ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

42 / 71
遅くなってすいません。シリカもベルデも難しいんですよ。書き慣れてないものでして。一回書き直したりもしたんですよ。
それに、部活の方も勧誘の時期でして、色々忙しいんですよね。

では、番外編5。今回はベルデとシリカ編1話目です。
いつも通り、あとがきにてベルデのデータを公開です。そしてすいません。ベルデの身長と体重を変更します。彼が初めは小学生だった事を忘れてました。それに伴って、以前はレモンより身長の高かったベルデは、彼女よりも低くなります。


番外編5 想い人との再会

「相変わらず、何もない部屋だよな」

 

 俺は薄暗い部屋を見回し、そう呟いた。もちろんこんな部屋に、その言葉を聞いている者はいない。ていうか、訪ねて来る者すらいないだろう。

 

「おーい、何で俺をいない事にしてんだよ。声に出てるぞー」

 

「……うるさい《黒の剣士》。黙れブラッキー。帰れ真っ黒」

 

「酷ッ! お前辛辣過ぎるだろ」

 

 少し訂正。こんな薄暗い部屋を訪ねて来るような物好きは、《黒の剣士》だけだ。そして、俺はこいつが大っ嫌いだ。

 

「お前、俺の事バカにしてるだろ……」

 

「まさか。ナメてるだけです」

 

「さいですか……。

 ていうか、ナイトには確か敬語使ってたろ。なのに俺にはなしかよ」

 

 笑いながら言っているため、本気ではないと見える。髪をガシガシやって来るあたりがムカつくが全て無視。そして、その手を退けて、シンプルにこう言ってやった。

 

「敬意を払う相手を選んでいるだけです」

 

 そうは言っても、彼には感謝しかない。ラフコフをやめて、ナイトさんに用意してもらった隠れ家に住むようになって二週間ちょっと。持ち込んだ食料も底を尽き、本来なら買い物にでも行かなければいけない所だが、討伐戦で顔を見られている俺はそう易々と出来ない。そんな時、この家を訪ねて来たのが目の前にいる黒い奴。

 

「黒い奴ってお前なぁ。……もう少し優しくしてくれてもいいだろ」

 

「心の中を読むな、永遠のソロプレイヤー」

 

「だから酷いな!」

 

 話が逸れたがそういう事だ。訪ねて来る度に、食料などの物資を持って来てくれている。しかも彼は、人が少ない時間に連れ出し、俺のカーソルをグリーンに戻してくれた。どれだけ感謝しても仕切れないほどだ。

 だが、《黒の剣士》は言わずと知れた攻略組の代表格だ。ビーターなどという失礼極まりない二つ名もあるが、そんな風に呼んで蔑む者はごく一部の少数の人間だけだ。だからこそ、ここで疑問が残る。なぜ、元《ラフコフ》である俺を匿うのか。

 

「なぁベルデ。一体ナイトはどんな事をしたんだよ。俺だってこんなに良くしてやってるのに、お前全然懐いてくれないじゃないか」

 

 こいつ、慣れると調子乗って来るタイプか。ウザいな。それと、懐いてくれないって、俺は犬か。

 

「ナイトさんは俺の恩人だ。でもあんたは、ナイトさんの、一年越しの命を懸けた計画を台無しにした。それに俺が個人的に負けたっていうのもあって、お前は嫌いだ。ていうか、お前に匿われているという事実自体が心底腹立たしい」

 

「あいつの命を救ったんだぜ。そんな事を言われる筋合いはないはずなんだけどな……」

 

「ナイトさんは、死にたがってた。俺は、あの人の意思を尊重したかった。そもそも、PoHを殺す、またはブタ箱に打ち込む計画だったんだ。なのに、その結果は裏切り者(スパイ)のスファレを捕らえただけ。計画自体は失敗だ」

 

 《黒の剣士》はため息を吐く。どうせ、また色々言ってくるに違いない。

 

「ナイトを、仲間を助けたいと思う事は、悪い事じゃないだろ。お前だって、本当は生きていて欲しかったんだろ」

 

 さっきとは、真剣さがまるで違う。こいつ、どれだけ重い物背負ってんだよ。

 

「じゃあ、俺は行くな。またその内、適当に来るよ。その時は敬語は別にいいけど、名前ぐらい普通に呼んでくれよ。じゃあな」

 

 バタンと静かに部屋のドアを閉めて、そのまま玄関を開け帰って行った。

 

「《黒の剣士》……。まったく、掴めねぇ奴だな」

 

 ◆◆◆

 

「あ、シリカちゃん! もしかして今暇? よかったらパーティー組まない? いい狩場、見つけたんだけど」

 

「あ、えっと……実は—―」

 

 あたしに話しかけて来たのは、よくパーティーに誘って来る男の人。何度断っても勧誘をやめてくれない。

 

「おーい、シリカー! こっちこっち!」

 

 そんなあたしに、救いの手を差し伸べてくれたのは、上下黒の装備のプレイヤー。彼こそが、あたしの今回の待ち合わせの人。彼は、噴水の前で手を振っていた。

 

「キリトさん! あ、すいません。あの人と待ち合わせしてるので。また、今度お願いします」

 

 いつものあたしなら考えられないぐらい強引に振り切り、あたしはキリトさんの元に向かった。ピナも、キリトさんを見つけて飛んで行く。

 

「おっピナ、久しぶり。ほら、ナッツだぞ」

 

「キュルー」

 

 ピナは、キリトさんからもらったナッツを美味しそうに食べている。

 何か、悪い事しちゃったなぁ。

 

「すいません、キリトさん。ピナ、キリトさんにちゃんとお礼言うんだよ」

 

「別にいいよ。リアルじゃ、ペットとか飼ってないからさ。こういうのは新鮮なんだ」

 

 キリトさんはそう言うと、ナッツをもう一粒手に取って、ピナの口元に運んだ。そして、ピナの頭をそっと撫でた。ピナは「キュルー」と気持ち良さそうな声で鳴いた。

 

「キリトさん、本当にベルデに会えるんですか?」

 

 あたしがキリトさんと待ち合わせをした理由、それは会いたい人がいるから。その人の名前はベルデ。第一層であたしを命を救ってくれた恩人であり、約一年前までコンビを組んでいた相棒でもある。そんな彼は、とある雨の日の夜に宿屋を抜け出してから帰って来ていない。フレンドも解除され、生きている事以外は何一つ分からない。

 先日、そんな彼の行方を知っていると、キリトさんからメッセージがあった。あたしはベルデと再会するため、キリトさんとここで待ち合わせをしたのだ。

 

「ああ。でも、本当にいいんだな。ベルデと会っても、コンビ再結成が出来るとは限らない。それどころか、もっと後悔する結果になるかもしれないんだぞ」

 

 キリトさんは、昨日のメッセージでも何度もそう聞いて来た。でも、あたしはどうしても会いたい。

 

「それでもいいです。あたしは、ベルデと一回話が出来ればいいんです。どうして、何も言わずに出て行ったのか。彼の口から、真実を聞きたいんです」

 

「……気持ちは、変わってないんだな。まあ仕方ないか。じゃあ行こうか。途中の道にも弱いとはいえモンスターは出るから気をつけろよ」

 

「はいっ!」

 

 この層のモンスターは簡単に倒す事が出来た。だから、家に着くのにそれほど時間はかからなかった。

 

 

 辿り着いたのは、森の中にひっそりと佇む家——洋館だ。家の壁には蔓などもあり、見るからに古い。

 

「どうだ? 古そうな家だよな。最初来た時は、家というより何かのダンジョンかと思ったぜ」

 

「確かにそうですね。本当に、ここにベルデが——」

 

「いるよ。じゃあ行こうか。でもあいつには、君が来る事は言ってないから驚くかもな」

 

 キリトさんが、家のドアをノックする。ベルデの名前を呼び、しばらくしてからドアが開けられた。

 

「おっすベルデ、邪魔するぜ」

 

「邪魔だと思ってるなら来るな」

 

 その声、その口調、間違いない、ベルデだ。あたしは彼が、他の人に敬語を使う所を見た事がない。誰にでも、あの毒舌をぶつけるのだ。

 

「おい《黒の剣士》。お前の後ろにいるの、誰だ——」

 

 ベルデが、あたしがいる事に気づいた。ピナを連れてキリトさんの元まで行く。

 

「……久しぶり、ベルデ」

 

「キュルー」

 

 その瞬間、ベルデはキリトさんの胸倉を掴み壁に叩きつけた。紫色の障壁がそれを阻んだが、かなりの威力だという事は分かる。

 

「やっていい事と、いけない事があるだろうが! 一体何の真似だ!」

 

「……シリカが会いたいって言うから連れて来ただけだぜ。俺が何か悪い事したか?」

 

「今やってる事がそれなんだよ! もし、あいつに知られたら——」

 

「知られたら?」

 

「……ッ!」

 

 ベルデは顔を悔しそうに歪ませた。静かにキリトさんから離れて、家の中に招き入れるような仕草をする。もしかしなくても、ベルデは何かを隠している?

 そして、キリトさんの口調が変わった。約半年前の、ロザリアさん達を捕まえた時よりは抑えられているが、どこか緊張感のある雰囲気。この二人の間には、一体何があるんだろう。

 

「っていうわけだ。シリカ、ベルデも歓迎してくれるみたいだし、俺達は中に入ろうか」

 

「えっ……。あ、はい」

 

 なぜかキリトさんに促され中に入る。ホコリ一つなく——仮想世界だから当たり前だけど——、綺麗に整頓されていた。悪く言えば何もなく、生活感がない。

 

「おい《黒の剣士》。ここはお前の家じゃないんだけど……」

 

「まあまあベルデ。キリトさんだから仕方ないよ……」

 

「はぁ、あれが攻略組のトッププレイヤーだと思うと、何か情けなくなるよ……」

 

「おーいお前らー。聞こえてるぞー」

 

「あっ——。すいませんキリトさん!」

 

 謝ってから、適当な場所に腰を下ろす。ベルデは、さっさと座ってしまったあたし達を見てため息を吐くと、首をやれやれと振って座る。

 

 そんな時、キリトさんにメッセージが届いた。それを見てから、面倒そうに立ち上がった。

 

「悪いな二人とも。ちょっと急用だ。俺はもう帰るよ。シリカ、帰り道は分かるよな」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

「もう来なくていいからな」

 

 ベルデは相変わらず不機嫌そうに言う。あのベルデでも、ここまであからさまな態度を取るのは珍しいと思う。本当に、この二人の間には一体何があったのだろう。

 

「さて、邪魔者はいなくなったし、何から話そうか」

 

「……ねぇ、ベルデ。さっき、キリトさんと何の話してたの? 嫌なら……、無理に答える必要はないけど」

 

「じゃあ、そうしてくれるか? あんまり、人にペラペラ話す事でもないからさ」

 

 やっぱり、何かがあったんだろう。でも、それについて強く踏み込めない。あたし自身がそういう事を聞くのが苦手という事もあるが、ベルデから出ている「触れるな」という圧力かすごい。

 

「ベルデ、結構稼いでるんだね。装備もすごく強くなってるし。この家だって、大きくて。あたしもこの一年、強くなったつもりだけど、ベルデはもっとすごかったんだね」

 

「そうでもないさ。レベルは多分、お前の方が上だよ。それにこの家だって、知り合いから譲ってもらっただけだし。すごいのはその人さ」

 

 ベルデの言葉からは、その人をどれだけ尊敬しているかが分かる。きっとその人が、この一年間ベルデと共にいた人なんだろう。

 

「そんなにすごいなら、あたしも会ってみたいなぁ」

 

「あー、うん。それはガチでやめた方がいい。あの人は尊敬出来るけど、色々危ない人だからさ」

 

 結局、どういう人なんだろう?

 

「それはそうと、シリカは何か変わった事はあったか? 何か、見違えるぐらい逞しくなったな。あ、いや……、女の子にそういう言葉は失礼か。でも、本当にそういう意味じゃなくてだな……」

 

「ベルデ、分かってる。そういう意味じゃない事ぐらい。

 まぁ、確かにそうかも。ベルデに会うために、レベルも結構上げたし」

 

 珍しいベルデの様子を見て笑いながら、ちゃんと分かってると伝える。ベルデに会うために必死にレベル上げをしたおかげで、中層の中では頭一つ抜けている自覚もある。

 

「そうじゃねえよ。表情、顔つきがだよ。何か、自信に満ち溢れてるって感じ。心当たりとかある?」

 

「多分——」

 

 あたしは、ベッドで丸くなっていたピナを抱き上げ、笑いかけた。

 

「ピナを死なせちゃったからかな。あたし、レベルが上がって来て調子に乗っちゃってね。それで、パーティーと喧嘩してそのまま一人で森でモンスターと戦ってた。あたしも、死にかけたんだけど、ピナが庇ってくれたの」

 

 あの日の事は、今でも思い出す。もしも、あそこにキリトさんが来てくれなかったら、ナイトさんが手伝ってくれなかったら、今のあたしはいない。

 

「キリトさん達が助けてくれて、四十七層の《思い出の丘》に蘇生アイテムを取りに行ってね」

 

 いつの間にか、話をするのが楽しくなって来た。あの出来事は、辛い事も沢山あったけど、それを乗り越えて得た物も沢山あった。それに、ベルデにあたしの冒険を聞いてもらえるのも嬉しかった。

 

「《黒の剣士》に、ねぇ」

 

 どこか疑うのような感じで呟くベルデ。本当に、キリトさんの事が嫌いなんだ。

 

 そんな時、あたしはある一つの話を思い出した。

 

「ねぇ、ベルデ! よかったら、明日またコンビ組んでどこかに行かない? 行ってみたい所があるんだ」

 

 

 かつて闇深き森に、強力な毒を操る魔物がいた。その毒を受けた者は次々に命を落としたという。そして、遂にそ魔物は一人の勇者によって退治された。

 だが、その魔物には一つの使命があった。欲深い盗賊から、《秘密の花園》と呼ばれる秘境を守護する事だった。

 

 これは、四十七層の民家で教えてもらった話だ。その魔物がいた森は、この層にある《ブラックフォレスト》だと睨んでいる。この森には、《ヴァイオレンス・ネペント》というフィールドボスがいた。過去形なのは、攻略組のソロプレイヤーが、そのボスを単独撃破したという噂を聞たからだ。噂が真実かどうかは、情報が少な過ぎて分からない。確かなのは、そのボスは既に倒されているという事。その後、その民家でその話が話されるようになった事だ。

 

 あたしはその《秘密の花園》を目指して、ベルデとコンビを再結成して向かう予定だ。今は転移門の前で彼を待っている。

 それにしても……、

 

「か、カップルが多いなぁ」

 

 あたしもいつかベルデと……、

 

「……か、……りか、シリカ!」

 

「ふぇっ、べ、ベルデっ!」

 

 まさにベルデの事を考えていただけに、顔が真っ赤になり、体温が上がったのを感じる。バレて、ないよね?

 

「悪いな、待ったか?」

 

「ううん。付き合ってもらうのはあたしだからいいの」

 

 よかった。バレてないみたい。

 

「どうしたの? そんなにキョロキョロして」

 

「ん? ああ。こう、じゃなくて、やたらと人が多いなぁって。だってここ、最前線から大分離れてんのに」

 

「そりゃそうだよ。だってここは……、ここは……」

 

 あたしはその後の言葉に詰まってしまう。口に出せば、絶対意識してしまうからだ。

 

「ここは?」

 

「……で」

 

「……で?」

 

「……デンジャーなモンスターが少ないからじゃないかなー。あははは……」

 

 あたしはそう言ったが、デンジャー(危険)なモンスターがいないわけではない。《ブラックフォレスト》は、あの強力な毒を使うボスはいなくなったものの、面倒くさいモンスターは多い。当然、四十七層にはあたしの天敵もいるわけで……、

 

「イヤアァァッ! 離して! ベルデ! お願い、見ないで助けてッ!」

 

 今はまさに宙吊りの状態。左手でスカートを押さえ、右手のダガーを無茶苦茶に振り回すという、何とも酷過ぎるこの状況。以前から、何も変わってないとも言える。

 

「……はぁ。ちゃんと、スカート押さえとけ! トドメはお前が刺せ、よッ!」

 

 ベルデは、右腰からくの字型の武器を取り出す。それを左手で思いっ切り投げる。それは鋭く回転しながら、あたしを捕らえていた蔓を切断する。そして、その武器はそのまま旋回しながらベルデの手元に戻って来る。

 

「ヤアアァァッ!」

 

 あたしは落下速度を上乗せして、ソードスキルでモンスターを倒す。案の定ビックリするぐらい弱く、どうして捕まるのだろうと思う。

 

「み、見た?」

 

「……見てねぇよ」

 

 あたしはこの気不味さを何とかすべく、話題を変える。そこで選んだのは、先ほどベルデが使った馴染みのない武器。

 

「ねぇ、ベルデ。それってもしかして《ブーメラン》?」

 

「ああ。半年以上前から使ってるんだ。《投擲》だけで使えるからな。接近しないとダメージすら与えられない短剣とは相性がいいんだ。まぁ、リアルじゃブーメランはこんなに上手く戻ってこないけどな。ホント、システムアシスト様様だよ」

 

 それからも話をしながら歩き、出会ったモンスターを倒していった。ここの層の安全マージンは既に満たしているため、楽々進めた。毒を使う相手でも、ベルデのブーメランのおかげで簡単に倒せた。

 

「流石ベルデだよね。ホント、昔からずっと強い」

 

「そんな事ねぇよ。多分、短剣一本なら、お前の方が上だよ」

 

 なぜか悲しそうな目をするベルデ。その目に込められた感情が何なのか、あたしには分からなかった。

 

「ホント、ベルデはすげぇよなぁ」

 

 後ろから声が聞こえた。あたしは武器を構えて振り向く。

 そこにいたのは、二人のプレイヤー。その頭上には、ロザリアさん達〈タイタンズハンド》と同じオレンジ色のカーソル。犯罪者(オレンジ)プレイヤーだ。

 

「ったく。そんなカワイイ子引っ掛けんなら俺らにも教えろよ。なぁ、ベルデ」

 

 ベルデと知り合い? 何で、オレンジプレイヤーの知り合いなんかがいるの?

 

「おい、何とか言えよ! 同じギルドの仲間だろ、ベルデ」

 

 ベルデはずっと二人の方を向かない。小声で「シリカ」と、あたしの名前を呼んだ。そして、あたしの手を握り走り出した。

 

「えっ――!」

 

「逃げるぞッ!」

 

 ベルデに手を引かれながら逃げるあたし達。

 頭上のピナが二人に向かい威嚇し続ける。

 

 しかし、ベルデの体が傾く。手を握られていたあたしもつられて倒れる。

 

「早く逃げろ、シリカ!」

 

「でも——!」

 

 視界の右上には、パーティーメンバーの名前とHPがある。そのHPバーの横に、さっきまではなかったアイコン——《麻痺(パラライズ)》が追加されている。

 

「早くしろッ!」

 

 あたしは急いで立ち上がり、走り出す。しかし、誰かにぶつかってしまう。

 

「残念だったな。二人だけじゃないんだよ」

 

 またしてもオレンジプレイヤー。あたしは彼に完全に捕まってしまった。《ハラスメントコード》の表示は出ているが、両手を掴まれ押す事が出来ない。

 そして、あたしを捕らえる手の甲に棺桶のタトゥーが刻まれているのが見えた。

 

「《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》ッ!」

 

「へぇ、俺らも有名になったもんだなぁ」

 

 あの最悪の犯罪者集団。約二週間前に、攻略組によって幹部を含めた大多数のプレイヤーが死亡、または捕らえられ、事実上の壊滅。残るは、当日その場にいなかった残党とリーダーのPoHだけになったはずだ。その内の三人が今、あたしの目の前にいる。

 

「くそッ!」

 

 ベルデの悔しそうな声が聞こえる。

 

「なぁ、この子。もしかして中層のアイドル《竜使いシリカ》ちゃんじゃないか? 上にフェザーリドラもいるし」

 

 一人が、あたしに素性に気づいてしまう。

 

「キュイーッ!」

 

 そんな時、ピナがあたしを捕まえている男に攻撃する。しかし、簡単に弾かれてしまう。HPが半分を切ってしまっている。

 

「ピナッ!」

 

 それから、あたしを舐め回すように見る彼ら。あたしは、この視線が苦手だ。

 

「……ッ!」

 

「どうする? 《聖竜連合》の奴等も近いし、人質にするか?」

 

「いや、逃げ切るのは難しいだろ。最後に思いっ切りヤッちゃおうぜ!」

 

 それがどういう意味なのかはあたしでも分かる。怖い。足が震えて、頭がパニックになって何も出来ない。

 

「おいお前ら! その汚ねえ手をシリカから退けろ!」

 

「汚い手って、お前が言えた事じゃねぇだろ。お前だって俺らと同じ、元《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》のメンバー。しかも、俺らとは違って三人も殺した実績のある、正真正銘のレッドプレイヤーなんだからなぁ!」




【DATA】

・ベルデ(Verde)
年齢:13(2024年8月現在)
身長:144cm
体重:35kg
誕生日:2010年11月25日
容姿:日番谷冬獅郎(BLEACH)の約二年後の姿で、髪を茶色にして、髪型をもう少し落ち着かせた感じ

ようやくベルデのデータも出せました。おまたせしました。
今回は最初の方をベルデ視点、残りはシリカ視点です。何か、キリトが暗躍してますね。ホント、こういう役似合うなぁ。
さて、ベルデについて色々謎が出て来た所で締めさせていただきます。出来る限り、早めに投稿したいとは思ってますがどうなるのやら。
これが終われば、いよいよ原作1巻の二年後編、つまりアインクラッド編の終わりに入って行きます。

次回もお楽しみに!アンケートへの参加よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。