ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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少し遅れました。とうとう、アインクラッド編完結です。

ここまで長かったぁ!


39.終焉

 内部は、かなりデカいドーム状の部屋。コリニアにある闘技場と同じぐらいの大きさ。今回のレイド三十五人を飲み込んでも余りあるスペース。

 俺達は、現れるであろうボスに備えるため、陣形を整える。 すると、背後で轟音と共に扉が閉まる。これで、逃げ場はなくなった。

 

 長い沈黙。嵐の前の静けさ。それは、この後起こるであろう惨劇を予期しているようにも思える。

 

「おい――」

 

 その時、チクリとした痛みを感じた。嫌な予感がする。恐る恐る、頭上を確認する。

 

「ッ!」

「上よ!」

 

 俺が、天井に張り付いている影を見つけるのと、アスナさんが部屋全体に聞こえる声で叫んだのは、全くの同時だった。

 

「スカルリーパー……。あいつが……ここの、ボス」

 

 全身を構成するのは、大きな剥き出しの骨。両手には、事前情報通りの大鎌。斬れないものなどないと思わせる鋭い鎌。頭部は人間のものより遥かに大きく歪な頭蓋骨。二対四つの眼窩の内部には青い炎が揺れている。

 

 次の瞬間、奴は全ての脚を大きく広げ、俺達の頭上から落ちて来た。

 

「固まるな! 距離を取れ!」

 

 ヒースクリフの鋭い叫び声で我に返った俺達は、落下予測地点から退避する。しかし、奴の真下にいた者は、一瞬だけ遅れてしまう。キリトさんも叫ぶが、彼らが動き出す頃には、奴もまた、地上に到達していた。

 ムカデが地響きと共に、その両腕を持ち上げ威嚇する。床全体が揺れ、俺達は一瞬足を止める。近くにいた三人は、一斉に逃げ出すが、スカルリーパーの繰り出す横薙ぎに巻き込まれる。

 宙を舞いながら、HPは端に向かって勢いよく減っていく。緑から黄色、黄色から赤、赤から――

 

「……嘘だろ」

 

 三人の体が、消滅音と共に四散する。彼らは皆、このアインクラッドのトッププレイヤー達だ。レベルも高く、HPには余裕がある。にも関わらず、骨百足の放った一撃で、彼らは散っていった。一瞬の出来事に、彼らは恐怖すら感じなかったのではないか。

 

 誰もがその事実に驚愕し、動きを止める。だが、奴が動きを止める事はない。なぜなら、あの《The Skullreaper》には、俺達プレイヤーを殺すという目的しかプログラムされていないのだから。

 

「わああああ――!」

 

 ボスは上体を高く持ち上げ、轟く雄叫びを上げる。そして猛烈な勢いで、俺とは逆に逃げたプレイヤーの方に向かう。再び鎌を持ち上げ、勢いよくプレイヤーに向かって振り下ろした。

 しかし、そこに飛び込む影が一つ。ヒースクリフ団長だ。巨大な盾を掲げ、鎌を受け止める。激しい衝撃音と火花。

 

「よっし。これで……」

 

 一つは団長が止めてくれている。でも、鎌はもう一つ。それが、プレイヤーの一団に突き立てられようとしている。

 

「やあぁッ!」

 

 だが、それも直前で弾かれる。レモンさんが自身の大剣を鎌と交差させ、力一杯振り切ったのだ。

 

「痛ッ!」

 

 しかし、ヒースクリフ団長とは違い、一人ではキツかった。アイテムの力もあり、攻略組トップクラスの筋力値を誇るレモンさん。

 ステータスに裏付けされたその力を持ってしても、スカルリーパーの鎌を受け止めるには至らなかった。デカ過ぎる衝撃に大剣を落とし、腕を痺れさせるレモンさん。膝をつき、一時的なスタン状態になっている。

 

「……やばっ」

 

「はあぁぁぁッ!」

 

 俺は、AGI値を全開にして彼女の前に飛び出す。ボスは、彼女のHPを吹き飛ばそうと鎌を再び振りかぶる。俺の方が僅かに速かった。ソードスキルを立ち上げ、奴の鎌を迎撃した。

 

「レット……」

 

 俺はレモンさんの方を見ながら無言で頷き、すぐに視線をスカルリーパーに戻す。そして、後ろから突進して来る気配を感じ、二、三歩横にズレる。

 

「スイッチ!」

「はあぁぁッ!」

 

 槍の突進技《ソニックチャージ》。リズさんの最高傑作の一つでもある紺色の槍《パドヴォードグロウ》が、スカルリーパーの顎を突き上げる。

 

「今だ! 全員囲めッ!」

 

 キリトさんの指示で他のプレイヤー達が一斉に飛び出す。スカルリーパーのHPは減り、ようやく一本目が空になった。

 

「ありがとレット、スイ」

「いいですよ別に。仲間を死なせたくない、ただそれだけです」

「素直じゃないなぁ、レットは」

 

 正面から礼を言われると普通に照れる。ここがボス部屋じゃなかったら、二人に弄り倒されていただろう。

 

「それにしても、筋力値ならトップクラスのレモンさんでも抑えられないなんて……」

「そりゃそうだよ! ウチは別に怪力ゴリラ女じゃないもん!」

「んな事言ってませんよ……」

 

 ヒースクリフ団長が一人で抑えられるのは一度に一つまで。もう一方の鎌を、毎回こんな危なっかしい方法で止めていてはこちらの身が保たない。

 

 言っているそばから、スカルリーパーの鎌がプレイヤー達を襲う。そこに飛び出していったのはキリトさん。黒と白の双剣を交差させ、鎌を受け止める。しかし、ジリジリとキリトさんは後ろに押される。そこに、下から細剣が命中する。

 

「二人同時に受ければ――いける! 私達なら出来るよ!」

「――よし、頼む!」

 

 キリトさんとアスナさん。夫婦の息のあった動きで、スカルリーパーの鎌を防ぐ。

 

「大鎌は俺達が食い止める! みんなは側面から攻撃してくれ!」

 

 キリトさんの声を聞いて、俺達のやる事は決まった。鎌はあの三人に任せる。そして、俺達であいつを倒す。

 

「行きますよレモンさん、アクアさん。俺達で、ラストアタックを掻っ攫いましょう!」

「うん!」

「おう!」

 

 俺達はソードスキルを発動し、一斉にスカルリーパーにダメージを与える。他のプレイヤー達も、隙を見て攻撃を仕掛ける。しかし、槍のような尾によって、一部のプレイヤー達が吹き飛ばされる。

 

「エギルさん、クラインさん、一度だけでいいです。尾を防いでください! そうすれば、俺が何とかします!」

 

 そう叫び、俺は一人スピードを上げる。目の前のボスが、尾を俺に向かって突き出して来る。

 

「オォリャァッ!」

「ウオォォォッ!」

 

 エギルさんにクラインさん、そして《風林火山》のみんなが、俺の目の前で尾を止める。俺は、その隙に後ろに回り込む。

 

「ハアァァァァッ!」

 

 腰だめに構えた刀が炎を纏う。体が加速する。尾の付け根目掛けて、最初の一撃を繰り出す。そのまま残りの高速の六発を、連続で叩き込む。《炎刃オニマル》専用ソードスキル《鬼炎斬(きえんざん)》。

 

「ナイスだよ、レット!」

 

 俺の刀は、スカルリーパーの尾を破壊した。付け根から尾が外れ、床に音を立てて落ちる。部位破壊によるスタン。そして攻撃力のダウン。俺達の勝ちがグッと近づいた。

 

「今だ! やれッ!」

 

 

 

「ハアアァァッ!」

 

 ソードスキル《鬼炎斬》。炎を纏った刀が、スカルリーパーを切り裂き、遂にその体が光に包まれる。その後、大量のポリゴンを残し、スカルリーパーは倒れた。

 

「はぁはぁっ。やったっ……終わった……」

 

 俺は、目の前に出ている戦利品に目もくれず、ウィンドウを消去する。刀を鞘に戻し、その場に座り込む。

 そこへ、同じく疲労が溜まったレモンさんがやって来る。大き過ぎる大剣は、一度ストレージの中に仕舞ったようだ。

 

「お疲れ、レット」

「レモンさん、お疲れ様です……」

 

 キリトさんもアスナさんも、その場に座り込む。他のみんなも、ボスを倒したにも関わらず、誰一人歓声をあげない。長い戦いに疲れ、その間に死んでいった仲間が多過ぎた。

 

「何人――やられた……?」

 

 少し離れた所にいるクラインさんが、まだ整っていない息と共に言う。キリトさんがマップを開き、人数を数えている。

 

「――十人、死んだ」

「……嘘だろ……」

 

 この部屋にも《結晶無効化エリア》が設定されていた。瞬間離脱や回復が封じられてはいたものの、ここにいるのは皆トッププレイヤーだ。あれだけ鎌を防ぎ、尾を落としたのに、それでも奴の攻撃によってHPを吹き飛ばされたのだ。

 

 残りは四分の一――二十五層。攻略組は数百人。これから一層ごとに、これだけの人数が命を落とす、または離脱するとなると、百層に到達した時、ボスを謁見出来るのは、果たして何人なのか。

 

「……クッソ。こんなの、無理だろ……」

 

 横に視線を移すと、HPをグリーンに留まらせたヒースクリフ団長。やっぱり、最強の名は伊達じゃない。

 

 その時、キリトさんが立ち上がる。そして、低い姿勢でヒースクリフ団長に向かって行く。しかも、ソードスキル《レイジスパイク》を発動している。

 

「キリトさん――」

 

 あれが当たれば、キリトさんのカーソルはオレンジになる。彼に対して非難が集まるのは確実だ。一体何をしているんだ。

 

 だが、俺の予想は裏切られた。それは、良かったのか、それとも悪かったのか。

 

「システム的不死……? ……って……どういう事ですか……団長……?」

 

 戸惑ったアスナさん。ヒースクリフ団長は、何も答えない。すると、キリトさんが両手の剣を下げたまま言った。

 

「これが伝説の正体だ。この男のHPはどうであろうとイエローにまで落ちないようシステムに保護されているのさ」

 

 俺は、それを聞いて全てが分かった。俺の感じた違和感は、何一つ間違っていなかったのだ。

 

「そうか。不死属性を持っているのは、NPCや管理者だけだけど、前者ではない。そして、この世界の管理者はただ一人……」

 

 俺がそう呟くと、キリトさんが言葉を引き継ぐ。

 

「《他人のやっているRPGを傍から眺めるほどつまらない事はない》。……そうだろう、茅場晶彦」

 

 場の全てが凍りつく。静寂が辺りを包み、誰一人身動きが出来ない。

 キリトさんの隣で、アスナさんがゆっくりと一歩前に出る。俺達が告げた事が信じられないような様子。いや、俺とキリトさんを除いて、それを信じているものはいない。

 

「団長……本当……なんですか……?」

 

 ヒースクリフ団長はアスナさんの問いを無視し、キリトさんに向かって言った。

 

「……なぜ気づいたのか参考までに教えてもらえるかな……?」

「……最初におかしいと思ったのは先日のデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも速過ぎたよ」

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。君の動きに圧倒されてついシステムアシストのオーバーアシストを使ってしまった」

 

 ヒースクリフ団長はゆっくり頷いた。唇の片端を歪め、苦笑の色を浮かべている。

 

「予定では攻略が九十五層に達するまでは明かさないつもりだった。その頃には、もう一人の勇者も目覚めるはずだったのだがな」

 

 もう一人の勇者?

 だが、それ以上に彼の言い放った言葉に腹が立つ。

 

「――確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上階で君達を待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

「……趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか」

「中々いいシナリオだろう? 盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな。……君はこの世界で最大の不確定因子だと思ってはいたが、ここまでとは」

 

 今のヒースクリフ――いや茅場晶彦は、二年前《はじまりの街》で俺達を上から見下ろした真紅のローブと同じ雰囲気だ。奴はそのまま言葉を続けた。

 

「……最終的に私の前に立つのは君だと予想していた。全十種存在するユニークスキルのうち、《二刀流》スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担うはずだった。だが君は、私の予想を遥かに超えて来た。まあそれこそ、ネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな……」

 

 その時、後ろにしゃがみ込んでいたアクアさんが、槍を持って立ち上がった。その目は、今まで見た事ないほど怒りに満ちていた。

 

「団長、いや茅場晶彦。お前が僕達を、リズやレモンやみんなを閉じ込め、三千人以上のプレイヤー達を殺したのか。……絶対に、絶対に許さないぞ、茅場ァ!」

 

 アクアさんは槍の柄を強く握りしめ、ソードスキルを放つ。一直線に、茅場に向かって行く。

 しかし、茅場の方が速かった。左手を振り、ウィンドウを素早く操作する。アクアさんの体は勢いを失い、茅場の足元で止まる。

 

「茅場……ッ!」

 

 忠誠心はない。でも、アクアさんはヒースクリフ団長を信頼していた。だから彼は、誰よりも彼に尽くした。仲間を率いて、迷宮区に潜った。その想いが今この瞬間、張本人によって裏切られた。

 

「アクア君、君は実に優秀な部下だった。一人のプレイヤーとして、私は君に敬意を払っていた。だが、この程度の事で冷静さを欠くとは。少し、君への評価を改めなければいけないかもしれないな」

 

 そして、ウィンドウを操り続けた。隣のレモンさん、奥のクラインさんにエギルさんも倒れる。そして俺も。

 

「……どうするつもりだ。この場で全員殺して隠蔽する気か……?」

 

 ただ一人、麻痺を受けていないキリトさんは、アスナさんの手を握りながら言った。その目は、真っ直ぐ茅場を見ていた。

 

「まさか、そんな理不尽な真似はしないさ。

 こうなってしまっては致し方ない。予定を早めて、最上階の《紅玉宮》にて待つ事にするよ。安心したまえ。君達なら、必ず私の下まで辿り着けるさ」

 

 茅場はそこで言葉を切った。数歩下がり、キリトさんをじっと見つめる。

 

「だがその前に、キリト君。君には私の正体を看破した褒奨を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今ここで、私と一対一で戦うチャンスを。私に勝てば、ゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウト出来る。……どうするかな?」

 

 キリトさんは、低い声で「ふざけるな」と呟く。そして、ゆっくりと茅場を睨み返した。

 

「いいだろう。決着をつけよう」

 

 キリトさんが、両手で二本の剣を構え直し、茅場と向き合った。戦うつもりなんだ、キリトさんは。

 

「キリト! やめろ……っ!」

「キリトーッ!」

 

 クラインさんとエギルさんが叫ぶ。必死に体を起こそうとし、キリトさんを引き止めようとする。

 

「エギル。今まで剣士クラスのサポート、サンキューな。知ってたぜ、お前が儲けのほとんど全部、中層ゾーンの育成に注ぎ込んでた事」

 

 続いて、クラインさんの方を見る。

 

「クライン。…………あの時、お前を……置いていって、悪かった。ずっと、後悔していた」

 

 クラインさんはそれを聞いて、両目から涙を流す。彼は起き上ろうともがき、システムという名の枷を外そうとする。

 

「て……てめえ! キリト! 謝ってんじゃねぇ! 今謝るんじゃねぇよ! 許さねえぞ! ちゃんと向こうで、飯の一つも奢ってからじゃねぇと、絶対許さねぇからな!」

「分かった。約束するよ。次は、向こうでな」

 

 キリトさんは頷いてそう言った、右手を持ち上げ、ぐっと親指を突き出す。

 

「レモン、アクア。お前らには、本当に迷惑かけたな。レモン、お前の元気が、攻略組に元気を与えてくれた。アクア、お前の想いは俺が受け取った。二人共、ありがとう」

 

 レモンさんとアクアさんも、涙を流す。アクアさんも、さっきまでの怒りを、キリトさんに託したようだ。

 

「レット」

「ッ!」

 

 キリトさんが俺の方を向いた。

 

「……悪いな。俺は、多分お前に甘えてた。でも、最後の頼みだ」

「……ッ! 何ですか?」

「……俺にもしもの事があった時、お前以外に任せられる奴はいない。アスナを、みんなを頼む」

 

 キリトさんは、俺に何も言わせる気がないようだ。一方的に無責任なお願い。

 

「ふざけんなッ! 俺にそんな事頼むんじゃねぇ! 守りたいものがあるなら、あなたが自分で守れよッ!」

 

 今からでも遅くない。やめてくれ、キリトさん。

 そう言いたい。でも、言えない。だから代わりに、そうキリトさんを罵った。

 

「……ああ。そうだな」

 

 彼は、全てお見通しらしい。

 

「……悪いが一つだけ頼みがある」

「何かな?」

「簡単に負けるつもりはないが、もし俺が死んだなら、アスナが自殺出来ないように計らってほしい」

「よかろう。彼女はセルムブルグから出られないように設定する」

「キリト君、ダメだよーっ! そんなの、そんなのないよーっ!」

 

 キリトさんと茅場のHPがレッドゾーン手前で止まる。クリーンヒットした瞬間終わり。

 

「殺す……ッ!」

 

 キリトさんが飛び出して行った。

 

 それを見ているたけだった。俺は結局何も出来ない。無力だ。非力だ。ずっとそうだ。昔から、この世界に閉じ込められるずっと前から。

 

「うおおおおおお!」

 

 茅場は、キリトさんの攻撃を簡単に防ぐ。あれが、ラスボスの力。

 

「くそぉっ……!」

 

 キリトさんは、絶対にやってはいけない事をした。システムに決められた動き――ソードスキルを使ってしまった。おそらく、あれはキリトさんが使える最強の技であり、この場では諸刃の剣。

 そして、計二十七回。全てを防ぐ。最後の一撃は盾に当たり、白い剣は折れてしまう。

 

「キリトさんッ!」

 

「さらばだ――キリト君」

 

 しかし、茅場とキリトさんの間に割り込んだ人物が。栗色の髪の女性――アスナさんだ。

 茅場の長剣が、アスナさんの肩口から胸までを切り裂いた。

 

「……あっ……ッ!」

 

 ――大好きだよ、お兄ちゃん。

 

 メグミが最後に呟いた言葉。

 

 ――アァァ!

 

 俺が犯した最初の殺人。

 

 ――うわああぁぁぁぁッ!

 

 そして、ナイトによって斬られた時。

 

「……………………ッ!」

 

 そして、キリトさんは抜け殻のようになってしまう。力なく、剣を振る。そして、残念そうな顔な顔をした茅場に、キリトさんは胸を長剣に貫かれた。

 目の前が真っ暗になった。仲間が、尊敬していた彼らが死んだ……。その事実が信じられない。

 

 だが、キリトさんは諦めなかった。半ば消滅した体に鞭を打ち、システムすら超越する。想いの力、とでも言うべきだろうか。

 

「うおおおおおおおお!」

 

 そして、茅場に最後の一撃を加える。そのまましばらく動かず、二人は同時に消えて行った。

 

 ゲームがクリアされた。俺達は、現実世界に帰る事が出来る。だが、その報酬を得るべき英雄達は、俺達の前で消えてしまった。この部屋にいた者は誰一人、歓喜しなかった。そしてやがて、全員の意識が現実の体に戻っていった。

 

◆◆◆

 

どこかの世界のどこかの場所。周りには何もなく、ただ闇だけが支配していた。

 

「おい、柳井。こいつはあっちに持ってといてくれ。後で、最初の実験に使う」

「分かりました」

 

 何だ……ここは……。オレは……一体。

 意識が薄れていく。何も思い出せない。大事なものが次々と消えていく。

 

「…………し、……の……」

 

◆◆◆

 

 恐る恐る目を開ける。眩しい。

 

「………………っ!」

 

 ようやく光に慣れると、白い天井が見える。徐々に体の感覚も戻って来た。俺が横たわっていたのは、ジェルのような素材のもの。自分の肌で直接何かを感じるというのは、何と二年ぶりだ。

 

「…………きりと……さん。あすな……さん」

 

 俺の目から涙が溢れてくる。あの世界で共に戦い、俺を受け入れてくれた二人。彼らの死が、頭から離れない。

 

 外側騒がしい。どうやら、俺以外にもSAOから帰って来たプレイヤーがいるようだ。

 

 二〇二四年十一月七日。SAOがクリアされ、およそ六千人のプレイヤーが現実世界への帰還を果たした。




終わり方がアレなのは、アインクラッド編が一つの序章だからです。次回から始まるフェアリィダンス編、今後やるファントムバレット編。これらが今作のメインとなります。今後も、「ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔」をよろしくお願いします。

次回はいよいよフェアリィダンス、の前にアインクラッド編終了時点のキャラ紹介的なのを投稿します。明日か明後日には投稿出来るかと。本編も、GWである程度まで進めたい。

次回もお楽しみに!

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