ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

52 / 71
 遅れて申し訳ありませんでした。定期試験や英検が重なり、気づけば約一ヶ月ぶりの投稿です。そして、読み終えれば分かると思います。前回のあとがきで宣言した事を思いっきり無視しております。詳しくはあとがきにて。

 それでは、第三話スタートです!


03.アルヴヘイム・オンライン

 今時の兄妹はこんな事までするものなのだろうか。それならば、俺は恵とは兄妹なんて言えないな。

 なんて、心底どうでもいい感想を抱きつつ、目の前の光景を見る。

 

 ここは、和人さんの部屋だ。そして、彼のベッドに彼自身が寝ているのはいい。だが、その彼と見つめ合うようにしながら寝ているのは、和人さんの妹である桐ヶ谷さん。恋人でも、こんな風に一緒に寝るまでには相当な時間を要する。二人の間には、かつては溝があったはずなのだが……って、何冷静に分析してんだよ俺は。

 

「ったく、布団もかけずに……」

 

 二人共こんなにぐっすりと眠っている以上、起こすのは申し訳ない。世の中、自分の常識やものさしで測れない事なんてたくさんある。やけにスケールの大きな話を持ち出し、俺は自分を納得させた。

 

 ベッドの上の布団を二人の上にかけた後、着替えを持って風呂に向かった。ゆっくり体を休めたかったのだが、日中の出来事が脳裏を過る。

 結局、風呂でのリラックスを早々に諦め、風呂の栓を抜いて寝室に戻った。

 

「……ッ!」

 

 だが、やはり思い出してしまう。親父の、親としては最低な言葉。そして、その親父に近づきつつある兄貴。そんな彼らの、恵への侮辱とも取れる言動。彼女が今まで歩んで来た道を否定した。

 

 しかし、俺には彼らを責める資格はないのではないか。そもそも、俺が恵を死なせたのが悪いのだ。一番近くにいて、一番守ってやらないといけなかったのに、俺は彼女を理解しようともせず、拒絶し、見ようとすらしなかった。もしも彼女が生きていたのなら、彼女は今一度、自分の生き方を見つめ直し、最善の選択をしていた事であろう。彼女の未来を奪ったのは、他でもない俺なのだ。

 

「失った物が多過ぎるな……」

 

 妹を失い、自信も失った。偽善者だと言われてもおかしくない言動を続け、それを人前に晒した。

 俺自身は、あの二年間で大きく変われたと思っている。だがそれ以上に、俺を取り巻く環境も大きく変化している。もう、俺が戻る場所はないのだと思い知らされた。

 多分、どこかで期待していたのだ。現実に帰れば、もう一度家族とやり直せるチャンスがある事を。俺の帰還を心から喜び、ただ「おかえり」、「無事でよかった」、そんな事を言ってほしかった。

 でも、それは何て浅はかな考えだったのだろう。あいつらにとって、“紅林蓮”(落ちこぼれ)は一家の汚点であり、隠すべき恥部であり、なくても何の支障も出ないのだ。必要としているのは才能であり、将来得るであろう名声。よって、彼らが俺に求めるものは何一つない。

 誰からも期待されない。誰からも求められない。俺にとってそれは、死ぬ事と同義だ。誰かから必要とされることに飢えていたからこそ、俺は善人の仮面を被ったのだ。俺は今、現実世界における自分の価値を、何一つ見出せないでいた。

 

 考えれば考えるほど嵌る。それでも考えずにはいられない。もがき苦しむほど、余計に絡まる。俺は頭から布団を被り眠る事にした。

 

 

 

 今日は、珍しく寝坊してしまった。夢は見てないはずだが、やはり昨夜の思案が原因だろう。とりあえず着替えて部屋から出る。

 

 すると、和人さんの部屋から勢いよく飛び出して来た桐ヶ谷さんと会う。顔を赤らめているため、最悪の形で朝を迎えたのだろう。

 そんな彼女に、俺はいつも通り朝の挨拶をする。

 

「桐ヶ谷さん、おはよう」

「あっ、く、紅林君っ! あ、あの、こ、これは、な、何でもないからね!」

 

 いや、何が何でもないんだよ……。大体の予想はつくものの、今さっきの出来事までは見ていないため、理解出来ない。

 

 続いて部屋を出て来たのは和人さん。妙にソワソワした様子だったので、イタズラしてみたくなった。

 

「よっ、おはよう、蓮」

「おはようございます、和人さん。夕べはお楽しみでしたね」

「そ、そんなんじゃないからな!」

 

 某ドラゴンなクエストなRPGに登場する台詞を、からかうつもりで言う。思った以上に焦った様子の和人さん。予想以上の反応だった。

 だが、予想以上過ぎて、その後弄る事が出来なかった。やっぱり、慣れてない事はするものじゃない。人を弄れる奴ってやっぱすごい。心の底から思った。

 

 

 

 朝食を食べた後は、いつもと時間帯は違うものの、普段通りのコースを走る。だが、普段なら走ればでスッキリする頭が、今日に限ってそうはならない。昨夜の葛藤が、未だに俺の中でグルグルと回り続けている。

 俺は、それらを無理矢理振り払うかのように、走る速度を上げた。

 

「はぁはぁはぁ……ッ」

 

 やり過ぎた。あれは、ペース配分をギリギリまで考慮した速さだったのだ。にもかかわらず、俺は自分が決めたそれを破り、まさかの全力疾走。当然、最後それがまで持つはずかなく、ゴールの遥か手前でこの有様。近所の人達から心配されながら、ようやくここまで帰って来れた。

 

「メール……? 誰から……っ」

 

 いつの間にかメールが届いていた。慣れた手つきでスマホを操作して、メールボックスを開く。差出人は【桐ヶ谷和人】。何でわざわざメールなんてしたんだろう。

 

「へ?」

 

 内容を要約すると、ランニングが終わり次第、《Dicey・Cafe(ダイシー・カフェ)》に来てくれ、的な感じだ。目的や理由などはほとんど書いていない。しかも、和人さんは俺に直接伝える事もせず、先にその場所に向かっているらしい。

 

「……はぁ。仕方ない、行くか」

 

 和人さんが何も言わずにメールだけとは珍しい。何か事情があるのだろう。和人さんが、要件をあまり説明しない時は、本当に大事な時だ。実際に会って話す。それが和人さんのやり方。

 とりあえず、速攻でシャワーを浴びる。濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻った。ランニング時の格好から、私服に着替えて家を出る。ペダルを思いっきり漕いで、俺は駅に向かった。

 

 

 

 《Dicey・Cafe(ダイシー・カフェ)》とは、俺がSAOでお世話になったプレイヤー――エギルさんがリアルで経営する喫茶店兼バーだ。東京都台東区御徒町のごみごみした裏通りに店を構えるこの店は、昼間より夜の方が繁盛しているらしい。本当にそれでいいのか? 煤けたような黒い木造で、ここが店である事を証明するものは、ドアの上の金属製の飾り看板のみ。知る人ぞ知る名店?なのだろう。店を開いたのは、SAOに囚われる少し前。エギルさんは、もうこの店を諦めていたらしいが、奥さんが一人で守ってきたそうだ。実にいい話で、素敵な奥さんだ。

 

 だが、一応待たせてしまっているため、俺はここらで回想を終えて店のドアを開けた。中に入ると、この店の雰囲気にとてもマッチしたBGMが聞こえてくる。そして、カウンターの向こう側にいる禿頭の巨漢と、黒ずくめの女顔。

 

「おい蓮。お前、今ものすごく失礼な事考えてただろ」

 

 どうやら顔に出ていたらしい。一方的なメールに対するイライラは、まだ俺の中にあるらしい。我ながら根に持つなあ。

 

「キリト、お前がその原因だろうが。

 ようレット、いらっしゃい。久しぶりだな」

 

 禿頭の巨漢ことエギルさん――本名、アンドリュー・ギルバート・ミルズさん――が、まさかリアルでも店を出しているとは思わなかった。だが、言われてみれば、SAOでの接客が妙に様になっているとは思った。笑顔にまだ、ぎこちなさが残っていたリズさんとは大違いだ。まあ、エギルさんの笑顔が素敵だ、というわけではないのだが。多分、知り合いじゃなかったらビビってる自信がある。

 

「お久しぶりです、エギルさん」

 

 俺は、和人さんの隣に座りながらコーヒーを頼む。そして、和人さんを睨みつけて足を軽く蹴る。

 

「いてッ。わ、悪かったって……。何も説明しなかったのは謝るよ。でも、居ても立っても居られなくてさ」

「分かってますよ。そういう事情があるのは。でも俺、何も知らないので、早く説明してください」

 

 エギルさんが、俺の前にコーヒーを置く。それに、ちょっとしたおつまみも作ってくれた。普通に美味しい。

 

「いや、俺もまだ聞いてないんだ。エギルがさ、蓮も来てからだってうるさくて」

「二人別々に話す意味が分からねえよ」

 

 確かにそうだ。だいたい、和人さんが先に行くっていうのが非常識なんだよ。

 

 そんな雰囲気を感じ取ってか、和人さんはバツが悪そうにした。そんな空気を変えるつもりなのか、わざとらしく咳をした。

 

「で、あの写真はどういう事だ?」

「少し長くなるんだが、……これ、知ってるか?」

 

 そう言うと、カウンターの下から何かを取り出し、俺と和人さんの間まで滑らせる。見た感じ、普通のゲームのパッケージ。名前は《ALfheim・Online》。そして、このゲームをプレイするためのハードの名前だろうか、右上に《AmuPhere》のロゴがある。それは、おそらく《アミュスフィア》で読み方は合っているだろう。でも、聞いた事がない。

 

「……ゲーム、ですよね、これ。アミュスフィア?って一体……」

「ああ、その通りだ。《アミュスフィア》、俺達が向こうにいる間に開発された、《ナーヴギア》の後継機らしい」

「あんな事があったのにな。よくもまあ、こんな物を開発する気になったもんだ」

「全くだ。でも、ナーヴギアとは違って、出力は大分弱っちくなって、脳を焼き切るなんて真似は出来ないらしいぜ」

 

 ゲーマーの性とは恐ろしい。だが、俺もそっち側の人間である以上、彼らの行動が理解出来ないわけではない。もしも、SAOに囚われていなければ、そのニュースを見てもなお、俺はそのアミュスフィアを購入し、プレイしていたであろう事は否定出来ない。それに、ナーヴギアとは違って、置き場所にもあまり困らなそうだ。気軽に持ち運べそうだし、これは売れて当然だ。

 

 そして俺は、目の前のパッケージに視線を戻す。

 

「じゃあこの、アルフ……ヘイム……オンライン? っていうのも、VRMMOなんですか?」

「ああ、そうだ。アルヴヘイムって発音するらしい。意味は妖精の国、だそうだ」

 

 確かに、パッケージには月を見つめる二人の男女アバター。彼らの耳はとんがっており、背中には虫の翅のようなものがある。言われてみれば妖精に見える。

 

「妖精……。何かほのぼのしてるな。まったり系のMMOなのか」

「それが、そうでもなさそうだぜ。ある意味えらいハードだ」

「妖精なのにハード? 何か矛盾してるような……」

「一体ハードって、どんな風に?」

 

 妖精といえば、あの可愛らしい感じを想像する。あれのどこがハードなのだろう。

 

「どスキル制。プレイヤースキル重視。PK推奨」

「「ど……」」

 

 “ど”って一体何だよ。

 

「いわゆる《レベル》は存在しないらしいな。各種スキルが反復使用で上昇するだけ。育っても、HPは大して上がらないそうだ。戦闘もプレイヤーの運動能力に依存。剣技(ソードスキル)なし、魔法ありのSAOってとこだな。グラフィックや動きの精度も、SAOに迫るらしいぜ」

「そりゃすごいな」

「いやいや。レベルがなくて、剣技(ソードスキル)もない、そして魔法ありとか、SAOの面影ゼロですよ……」

 

 SAOの最大のウリは、その剣技(ソードスキル)。実際、SAOプレイヤーはデスゲームの中とはいえ、その快感に魅せられていた。

 

「それで、PK推奨ってどういう事ですか? 妖精の国、っていうイメージからは、大分かけ離れているんですけど……」

「最初のキャラメイクで、九つの種族から一つを選ぶらしい。そんで、それ以外の種族相手ならキルありなんだとさ」

 

 種族間での競争が一つのテーマというわけか。それなら、このゲームがハードというのも頷ける。

 

「でも、いくらハイスペックでも、そんなハードじゃ人気出ないだろ」

「いや、そうでもないぜ。今これが大人気なんだと。理由は《飛べる》からだそうだ」

「「飛べる……?」」

 

 俺と和人さんが声を揃えて聞く。

 

「妖精だから羽根がある。フライトエンジンとやらを搭載してて、慣れるとコントローラーなしで自由に飛び回れる」

 

 俺も和人さんも、それを聞いて、へぇと声を漏らす。その後、二人して黙り、未だ見ぬ空の冒険に想いを馳せる。

 

「――って、危ない危ない。論点がズレるところだった。本題に戻ろう。あの写真は何なんだ」

「そういえば俺、その写真まだ見てないんですけど……」

 

 すると、エギルさんはそうだったなと言って、今度は写真を出してきた。そこに写っていたのは、やはり耳がとんがっていて、薄い翅が生えている妖精。だが、その顔に見覚えがある。

 

「――アスナさん」

「やっぱりそう思うか。ゲーム内のスクリーンショットだから解像度が足りないんだけどな……」

「早く教えてくれ、ここはどこなんだ」

 

 エギルさんは、俺達の前にあるそれを指差す。

 

「その中だよ。アルヴヘイム・オンラインの」

 

 エギルさんは、そのパッケージをひっくり返し、イラストの真ん中を指差す。

 

「世界樹と言うんだとさ。プレイヤー達は九つの種族に別れて、そこの上にあるという城に、他の種族に先駆けて到着する事を競っているんだ」

「それなら、飛んで行けばいいじゃないですか」

「滞空制限があって、無限には飛べないらしい。そこで、五人のプレイヤーが、体格順に肩車をして、多段式ロケット方式で樹の枝を目指した」

「ははは、なるほど。馬鹿だけど頭いいな」

「いやいや。その発想が出てくる時点で馬鹿でしょ」

 

 心の底からそう思った。それが出来たら苦労しないだろうに。

 

「だが、ギリギリ届かなかったらしい。その時、GMは相当慌ててたみたいだぜ。急いで限界高度を設定したらしい。

 それでも、五人目が証拠に何枚か写真を撮った。その一枚には鳥籠が写っていたらしい」

「鳥籠?」

 

 エギルさんは頷く。そして、例の写真を見ながら言った。

 

「それを限界まで引き伸ばしたのがコイツ。なあキリト、レット、どう思う」

「耳や羽根とか、色々変わっている部分はあるが、やっぱりアスナだ」

 

 この写真は、《アルヴヘイム・オンライン」の中で撮られたものだ。だが、どうしてそんな所にアスナさんが。

 

「エギルさん。アルヴヘイム・オンラインで、他にもSAOプレイヤーの目撃情報は……」

「いや、聞いた事ないな。もしそうなら、問題になっているだろ」

 

 再びパッケージを見た和人さんの目が険しくなる。視線の先には《レクト・プログレス》の文字。

 俺は、上着のポケットからこっそりと名刺を取り出す。昨日、兄貴からもらったものだ。そこにも、はっきりと《レクト・プログレス》の文字が。という事は、兄貴の上司の須郷信之もそこと関わりがあるはずだ。

 

「……エギル。これもらっていいか」

「構わんが、行くのか?」

「この目で確かめる」

 

 もしも、兄貴や須郷が未だ目を覚まさないSAOプレイヤーの謎に関わっているのなら、このゲームは怪しい。それに、ナーヴギアをもう一度被る覚悟があるのか、という言葉。何か関わりがある可能性は高い。だったら、

 

「和人さん、俺も行きます」

「ありがとう、蓮」

「じゃあ、帰ったらすぐに買わないとな。ハードも揃えなきゃ」

「それはナーヴギアでも動くぜ。アミュスフィアは、ナーヴギアのセキュリティ強化版でしかないからな。それと」

 

 エギルさんは、ニヤリと笑いながらカウンターの下から、もう一つパッケージを出す。そしてそれを俺に手渡す。

 

「そう言うだろうと思って、もう一個用意しておいたぜ」

「ありがとうございます、エギルさん」

 

 エギルさんが俺達の方を見て言った。

 

「助け出せよ、アスナを、みんなを。でないと、俺達の戦いは終わらない」

「ああ。いつかここでオフをやろう」

「楽しみにしてますよ」

 

 俺達は三人で拳をぶつけた。

 

 

 

 自宅に帰ると、部屋の前で和人さんと別れる。何か大事な事を相談し忘れた気がするが、思い出せない。

 そういえば、自室にいたのか分からないが、姿が見えなかったので、桐ヶ谷さんには何も言っていない。バレたら何か言われるかもしれないな。まあそれでも、彼女には言う必要はないだろう。

 

「俺も、懲りないな……」

 

 ナーヴギアを手に取り、一撫でする。こいつは、俺を二年間あの城に閉じ込めた悪魔の機械であると同時に、二年間共に戦ったもう一つの相棒でもある。

 ナーヴギアの電源を入れ、ROMカードをスロットに挿入した。

 

「また頼むぜ」

 

 ナーヴギアを頭から被り、ベッドに横たわる。そして、二年振りとなる魔法の言葉を言う。

 

「リンク・スタート!」




 分かりましたね。そうです。ALOにログインで終わりました。実は、ここまでで六千字を超えており、このままでは一万字に行ってもおかしくなかったので分けました。近いうちに、続きは投稿します。自分の作風に、一万字超えは相応しくありませんから。
 次回は、リーファも出て、キリトも出て、スイルベーンまで行けたらいいな。
 ここで一つ補足。蓮/レットは、エギルだけキャラネームで呼んでます。本名で呼ばれている場面が想像出来なかったので。そのため、エギルもキャラネームで呼んでます。

 お気に入り登録をしてくださっている皆さん、ありがとうございます。今後も応援、よろしくお願いします。
 まだの方も、良ければポチっとお願いします。感想や評価、お気に入り待ってます。もちろん、批判なども大歓迎です。今後の作品の向上に役立てていきたいと思います。

 それではっ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。