ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

6 / 71
今回は、キリトが《月夜の黒猫団》にいる頃の攻略の様子とレットの刀の話です。後半のセリフの無さが凄い。説明を入れ過ぎた気がします。オリジナル要素が多過ぎたので、それを補足しようとしたらこの結果。……楽しんでくれれば幸いです。


05.《伝説を残した刀》

「それでは、今日は解散。明日のボス戦に備えて休んでください」

 

 アスナさんがお決まりのセリフを言い、攻略会議を占める。最近、アスナさんは血盟騎士団、通称《Kob》に入り、そこの副団長をしている。攻略の鬼と称され、日々、迷宮区攻略に邁進している。ちなみに、俺も一応《Kob》には勧誘された(ここ重要!)。だが、どうもギルドの堅苦しい感じが好きになれず断った。ナイトや今ここにいないキリトさんも同じように誘われたが断っている。

 

「よぉ、レット。今日もよろしくな」

 

「よろしくお願いします、エギルさん。それと、ナイトもよろしく」

 

 今回のボス戦、俺はエギルさんとナイトと同じパーティ。リーダーはナイトだ。ナイトは最近はより一層、その高い指揮能力を高め、ギルドに入っていない上に、ビーター呼ばわりされているにも関わらず、ギルドの人たちは渋々信頼している。

 そして、俺との関係は良好とは言えない。第1層以降、パーティを組んだのはボス戦だけ。世間話さえもなく、常に業務連絡のみ。おそらく、俺がナイトを超えるまで、まともな会話をする気はないと見た。

 

「なんか、相変わらずだな、お前ら」

 

「まぁ、あんな事がありましたからね。馴れ馴れしくするのも変ですし」

 

 その後も軽く話をして、今日は宿に戻った。

 

 

 そして、ボス戦。ボスはサソリっぽいモンスター。前だけではなく、後ろの尻尾にも気をつけなくてはならない。そして、その尻尾に当たると、《対阻害効果》スキルの熟練度に関係なく、《猛毒》のデバフがついてしまう厄介な相手だ。

 

「攻撃、開始!」

 

「俺とレット、エギルはタンクたちが受け止めてる間に攻撃。アクアとレオナルドとスネークはその後スイッチ」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「うおぉぉっ!」

「はあぁぁっ!」

「おぅりゃっ!」

 

 3人の攻撃はヒットし、すぐさまスイッチする。それを繰り返しているうちにボスのHPは確実にゼロに近づく。

 

「次! 多分ラストだ! LA、狙うぞ!」

 

「「おう!」」

 

 LAボーナス。これを取れれば、ナイトは少しぐらい認めてくれるかもしれない。俺の中にそんな下心があったのだろう。俺は2人より飛び出すタイミングがワンテンポ早かった。

 

「おいバカ! レット、早い! 戻れ!」

 

 俺にはその声が聞こえていなかった。だから、真横から来る、サソリの尻尾に対応出来なかった。吹っ飛ばされ、HPバーを見るとイエローゾーンに突入し、《猛毒》のデバフがついていた。

 

「うおぉぉっ!」

 

 ナイトの放つ《ホリゾンタル・スクエア》がサソリにその4連撃を叩き込む。そして、サソリはポリゴンとなった。

 

「ほらっ、ポーションだ。飲んどけ」

 

 LAを取ったナイトが回復ポーションと解毒ポーションを渡してくる。それを素直に受け取り、飲み干す。悔しい。ただでさえ不味いポーションがしょっぱくなった気がした。

 

 

「と、いうわけなんだナ」

 

「そうなんですよ。焦っちゃいまして……」

 

 現在、俺はアルゴさんからメッセージを受け取り、NPCのカフェにいる。いくらアルゴさんでも今回は割り勘だと言うので了承したのだ。

 

「まぁ、ナー君はベータの頃からあんな感じだったからナ。“一匹オオカミ”とは、ナー君のための言葉だと思うヨ」

 

 確かに、それは言えてる。ナイトはそんな奴だ。間違いなく、現実で会ってたら友達になれないだろう。

 

「ところで、オレっちがスー坊を呼び出した目的、終わってないんだけどナ~」

 

 そうだった……。忘れてた。

 

「じゃあ、改めて始めてください」

 

「確か、スー坊、《カタナ》スキル取ってただロ。実はそのスキル持ちしか出来ないクエストがあるんだヨ。クエストは一回きり。他の誰かがクリアした時点でお終いダ。どうダ? 魅力的だロ」

 

 確かに俺は《カタナ》スキルを持ってる。まだ曲刀がメインだが、NPCの鍛冶屋で安物の刀を買い、少しずつスキルを鍛えていた。そろそろメインの刀が欲しいとは思っていたが……。

 

「何で知ってるんですか? 俺、まだ誰にも言ってないんですけど!」

 

「にゃハハハ。《鼠のアルゴ》をナメてもらっちゃ困るナ。それに、オネーサン、スー坊の事なら何でも知ってるゾ」

 

 ホントに知ってそうで怖い。この人、偶にストーカーなんじゃないかと思う時がある。

 

「《カタナ》の事、言ったのクラインさんですよね。《風林火山》のリーダー」

 

「よく分かったナ。大正解だヨ」

 

 あの人……口が軽過ぎる……。釘を刺しておかないと……。

 

「アルゴさん、いくら払ったら、その情報を止めてくれます?」

 

「そうだナ~、せっかくだから、2000コルくらいもらおうかナ。それか、キー坊がどこにいるか教えてくれればそれでいいゾ」

 

「アルゴさんなら、キリトさんの場所、もう知ってるんじゃ」

 

「風の噂だけだからナ。スー坊からの情報なら信じられル」

 

「はぁ、分かりました。キリトさんは今、中層のギルド、《月夜の黒猫団》って所にいます。俺が知ってるのはそれだけです」

 

 レベルを隠している、という事は言わなかった。それはキリトさんに何か意図があると思ったからだ。

 

「まぁ、そんなもんカ。じゃあ、これ以上は《カタナ》スキルの事は話さないヨ」

 

「それと、伝言をお願いします」

 

「いいヨ。それぐらいはタダにしてあげるヨ。オネーサンは優しいからナ」

 

「“次、その軽い口を開いたら、デュエルしましょう。もちろん、《完全決着モード》で”とお伝えください」

 

「わ、分かったヨ。伝えとくヨ」

 

 この時、アルゴは“レットを怒らせてはいけない”と思い、同時に“怒らせる手前は情報を取り放題”と思ったそうだ。

 

「で、結局そのクエストってどういうのなんですか?」

 

 

 《伝説を残した刀》というクエストはこの層の主住区のNPC鍛冶から受けられるものらしい。それを受けた後、1つ下の層へ行き、《鍛刀の洞窟》というダンジョンでクエストが行われる。

 この洞窟は中にインゴットなど、武器を作るための素材があり、《鍛治》スキル持ちのプレイヤー行きつけの場所。しかし、ここには刀を使うモンスターが沢山出て来るため、多くのプレイヤーが犠牲になった。

 

「まっ、安全マージンは取ってあるし、《カタナ》スキルのモーションも大体分かるし、楽勝だな」

 

 そう、このダンジョンの刀持ちモンスターはカタナのソードスキルに一切のアレンジが加わっていない。つまり、モーションや対処法さえ分かっていれば、恐るるに足らないのである。

 

「さて、早く出て来いよ。《ゴブリン・ソードマン》!」

 

 《ゴブリン・ソードマン》。この洞窟限定のモンスターで、倒すと稀にカタナカテゴリの武器をドロップするモンスター。しかも、その刀は現時点では最前線にあるNPC武器屋の刀のステータスを遥かに上回る。現時点では、カタナ使いは最初、ここの刀を使うのが定石と言われている。

 《ゴブリン・ソードマン》はゴブリンの頃に手に入れた刀を気に入り、それを極めたモンスターという設定だ。そのため、1匹1匹の刀が違う。今回はそこからたった一本の刀を探すのだ。そして、どれが目的の刀か、それはドロップしてからしか分からない。

 

「チッ……またハズレか。一体どんな刀なんだ?」

 

 ただでさえ、出現率が低いのに、先ほどからかなりの数の《ゴブリン・ソードマン》を狩っている。すると、ポップしなくなる。だからリポップを待たなくてはならない。だが、このクエストには時間制限がある。12時間だ。長いようで短い。この手のクエストにとってはかなり難しい。

 

「ヤベェ、後1時間切った! ああ、くっそ!」

 

 確かにこれでは、クリア出来る者は滅多に現れないだろう。パーティを組んだとしても、大して変わらないだろうしな。

 

「よし、切り替えて次の行こう!」

 

 すると、奥から他の《ゴブリン・ソードマン》とは比較にならない程のレベルの奴が出て来た。レベルはなんと30。俺との差は僅か5だった。他の奴等より10近く上だった。

 

「……これ……結構ヤバくね?」

 

 次の瞬間、そのゴブリンは襲いかかって来た。ソードスキル《辻風》を使い、奴は俺を殺すために向かって来る。

 

「チッ……もう、なるようになれ!」

 

 俺も、ソードスキルを使い、ゴブリンの刀をパリィする。パリィしては攻撃。攻撃しては下がって、パリィ。その繰り返しだった。

 

 

 結論から言おう。楽勝だった。俺のHPバーはイエローにすら落ちてはいなかった。

 しかし、その間に何度か近くに別の《ゴブリン・ソードマンがポップした時は焦った。にも関わらず、楽勝だったのは30Lvのゴブリンがなぜかポップしたゴブリンを倒したからだ。俺はこの時、“武士の心を持ったゴブリン”という事で納得した。真実は分からない。

 だが、1番の理由は別にある。それは、このゴブリンの攻撃力が圧倒的になかったから。俺は刀を使っている割に、防御力はない。防具にほとんど金属装備を使わずに皮防具ばかりを使っているからだ。なのに、奴の攻撃力は恐ろしくなかった。その理由はすぐに分かった。

 

「…………何これ……」

 

 クエストの報酬は30Lvのゴブリンがドロップした刀だ。ちなみに、他のゴブリンからドロップした刀は依頼主のNPCに全部取られた。

 

「弱過ぎだろ、伝説の刀Σ!」

 

 《鉛刃(えんじん)ナマクラ》。それがこの刀の名前だ。名前からして弱そうだ。そして、そのステータスも名前を裏切らない。俺が自分が使う刀を選ぶためにあちこち回ったNPCの武器屋のと比較しても遥かに弱い。唯一褒められる所は耐久値。今まで見た全武器の中で一番ある。

 

「はぁ、コレをどうしろと言うんだよ。しかも……売れないじゃねぇかよ!」

 

 NPCに売ろうとしても、誰も買い取ってくんない。理由は知らないが、俺は武器としての価値もない、という予想だ。もうマジでふざけんな。

 

「仕方ねぇ。もう一回、《ゴブリン・ソードマン》からドロップさせるか……。ったく、何のための12時間だったんだァ!」




【DATA】

・スコルピオーネ《The Scorpione》
第28層のボス部屋でプレイヤーを迎え撃ったモンスター。鋏から繰り出される拘束技は一度捕まるとSTR値極振りぐらいでないと抜け出せない。尾は威力は鋏に及ばないものの、当たればどんなスキルを持ってしても100%《猛毒》のデバフがかかる。しかし、鋏や尾を自在に操れる分、本体の移動速度は遅め。タンク隊が鋏を抑え、ダメージディーラーが尾に気をつけていればそれほど苦労しない相手。

・鍛刀の洞窟
武器を作るのに必要な材料が多く採れる洞窟。しかし、刀を使うモンスターが多く、この層が前線だった当時は、多くの攻略組が苦しめられた。
このフィールド限定モンスター《ゴブリン・ソードマン》を倒すと刀をドロップする場合がある。

・《鉛刀(えんじん)ナマクラ》
威力は刀カテゴリ最低クラス、耐久値、要求STR値は最高クラスの、その名に恥じない鈍刀。しかも、NPC相手には売る事が出来ない。そんなステータスでは、プレイヤー間でも取引は絶望的で、実質売却不可のアイテム。
実は、ダメージを与える度に、要求STR値がほんの僅かだが低くなっていくという隠しステータスがある。これが、何を意味しているのだろうか。


次回もお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。