ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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 文化祭、体育祭と続いていたため、少し投稿が遅れてしまいました。しばらくは、定期テストや修学旅行もあるため、不定期更新が続くと思われます。楽しみにしてくれている方には、大変申し訳ない事をしてしまっていると思っています。

 前回の投稿から、一年前の今頃はどの辺りを書いていたのか見直してみると、ナイトが《ヴァイス》と呼ばれていた頃でした。丁度、クリスマスイベントの時に、レットと戦った辺りですね。この頃とは、若干書き方も変わり、文章も多少はマシになったんじゃないかと思います。

 そして今回、あまりに展開が進まず、タイトルに苦労しました。

 というわけで10話です。どうぞっ!

-追記-
 完全に忘れてました。登場してませんが、アスナ誕生日おめでとう! 出番を早くする事を約束します!


10.冒険

 スイルベーンを出発してしばらく飛んでいると、トカゲ型のモンスターに襲われた。トカゲ型だが翅がある。ALOだからこその仕様だ。

 飛行型mobを相手にする場合、SAO時代は中々厄介だった。攻撃を当てるのが難しく、尚且つ、デバフや状態異常など対処が面倒な攻撃を仕掛けて来る場合が多い。

 だが、それに比べればALOはまだ楽だ。自分達も飛べるから、こちらの攻撃が当てやすい。何より魔法があるため、モンスターの間合いに入る前に倒せる。俺も、そのあまりの便利さに、後半は火炎魔法を使っている。かつて嫌いになりかけたのが嘘のようだ。

 

「レット君やるねー。もう魔法バッチリじゃん」

「まあね。学校の英語と変わらないしな」

「それに比べて……」

 

 俺とリーファは、納刀時の独特の動作を終えたキリトさんの方を見た。本人は、どうして見られているのか分かっていない。

 

「ん? どうした、二人共。そんな変な顔して。もしかしてもうバテたのか?」

 

 二人で顔を見合わせ、苦笑い。

 俺も刀を鞘に戻し、リーファの指示に従い降下した。

 

 今回はキリトさんも無事に着陸出来た。俺は体を伸ばしたり、肩を回したりする。隣でキリトさんも同じような事をしている。

 

「疲れた?」

「そりゃね。慣れない飛行だからさ」

「情けないなー、レットは。俺はまだまだ余裕だぜ」

「君がおかしいんだよ。昨日の今日で、あたしのスピードについて来れる事自体、すごい事なんだからね」

 

 普通なら、随分と自分を過大評価していると思う所だが、彼女はそれを言えるだけの実力がある。九種族最速の飛行スピードを持つシルフの中でも、トップクラスなのではないだろうか。

 

「でも、残念ながら、空の旅はしばらくお預けよ」

「どうして?」

 

 俺の質問に対し、リーファは聳え立つ大きな山を指差した。

 

「あの山の高さが飛行限界高度を超えてるのよ。だから、山を越えるには洞窟の中を行かなくちゃいけないの」

「洞窟かぁ。暗くてジメジメした所、あんまり好きじゃないんだよなぁ。せめて、長くないといいんだけど……」

「うーん、ちょっと長いかな。でも、途中で中立の高山都市があるから休めるよ。二人はまだ時間大丈夫?」

 

 ALO内時間は、現実世界と同期しておらず、一日は16時間で推移している。これは、特定の時間帯しかプレイ出来ないプレイヤーたちを考慮しているからだ。そのため、周りはまだ明るいのに、現実ではもう7時という現象が起きる。

 

「えっと、リアルじゃ今は7時か。俺は平気だ」

「俺もかな。リーファは?」

「あたしは大丈夫だよ。じゃあ、もうちょっと頑張ろう。ここで一回ローテアウトしよっか」

 

 また聞き慣れないワードが出て来た。俺もキリトさんも首を傾げるしかない。

 

「ローテアウトっていうのは、交代でログアウト休憩するって意味よ。ここは中立地域だから即落ち出来ないの。だからかわりばんこに落ちて、残った人が空っぽのアバターを守るの」

 

 ローテーションでログアウトの略だろう。そもそもSAOしかVRMMOをプレイしたことの無い俺達が、それを知っているはずがない。

 

「なるほど、じゃあリーファとレット、先いいぞ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくね」

 

 そう言って俺とリーファはログアウトした。

 

 

 

「……ッ、寒っ」

 

 ALOの中でも確認したが、現実は夜の7時過ぎ。しかも、冬の夜である。

 ダイブする前に、エアコンの設定温度を控えめにしたのが裏目に出た。帰って来ると、部屋の中は大分冷えていたのだ。

 俺はエアコンのリモコンを手探りで見つけ、温度を思いっきり上げる。そして、椅子にかけておいたジャージを着てリビングに降りた。

 

「あ、紅林君。丁度声かけようと思ってたんだ」

「どうしたの?」

「ちょっとこの後やる事があるから、ご飯適当でいいかなぁ、みたいな」

「いいよ、全然。俺もこの後やる事あるし」

 

 そうして、桐ヶ谷さんと一緒にベーグルサンドを作る事にした。一緒にと言っても、パンを半分に切り、ハムやチーズ、マスタード、野菜類などを挟むだけの簡単なもの。

 フルダイブ前には、食べ過ぎないのが鉄則ではあるのだが、さすがにそれだけでは、育ち盛りな中学生には少な過ぎる。

 そこで、もう一品というかもう一個作る事にした。ベーコンをカリカリに焼いて、レタスとスクランブルエッグと一緒に挟む。

 

「紅林君が丁度降りて来てよかったよ。夜ご飯、適当に済ませるとお母さん怒るから」

「いやいや。ベーグルサンド二個は十分適当だって……」

 

 本気で言っているのか分からない発言にツッコミを入れた後、二人でベーグルサンドにかぶりつく。もちろん、和人さんもこの後戻って来て食べるはずなので、彼の分はあらかじめ別に作ってある。

 

「――っ」

「……? どうしたの、桐ヶ谷さん」

「えっ、えっと…………。何でもない。何でもない、よ」

 

 一つ目を食べ終えて顔を上げると、同じく食べ終わったらしい桐ヶ谷さんと目が合った。すると、彼女は一瞬だけ口元を緩ませ、頰を染めて俯いた。

 

「えっと……俺の顔に何か付いてる?」

「ち、違うよ。別に……そんなんじゃない、から……」

 

 ますます分からない。おそらく、原因は俺にあるはずなのだが、それが分からない。教えてもらおうと、彼女に聞くのだが、それが余計に彼女の顔を紅くする。

 SAOの頃は《風林火山》の皆さんや、レモンさんとよく食事をしたものだが、そういう事は一度もなかったと思う。まあ、彼らは皆、食事中はそれに集中するため、もし俺がおかしな行動をしたとしても、気づかない気がするのだが。

 

「分かったよ。これ以上は聞かない。でも、次何かあった時は、必ず俺に言ってくれよ。桐ヶ谷さんは、俺の一番の友達だからさ」

「――ッ。う、うん。分かった。次は、必ず言うね」

 

 食事を終えた後、俺は和人さんの分のベーグルサンドにラップをかけた。俺はそのまま自室に戻るが、桐ヶ谷さんはシャワーを浴びるという。理性で煩悩を抑え込み、ナーヴギアを被った。そして、再びALOにダイブした。

 

 

 

「おう、お帰り。俺の飯、用意してくれたか?」

 

 キリトさんは暇だったのか、何かを口に咥えて寝転がっていた。

 

「……キリトさん、もしかして俺を先に落ちさせたのって、それが目的だったりします?」

「……まさか。俺なりの優しさだよ」

 

 目が泳いでいる。キリトさんは、普段はあれだけ大胆不敵で飄々とした態度をとっているのに、このような場面ではどこか子供っぽい所がある。オンオフが激しいというか、普段は楽しんでいるというか。

 とにかく、この人のハチャメチャな性格のせいで、俺を含めた彼の友人たちがどれだけ振り回された事か。そういう意味でも、そんな彼の被害者の一人でありつつも、彼の手綱を握っていたアスナさんを、早く助けなければいけない。

 

「リアルに戻ったら、机の上にベーグルサンドがあるので、それでよければどうぞ。それと、桐ヶ谷さんがシャワー浴びてるんで、それだけはご注意を」

「了解。そういえば、何で女子ってシャワーとかお風呂が好きなんだろうな」

「あとショッピングも」

 

 男子の俺には一生かかっても分からない質問を交わしてから、キリトさんはログアウトするために、メニューウィンドウを呼び出した。

 

「なるべく早く戻って来るよ」

「了解です」

 

 それから数分、さっきまでの戦闘で手に入れたアイテムをチェックしながら、時間を潰す。

 

「ただいま。あれ、キリト君は」

「さっき落ちたよ。俺が戻って来たからさ」

「そっか。ご飯とか食べた?」

「ああ。軽めに摂ったよ。とりあえず、これでもうしばらくはプレイ出来る」

 

 戻って来たリーファとそんな話をしていると、空っぽのキリトさんのアバターのポケットがもぞもぞと動いた。そして、中から可愛らしい小妖精が顔を出し、そのまま外に出て来た。

 

「あなた、ご主人様がいなくても動けるの?」

「当然です。私は私ですから。それと、ご主人様じゃなくて、パパです」

「そういえば、どうしてパパって呼んでるの? まさか……、キリト君がそういう風な設定にしたの?」

 

 それはいくら何でも可哀想だ。確かに、キリトさんがユイちゃんの事を大好きなのは知っているし、ユイちゃんをAIとしてではなく、一人の娘として溺愛している事も知っている。ユイちゃんもまた、キリトさんを本当の父親のように慕っているのも分かる。だが、それは……ちょっと……。

 

「……パパは私を助けてくれたんです。俺の子供だって。だからパパです」

 

 ……ユイちゃん、全然〝だから〟じゃないよ。前後で話が通じてないから。

 俺は和人さんからある程度の事は説明を受けたから分かるが、今のだけで分かる奴はいないと思う。でも、ユイちゃんにとってはそれが真実で、キリトさんとアスナさんが自分を助けてくれた、ただそれだけで嬉しかったんだろう。

 

「ユイちゃんは、キリトさん――パパの事、好きなんだな」

「うん、そうだね。よく分かんないけど、とっても素敵」

 

 俺が呟くように言った言葉に、リーファが反応した。

 

「……レットさん、リーファさん。あの……、好きって、どういう事なんでしょう?」

「……ん?」

 

 別に俺はそういうつもりで言ったわけではないのだが、どこか哲学的な感じの質問が返って来た。予想の斜め上を行く返しに、俺はすぐに返す事が出来ない。それはリーファも同じなようで、俺達は困ったように顔を見合わせるしかなかった。

 

「……レットさん」

 

 ユイちゃんの好奇心に満ちた目に見つめられ、俺は逃げるように顔を逸らす。

 

「……そういう経験、俺にはないからな……。上手く言えないな……。ごめんね、ユイちゃん」

「……そうですか…………」

 

 すごく胸が痛い。別に悪い事をしたわけではないのに、その残念そうにしているのがよく分かる表情をされると、そんな事をしたような気さえする。

 

「……じゃあ、リーファさんはどうですか?」

「えっ……と、その……。……いつでも、一緒にいたい。その人の事をもっと知りたい。ただそれだけなのに、すごくドキドキわくわくする、そんな感じかな」

 

 すると、リーファが顔を赤くして、首を横に振った。彼女には、そう思える人がいるのだと思う。そんな彼女を見ていると、こっちまで恥ずかしくってきた。

 

「……リーファさん? それにレットさんも。どうしたんですか?」

「ななな何でもない!」

「何が何でもないんだ?」

「わっ!」

 

 丁度タイミングでキリトさんか戻って来た。俺もリーファも、これ以上この話題を続けるのは難しい。普段はトラブルを運んで来る彼だが、今回ばかりは感謝せざるを得ない。

 

「ただいま」

「お帰りなさい、パパ。今、レットさんとリーファさんと――」

「わあっ、何でもないって!」

 

 ユイちゃんがキリトさんに真面目に報告しようとするのを、リーファが被せ気味に阻止する。まあ、あまり聞かれたい事ではないだろうな。

 

「それより、キリト君早かったね。ご飯とかは?」

「ああ、それなら家族が作り置きしてくれてたから」

「そっか。じゃあ、そろそろ出発しようか」

 

 リーファが翅を広げ、飛行の体勢に入る。

 その時、誰かに見られているような感覚がした。それも、悪意のある目でこちらを観察するような、ねっとりとした視線。あまりの気味悪さに、俺は大声を出しながら背後を見る。

 

「誰だッ!」

 

 もちろん、いつでも抜刀出来るよう、柄に手をかけている。俺は、辺りに潜んでいると思われるプレイヤーを探そうと目を凝らす。だが、森の中というのもあり、誰も見つからない。

 

「急にどうしたの、レット君。誰もいないけど……」

 

 リーファが翅を出したまま、俺が向いた方向を見る。だが、その目は誰かを探そうとしている目ではなく、俺に対する呆れが含まれている。

 

「……おかしいな。誰かに見られているような気がしたんだけど……」

「うーん、言われてみれば、そんな気がしなくもないな」

 

 俺の言葉に、キリトさんは頷いてくれた。たがやはり、プレイヤーどころか、モンスター1匹発見する事は出来ない。

 

「パパ、レットさん。私の索敵範囲内に、プレイヤーの反応はありません」

「そうか……。じゃあ、一体……」

「いや。俺の気のせいかもしれません。早く行きましょう」

「ひょっとしたら、トレーサーが付いているのかも」

 

 俺とキリトさんの視界にも入らず、ユイちゃんの高性能な索敵にも引っかからない。そんな奴なんていない、自分達の勘違いだと処理しようとした時、リーファからまた聞きなれない言葉が聞こえた。

 

「トレーサー?」

「追跡魔法よ。大概小さい使い魔で、術者に対象の位置を教えるの」

「解除の仕方は? 対抗魔法があるのか?」

「トレーサーを見つけられれば可能だけど、術者の魔法スキルが高いと対象から取れる距離も増えるから、この森じゃ見つけるのは無理ね」

 

 追跡魔法を仕掛ける理由なんて、そう多くはない。基本は何か情報を手に入れるのが目的だ。例えばダンジョンとか、対象の戦い方とか。だが、それをどうして俺達なのだろう。それこそ、あのシグルドのパーティーの方がいいに決まっている。元からリーファに付いていたのなら別の話だが。

 

「……もしもトレーサーが付いていて、そのターゲットが俺達なら、一体何が目的なんだ?」

「……PK、とか?」

「――ッ!」

 

 キリトさんがそう答えた。この世界では、HPが0になっても死なないと分かっているはずなのに、ついその言葉に必要以上に反応してしまう。

 

「いやいや。それはないですよ、キリトさん」

「レットの事だからなぁ、どうせ知らない所で色々やらかしてるんだろ。スイルベーンで正体明かすし、俺と会う前だって、サラマンダー斬ったらしいじゃんか」

「……キリトさんだけには言われたくないです。絶対キリトさんだって、俺と同じ立場ならやってますよ」

 

 塔の上でも言ったが、俺は別にトラブルメーカーでもないし、トラブルに愛されているわけでもないし、キリトさんほど滅茶苦茶やってるわけではない。結果的に俺がトラブルの渦中にいたとしても、それは俺が原因ではなく、俺の周りにいる奴が悪い。だから、それだけははっきりと否定しなければならない。そして、俺がトラブルに巻き込まれる原因の多くは、キリトさんが絡んでいるという事も、ちゃんと言っておかないといけないだろう。

 

「……何二人でコントやってるの?」

 

 リーファの呆れたような、でもどこか楽しそうな視線を受け、俺達はこの誰も得しない争いをやめた。いや、少なくとも俺の名誉は回復するのだが、今はこれでいいだろう。

 

「今は気にしないでいいと思うわ。それに、最悪はまた飛べばいいんだし。ほら、とりあえず先を急ごう」

 

 いつの間にか、俺が感じていた気配も消えている。やはり、気のせいだったのだろう。目を瞑り、自分の中のスイッチを切って、警戒を解く。

 目指すは、向こうに見える高い山。その麓にある洞窟だ。俺はそれを確認し、翅を広げてリーファに続いて飛び立った。




 話の大筋は原作と然程変わりませんが、少し現実サイドの話も多めに入れてみました。ぼちぼち、蓮と直葉の仲も進展させていかないといけませんからね。

 アンケートを活動報告にてやってます。よければどうぞっ。
 答えてくださったグレイブブレイドさん、ありがとうございます。リズとアクアの話って、自分でもびっくりするぐらいやってないですね。プロットを練りつつ、考えたいと思います。

 ここで言う事でもないのですが、【一番星は輝かない】についてです。更新が滞っている理由なのですが、三人称に苦戦してます。もしかしたら、一人称で投稿し直すかもしれません。現在考え中です。ただ、オリジナルはやってみたかったので、必ず再開します。

 感想をくれとは言いません。ただ、何か一言欲しいだけなんです(言ってる事同じ……)。

 次回は、ルグルーですかね。楽しみにしててください。
 それではっ!

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