一部『』内のセリフを変えました。今後の話の展開と以前考えてたものが変わったので。
「うおぉぉぉっ!」
モンスターがポリゴンとなって弾けた。その原因である剣士は剣を右左と振って背中にある鞘に収める。
「ふぅ。これで30匹目!」
クエストには《キラーウルフ》30匹の討伐とある。そしてこれで30匹目だ。剣士はクエストを受けた場所まで戻り、それを伝えた。クエストが完了し、経験値が入る。自分のレベルが35になった事を告げるファンファーレが聞こえた。とはいえ、《ビーター》と蔑まれ、ソロプレイを貫く彼にそれを祝福する者はいない。
「おめでと。ようやく引き離したと思ったらもう追いつかれたか。流石は《純白の騎士》ヴァイス、いや今はナイトだったな」
1人だけいた。同じく《ビーター》と呼ばれるソロプレイヤー、キリトだ。オレは特に何の言葉も返さず、右手を動かしてウィンドウを開き、そこにある時刻を確認した。そこには13:47とあり、もう昼を過ぎている。オレは取り敢えず、コイツを連れて近くのNPCレストランに行った。
「で、キリト。何の用だよ」
「用がないと会っちゃダメなのか?」
「…………別に」
そこへようやく頼んだ物が来る。オレは見た目がナポリタンのやつ。キリトがカルボナーラだ。
「「不味っ!」」
「これ……味が牛乳みたいだ…………」
NPCだけではなく、この世界の食べ物はいい意味で、新しい味が多い。とてもじゃないが、毎日食べたいとは思えないのだ。
「飯が不味いのは置いておこう。ところでナイト、最近の調子はどうだ?」
「好調だ。このままお前も抜いてやる」
「それは無理だな。このままお前以上のレベルをキープして、次のLAも俺がもらう」
お互い、それをマジになって言っている。そんな真剣の顔を見せあえば、こうなる。
「「ふふ……はははっ!」」
「やっぱり、お前と話すのは落ち着くよ」
「だな。それと、不味い飯に対し、相応のリアクションを返してくれるお前もな」
「なっ……。ナイト……お前、ここの飯が不味いの知ってたな」
「まあな。ここの飯はこの層でも断トツで不味い。この層の全ての街と村を確認したんだから間違いねぇ。ちなみに、これまでの層の飯も全部試した。一番不味かったのは7層の主住区の《ぼったくりレストラン》って言うNPCレストランだ。名前の通り、ぼったくりで、味も最悪だ。今度行ってみろ」
「誰が行くかよ」
オレは現実の頃から食にはうるさかった。自分では作らないが、色んな店の料理を食べては色々考えていた。そのため、ついこの世界でもやりたくなったのだ。
「話題、変えてもいいよな。最近、いいクエストとか狩場あったか? 公開予定のやつとかさ」
「うーん、大方アルゴに言っちまったからな。言ってないのは……そうだ! さっきやってたクエスト、《西の森の狼》って言うんだけどさ、これがいいんだよ。後でアルゴに言うつもりなんだ」
俺はキリトに近づき、小声で話す。もちろんキリトがそれに食いついて来ないはずがない。
「このクエストな、報酬も経験値も大した事なくてよ。しかも虐殺系のクエストなんだ」
「それのどこがいいんだよ」
「聞いて驚け。このクエストの最中は《キラーウルフ》のポップ率が普段の3倍になるんだ」
「《キラーウルフ》って……ポップ率低めで、そいつの毛皮はレア度の高い防具類が作れる素材じゃないか!」
「そうだ。どうだ? アルゴに言う前にやるべきだろ」
「ああ、ありがとな! 俺はもう行くよ!」
キリトはすぐに走って行った。俺はもう少しレベリングをするために、ここより1つ下の層のレべリングスポットに向かった。
レべリングを終え、オレは宿のベットに入る。しかし、どうも寝つけない。最近、夢を見てしまうのだ。現実世界での夢。別れた彼女との夢を。
『お前、銃で人を撃ったんだってな。人殺しなんだろ、お前」
『よくもノコノコ、私の前に顔を出せたわね!』
『……あのときは……ホントに悪かったと思ってる。ホントに……ゴメン』
『好きです、オレと付き合ってください』
『……嬉しい。私も……好き。こちらこそ、お願いします』
『ずっと、側にいる。世界中の誰もが、お前の敵になっても、オレはずっと味方だ。絶対に、お前を裏切りはしない』
『私……あなたの事……分かんないよ。ねぇ、教えて! 私にはどれがホントのあなたか分かんない!』
ッ! オレだって……。
「んなの分かるわきゃねぇだろうが!」
バンッ!
ナイトは壁を思いっきり殴った。《破壊不能オブジェクト》の表示が出て、それが静かに消えた。今の彼に、自分の心を癒してくれる人は、誰もいない。
~レットside~
夕方、多くのプレイヤーはレストランへ向かう頃。
「ぃやぁぁあああああ!」
俺は今、この間手に入れたスキル《カタナ》を鍛えていた。だが、俺はこれをまだ攻略には使っていない。なぜかと言うと、俺は完璧主義ではないがそれに少し近い。ちゃんと使える状態で使いたいのだ。
「ふぅ、ここら辺で「キャァァァァッ!」あっちか!」
スキル上げを切り上げた俺は悲鳴の聞こえて来た方に向かって走った。自分の近くで誰かを死なせない。それは最初のボス攻略の時に誓った事だ。
「待ってろ! 今助ける!」
そこにはゴブリンに囲まれた少女。俺はソードスキルを使わずにゴブリンの弱点を攻め、ポリゴンに変える。
「もう大丈夫だ。立てる「お兄ちゃん!」……か? どうして……お前が……」
そこには、俺の戸籍上の妹、恵がいた。そして、俺が嫌いな奴の1人だ。
「お兄ちゃん! よかった……やっと会えた。会えたよ……」
「何でお前がいるんだよ。お前はゲームなんかやらないだろ。なのにどうして……」
「お兄ちゃんと……ゲームの中でなら……話せると思ったの。だから、お父さんが《アーガス》の知り合いに頼んでくれて……」
あの男はそういう奴だ。自分が認めた人のためならなんだってやる。それがゲーマーにとっては許し難い行為でも。
「俺と話す? 何をだよ。俺はお前と話す事なんか何もない。もうどっか行け」
「待ってよ。私……このゲームでもメグミって名前なの。だから……ゲームの中でぐらい呼んでよ。私……お兄ちゃんと普通の兄妹になりたいの」
メグミは段々泣きそうになっていく。コイツの気持ちは分かった。だけど……。
「俺とお前じゃ出来が違うだろ。お前らは全員天才。俺だけ凡人。そんな家族、死んでもなりたくないね」
「きっと……お父さんたちもみんな、お兄ちゃんの事、心配してるよ。だから……みんなの事もあんまり悪く言わないでよ…………」
恵は何も分かっちゃいない。彼女はずっと期待されていた。家族全員が彼女の将来に大きな希望を持っていた。彼女に罪はないが、俺は彼女のせいでさらに居場所を奪われた。
「黙れよ。お前の顔なんか見たくない。どっか行けよ」
「お兄ちゃん!」
「うるせぇ! お前みたいな天才に近くに寄られると迷惑なんだよ! 何でお前はわざわざ俺の所まで来たんだよ! この世界は……俺の唯一の安らぎだったんだよ。俺はこの世界なら、1人じゃなかったんだよ。認めてくれる奴がいたんだよ。だから、お前が俺の世界にまで、土足で踏み込んで来るんじゃねぇ! 邪魔なんだよ! あっち行けよ!」
俺は初めて妹に強く当たった。今までは彼女には罪がないのは知っていた。俺や彼女の環境が悪かったのだ。だけど、次第にそれは出来る妹への嫉妬へと変わっていた。だから、思わず本音をぶつけてしまった。
「…………お兄ちゃんのバカ!」
メグミは泣きながら走り去って行った。妹が俺との距離を縮めようとしていた。でも、俺はそれを拒絶した。
「もう少し、やってくか」
俺は一度はやめたスキル上げを再開し、森の中に入って行った。結局、俺が森を出る頃には、太陽が昇り始めていた。
【DATA】
・《キラーウルフ》
ポップ率が近くの他のモンスターと比べて圧倒的に低い。このモンスターからドロップする《キラーウルフの毛皮》は冬場に役立つレア度の高い装備品を作れる。
・ナイトの夢に出て来た謎の女
話している内容から、ナイトと現実では恋人の関係にあったと思われる。しかし、最後のセリフから察するに、今は破局しているようだ。
・メグミ(Megumi)
本名、紅林 恵。レットの実の妹。年齢はレットの1つ下。SAOのレーティングを守っていないプレイヤーの1人。
武器はダガーを選択。この時点で、レベルは20。
次回もお楽しみに!