ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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ナイトのキャラがイタいかなって感じです。そういえば、暗殺教室の方でも主人公がイタいって言われた。自分のキャラはイタくなってしまうのかも……。


03.騎士の犠牲とビーター

 2022年12月3日。俺たちは、ボスの部屋に向けて歩いていた。

 

「確認しておくぞ。溢れ組の俺たちの担当は《ルイン・コボルト・センチネル》という取り巻きだ」

「分かってる」

「りょーかい」

「分かりました」

 

 キリトさんの確認に俺たちは三者三様の答え方をする。アスナさんはドライに。ナイトは軽く。俺は……まぁ、普通に。

 

「俺とナイトが《ソードスキル》で奴の武器を跳ね上げさせるから、アスナとレットがすかさず《スイッチ》して飛び込んでくれ」

「はいよ~」

「分かりました」

 

 俺とナイトはキリトさんにしっかりと反応する。しかし、1つ返事が足りない。

 

「アスナさん、大丈夫ですか? 大丈夫なら……返事ぐらい……」

「ねぇ、レット君、《スイッチ》って?」

 

 その言葉に俺たちは絶句する。でも、よく考えてみれば分からなくもない。女性プレイヤーが圧倒的に少ないSAOでは女性にとって、パーティを組むのは少し辛い。《ハラスメント防止コード》なるものはあるがそれでも恐怖だろう。

 

 結局、キリトさんが丁寧に、ナイトがそれを茶化しながら教えていた。ちなみに俺はというと、《索敵》や《隠蔽》のスキルを上げていた。

 

 

「聞いてくれ、みんな。俺から言う事はただ1つ。勝とうぜ!」

 

 この一言で皆の士気が高まった。いよいよ、ボス戦だ。

 

「行くぞ!」

 

 ディアベルさんは扉を開き、俺たちもそれに続いて中に入る。初めてのボス部屋。今まで戦って来たどの場所とも違うこの圧迫感。これがボス戦なのか……。

 

 そして、目の前に現れた武器を持った獣。《イルファング・ザ・コボルトロード》。攻略本にあった通りだ。そして、その周りに取り巻きであり、俺ら担当の《ルイン・コボルト・センチネル》もポップする。

 

「攻撃、開始!」

 

 その掛け声と共に一斉に走り出すプレイヤーたち。

 

「A隊C隊、スイッチ! 来るぞ、B隊、ブロック!C隊、ガードしつつスイッチの準備。今だ、交代しながら側面を突く用意。DEF隊、センチネルを近づけるな」

「了解!」

「うす!」

 

 キリトさんとナイトが短く答え、アスナさんと俺にアイコンタクトを取る。

 

 ナイトがセンチネルの武器を跳ね上げた。

 

「レット、スイッチ! いつも通りな!」

「りょーかい!」

 

 俺は曲刀カテゴリの基本技《リーバー》を発動させる。

 

「はあぁっ!」

 

 センチネルがポリゴンに変わる。キリトさんとアスナさんのペアの方も見てみるが、心配する方が失礼という様子だった。キリトさんが武器を跳ね上げ、すかさずスイッチ。アスナさんは正確な一突きでセンチネルをポリゴンにしていく。相性がいいのだろう。ずっとコンビを組んでる俺とナイト以上のスピードで倒していく。

 

「負けてらんねぇぞ! レット、もう一丁! スイッチ!」

「はいよ!」

 

 そして、俺たちがセンチネルを順調過ぎるぐらいのスピードで倒していくため、ボスの方もスムーズに進んだ。ついに、《インファング・ザ・コボルトロード》の最後のHPバーが赤くなった。武器を変えるタイミングだ。

 

「情報通りやな」

「下がれ。俺が出る!」

 

 なっ……このタイミングで1人……。

 

「おい、ディアベル! パーティ全員で包囲するのがセオリーだろうが!」

「黙っとれ! 欲張りなベーターテスターさんは下がったったらええねん! ディアベルはんに任しとき」

 

 その時、ディアベルさんがキリトさんとナイトの事を見ていた。何かあったのか?

 

 そして、ボスが腰から武器を取る。だが……何かおかしい。武器が……思ってたのと違う……。タルワールというより……刀。

 

「ッ! あれはタルワールじゃなくて野太刀だ!」

 

「ディアベル! 全力で後ろに跳べ!」

 

 ナイトとキリトさんが大声で叫ぶ。一部の人は気づいたものの、肝心の人は聞こえていない。

 

「うわあぁぁぁッ!」

 

 予想外の動きをしたボスに翻弄され、ディアベルさんは攻撃を食らう。

 

「ディアベルはん!」

 

 キリトさんとナイトさんはポーションを取り出し、ディアベルさんの元へ走る。しかし、ディアベルさんは死んでしまった。

 

「おい、レット! 力貸せ!」

「オーケー! 言われなくてもそのつもりだ!」

「ナイト、レット、アスナ手順はセンチネルと同じだ。俺とナイトが跳ね上げ、2人が攻撃。いいか?」

 

 俺たちは無言で頷いた。そして、ボスに向かって走り出す。

 

 ボスがソードスキルの構えを取る。が、それを相殺するように、キリトさんがソードスキルを放つ。その後、アスナさんのレイピアがボスを攻撃する。

 

「アスナッ!」

 

 しかし、ボスも黙ってはいなかった。すぐさま立て直し、ソードスキルを放つ。アスナさんはダメージは受けなかったものの、ローブが斬られてしまった。そして、中から栗色の髪の整った容姿の女性が現れる。

 

「オイコラ。ボケっとしてねぇで行くぞ。アスナが攻撃したら次はオレらだ」

「りょーかい!」

 

 ナイトが次のソードスキルを相殺する。そして無言で俺とアイコンタクトを取る。今なら、掛け声なしでも……いける!

 

「ぃやぁぁああああ!」

 

 俺の放ったソードスキルはボスにクリーンヒット。HPを大きく減らす事に成功した。

 

「次来るぞ!」

 

 その後も、キリトさん、アスナさんコンビ、俺とナイトコンビでヒットアンドアウェイを繰り返す。

 

 しかし、ここでキリトさんが跳ね上げに失敗し、ボスのソードスキルがヒットする。そのまま後ろのアスナさんも巻き込み、倒れ込む。

 

「キリトさん! アスナさん!」

「バカ! 余所見すんな!」

 

 ナイトの言う通り、余所見をした俺はボスの攻撃を受け、先に倒れた2人の側まで飛ばされる。そして、俺とキリトさん、アスナさんの頭上でボスがソードスキルを立ち上げる。もうダメだ、そう思ったその時、1人の斧使いが間に入って攻撃を防ぐ。

 

「うおおおっらあっ!」

「オーケー! ナイス、エギル。次行くぞ! 右からアクアとアツシ! 左から俺とケント!」

 

「「「「りょーかい!」」」」

 

 広場でベーターテスターを庇ったエギルのパーティとナイトが俺たちを守った。

 

「回復するまで、俺たちが支えるぜ」

「あんた……」

「すいません、お願いします」

 

「バーカ! レット、テメェはそっちじゃなくてこっちだ! ポーション、口に突っ込んだらさっさと来い! エギル、テメェも喋ってないで早く! オメェら、安易に囲むんじゃねぇぞ! 範囲攻撃が来るからな!」

 

 相変わらず、人使いが荒くて、口も悪いな。……でも、

 

「りょーかい!」

 

 俺はポーションを飲むと、HPが回復し始めるのを確認し、走り出す。その様子にナイトは少し口角を上げていた。

 

「ッ! 危ねぇ! アクア、アツシ避けろ!」

 

 ナイトが叫ぶのとキリトさんが飛び出すのはほぼ、同時だった。

 

「届けぇぇ!」

 

GJ(グッジョブ)、キリト。おいレット、まだ行けるよな。さっさと来い! 最後決めんぞ!」

「アスナ、最後の攻撃、一緒に頼む!」

「「了解!」」

 

 俺たち4人はそれぞれ武器を構え、ボスに突っ込んで行く。キリトさんがパリィし、アスナさんが攻撃。ナイトが跳ね上げた所に俺がソードスキルを叩き込む。

 

「最後行くぞ、ナイト!」

「おう!」

 

 キリトさんの声とほぼ同時で飛び出し、2人はソードスキルを放つ。利き手の違う2人のソードスキルがボスの中央でクロスする。そして、ボスはポリゴンとなって、弾けた。

 

「や、やったあぁ!」

 

 誰かがそう言った。目の前には経験値などの獲得を知らせるウィンドウが出ていた。ここにいる全員が、喜びに包まれていた。

 

「よう、キリト。LAボーナス、オレが頂いたみてぇだな」

「はぁはぁ……。残念、俺もあるんだ」

「ん? 《コート・オブ・ミッドナイト》ねぇ」

「お前のは《コート・オブ・スノーホワイト》か」

 

 どうやら、LAボーナスはあの2人が手に入れたらしい。

 

「ベータん時と違うのな。2人がLAボーナスなんてな」

「ああ。でも、悪くはないな」

 

 そんな2人に俺とアスナさん、そしてエギルさんが近づく。

 

「お疲れ様」

「グッジョブ!」

「見事な剣技だった。Congratulations。この勝利は、あんたたちのものだ」

「いや」

「それほどでもあるよな!」

 

 謙虚なキリトさんに自信家なナイト。違い、あり過ぎだろ。

 

「何でや! 何で……何でディアベルはんを見殺しにしたんや!」

「見殺し……」

 

 キバオウさんがそう言う。キリトさんはやや掠れたような声で返す。

 

「そうやろが! 自分はボスの使う技、知っとったやないか! 最初からあの情報伝えとったら、ディアベルはんは死なずに済んだんや!」

 

 なにやら雲行きが怪しくなって来た。レイドの中でキリトさんとナイトへの不満が高まって来た。

 

「きっとあいつも元ベータテスターだ! だからボスの攻撃パターンも分かってたんだ! 知ってて2人で隠してんだ! 他にもいるんだろ! ベータテスター共、出て来いよ!」

「おい! ナイトもキリトさんも見殺しにしたわけじゃない! それに……ベータテストとはボスのパターンが違ってたんだ。攻略本でも武器はタルワールだっただろ!」

 

 俺が耐えられずに言う。でも、これがさらに不満を高めてしまう。

 

「じゃあ、あの攻略本を作ったアルゴって奴も隠してんだんだ! そいつら3人、いやお前もベータテスターなんだろ!」

 

 アルゴさんまで悪者扱い。終いには、俺までベータテスターになってしまった。俺が……余計な事を言うから……。

 

「おい……キリト」

「ああ。オレらはともかく……レットやアルゴまで」

「もしかしたら……アスナやエギルまで巻き込むぞ」

 

 2人は……1つの決意をした。

 

「おい、お前ら」

「そうよ、あの2人も彼も……」

 

「「フハハハハハッ、ハハハハハッ」」

 

「いやぁ、実に滑稽だな、お前ら。何真剣にベータテスターを探そうとしてんだよ!」

「俺達とあいつらじゃ次元が違うんだよ」

「な、なんやと!」

 

 何を言い出すんだ……ナイト……キリトさん……。

 

「知ってるか? あのベータテストをやった奴のほとんどは超下手くそなド素人なんだぜ。今のテメェらの方がずっとマシだぜ」

「でも……俺たちはあんな奴等とは違う。俺たちはベータテストで他の誰よりも高い層へ登った。ボスのソードスキルを知ってたのも、ずっと上の層でカタナを使うモンスターとさんざん戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ。情報屋なんか、比べ物にならないぐらいな」

 

 そう、2人が決意したのは、このデスゲームにおいて、最も効率が良く、危険な事。〝ソロプレイヤーとして生きる〟事だった。

 

「そういや、どっかの誰かがそこの曲刀使いもベータテスターとか言ってたな。冗談もここまで来ると笑えねぇよ。確かに、コイツのスキルは悪くない。でも、ベータテスターなら、もうちょっとマシな戦い方が出来んだろ。オレらが一緒にいてやらなきゃ、最初に死んだのはディアベルじゃなくてコイツだっただろうな。まぁ、そいつも所詮は雑魚だな」

 

 ……ナイト…………。そんな事言うなよ。別に……俺まで突き放さなくてもいいじゃないか。

 

「何やそれ。そんなのもう……ベータテスターどころやないやん! そのガキだってお前らとスキルだけなら近いはずやろ! そいつが雑魚なら……お前ら何なんや! ベータどころやない! チートやチーターや!」

 

 そこに誰かが言った。そして、それが今後、2人を表す言葉になった。

 

「ベータのチーター。だから《ビーター》だ!」

「ビーターか……。なぁキリト、オレさ、結構それ気に入ったんだけど」

「ああ、そうだな。俺たちはビーターだ。これからはベータテスター如きと一緒にしないでくれ」

 

 そう言うと、先ほど手に入れたLAボーナスを装備し、2層のアクティベートに向かった。

 

「待てよ!」

 

 俺はナイトに声をかけた。

 

「俺を生き残らせるんじゃなかったのかよ! あんだけ任せとけって言って、俺を《始まりの街》から出しておいて、後は知らんぷりかよ!」

 

 甘えてるのは分かる。だけど……言わずにはいられない。ナイトの事を信用していたから。彼とはどちらかが死ぬまでずっとパーティを組めると思ってたから。

 

「ああそうだ。そして、オレはお前に言ったはずだ。“俺がお前といる限り”だと。だから……あんまりしつこいようだと、オレが殺すぞ」

 

 初めて受けた、この殺気。この目は本気なのかもしれない。

 

「ホントに出来んのかよ……そんな事」

「じゃあ、やってやるよ」

 

 ナイトは素早く俺の目の前に来ると、勢いよく剣を振る。突然の出来事に俺は刀で受ける事も出来ず、直撃してしまう。幸い、ポーションは飲んで回復していたため、イエローゾーンで止まった。

 

「ってぇ。おい! いきなり…………」

 

 ナイトのカーソルが緑からオレンジに変わっていた。あれはカルマ回復クエストを受けないと永久に街に入れなくなってしまう。そして、オレンジとは、犯罪者プレイヤーを表している。

 

「アクティベートはしといてやる。ベータテストではボス撃破に浮かれて、上に登った途端に死んだ奴もいたからな」

 

 そう言うと、今度こそ2人は登って行った。アスナさんは追いかけて行ったけど、俺は動けなかった。

 

 

~アスナside~

 

「待って」

「どうした? もしかして、レットの仇打ち? 俺は別にいいけど」

 

 あんな寂しそうな目、初めて見た。

 

「そんなんじゃない。お疲れ様。それと、ゴメン。あなたたちだけに背負わせちゃって」

「いいさ。別に」

 

 今度はキリト君が答えた。

 

「アスナ。それとレットにも伝えてやってくれ。君たちは強い。だからもし君たちが、信用出来る人から《ギルド》に誘われたら断るなよ。ソロプレイには絶対的な限界があるから」

 

 だったら君も、と言いそうになったが、言えなかった。2人がどんな気持ちであの場で生贄になったのか、理解出来たからだ。

 

「分かった。ナイト君からは何かある?」

「オレからか……。まぁ、頑張れ。期待してる」

 

 素っ気ない言葉。だけど、今回のボス戦で、彼には人を惹きつける力があると分かった。

 

「……そうだ。それとさ……レットにコレ、渡してくんね? それと、伝言も頼みたい」

 

 

「レット君」

「アスナさん。2人は……」

「うん。パーティも解散されちゃった」

「そうですか」

 

 やはり、彼は傷ついていた。よっぽど彼の言葉を信用していたのだろう。

 

「はい、コレ」

「わざわざありがとうございます。ポーション、もらっていいんですか?」

「いいわよ。だってそれ、私じゃなくてナイト君からだもん」

「えっ……」

 

 ちょっとカワイイと思ってしまうような表情だ。弟みたいだなぁ。まぁ、私、弟いないけどね。

 

「それと、ナイト君から伝言。

 

『ゴメン、とは言わないし、言うつもりもない。だから、言って欲しけりゃ俺より強くなってみろ。そして、お前ならそれが出来るはずだ。俺は、それを信じてる』

 

 だってさ。なんか、上から目線ですごくムカつくよね。だからさ、絶対、負かしてやろうよ」

 

 ホントにその伝言を聞いた時はムカついた。攻撃しといてその態度はないと思った。でも、レット君も私もそれを聞いて、絶対強くなってやろうと思えた。

 

「よしっ! ありがと、アスナさん。絶対、俺は強くなる。そして、あいつに認めさせてやる」

 

 第1層ボス攻略。犠牲者1名(ディアベル)。LAボーナスはキリトとナイト。このデスゲームが始まって1ヶ月。ようやく、第2層への扉が開かれた。




【DATA】

・《コート・オブ・スノーホワイト》
ナイトが入手したLAボーナス。名前通りの白いコート。《コート・オブ・ミッドナイト》よりやや軽い分、防御力が低い。


次回もお楽しみに!

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