先週は思いっきり風邪を引いてしまい、更新したのは新作のみ。しかも、部活も新入部員が加わり忙しい日々が始まりました。それでも、それらも落ち着いてきました。本日よりまた更新頑張ります。
この話を入れて後3話で完結の予定です。ようやくリーファが出せる!
37話は、キリトとヒースクリフのデュエルです。ラグーラビットやクラディールとのデュエル、vsグリームアイズはレットが加わっても大して変わらない、またはおかしくなるためやりません。
まあ、このまま順調に進めばの話で、この先どうなるか何の保証もないのだが。
「おいエギル、レット。お前らいるか?」
「おう」
「じゃあ俺もお願いします」
クラインさんが屋台から三本の瓶を買って来た。アイテム名は《黒エール》。中は黒い液体で満たされている。味は現実世界で言うところのビールみたいらしい。飲んでも酔う事はないが、気分が良くなる事は間違いない。
俺達はそれをクラインさんから受け取り、飲みながら辺りを歩く。
「それにしてもキリトの奴、嫌がってるだろうなぁ」
「そうでもないみたいですよ。だってこの試合、キリトさんもその場でOKしたらしいですから」
ここは七十五層《コリニア》。古代ローマを連想させる街並みをしており、転移門の前にはコロシアムまで存在している。そして、まさにそのコロシアムの周辺には屋台が立ち並び、《血盟騎士団》の経理担当のダイセンさんを中心に、商人プレイヤー達がここぞとばかりに稼いでいる。
「おーいレットー! エギルー! こっちよー!」
闘技場の最前列から聞き慣れた声が聞こえる。
ピンクに染め、少しフワフワした感じの髪型はカスタマイズ。本人は、真面目だけが取り柄の冴えない学生と言っているが、それはアスナさんというSAOで強さ容姿ともにトップクラスの友人がいるからであり、実際は美少女と言っても過言ではない。
「ようリズ、アクア。隣いいか?」
「もちろんだよエギル、レット」
そう答えたのは、《血盟騎士団》副団長補佐にして、攻略組の参謀《流水のアクア》。二つ名の由来は、どう考えても彼のその行動や性格にあるだろう。一見真面目そうに見える——実際、真面目ではある——がどこかマイペースで頑固。自分以下の何者にも流されない、自分だけの流れを持っている、そんな感じだったはずだ。
まあ、二つ名なんて青春をゲームに捧げた厨二病被れがつけた呼び名だ。由来を考える方が馬鹿らしい。俺の二つ名なんて、一体どこから来たのやら。
「え? 俺は?」
クラインさんの名前はない。そんな事は気にせずに、俺とエギルさんは二人の横に座る。
「あれ? クライン何で立ってるの?」
「可愛そうに。座る席もないなんて……」
「おいおい、そりゃぁねぇだろ……」
クラインさんを、抜群のコンビネーションで弄ぶ二人の薬指には光り輝く指輪。二人は、アインクラッドで誰もが羨む美男美女夫婦。知名度で言えば、アスナさんと並ぶ、またはそれ以上だろう。僅か一万人のゲーマーの中でもトップクラスの容姿をもつ二人は、新婚ホヤホヤの頃に情報屋に追いかけられてばかりだったそうだ。
「冗談よクライン。席はあるから座りなさいよ」
「タチが悪いぜ、それは」
クラインさんも無事座ったところで、話題はこの後のデュエルに移る。
「どっちが勝つと思う?」
「あたしはもちろんキリトよ。あたしが作ってやった剣を使って負けるなんて、絶対に許さないんだから!」
リズさんらしい答えだ。キリトさんの強さは周知の事実であり、彼が負けるところなど、未だかつて見た事がない。そんな彼が、《二刀流》という新技を携えて戦う。並大抵の相手では勝負にならないだろう。でも、今回の相手は、並大抵なんて言うのは失礼な人物だ。
「俺は、ヒースクリフ団長だと思いますよ」
「おいおい、何だよレット。キリトに勝ってほしくないのかよ」
「勝ってほしいですよ、そりゃ。でも、団長もまた同じユニークスキル使い。他のプレイヤーの予想も一目瞭然。オッズは団長の方が圧倒的です。
でもまあ、そのプレイヤー達の予想を覆してくれる事に、期待してる自分もいるんですけどね」
実際、俺はキリトさんに所持金の一部を賭けている。別にキリトさんが負けて金が戻って来なくても、何の支障も出ない額だ。まあ、元々それが目的のイベントではないのだが。
「そういうクラインさん達はどうなんですか?」
「俺はもちろん、キリトに半分賭けたぜ。あいつが負けるわけねぇからな!」
キリトさんに負けてほしいと思っている自分がいる。
「僕もキリトだな。クラインみたいに賭けてはいないけど、ただ純粋に勝ってほしい」
「へえ、意外だな。てっきりアクアも、ヒースクリフだと思ってたんだがな」
エギルさんの意見と同じだ。アクアさんは、アスナさんと同じぐらいのタイミングから《血盟騎士団》に入っている。団長に対して忠誠心みたいなものがあると思ってたんだけど……。
「確かに、あの人の事は尊敬してるし、ギルマスが負けるところなんて、ギルメンとしては見たくない。でも、キリトは友達だからね。だから勝ってほしい。キリトに負けたなら、僕に文句はない」
アクアさんらしいコメント。
でも、よくよく考えれば、アクアさんって割と自由にやってるわ。忠誠心とかなさそう。確か、リズさんと結ばれていなかった頃は、攻略を早めに切り上げて会いに行ってた気がする。
そして、闘技場の中央に向かってキリトさんが歩いて来た。その反対側には、血盟騎士団の団長、ヒースクリフ。
「斬れー」
「殺せー」
隣のエギルさんとクラインさんが叫ぶ。特に、クラインさんの応援にはかなり熱が入っている。そりゃそうだよな。だってこの人、全財産の半分も賭けているんだもん。
「さて、どっちが勝つのかな?」
ヒースクリフ団長がキリトさんと十メートルほど距離をとる。右手を掲げ、ウィンドウを操作する。キリトさんの目の前にもそれが出現し、《初撃決着モード》を選択。
六十秒のカウントダウンが始まる。その数字が小さくなる毎に、歓声が大きくなる。でも、もうあの二人には聞こえていないだろう。意識が戦闘モードに切り替わり、目の前の相手を倒す事しか頭にない。キリトさんは二振りの剣を構え、ヒースクリフ団長も、その大きな盾を前にやる。
「……早い」
カウントがゼロになるのと、彼らが動き出したのは同時だった。
先に仕掛けたのはキリトさん。右手の剣を左斜め上から叩きつけ、左の剣を楯内側に滑り込ませる。おそらく、《二刀流》のソードスキルだ。
しかし、そんな挨拶代わりの一撃も、容易く長剣に阻まれる。キリトさんはその勢いを利用して距離をとる。
ヒースクリフ団長は、お返しとばかりに盾を体の正面に持って来て突撃する。キリトさんからは盾が邪魔で、剣を持っている右手が見えない。
キリトさんは右へダッシュし、ヒースクリフ団長の攻撃に備える。ところが、キリトさんのそんな予想を覆し、ヒースクリフ団長は盾自体を水平に構えて突き攻撃を放つ。どうやら、《神聖剣》には、盾にも攻撃判定があるらしい。キリトさんが手数重視の二刀流なら、ヒースクリフ団長は防御寄りの二刀流だ。
「まるで、SAOの最強決定戦みてぇだな」
クラインさんが呟く。
だが、全く言い過ぎではない。ユニークスキルの有無に関わらず、この二人はこのアインクラッドに存在する剣士の中で最強の二人。五十層のボスを十分間も単独で抑え続けたという逸話のあるヒースクリフ団長。キリトさんは、迷宮区をたった一人で攻略し続けるソロプレイヤーであり、つい先日、七十四層のボス《グリームアイズ》を《二刀流》を駆使して一人で倒したという。新聞には、《軍の大部隊を全滅させた悪魔》、《それを単独撃破した二刀流使いの五十連撃》なんて書かれていた。さすがにそれは言い過ぎだが、彼の強さを俺達は今まで何度も感じてきた。
「アクア、あたしもうついていけないんだけど……」
「安心しなよ。ここにるプレイヤーの内、こんなハイレベルなデュエルを見た奴なんていない。試合の内容を完璧に把握出来る奴は、十人もいないよ」
リズさんとアクアさんの言う通りだ。俺も、この試合展開にはついていくのがやっとだ。とにかく速い。キリトさんが仕掛ければ、ヒースクリフ団長が阻止し、逆に反撃すれば、キリトさんも防ぐ。今まで何度も行われて来たデュエルの中で、おそらく最速。システムが出せる限界に後一歩というところまで到達しているのではないか。
二人の最強が激突し、さらなる化学反応が起こる。スピードは更に上昇し、瞬き一つで置いて行かれる。双方のHPはもうすぐ五割。次の一撃を決めた方が勝者だろう。
だが、二人が奏でる音にややズレが生じた。ヒーフクリフ団長が、キリトさんの攻撃に対応し切れなくなってきた。
そして、キリトさんはその隙を逃したりはしない。キリトさんの二本の剣が眩い光を放つ。あれが、五十連撃と形容された剣技。実際はもっと少ないのだろうが、それに迫るほどの速度。剣技の速さならトップクラスである俺の《
「らあああああ!」
「ぬおっ……!」
ヒースクリフ団長の表情に焦りの色が見える。巨大な十字盾を持つ手にも力が入っている。
キリトさんの連続技がヒースクリフ団長を襲う。上下左右、一体どこから剣が放たれているのか、目が追いつかない。システムさえ超越するほどの速度で左右の剣が、十字盾に叩き込まれる。
反応が遅れ、徐々に盾の動きが大きくなる。そして遂に、ここまで正確な防御をしていたヒースクリフの体勢が崩れた。右に振られすぎた盾は、キリトさんの左の剣には追いつかない。
「抜けたッ!」
思わず立ち上がり叫ぶ。
がら空きの胴体に、左手の剣が空中に光の線を引きながら吸い込まれる。これが当たり、ヒースクリフのHPはこの攻撃で半分を割り、勝者が決まる。俺も、攻撃しているキリトさん本人も、キリトさんの勝利を疑わなかった。
しかし、一瞬のラグを感じた後、キリトさんの剣がヒースクリフ団長の盾に阻まれた。この十六撃目でソードスキルは終了らしく、キリトさんは上位剣技特有の長い硬直を受ける。
「えっ…………」
ヒースクリフ団長の長剣が、正確に最低限の力で突き出される。それはキリトさんのHPを削り、イエローゾーンに達した。二人の間にデュエルのウィナー表示が出る。大方の予想通り、勝者はヒースクリフ。
だが、あれはどう見てもキリトさんの勝ちだったはずだ。最後の一撃、キリトさんの方が速かった。なのに、それを盾で受けた。そんなのありえない。《神聖剣》に隠された未知のソードスキルか、ヒースクリフの勝ちへの想いの強さがシステムの限界を打ち破ったのか。とにかく、どこか納得出来ない。キリトさんも、負けた瞬間と何一つ変わらない格好で固まり、一体何が起こったのか把握出来ていない。
「…………と、おい、レット」
「えっ、あ、はいっ」
立ち上がったまま動こうとしなかった俺を心配して、アクアさんが話しかけてきた。後ろを見ると、リズさんも大丈夫、なんて顔で見ていた。
ちなみにクラインさんは、「何やってんだよ、キリトー!」なんて言いながら盛大に凹み、それをエギルさんが慰めている。本来なら弄ったりする場面なのだろうが、正直それどころではない。
「どうしたんだい。そんなにキリトが負けたのが衝撃だったのか?」
「そんなんじゃないです。ただ……、あれはキリトさんの勝ちだったはずです。最後のソードスキル、あれはシステムの限界に達していました。それを、システムの限界を上回る速さで防いだ。同じプレイヤーなのに、あの男が恐ろしいんです」
明らかに、異常とも言える速度で盾が戻った。それも、肉眼では追いつけず、処理さえ追いついていないようにも思えた。
「……そうだな。僕は、団長が敵じゃなくてよかったと思ってるよ。あんなのと戦っても、勝てる気がしない。それこそ、キリトみたいな同じく反則級の力を持った奴がいない限りね」
ユニークスキル。アクアさんが言ったように、それだけで強さは大きく変わる。彼らの他にももう一人、ユニークスキルを持つ者がいる。しかし、なぜ三人にユニークスキルが与えられたのか。そもそもどうして茅場晶彦はMMORPGであるソードアート・オンラインにユニークスキルなるものを作り出したのか。
彼は正式サービスが始まったあの日、自身の目的を、この世界を鑑賞するためだと言った。だが、あの三つのユニークスキルはどれも、MMOにおいて重要なゲームバランスを崩しかねない。そんなものがあれば、この城の攻略のスピードも上がり、クリアされる日もそう遠くはない。創造者ならば、少しでも長く、この世界が続く事を願うのではないか。それともあの言葉にはまだ、別の意味や解釈があるのだろうか。
リアルではただの学生で、義務教育すら終えていない俺には、
「おーい、レット。大損しちまったからよ、この後稼ごうと思ってんだ。頼むからお前も付き合ってくんねぇか?」
クラインさんが実に情けない声で俺を呼ぶ。近くにはエギルさんとリズさん。リズさんがいるなら、少し下にあるファーミングスポットだろう。アクアさんはギルドの仕事があるのだろう、もうここにはいない。
「分かりましたよ」
俺はそう言って彼らの元に行く。歩きながら、慣れた手つきでウィンドウを操作し、腰に愛刀を出現させる。
俺達は、こんな非日常を受け入れてしまっている。毎日同じ時間に起き、武器を手に迷宮区へ挑む。モンスターを倒してお金を稼ぎ、それを使って生活する。
ソードアート・オンライン及びデスゲームの開始から約二年。百層からなるこの鋼鉄の城アインクラッドも、四分の三が攻略された。でも、ここからが本当の戦いだ。
【DATA】
・no data
読んでいて思いませんでしたか?何か今回の書き方いつもと違うと。自分も思いました。
面倒くさいわけではなく、レットが絡むシーンを、と思ったらこうなりました。キリトvsヒースクリフを観客席から見るという位置であり、頭も良い方なのでこんな感じになりました。
でも意外と書きやすいかも。レットのキャラがようやく掴めてきた感じです。
活動報告にて、お詫びとお知らせを載せてます。オリキャラとオリヒロを中心に話が進んで行く感じの新作の方も良ければ見てみてください。ただ単に、アインクラッド編を丁寧にじっくり書いてみたかっただけ。ここだけの話、レット達の話よりも先に思いついていたりします。
次回もお楽しみに!