんだ?」

「ええと、今抜けて来た山脈が世界中央を囲んでるから……、ここから西側の《蝶の谷》の出口で行われるわ」

「了解。残り時間は?」

「──20分」

 

 飛行時間は問題ない。後はサラマンダー達より先に着けるかどうかだ。

 

「あいつらの方が先に行っているかもしれません。急ぎましょう、キリトさん!」

「ああ。ユイ、サーチ圏内に大人数の反応があったら教えてくれ」

「はい!」

 

 ユイちゃんの反応を受け、俺達は翅を鳴らして加速に入った。

 

 洞窟の時よりも遥かに速いスピードで飛んでいく。さっきとほんとんど状況は同じだが、一つだけ違う。それは、辺りにモンスターの姿が見えない事だ。

 

「それにしても、モンスターを見かけないなあ?」

 

 キリトさんも同じ事を考えていたらしく、その疑問を口に出す。それに答えてくれたのは、俺の隣を飛ぶリーファだ。

 

「この《アルン高原》にはフィールド型モンスターはいないの。だからわざわざ会談をこっち側でするんじゃないかな」

「なるほどな。確かに、会談中にモンスターが沸いたら邪魔だもんな。でも、この場合はありがたくないな」

「どういう事?」

 

 キリトさんの考えが読めてしまった。もしもそれが実現していたと思うと、その後が怖い。

 

「さっきみたいにモンスターを山ほど引っ張って、奴等にぶつけてやろうかと」

「うわあ、えげつないわね」

「……多分それ、シルフとケットシーもタダじゃ済みませんよ」

 

 その作戦なら、とりあえずサラマンダーに討たれるという事はないだろう。いや、もしかしたら、その混乱の最中に殺す可能性もあり得るか。サラマンダーの大部隊が数だけなら嬉しいのだが、それは望めないだろうな。

 

「あっ、プレイヤー反応です!」

 

 不意にユイちゃんが叫んだ。

 

「前方に大集団──68人! サラマンダーの強襲部隊だと思われます。さらにその奥に14人、会談出席者と予想します。接触まで、およそ50秒です」

 

 その言葉が終わると同時に、雲が切れて視界が広がった。斜め下にはサラマンダーの大部隊、その奥にはシルフとケットシーの会談出席者。まだ彼らは、自分達を狙う奴等には気づいていない。

 

「──間に合わなかったね」

 

 リーファがぽつりと声を漏らす。

 今からでは、どうやっても全員を逃すのは不可能だ。12人と俺達が盾となり、領主2人をケットシー領の《フリーリア》に逃す事が出来るかどうかも分からない。

 

「ありがとう、2人共。ここまででいいよ。君達は世界樹に行って。……短い間だったけど、楽しかった。友達って言ってくれて、嬉しかったよ。またいつか、機会があったら──」

 

 リーファが必死に笑顔を作りながらそう言った。また俺の嫌いな顔だ。

 

「──レット。頼むぞ」

「……りょーかいです」

 

 キリトさんはそれだけ言うと、翅を鋭角に畳み、そのまま急角度のダイブを敢行した。

 

「──えっ……ちょっ、ちょっと!」

「諦めなよ、リーファ。キリトさんが、ここまで来て見捨てるわけないだろ。まあ、もちろん俺もそうだけど」

 

 そして、そのままさりげなく彼女の手を握る。

 

「安心してよ、俺達がついてるから。だからさ、()()に乗ったつもりでいてよ」

「……レット君。うん、わかっ……てないよ! 泥舟じゃ沈むじゃん!」

 

 俺は最後にリーファの手を強く握り、そして離す。彼女の反論を無視し、キリトさんがしたように急降下した。

 

 そして、既に下ではキリトさんが何かをやらかしているのが見える。どうせ、その場の勢いで何か言ったのだろう。彼はその尻拭いを「頼むぞ」と言ったのだ。

 

「さてと……、まずは文句からだなっ!」

 

 

 

「……護衛の1人もいない貴様を、大使だと信じろと言うのか?」

「──護衛ならここにいるぜ」

 

 サラマンダーのリーダーの問いに対し、俺はキリトさんの隣に着地しながら答える。そして俺はキリトさんの方を向き、

 

「……キリトさん。頼むから、こういう事はもうやめてくださいよ」

「悪い悪い。気をつける」

 

 絶対反省していないという事は分かるが、それを咎めるのは後にする。

 

「これで、彼が大使だと信じてもらえたか?」

「まさか。たった2人、大した装備も持たぬ貴様らの言葉を、にわかに信じるわけにはいかないな」

 

 まあ、当然の答えだろう。

 俺やキリトさんの装備は、ほとんどが《スイルベーン》で購入したもの。目の前の彼のようなハイレベルプレイヤーは、己の装備をプレイヤーメイドかレアドロップ品などで固めるのだ。実際、俺やキリトさんもSAOの頃はそうだった。

 

「だが、この劣勢な状況の中、助けに飛び込んで来た勇気と度胸に免じて、貴様らにチャンスをやろう。──俺の攻撃を30秒耐え切ったら、貴様らの言葉を信じてやろう。もちろん、2人一緒で構わない」

「──そんなの、俺1人で十分さ」

「ほう」

 

 飄々とした声で言ったキリトさんは、背から自分の剣を抜く。だが、俺はそれを阻止するため、彼の襟を強く引っ張る。

 

「グエッ……。な、何すんだよ、レット」

「何でキリトさんがやるんですか? キリトさんはさっき暴れたんですから、次は俺でしょう」

 

 ルグルーでの戦いでも、ほとんどはキリトさんが倒してしまった。俺がやったのは、キリトさんが討ち漏らした奴を倒す事。そんなんでは、俺は満足出来ない。

 

「で、でもなあ……」

「大体、大使が護衛よりも前に出るなんて事、あってはいけませんよ」

「………………分かったよ。レットに任せる」

 

 渋々といった様子で、キリトさんはリーファがいるシルフ=ケットシー側に下がる。

 

「ちょっと、レット君! 何でキリト君と一緒に戦わないのよ!」

「俺が勝てないって言うの?」

「レット君が強いのは知ってる。……でも、彼はユージーンって言って、ALO最強のプレイヤーよ。いくらレット君でも……」

 

 心配してくれるリーファの言葉を遮り、俺は言った。

 

「大丈夫さ。ここで負けてたら、()()()を超えられない。だから、俺はあいつに勝つよ」

 

 憎き白髪の男の顔を思い浮かべながら、俺はサラマンダーの男──ユージーンの元に向かった。

 

 

 

「──ふぅ」

 

 鞘から刀を抜き、目の前の男の双眼を睨みつける。その目に映るのは、自身の強さに対する絶対的な自信。こういう相手を倒すのは、中々大変だ。

 

 俺もユージーンも、構えたまま動かない。お互い隙を探しているのだ。

 しかし、太陽の光が彼の刀身に当たり一瞬光り、俺は眩しさに少し目を細めてしまった。その時、奴は予備動作なしに動き出す。

 

 迎撃するには間に合わない。とりあえず防ぐため、俺は手に持った刀を頭上に掲げた。

 

「──ッ⁉︎」

 

 しかし、受け止めるはずだった奴の剣は、気づけば俺の身体に紅い傷を刻んだ。その予想外の衝撃に耐え切れず、俺は地面まで叩き落される。

 

「──何だよ、今の」

 

 俺の目がおかしくなければ、ユージーンの持つ赤い剣が俺の刀を文字通り()()()()、左肩から斜めに斬り裂いた事になる。そういえば、一瞬だけ刀身が霞んだ気もする。

 

「ったくっ。面倒な相手だな」

 

 俺は右手に力を入れ、奴の元まで向かって行く。そして、鍛え上げたステータスに任せて全力で振り抜いた。もちろん、ユージーンはそれを容易く防いだ。

 

「ほう……、よく生きていたな。今ので終わりだと思ったのだが」

「一撃で終わるほどヤワじゃないぜ──ッ」

 

 リアルとSAOで鍛えた連続攻撃を仕掛けるが、それもユージーンは最低限の動きで防いで見せる。どうやら、装備のスペックに見合うだけのプレイヤースキルは持っているようだ。

 ステータスや装備の性能上、俺の方が不利だ。

 

「ウオォッ!」

「くそ──ッ!」

 

 再び刀身が透過する攻撃を仕掛けてきたが、今度は防具の表面を掠る程度で躱す。完璧に躱したつもりだったのだが、やはり空中戦の経験不足のせいで感覚と僅かな誤差がある。

 

「……おい。もう30秒軽く経ってるだろ!」

「悪いな、やっぱり斬りたくなった。首を取るまでに変更だ」

「この……ッ。自分で作ったルールだろうがっ」

 

 いよいよマズい。こちらの攻撃は敵にも対処が出来るのに、ユージーンの攻撃はパリィに頼らず躱さなくちゃいけない。空中戦の経験は向こうの方が豊富。勝てる要素がなさ過ぎる。

 

「はあぁぁッ!」

 

 ソードスキル《辻風》を再現するが、掠った程度でダメージは微々たるもの。

 

 そもそも、俺には戦いの幅が狭い。元々刀の腕に自信があるだけに、それが通用しない場合、取れる戦法がないのだ。ALOでは補助用に魔法を取り入れているが、それもこの高速戦闘中では使えない。

 キリトさんなら、こんな時でも勝ってしまうのだろう。だって、彼はあのSAOをクリアした英雄なのだから。ユニークスキル《二刀流》を持った勇者なのだから。

 

「──レット君ッ!」

「……リーファ?」

 

 下からリーファの声が聞こえた。

 

「お願い、勝って!」

 

「…………これで、勝つ以外に選択肢がなくなったな」

 

 女の子の声援を受けてやる気になるなんて、なんてベタな展開なんだろう。だが、これで本当にやる気が出るのだから不思議だ。

 

 さらに、キリトさんやシルフ、ケットシーのプレイヤーの声も聞こえる。

 

──カッコつけた手前、ダサい姿は見せられないな。

 

「ウオォッ!」

 

 視線を外したのはほんの一瞬。だがその間に、ユージーンは剣を振り上げ突進して来ていた。

 俺はそれを、翅を力一杯動かして上に避ける。

 

「ここまで俺の攻撃を避けて見せたのはお前が初めてだ。だが、それも終わりだッ!」

 

 いつまでも避けては勝てない。勝つためには迎撃するしかない。だが、それはあの剣の効果か何かで出来ない。一度でいい。一度だけでいいから、あの剣を防げれば……、

 

「……一度だけ、防げれば……。──それだッ!」

 

 再び攻撃を仕掛けて来るが、上に思いっ切り飛翔して躱す。そして、ある程度の高さで止まる。

 

「いつまで逃げるつもりだ!」

「じゃあ、ここでやめるよ」

「ほう。斬られる覚悟が出来たという事か」

 

 ユージーンの目には、勝利しか映っていない。俺はニヤリと笑い、こう答えた。

 

「お前に勝つ覚悟が出来たのさ。お前の〝最強〟の名は、今日から俺のものだ!」

「面白い。その自信、打ち砕いてやるわッ!」

 

◆◆◆

 

 レット君はユージーンを見下ろす形で空中で静止している。静寂は一瞬。ほぼ同時に2人は距離を詰める。

 

「ドアアアァァァッ!」

 

 どデカイ気合と共に、ユージーンがロケットの如く飛翔。《魔剣グラム》を振り上げ、レット君と交錯するタイミングに合わせる。

 

「ウオォォッ!」

 

 対するレット君は、左下に刀の先端を置いた体勢のまま突っ込み、抜刀の要領で一気に放つ。迎撃のための一撃は、やはりユージーンの剣をすり抜けてしまう。だが、レット君はその勢いのまま身体を捻り、左手で逆手に持った()()を振るう。

 

「──なッ! 鞘だと……」

「連続では透過出来ないみたいだなッ!」

 

 そのまま力一杯鞘を振り切り、ユージーンの剣をパリィする。そして回転して刀で斬りつける。

 

「──くッ!」

「うお……ッ!」

 

 レット君がやっているのは、鞘を用いた擬似的な()()()。ALOでも剣や刀などを使って多くのプレイヤーが挑戦したスタイルだが、未だそれをものにした者はいない。

 だけど、レット君はそれを自在に操る。鞘を主に防御に使い、その隙に素早い斬撃でユージーンのHPを削っていく。

 

「すごいな。レットの奴、いつの間に二刀流なんて練習したんだ?」

「レット君、あれが初めてなの?」

 

 隣で見ていたキリト君が、驚いた表情でそれを見る。

 

「ああ。でも、あいつなら出来てもおかしくない。だってあいつは《真紅の鬼神》──《紅鬼》なんだ。あいつが本気を出したら、火竜(サラマンダー)なんて目じゃないぜ」

 

 その《紅鬼》というのが、いわゆる二つ名である事は間違いない。どうしてそんな風に呼ばれていたのかは分からない。でも、想像出来る。彼が《紅鬼》と呼ばれ、戦っている姿が。

 

「はああぁぁッ!」

 

 レット君が擬似的な二刀流を披露してから、戦況は大きくレット君に傾いた。ユージーンの攻撃を二段構えのパリィで完璧に防ぎ、自分は確実にHPを削る。元々レット君の剣の腕はユージーンよりも上のため、それは当然だと言える。

 

 上から下へ。左から右へ。時折鞘による打撃も組み合わせる事で、ユージーンの気を逸らし続ける。そして遂に、ユージーンの体勢が崩れた。

 

「ウオォォォッ!」

 

 レット君の全力の袈裟斬り。剣を大きく上に弾かれたユージーンに、それを防ぐ手立てはない。

 

「ぬ……おおぉぉぉッ!」

 

 しかし、ユージーンの声に呼応するように炎の膜のようなものが現れ、レット君の一撃を防ぐ。その衝撃でレット君は僅かに下がった。その隙に腕を引き戻し、ユージーンは再び剣を横薙ぎに振るう。

 

「もうその攻撃は、見切ったッ!」

 

 今までで一番速く鋭く繰り出された刀は、ユージーンが持つ《魔剣グラム》の柄を叩いた。

 

「なんと……。《魔剣グラム》を完璧に抑え込んでいる」

「すごいヨ! あの子、一体何者?」

 

 過去のデュエル大会で、一度も防がれた事のない《魔剣グラム》の《エセリアルシフト》。レット君はこの戦いの中で、それを完全に抑えて見せた。

 

「いけぇッ! レット君──ッ!」

 

「はあぁぁぁッ!」

 

 鞘を持ったままの左手を前にかざし、右手の刀を肩の上に大きく引いて構える。翅で空気を思いっ切り叩いて加速。そして、振り絞ったその腕を力一杯前に突き出した。

 

「ぐあっ!」

 

 限界を超えてブーストされたスピードと、ステータスに裏付けされた力を乗せた一撃が、ユージーンの胸を貫いた。そして──、

 

「…………!」

 

 ユージーンの身体は巨大なエンドフレイムに包まれ、そして爆散した。レット君の勝ちだ。

 

 こんな戦い、見た事がない。

 ALOでは珍しい、剣と剣との戦い。それも、超高速の空中戦闘(エアレイド)伝説級武器(レジェンダリーウェポン)である《魔剣グラム》を持った最強のプレイヤーを倒した。

 その衝撃に、場が一瞬静まる。

 

「見事、見事!」

「すごーい! ナイスファイトだヨ!」

 

 サクヤとアリシャさんに続き、敵であったサラマンダーさえも、レット君の勝利を讃える。

 

「わぁ……!」

 

 レット君はあまりの声援の大きさに動揺していたが、あたしの姿を見つけると、真っ直ぐにこっちを見る。そして、恥ずかしそうに頭を掻くと、控えめなピースサインをした。

 

「……カッコよかったよ、レット君」

 

 あたしは誰にも聞こえないぐらいのボリュームで、そう呟いた。




 分かりづらかったと思うので、少しだけ解説をします。

レットside
・レットvsユージーンがスタート
・《魔剣グラム》の《エセリアルシフト》に苦戦し、レット劣勢
・リーファが声援を送る
リーファside
・ユージーンの攻撃を鞘を使った擬似二刀流で防ぐ
・レットが勝つ

 大まかな流れ、というか今回の話を書く際に自分が作ったプロットの一部です(笑)。書いている分には、これが映像になっているんですけどね……。それを上手く書けない。

 原作や作者のツイッターで、防具の《エクストラ効果》で攻撃を防いだという箇所があったので取り入れました。

 そして、戦いの最中にレットは《辻風》使っていましたが、もちろん再現です。また、最後ユージーンを貫いた攻撃は、《ヴォーパル・ストライク》の再現です。レットはナイトにそれでやられてから、刀で再現出来るほどそれを研究していました。今回最後に使ったのは、翅によるブーストでシステムアシストを代用してあります。

 そして最後。サラっと流しましたが、鞘を使わずに刀だけでパリィをしています。これは、《魔剣グラム》の効果が持ち手までには及ばないという、作者の独自解釈です。柄まで透過したら、もしもそこを武器が通過した時、自分の手に当たってしまうため、そこは透過しないというのが考えです。


 ダラダラ書くのもよくないのでここら辺で締めさせて頂きます。

 それではっ。

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