ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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遅れてすいません。レット復活編、ようやく開始です(前話は序章です)。
今回、あの人がとてもカッコいい活躍をします。さて、いったい誰なのでしょうか?

後、あとがきでも色々書いていこうと思います。だって、思ってたほど【DATA】で書く事ないんだもん。

アンケートも引き続き実施しています。何回でも参加可能ですので、是非参加してみてください。

それと、評価の方の文字数を0と10のみにしました。よければ評価なんかもしてくれたら嬉しいなぁ、なんて。


34.同じ釜の飯

 暗闇の中、見知った顔から浴びせられる罵声。憧れの人達、リアルの友達、両親、妹、かつての相棒、そして初恋の相手。ハイライトのない目が、余計に恐怖を煽る。彼らが、俺に対してそんな事を言うはずがないと思っていても、それを完全には否定出来ない行いをしてしまったのも事実。

 

 別に、隠すつもりなんてなかった。《クレイズナッツ》に手を出したのも、オレンジプレイヤー達を躊躇なく殺したのも、俺自身が仮面を被った偽善者であった事も。ただ、強くなりたかった、必要とされたかった。お互いに信頼し合って、一生切れる事のない家族以上の繋がりが欲しかった。

 

 だが同時に、他人をそれ以上の存在にする事が出来なかったのも確かだ。家族でさえ、俺の事を見てくれなかったのだ。それなのに、何の関係もない他人を、信用出来なかった。結局、信じられるのは自分だけだ。

 

 本当に、自分が何をやりたかったのか、何のために生きてきたのか、さっぱり分からない。自分が信じてたモノを、別の自分は否定している。自分が欲しいと望んだモノを、別の自分は平然と捨てた。

 

 どれが、本来の俺なのか。そして、今の俺はどれなのか。それとも、本当の俺を、俺が認識出来ていないだけなのか。少なくとも、今の俺には判断する事が出来なかった。

 

 そんな事ばかり考え、俺は今日もベッドから飛び起きる。排泄だけではなく、汗すらも出ない仮想世界が、今はもどかしい。もしも汗が出るのなら、少しぐらい、この不快感を解消出来たかもしれないのに。

 

 紅林 蓮というキャラクターを、嘘や仮面で偽り続けた代償は大きかった。それは皮肉にも、それが日常的に起こる世界で、俺に降りかかって来たのだった。

 

 

 悪夢に魘され、聞いてもいない言い訳をダラダラと述べ、何もかもが思い通りにならない苛立ち。それらと共に目覚める生活が始まって今日で二週間。奴に負け、取り巻く環境の全てが変わったあの日から、俺は一度も外に出なかった。何かを口にしたのは果たしていつだったのか、あの日から何人の人が家を訪ねて来たのか、そもそも、本当に今日で二週間経ったのかすらわからない状況だった。空腹でも、この世界なら死ぬ事はない。合鍵なんてないから、開けられる心配もない。これから先も、ずっとここにいるのだから、日付なんて分からなくてもいい。そう考えてしまう今の俺は、あの頃の俺よりも酷かった。

 

「おーい、レット、いるかー!」

 

 また、例の男の声が聞こえる。他の人達は交代で来ているにも関わらず、あの野武士面のバンダナ男だけは、毎日2回は来ている。

 

 ドンドン、ドンドン、ドンドン。生活リズムは狂い、十分な食事も摂らず、寝ては起きての繰り返しで、まとまった睡眠時間が取れていない俺にとっては、そろそろ我慢の限界だった。

 

 流石VR。二週間寝たきりでも、運動能力が落ちたりはしない。ベッドに寝た状態から勢いをつけてそのまま起きる。ドアノブに手をかけ、思いっきり開けてやる。その後、睡眠時間が取れていない原因の1人でもある彼に文句を言おうと口を開く。

 

「いぃってぇ!」

 

 どうやら、ドアについている穴からこちらを覗こうとしていたらしい。開ける時にドアに頭を打ち、ひっくり返って痛がっている。ちなみに、その穴はあくまでも飾りで、リアルとは違い中の様子は見れない。

 

「あっ……えっと、大丈夫ですか?」

 

 さっきまで言おうと準備していた文句は、いつの間にか吹っ飛んでいた。文句より、冷たい石畳の玄関で痛がっている男を、心配する方が先だ。

 

「へへっ、隙ありだ!」

 

「へ?」

 

 そんな事を言って、彼は素早く家の中に入りドアを閉める。さっきまで痛がっていたのが嘘のようだ。いや、おそらく嘘に間違いない。だって、この世界に痛みなんてないのだから。

 

「ようやく、家に入れたな」

 

「……一体、何しに来たんですか、クラインさん」

 

 何度も、強引な手段で俺との会話を図って来た彼に、とうとう家の中に入られてしまった。質問の答えなんて分かりきっている。どうせ、攻略組に戻れ、とでも言うつもりなのだろう。

 

「随分と荒れてんな、レット。って、俺のせいか」

 

「分かってるなら、さっさと出てってくださいよ。俺に、攻略組に戻る気はありませんよ」

 

 クラインさんは困ったように頭をかく。その後、「うーん」なんて言いながら、考え込む。

 

「どうすっかなぁ。まぁ無理に前線に出ろ、とは言うつもりはないんだがよ。みんな、お前の事心配してんだ。顔ぐらい見せてやれよ」

 

 大した案は思い浮かばなかったらしい。

 

「……まさか。俺なんて、いてもいなくても変わんないですよ。俺みたいな奴は、心配される価値もないんです。ほら、こんな奴に構ってる時間があったら、迷宮区にでも潜ればいいじゃないですか」

 

 俺は自虐気味に返す。そもそも、どうしてみんな、こんなに俺に構うのか分からない。どんなに自分を偽ろうと、誰からも必要とされないという俺自身の本質が変わる事はないのに。

 

「そういう事か。よっし! 決めたぜ!」

 

 ……何か決めたぞ、この人。

 

 クラインさんは、素早くメニューを呼び出すと、メッセージを送り始める。返信が返って来ると、こちらを見てニヤリ。正直、いい気分がしない。

 

「よし、レット行くか」

 

「はい?」

 

「一応言っとくが、俺はあくまでもノーマルだからな。男が好きとか、そういうのがない事だけは、分かってくれよ」

 

 もう訳が分からない。この人は一体何をしでかすつもりなんだろう?

 

 すると、クラインさんは俺の右手を握り、家から連れ出した。自分で言ってて訳分かんねー。

 

「え?」

 

 何かしらの反応する前に、俺はクラインさんに手を引かれて転移門まで来てしまう。そしてクラインさんは、アインクラッドにある、数少ない魔法を使うための言葉を唱えた。その場所は、彼がリーダーを務めるギルド《風林火山》のホームがある場所だった。

 

 

「おーい、お前ら! 連れて来たぜ!」

 

「お帰り、リーダー!」

「おっ、レットもやっと顔見せたか!」

 

 普段は5人いるはずのメンバーも、なぜか今は2人しかいない。

 

「って、いきなり何なんですか!」

 

 突然の出来事が重なり、思考回路がショートしていたが、ここに来てようやく復活。いきなり連れて来られた事も含め、文句を言おうと口を開くが……、

 

「今帰ったぞ!」

「大量に買って来たぜ!」

「晩飯楽しみだなぁ」

 

 残りの3人が帰って来た。 買って来たらしい食材を色々と取り出しては、美味そうだと言い、それをストレージにしまう。クラインさんが、奥に行ったと思えば、ワインを持って来て皆が大盛り上がり。ある程度盛り上がると、期待の眼差しで俺を見つめる。その頃には既に、文句が言えない状況だった。

 

「……あははは。マジすか?」

 

 全員が一斉に頷く。ここまで来ると、彼らが何を求めているのかが分かってしまう。以前も、似たような事があったなぁ、と思い出す。こんな風に突然頼まれ、飯だけ作って帰った。一緒に食べなかった事に対し色々言われたが、翌日は朝から迷宮区に潜ると言って回避した記憶がある。

 

「……了解です。でも、それで最後ですよ」

 

 こうして、俺は彼らに手料理を振る舞う事になったのだった。

 

 

「おーい、レット! 後どれぐらいだ?」

 

「もう少しですよ。前も思いましたけど、もう少し大人しく待てないんですか?」

 

 《料理》スキルを取ってるとはいえ、特別料理か好きというわけではない。ただ、リアルでも習慣化しているから。仮想世界でも、自分らしさを失いたくない、というのが理由だった。

 

 キッチンからリビングを見ると、彼らは既にワインを飲みながら盛り上がっている。俺もツマミを作りつつ、メインを仕上げていく。

 

「どうぞ、出来ましたよ」

 

 お盆に乗せながら、6人分に取り分けた料理を持って行く。

 

「おぉ! 流石レット! 美味そうじゃねえか!」

 

「センキュー、レット!」

 

 みんな喜んでくれている。悪い気はしないが、それ以上に早く出て行きたかった。6人は以前から別のネットゲームで知り合っており、そういうきずなというか繋がりがある。俺とは違って、互いに必要とし合って、高め合っているように思える。

 

「美味い!」

 

「最ッ高!」

 

 皆、本当に喜んで食べてくれている。だけど、俺はこの光景が嫌いだ。笑いあって、美味しい食事を囲んで、他愛な話をする。どれも、死ぬほど嫌いだ。だから俺は、そこに加わろうとしない。俺はそっと、ここから去ろうとした。

 

「おい、レット。おめぇ、どこ行くつもりだよ」

 

「……どこって、帰るんですよ。お腹、空いてませんし」

 

 ぐぅ、と音が鳴ったが、そんなものは聞こえない。

 

「そんなの関係ねぇよ。ほら、座れ。おいアクト、レットの分の皿、用意してやれ!」

 

 そして再び強引にクラインさんに引っ張られる。無理矢理席に座らされ、俺の前には、こんなに食えるか、というほどの量が盛られる。

 

「……こんなにですか?」

 

「おう。レットは育ち盛りだからな。沢山食え」

 

 ツッコミたい部分が沢山ある。まず、SAOじゃ成長しない、という事。次に、それにしても量が多過ぎる、という事。

 

「じゃ、じゃあ……頂きます」

 

 まずはスープ。スプーンを持つ手が震える。

 

 ははは、何で震えてんだよ。別に、ただ食べるだけだろ。

 

「毒なんか入ってねぇぞ、レット。ほら、さっさと食え」

 

「……俺が作ったんですよ」

 

「それもそうか!」

 

 みんなが、俺の事を見て来る。何で、こんな注目されながら食べなきゃいけないんだよ。

 

「……ッ!」

 

 スプーンをようやく口に運んだ。すると、頬を何かが伝う。

 

「お、おい、レット? そんなに食べたくなかったのか?」

 

 クラインさんが心配そうにこちらを覗き込んで来る。俺は必死に下を向く。

 

「……違いますよ……ッ。べ、別に……そんなんじゃ……、ないです」

 

「……! レット……お前、泣いてんのか?」

 

 俺はそれに対し、首を横に振って否定する。それでも、流れ続ける涙が説得力を失くす。

 

「……泣いてなんか……ないです、よ。泣いてなんか……ッ!」

 

 クラインさんが、頭を撫でてくれる。普段なら、「子供扱いしないでください」とでも言ったのだろうが、今の俺にはそんな余裕はなかった。

 

「レット、何でもいいから、その涙と一緒に出しちまえよ。ここには、おれらしかいないんだ。カッコ悪くても、何か言う奴はいねぇから」

 

 その言葉は、今の俺には耐えられなかった。ポツリポツリと、今の気持ち、考えていた事、俺のリアルでの過去、話す必要のない事も、この人達になら話せた。

 

「……俺、こんなの、久々なんです。誰かと、こうやって、1つのテーブルで、向かい合って食べるの。いつも、みんながいない所で作って、さっさと食べるんです。ここに来ても、何も考えず、ただ口に放り込んでました。だって俺、誰かと一緒に食べる事が、こんなに楽しいなんて、知らなかったから……」

 

「お前、ホント今まで、苦労して来たんだな」

 

「デスゲームに巻き込まれる事に比べたら、どうって事ないですよ」

 

「確かにそうだな」

 

 こんな人が、家族にいたら、どんなに良かったか。いや、家族じゃなくて、仲間だからこそ、この人の言葉はこんなに響くんだろう。

 

「なぁ、レット。お前しばらく俺らと一緒にいろ。そうだなぁ。よしっ、お前を今日から、《風林火山》の料理長に任命する! いいか? これから毎日、俺らの飯を作って、一緒に食うんだ」

 

「……俺、《風林火山》に入るつもりないですよ」

 

「いいって。お前が、ここにいる限りさ。お前の家族にはなってやれねぇが、俺達は仲間だ。一緒に、飯ぐらい食ってやる。寧ろ、これからも同じ釜の飯を食おうぜ」

 

 もう、反則だ。普段はあんなに頼りなくて、ナンパ癖のある独身野郎だと思ってたのに、こんなに、頼り甲斐があるなんて。

 

「はいッ!」

 

 

 その後、俺達はワインを飲み、飯を食べた。全員、びっくりするような量を食べたため、俺は追加で料理を作った。そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。

 

「まったく、リーダー達は。食べて飲んで騒いで、そんで寝ちまうんだから」

 

 《風林火山》の中で、リアルでも酒に強いカルーさんが寝てしまった他の5人に布団をかける。

 

「あはは、でも、ホント楽しかったです」

 

「なぁ、レット。別に、リーダーはお前に前線に戻って欲しいわけじゃないんだぜ。ただ、俺達はいつでもお前の仲間だ、そう言いたいだけなんだ」

 

「分かってます。クラインさんは、そういう人ですから」

 

 この食事会で、よくわかった。この人達は、俺の仲間だと。多分、キリトさん達も同じだ。俺は、何を勘違いしてたんだろう。あの人達が、俺をそんなんで、拒絶するはずなんてないのに。

 

「多分リーダーは、こうなる事は分かってなかったと思うぜ。飯を頼んだのだって、自分が作って欲しかっただけだと思うしな」

 

「確かに、そんな気がします」

 

 カルーさんは、グラスを元に戻して、他のみんなが雑魚寝をしている寝室に向かう。

 

「レット、俺は寝るけどどうする?」

 

「俺は、もう少し起きてます。こんなに楽しい一日を、終わらせたくないので」

 

「これからも、楽しいと思うけどな」

 

「それなら、毎日遅くまで起きてますよ」

 

 残り少ないワインをグラスに注ぎ、一口飲む。未成年の俺が酔う事はないが、それでも美味しい。将来、飲んでみたいとも思う。まぁ、酒には弱そうだけど。

 

「あ、そうだレット。多分リーダー達、明日二日酔いだと思うんだ。朝食は、二日酔いでもいけるメニューを頼むよ」

 

「了解です。お休みなさい」

 

「おう、お休み」

 

 約5年ぶりに、誰かと同じ席でした食事は、本当に楽しかった。この日から、俺はしばらく、《風林火山》にお世話になる事になったのだった。




【DATA】

・《風林火山》カルー(Carrou)
SAOOSにて名前が判明した《風林火山》のメンバー。名前的に一番酒に強そうと、勝手に思った人。どの容姿の人がカルーさんなのか、自分には分かりません。だから名前以外はほぼオリキャラ。

【DATA】も終わった所で少しだけお話を。今回はクライン率いる《風林火山》ですね。やっば6人いるのは辛い。結果、ちゃんと喋ってるのはクラインとカルーだけ。でも、少しでも彼らのかっこよさが出るようにやったつもりです。レットの立ち直りが早いように見えますが、まだまだ課題は山積みです。次回はそこに触れていきます。

それでは、次回もお楽しみに!アンケートへのご参加お待ちしています。

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