ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

50 / 71
 何とか間に合いました。そして、ようやく始まりました【フェアリィダンス編】。予約投稿のため、章分けは後でやりますが、間違いなくスタートです。というわけで、あらすじも新しくして、スマホ投稿からパソコンに変え、タグに「ヒロインはリーファ」を堂々と追加しました。リーファ好きの皆さん、感想を待ってます。もちろん、他のキャラも大好きです。リーファの次なら、シノンとアルゴですかね。

 大変長らくお待たせしました。それでは、【SAO SO&WD】フェアリィダンス編スタートです!

 ※題名打つの大変なので、以後こんな感じで略して表記します


01.帰還

「ただいまー」

 

 ドアを開けて中に入り、肩から剣道の道具の入った袋を下す。玄関のところに座って靴紐を解いていると、リビングから誰かが走って来る音がする。

 

「おかえりっ! お兄ちゃん!」

「ただいま、恵」

 

 彼女は俺の妹の恵。兄である俺も嫉妬するほどの才能の持ち主だ。

 

「おかえり、蓮。優勝おめでとう」

「サンキュー姉貴」

 

 姉の芽依が、俺の大会優勝を祝ってくれた。俺は今日、剣道の大会に出場し、優勝してこの家に帰って来たのだ。

 

「あー、お姉ちゃん! 私が先に言いたかったのにー」

「恵もありがとな。お兄ちゃん、すげえ嬉しいよ」

 

 そう言って頭を撫でてやると、えへへ、と可愛らしい声と共に笑顔を見せてくれる。そして恵は俺に抱き着き、胸に頬を摺り寄せる。その愛くるしい様子に、俺は妹相手に照れてしまい、それを隠すように今度は少し強めに撫でる。

 

「蓮、顔がニヤついてるわよ。我が弟ながら引くレベル」

「うるせえ、そんで引くな」

 

 俺らが玄関でガヤガヤやっていると、リビングから母親が来た。

 

「あんた達、玄関で何やってるの。いい加減こっち来なさい」

「「「はーい」」」

 

 実に幸せだ。さすがに恋人はいないが、公私共に充実していると心から思う。家に帰れば、温かい家族が俺を迎えてくれる。不満なんてあるわけがない。

 

「おかえり、蓮。ようやくここまで来たな」

「待たせて悪かったな、兄貴」

 

 テーブルには、たくさんの美味そうな料理。どれもお袋の手作りだ。おそらく、兄貴と親父は、このご馳走を前にして、お預けを食らっていたのだろう。非常に申し訳のないことをした。

 

「蓮、お前らも早く座れ。冷めないうちに食べるぞ」

 

 お袋の作った飯は本当に美味しかった。色々な話をしながら和やかに食事は終わりに近づいてきた。

 そんな時、俺が側に置いておいたグラスが勝手に落ち、音を立てて割れた。

 

「あっ、悪い。手が当たっちゃったのかな。自分で片づけるからみんなは食べてていいよ」

 

 俺は、近くのタオルを取ってしゃがみ込む。しかし、テーブルの下にはグラスもその中身も何もなかった。不思議に思い、俺は一度顔を上げる。

 

「あれ……」

 

 だが、テーブルもなくなっていたのだ。まだ残っていた料理さえ、その姿を消している。

 

「一体……ッ!」

 

 何と、俺の格好がまるでRPGに出てくるようなロングコート――というより、俺がSAOで装備していた《エリュトロスコート》そのものに変わる。周りの風景も、俺のリビングではなく、どこか黒っぽい空間に変わっていた。

 

「おい、蓮。何でお前がこんなところにいるんだ。この人殺しが」

「なあ蓮。お前、よく平気でここにいられるよな」

「誰に許可もらってここにいるのよ」

「私は、あんたをそんな子に育てた覚えはないわよ。早く出ていきなさい!」

 

 さっきまで、一緒に飯を食っていたはずの彼らが、俺に向かってありえないぐらいの殺気と敵意を向けている。俺は、耳を塞ぎながら逃げるようとする。だが、背後にいた恵が、俺の袖を強く掴んでそれを許さない。

 

「どこに行くの、お兄ちゃん。ううん、私を殺した殺人鬼さん」

「……ッ! は、離せよ!」

 

俺は、無理矢理その手を解き、走って逃げる。

 

しばらく走ると、見覚えのある家が見えてきた。今時珍しい和風の住宅。裏には剣道場まである。そしてその前には、肩のラインでカットした黒髪の少女。

 

「はあはあ……。桐ヶ谷さん……?」

「久しぶりだね、紅林君」

 

男とは、実に正直な生き物だ。こんな状況でも、彼女に会えて嬉しいと思っている自分がいる。

 

 いつ彼らが追い付いて来るか分からない。俺は、桐ヶ谷さんに近づいて、それを伝えようとする。だが、何かがおかしい。いつもなら、もっと色々話してくる桐ヶ谷さんが俯いたまま身動き一つしない。

 

「フフッ」

「きりがや……さん?」

 

 俺は、危険を感じて一歩退く。だが、桐ヶ谷さんはゆっくりと距離を詰めてくる。遂に、俺との距離は数センチに。身長の差から、俺は彼女に見上げられる形になる。

 

「き、桐ヶ谷さん。ど、どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」

「ねえ、紅林君」

 

 彼女に上目遣いで迫られ、場違いにもドキッとしてしまう。目を逸らし、とりあえず何か言って離れてもらおうとする。だが、俺が言うよりも前に、桐ヶ谷さんが先に口を開いた。

 

「そうやって、あたし達のこと見下してたんでしょ。あたし達に親切にしながら、こいつらは何も出来ないってね。紅林君ってさ、最ッ低のクソ野郎、偽善者だよね」

「……ッ! 俺が……偽善者? それに、桐ヶ谷さん達を見下してるって? な、何言ってんだよ……」

 

 俺はフラつきながら後退する。それでも桐ヶ谷さんは、じりじりと近づいて来る。

 

俺は怖くなって逃走した。何で、SAOでのことを桐ヶ谷さんが知っているんだ。偽善者という言葉は否定出来ないが、見下していたなんてことはない。とにかく、彼女にそのように思われたことが何よりもショックだった。

 

 だが、まだ終わっていなかった。目の前には、SAOで共に戦った二人がいた。背に二本の剣を装備した黒衣の少年――キリトさんと、腰にレイピアを差し、白紅の団服に身を包んだ少女――アスナさん。

 

「キリトさん、アスナさん!」

 

 俺は、この二人に会えてホッとしながら駆け寄る。しかし、二人は俺を視界に捉えるや否や、抜刀して向かって来た。

 俺は、いきなりの出来事に驚き、とりあえず防ごうと腰に手をやる。だが、俺の腰に、あの城を共に戦い抜いた愛刀は存在しない。

 

「――ッ! 何で……」

 

 キリトさんは、右手に持った《エリュシデータ》を迷いなく振り下ろした。俺は、勢いに逆らわずに後ろに飛ばされる。起き上がって前を見ると、キリトさんが双剣を構え、アスナさんはレイピアを俺の首元に突きつけていた。

 

「何でですか……キリトさん、アスナさん! 俺達、仲間だったじゃないですか! なのにどうして――」

「どうしてって、レット、お前が倒すべき相手だからだ」

 

 俺が、キリトさんの倒すべき相手? 意味が分からない。今日は最初から全てが変だ。

 

「レット君、ごめんね。でも、私達はあなたを殺さなければいけないの」

「どうして。俺が、何をしたっていうんですか!」

「自分の頭上を見てみろよ」

 

 キリトさんが、俺の頭の上を指差す。そこには、オレンジ色に染まったカーソル。SAOにおいて、犯罪者を表す色。

 

「嘘だろ……。嫌だ。こんなの――ッ!」

 

 何も信じられない。一か月前、あの世界から解き放たれたというのは全て俺の妄想で、実際は、犯罪者としてかつての仲間に殺されかけているのか。認めたくない。そんなことありえない。何を信じればいいのか。これからどうすればいいのか。何も分からない。

 

「そんなの決まってんじゃん。私達と一緒に来ればいいんだよ」

 

 そこにいたのは、背中に鎌を背負ったツインテールの女。ラフコフ所属のプレイヤー、スファレライトだ。俺の前に《情報屋ライト》を名乗って近づいて来た奴だ。

 

「君は私達と同族。もう誰も、仲間だとは思ってくれない。誰も信じてくれない。君に居場所はない」

 

「後ろを見てごらん。君を追って来てるよ。みんな、君を殺そうとしてる」

 

「……オレハオマエヲユルサナイ。カナラズ、オマエヲコロシテヤル」

 

 俺は、後ろを振り返ってしまった。視界に何か光が見える。それは、炎に包まれ、腹部にオニマルを刺した男だった――

 

 

 

「ウワアァァッ!」

 

 目が覚めると、そこは部屋に置いてあるベッドだった。壁は板材で作られており、床は天然木で出来ている。

 

「誰も……いないよな」

 

 恐る恐る後ろを確認したが、もちろん誰もいない。

 

「ダッサ。ホームシックか、それとも罪悪感か、もしくはその両方か……」

 

 さっきの夢に出てきた妹の恵は、もうこの世にいない。二ヶ月前に終結したSAO事件。ゲームにログインしたプレイヤーは、ログアウトが出来なくなった。恵はそこでHPをゼロにし、ナーヴギアという悪魔の機械によって脳を焼き払われた。

 それに、家族と俺があんな風に飯を食うことはない。桐ヶ谷さんはSAOのことを知らない。キリトさんとアスナさんはあんなことを言わない。この夢が実現することは、どう間違ってもあり得ないのだ。

 

俺はベッドから出て、机に置いておいたスマホの画面を見る。まだ、七時前。だが、窓の外には少女の姿。白の道着と黒袴に身を包み、一心に竹刀を振っている。

 

「ハックション!」

 

 一月の朝はとにかく寒く、汗で服が湿っており、それが余計に体温を奪っていく。とりあえず、役に立たない服を脱いで、黒っぽいジャージを着る。スマホと、その横の携帯音楽プレイヤーを取って外に出る。

 

「……さむっ」

 

 埼玉県川越市にあるこの和風の家は、この俺、紅林蓮のものではない。外で竹刀を振っている少女――桐ヶ谷直葉と、彼女の兄であり、あのSAOをクリアした英雄キリトこと、桐ヶ谷和人さんの家。俺は訳あって、彼らの家に居候させてもらっている。

 

「あ、おはよう紅林君。今日は遅かったね」

「ああ。ちょっと寝れなくてさ」

「そっか……。やっぱ、自分の家じゃないから……?」

「違うよ。悪い夢を見ただけ。心配いらないし、ちょっと走ればすぐ忘れる」

 

 現実に帰還してからというもの、俺は三日に一度ぐらいのペースで悪夢に魘される。SAOの頃のことから、現実のことなど、あらゆる出来事が夢となって襲って来る。その結果、毎朝起きたら、ランニングをする習慣が出来た。

 

「手伝うよ、ストレッチ。何からやる?」

「桐ヶ谷さんの邪魔をするわけにはいかないよ」

「いいから。ちょうどキリがいいの。それに……、あたしが手伝いたいの。ダメ?」

 

 桐ヶ谷さんが下から覗き込むように聞いてくる。その仕草はものすごく可愛い。だが、俺がSAOに囚われている間に、ビックリするぐらいある場所が成長しており、道着の隙間から見えそうになる。結局、顔の中心に集まりつつある火照りを逃がすため、早くストレッチを終わらせることにする。

 

「じゃ、じゃあ……後ろから強めに押してくれる?」

「うん。じゃあ、いくよ。それっ」

 

 地べたに足を揃えながら伸ばして座る。桐ヶ谷さんが掛け声と共に背中を押してくれる。体が徐々に軽くなってくる。今度は足を広げてもう一度。さっきよりも強くやってもらう。その後は腕を持って引っ張ってもらう。

 

「ん? どうした?」

 

 桐ヶ谷さんが俺の腕を持ったまま動きを止めた。気になって振り向くと、やや表情が暗くなっているように感じる。

 

「えっ、ああうん。何か、腕、細くなったなって。ごめんね、リハビリ頑張ってるのに」

「……いいよ別に、正直に言ってくれて。自分でも自覚あるから。ジム、もう少し回数増やそうかな……」

「ええっ。あんまりマッチョになるのは、ちょっと」

「そこまではやらないから……」

 

その後もストレッチを続け、体に血が回り始めたところで終わりにした。

 

「うーんっ。ありがと、桐ヶ谷さん。じゃあ、適当に走って来るよ」

「うん。でも、前みたいに、昼近くまでやってちゃダメだよ。ご飯はちゃんと食べないと元気出ないからね」

 

 二年間の急成長の秘訣はそれかと、妙なことを考えつつ頷く。お世話になっている身である以上、心配してくれているその気持ちは真面目に受け取らないと。

 

「分かってるよ。じゃあ、行ってくる。それとさ、和人さんが起きたら、俺もアスナさんのところ行くって言っといてくれるか?」

「……う、うん。分かった。気を付けてね」

「おう」

 

  俺は、家を出るとポケットから音楽プレイヤーを出し、それに繋げたイヤホンを両耳につける。入れてある曲をランダムに自動再生するよう設定して、ある場所を目指して走り出した。

 

 しばらく走ると、目的の場所に到着した。そこは、俺が元々住んでいた旧紅林家自宅。旧というのは、この家には既に彼らはおらず、別の家族が住んでいるからだ。

 ここからは全て聞いた話だが、どうやら彼らは昨年の四月の頭に東京に引っ越したらしい。その時期は、SAOで恵が死んだ日から少し後。つまり、俺は捨てられたのだ。まだ同じ病院に息子である俺がいるにも拘らず、少し離れた場所に行った。中学までは金を出すと言った通り、俺の通帳には今年の三月までの過剰すぎる生活費の存在が記されていた。その他必要なものが適当に、俺の病室には置かれていた。

 

 当時、そんな事情から中々退院出来ずにいた俺を、桐ヶ谷さんは何度も訪ねて来てくれた。どうやら、お兄さんの経過観察の付き添いらしい。それでも嬉しかった。俺の病室に来ていたのは、彼女を除けば慎一や剣道部の仲間数人だけだったからだ。そんな日々の中で、桐ケ谷さんのお兄さんが、俺が勝手に死んだと思っていたキリトさんだと知るのは、時間の問題だった。あんなに桐ヶ谷さんの家の剣道場に行ったのに、面識はなかったし、当時やっていたオンラインゲームで勝てなかった相手というのも彼だった。世間は狭いと心の底から思った瞬間だった。

 その後、桐ヶ谷さんとキリトさん――いや、和人さんの提案と、二人の母親である翠さんの計らいのおかげで、無事居候という形で住まわせてもらえることになった。年末には、彼らの父親の峰高さんに会ったのだが、何か言われることもなく、好きなだけいていいなんて言ってくれた。俺はそのご厚意に甘えることにした。とはいえ、三月頃までに、総務省の仮想課の役人達が、地方に住んでいる、または一人暮らしの学生のために、住む場所を用意してくれるらしい。まだ和人さんにしか言っていないが、その時はここを出るつもりでいる。

 

「俺は……何を期待しているんだろうな……」

 

 家に戻れば、和人さんと桐ヶ谷さんという仲の良い兄妹がいる。二人を見ていると、感謝の気持ちに混ざって、嫉妬の気持ちが出てくることがある。

 今朝の夢はそんな俺の醜い心と、俺の実現不可能な願いが、混ざったものだったのかもしれない。俺は一人、複雑な思いを抱えたまま帰路に就いた。

 




 何か暗い……。今後が不安になりますが大丈夫です、多分。やっぱり、直葉はいいなあ。とっても健気でいい子。書いてて幸せな気分になります。

 さあ皆さん。感想を書き込み、お気に入り登録をする準備はいいですか(調子乗りました)。何なら、評価とかしてくれちゃってもいいんですよ。

 それと、リーファがヒロインと言いつつ、40話近くアインクラッドをやっていたにも拘わらず、お気に入り登録をしてくれた90人以上の皆さん、本当にありがとうございます。今後も、【SAO SO&WD】をよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。