結局、またキリト出て来ない。大丈夫。無理矢理でも出します。ていうか、次回は出さないと話成り立ちませんし。
FD編書いてるのに、FB編ばかり考えてしまう。ちなみに、AC編の時はFD編。
それでは、第五話スタートです!
俺は、一人のサラマンダーを倒した。相手が油断していたという事もあり、使い慣れない片手剣でも楽勝だった。どうやらこの世界では、武器をつかった近接戦闘には重きを置いていないらしい。
別に、殺す必要はなかったが、平和的交渉は叶わなかっただろう。それに、SAOクリアから二ヶ月経った今の実力を確認しておきたかった。仮想世界に来るのは、本当にあの時以来なのだから。
結果、無事に一人を瞬殺する事に成功。これなら、残りの二人も楽々倒せる。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
「――ッ!」
俺の背中を、熱い何かが焼く。そして、同時に大きな爆発を伴い、俺の体を奥の木まで吹き飛ばした。気づけば、俺は木の幹に叩きつけられ、剣を手放し倒れていた。
「痛ッ!」
そこに、シルフの彼女が心配そうにしながら来る。俺は大丈夫な事をアピールするため立ち上がろうとするが、フラフラしてまともに立てない。かなり頭が揺れている。
「今のはかなり高位の火炎魔法よ。慣れてない人じゃ、受けた後もしばらくまともに動けないわ」
「……リズさんのメイスの方が痛いけど、こっちの方が揺れるな。魔法か……、思った以上に厄介だな」
そう呟いた後、俺は魔法が放たれた方を見る。そこには、サラマンダーの少年――アバターなので、実際は知らない――がいた。彼もまた、リーダーと同じように、コントローラーを持たずに飛んでいる。
「キヤーナ、遅いぞ!」
「さーせん、カゲさん。レアな薬草あったから採ってたんですよ」
「まったく……、お前はブレないな」
「いいじゃないですか。そのサラマンダー、ウチのパーティーメンバー殺してたろ。要するに、あいつを殺せばオッケーっしょ」
口調の割に、佇まいはかなりの実力者。さっきの魔法も高位らしく、熟練度も高いのだろう。これは厄介だな。
俺は、近くに落としたままだった片手剣を拾う。そして、それを杖代わりにして立ち上がる。まだ平衡感覚がおかしいが、動けないわけではない。
「さっきは油断したけど、もうしない。どこからでも……」
「いいから逃げるよッ!」
「えっ?」
これから戦おう、そう意気込んだその時、俺は、シルフの彼女に手を引かれた。向かう先は森の中。半ば無理矢理引っ張られていたが、体勢を整えて走る。
「何で逃げるんだ」
「さっきのメイジ、キヤーナよ」
「キヤーナ?」
「サラマンダーなのに知らないのね。サラマンダーのキヤーナ。頭がキレて、トリッキーな攻撃が得意なプレイヤー。でも、マナー違反ギリギリのプレイを繰り返す嫌われ者よ。その代わり、実力だけなら幹部級よ」
分からないワードがちょいちょい出て来たが、一つ分かった事がある。それは、キヤーナというプレイヤーが、俺にとっての天敵であるという事。
どうしても、俺はそういう変則的なスタイルに滅法弱い。ましてや、初めて対戦するメイジ。武器、防具共にスペックが最悪である以上、まともに戦っては勝ち目がない。
「分かった。でも、このままで勝てるのか?」
「無理ね。そもそも、君が一人を落とせた事すら奇跡よ。リーダーは、シルフ狩りの名人なの。PvPには精通してるわ」
負ける要素しか見つからねー。助太刀なんてせずに、自分の種族の味方でもしてりゃよかったかな。いやいや、女の子をあんな風に襲っている奴等を見逃すわけにはいかないよな。
一瞬だけ数分の自身の行いを悔やみかけたものの、それは自分の信念に反する。自分のやった事は、自分にとっては正しいと信じる。
「じゃあ、飛んで逃げるとか?」
「それも無理よ。キヤーナとあのリーダーは随意飛行が出来わ。スピードが違い過ぎる」
飛んで逃げる事もダメか……。となると、ぶつかるしかないか。
戦おう、そう言おうとしたが、その前に彼女が口を開く。
「あたしか囮になるわ。元々、これはあたしが蒔いた種。君があたしと一緒に死ぬ理由はないわ」
「…………」
「あたしが、彼らの相手をして時間を稼ぐわ。その間に、君は逃げて。多分、君だけなら逃げ切れる」
やはり、彼女はそう言いだした。ほんの短い時間だが、こうやって一緒に逃げただけで分かる。彼女は悪く言えば“単純”で、良く言えば“純粋”。リアルでも、実に真っ直ぐな性格なのだろう。友達も多いんじゃないかな。
「じゃあ、逃げる作戦はなしだな」
「えっ? でも……」
「二人共生存出来ないんじゃ、使えない」
「でも……」
「でもじゃない。急ぐぞ、追いつかれる!」
後ろを見なくても分かる。後ろからすごいスピードで追いかけて来るプレイヤーが一人、その更に後ろに二人。間違いなく奴等だ。やはり、走りと飛行では後者が有利だ。木々の間を縫うように逃げても、随意飛行とやらの精度により、簡単に追いつかれる。
ざっと見積もって、後九十秒。それが、この鬼ごっこが続く最長の時間。こちらが少しでもスピードを落とせば、その時間は更に短くなる。
「なあ、その随意飛行ってどうやるんだ? 飛ぶ事をイメージすればいいのか?」
随意飛行が少しでも出来るのなら、まだ可能性がある。エアレイドだろうと、近接戦に持ち込めれば、負ける気はしない。
だから、俺は走るスピードを速めて、随意飛行のやり方を聞く。
「そんなに簡単なものじゃないわよ。友達は、あたしと同時に始めたんだけど、まだ出来てないわ」
「マスター出来るとは思ってないよ。ただ、コントローラーなしで少しでも飛べれば、近接戦に持ち込める」
「……分かったわ。走りながらだし、口で言うだけで出来るとは思わないけど、一応教えるわ。君を信じてみたいと思ったから」
その言葉に、ちょっと気恥ずかしくなる。だが、彼女も、俺が本気である事に気づいたのだろう。教えてくれると言ってくれた。
少しでも時間を稼ぐため、俺達は走る速度を更に上げる。
「随意飛行と呼ばれてるけど、本当にイメージだけで飛ぶわけじゃない。肩甲骨の少し上から、仮想の骨と筋肉が伸びてると想定するの。後はそれを強くを動かす。そうすれば出来るわ」
実に簡潔で、要点だけをまとめた説明。感覚的なものだったが、そんなのはSAOの頃に散々練習したシステム外スキルと大して変わらない。
仮想の骨と筋肉か……。とはいえ、これは相当練習が必要そうな気がするな。聞いたはいいが、出来る気がしない。
「――ッ! 止まれッ!」
その時だった。後ろから、微かに何か声が聞こえた。その後、何か燃える様な音が近づいて来ている。間違いない。キヤーナの火炎魔法だ。
俺は、シルフの彼女の手を引っ張り、無理矢理止まらせる。間一髪間に合った。俺達の約二歩先にぐらいに、火の玉が落ちた。まさに、止まっていなかった場合の俺達の位置だ。
「やっと、追い詰めたぜ。謝っても、もう遅いからな」
続いて、ランスを持った二人も到着。鬼ごっこはどうやらここで終わりらしい。逃げた時間は百秒か。想定より長く逃げられたな。
「安心しろ。返り討ちにしてやるよ」
初期装備の片手剣を背中から抜き、右手で持って構える。左手にコントローラーを出現させ、飛行の準備も済ませておく。
「じゃあ、遠慮なく殺す!」
キヤーナが再び詠唱を始める。彼の周りに無数の文字が展開し、魔法を組み立てていく。そして、掌から大きな火の玉が飛んで来る。
「――ッ!」
コントローラーによる飛行でギリギリ回避。そして、そのまま突っ込む。
作戦は開始された。俺の飛行と同時に、彼女もランス持ちの二人を相手にする。
「随意飛行も出来ないくせに、調子に乗るなッ!」
今度は、さっきよりも短い詠唱。おそらく、さっきよりも低ランクの魔法。だが、初期装備の俺に、この至近距離での魔法は致命的。
コントローラー操作では、急に避ける事など不可能。俺は、彼女の言葉を思い出した。
肩甲骨の少し上から、仮想の骨と筋肉が伸びてると仮定する。それを思いっきり動かして、それが翅の動きと連動している事をイメージ。
すると、不思議と体が自由に動く感覚。まさに、自分に翅が生えた感じ。
後は、コントローラーと同じだ。手足でバランスを取って、飛ぶ事を想像する。
「嘘っ!」
下から、ランス持ち二人と交戦中の彼女の驚愕の声が聞こえた。目の前のキヤーナも、驚きを隠せていない。
上斜め四十五度程に数メートル飛ぶ。完璧に飛べたわけではない。結局、その後は推進力を失った。
だが、キヤーナの選択した魔法は初級の火炎魔法。小さな火球が直線的な軌道で放たれるもの。範囲は狭い。だから、少し上に避けるだけで、簡単に躱す事が出来る。
「はあぁぁぁッ!」
コントローラーで、俺は体勢を整えつつ、キヤーナに向かって突っ込む。そして、剣を上段から勢いよく振り下ろす。力は出来るだけ抜き、斬る瞬間だけ最大出力。そうして放たれた今の俺に出来る最高の攻撃は、そのままキヤーナの左肩から右腰に一筋の紅い線を残す。
だが、慣れない空中からの攻撃で、やや浅めに入ってしまった。キヤーナは、そのまま地面に向かって落下する。
しかし、まだ生きていた。どうやら、体力はギリギリ、数ドット残ってしまったようだ。
「――ッ!」
後ろから小さな呻き声が聞こえ、そのまま何かが燃え上がるような音が続いた。彼女が、ランス持ちの一人を倒したのだ。
俺は、体勢を立て直すため、一度陸に降りる。そして、彼女と合流した。お互い、目だけで互いの健闘を称え合う。
「あの、野郎……。絶対に……」
「待て、キヤーナ。迂闊に攻め込むな。また同じ目に遭うぞ」
「でもさー、あの
もしかしたら、この状況を穏便――今更何言ってんだ――に済ませられるかもしれない、素晴らしいアイデアを思いついた。多分、隣の彼女は怒る気がするが。
別に俺は、この世界で仲良くゲームをやりに来たわけではないが、この場を丸く収められるのであれば、無理に戦い、これ以上自身と同じ種族と事を荒立てる必要性はない。
「なあ、リーダーさん。とりあえず、何かしらアイテムを置いて行ってくれるなら、見逃してやってもいいぜ」
あくまでも、俺達が上だという事は忘れないようにする。交渉においてまず重要な事は、相手に、自身の立場を分からせる事。今回の場合、俺達がお前らを見逃してやる、というこちらの有利性を主張しなければならない。
「はあ?
キヤーナを抑え、リーダーが代わりに話す。
「分かった。アイテムは置いて行く。俺も、流石にデスペナを喰らうつもりはない。もうすぐ、魔法スキルが九百なんだ」
「結構正直者だな。俺は嫌いじゃないぜ」
リーダーが、ウィンドウを開き、操作を開始した。おそらく今回の戦闘で手に入れたアイテムをオブジェクト化している。あの量はおそらく、今回入手したアイテムの全てだろう。トレードウィンドウを使わないのは、馴れ合うつもりはない、という意志の表れだろうか。本当に物分かりのいい男だ。
「カゲさんがやらないなら、俺が……」
「やめろ! この人数差で負けて、しかもこの状況で突っ込むな。これ以上、恥を晒すな」
この一言が決め手となり、キヤーナも諦めた。終始彼の表情は優れなかった。
リーダーが全てオブジェクト化し終わった。それを彼女が一つ一つ確認し、自身のストレージに入れていく。
「確かに受け取ったわ。今度会ったら、最後までやりましょうね」
彼女が、満面の笑みで言った。俺なら、絶対この子とやりたくない。相手のリーダーも似たような表情だ。
「おい、
「ん? スカーレットだ。覚えとかなくていいぜ」
「――スカーレット。テメェだけは、絶対に許さないからな。どんな手を使っても、お前に後悔させてやる」
最後に、地獄への招待状のような捨て台詞を吐いて行ったキヤーナ。怖過ぎるだろ……。そして、あの表情。近いうちに必ず何かして来るな。
そんな、最悪な出来事を予感しつつ、俺は共に戦ってくれた――正しくは、俺が彼女の戦いに割り込んだ――彼女に向き合う。
「えっと、勝手に逃がしちゃったけど、これでよかったかな? 後、あいつらから回収したアイテム。もちろん君に渡すよ」
「ありがと。もちろんいいわよ。君がいなかったら、あたしはとっくにスイルベーンに戻されてるもん。本当に、助かったわ」
一瞬、ここがALOである事を忘れてしまった。彼女の表情からは、言葉通りの感情がそのまま伝わって来た。ここが、本当はSAOなんじゃないか、またはフルダイブすらしておらず、まだ現実なんじゃないかと疑うほど。それぐらい、彼女の笑顔はリアルで、生き生きとしており、もっと簡単に言えば、可愛かった。
「そういえば、共闘したのに自己紹介すら済んでなかったな。俺はスカーレット。種族は見ての通り。名前長いし、レットって呼んでくれ」
俺は、感情表現がオーバーなこの世界に、今の状態を表現される前に、さっさと自己紹介をする。ほぼ初対面の彼女に、赤くなった顔は見られたくない。
別に俺は、ポーカーフェイスとかそういうわけではない。むしろ、考えてる事は簡単にバレてしまう。主にレモンさん。何でだろう。
「うん、よろしくね、レット君。あたしはリーファ、シルフよ」
「よろしく、リーファ」
シルフの彼女――リーファは、その真っ直ぐな眼差しで俺を捉えて来る。そして、右手を俺に差し出す。俺は、素直に右手で握り返した。
はい、五話目はレットとリーファの共闘という名の、レットの強さ再確認回でした。アインクラッド編では、周りに強い人ばかりで目立ちませんでしたが、レットだって強いんですよ。それも、やり方を聞いただけで、一瞬だけ随意飛行が出来るレベル。
相手のキヤーナ。知っての通りオリキャラです。今後も出て来るのでお楽しみに。多分、いい奴ではない。
次回こそは、キリト登場です。残念ながら、彼が倒した敵は既にレットが倒してしまっているのですが。それと、募集していた、レットがスイルベーンに入る方法も色々考えて決めました。そんなわけで、次はキリト&ユイちゃんとスイルベーンが出て来ます。あれ? 【SAO SO&WD】でユイちゃん書くの初めてじゃね?
次は多分、【一番星は輝かない】ですかね。プロットはとっくに出来てるのにまだ書き終わってない。でも、結構こっちも書いてて楽しい。
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それではっ!