ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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テスト前にも関わらず、やや風邪気味です。季節外れのインフルではない事を祈ります。

というわけで、ゴホゴホしながら書き上げました。ナイト編第2話です。そして、流石にテスト前なので1週間、更新は停止します。この話の続編はそれまでお待ちください。

そういえば、いつの間にか1万UAいってましたね。いつも見てくださっている方、ありがとうございます。皆さんのおかげで、自分はモチベーションを保ちながら書く事が出来ています。これからも応援よろしくお願いします。

アンケートも引き続き実施中です。軽い気持ちで参加して頂けたら嬉しいです。


31.戦いと勝負

「お願いPoH。私にヤラせて」

 

 スファレは、PoHに楽しそうに尋ねている。その一方で、鎌の柄をオレの背中にグリグリと押し付けている。ダメージではないため、先程の痛みに比べればどうって事ないが、不快である事に変わりはない。

 

「もしかしたら、周りに仲間の一人や二人ぐらい忍ばせていると思ったが、こうなっても出て来ないという事はいないんだろうな。じゃあ、死なない程度に遊んでろ」

 

「ありがとッ! PoH大好きッ!」

 

 対等な関係だと思っていたが、そう思っているのはPoHだけらしい。スファレ自身は、PoHの信者や崇拝者って感じだ。そして同時に、そんなスファレの態度をPoHは苦手としているみたいだ。

 

「だってよ、ナイトさん。私の好きにしていいって。じゃあ、どんな風にめちゃくちゃにしようかな?」

 

「おい、PoH。お前、結構苦労してんのな」

 

「まったくだ。だが、お前と違って従順だ。飼い主に噛み付いてくるバカ犬よりは数段マシだな」

 

「誰がバカ犬だ、この野郎」

 

 PoHと話しながらも、オレの意識はスファレに向いていた。オレの部下の頃は諜報員だっただけに、こんなに強いなんて予想外だ。こりゃ、ザザやジョニーなんて目じゃねェぞ。

 

「ちょっとナイトさん。今は私だけを見ててください。他の事なんて考えちゃダメですよ、絶対!」

 

 人によっては誤解されるとと思ったが、口にはしない。ツッコめば、大変な目に遭いそうだ。オレはそれにはあえて触れず、違う所を指摘する。

 

「…………自分を殺そうとしている相手に敬語使われるのって、変な感じだな」

 

「何? 呼び捨てで呼んでほしいの? 可愛いーなー、ナイトは。頼まれちゃったらそう呼ぶしかないじゃん」

 

 こいつの本性マジウザい。普段なら、嫌味の一つや二つを言いながら、立ち上がって斬ってやるところだが、体が動かない。《麻痺》のデバフはかかっていないが、体が全く動かない。さっきのスファレの一撃に加えて、今までの疲労が一気に畳み掛けるように、襲って来るのだ。

 

「じゃあ、まずは右足」

 

「……ッ!」

 

 下半身に訪れる違和感。右足が切断され、ポリゴンになって静かに消えていくのが見えた。オレは声だけは出さないようにする。そんな事をすれば、奴等は余計に調子に乗ってしまう。だが、やはり痛いものは痛い。

 

「へぇ、あんまり鳴かないねナイト」

 

「だな。スファレ、手抜いたか?」

 

「抜くわけないじゃん。遊戯で手抜いたら、楽しくないもん」

 

 これが遊戯とは、大分変わった趣味をお持ちのようだ。

 

「……この程度かよ、スファレ。……オレにとっちゃ、この程度の痛みは日常茶飯事さ。まだまだ余裕だぜ」

 

「流石ナイト。じゃあ次は左足をもらっちゃうねー」

 

 続いて、オレの左足も消えた。再び、部位欠損特有の不快感と、切断時に発生したダメージによる痛みが来る。リアルなら発狂や失神間違いなしだ。

 

「……クぁッ!」

 

 思わず声も漏れてしまう。それを聞いて、スファレは少しうっとりした表情になる。

 

「……お前、何キモい表情してんだよ……。まだまだ余裕だぜ、オレは。それとも、でっかい鎌振り回したせいで疲れたか?」

 

「這い蹲ってる奴に言われたくないよ。それに、もう両足切断されてるし、動けないよね。許して欲しいなら、ちゃーんと言ってね。考えてあげるから」

 

 確かに、時間が経てば経つ程、状況は悪化し、スファレが言う事も選択肢の一つなのかもしれない。でも、まだ鼠が来てない。ったく、あいつ遅過ぎるだろ。もう少し、時間を稼がねェと。

 

「おい、PoH。そんな所になんかいねェでこっち来いよ。スファレ一人じゃ役不足だ。オレはまだまだへばらねェぜ」

 

「……俺はスファレに任せたんだ。あとはあいつに任せる。それに、もうお前に興味はない。もう少しはやるかと思ったが、所詮はその程度。キリトと比べるとどうしても見劣りする。やはり、俺を満足させてくれるのはあいつだけだな」

 

「だってさ、ナイト。PoHも飽きちゃったみたい。だから、ちょっと間隔狭めていくからね」

 

 そう言うと、迷う事なくオレの両腕を斬り落とす。

 

「うわあああッ!」

 

 二本同時はキツい。抑えていたはずの声も出てしまう。左上にあるHPバーは既に赤だ。

 

「うふっ、やっと鳴いてくれた。さぁ、その絶望に染まった顔、私に見せてよ」

 

 スファレは地面に突っ伏したままのオレの顔を見るために、髪を引っ張って上を向かせる。

 

「えっ……どうして……」

 

「あァ? どうかしたかよ、スファレ。オレの顔に何かついてるか?」

 

 オレは笑っていた。あれだけの攻撃を受けても、オレは絶望なんかしない。それ以上の絶望を知っているからだ。そんなオレの様子には、PoHも驚愕している。そして、奴もニヤリと笑った。

 

「な……ッ! どうして……。四肢を失うなんて、普通耐えられるはずがないのに……」

 

「ナイト、お前はそうでなくちゃな。だが、1つ聞かせてくれ。お前はなぜ、これだけの痛みを受けながら笑っていられる? もしかしてお前、筋金入りのドMか?」

 

「……はァ? オレは生まれながらのドSだっつぅの。理由? そんなの単純な事さ。こんな痛みよりもよっぽど痛い思いを、散々味わって来たからさ」

 

 そう言いながら、オレの脳裏に様々な思い出が蘇る。一緒に飯食ったり、からかったり、パーティー組んだり、レベル上げしたり、デュエルしたり。どれも楽しい思い出だ。

 

『改めて自己紹介しようぜ。俺はナイト。これからよろしく!』

『俺はスカーレット。こちらこそ、よろしく!』

 

 あの頃が一番楽しかった気がする。まだレベルも低くて、一層目だから大した飯もなかったけど、2人で夜遅くまでレベリングしたり、攻略したりして、ホント楽しかった。1ヶ月後のボス攻略で、そんな時間はあっさりと終わったんだけどな。

 

『なぁ、俺達結構上まで来たよな』

『だな。βじゃ最高層まで登ったはずだぜ。でも、まだまだ頂上は遠いな』

『正式サービス始まったらさ、今度こそ、この城を制覇しようぜ』

『おう。俺達なら必ず出来るさ』

 

 何をどう間違えたら、オレ達こんなに違っちゃったのかな。β最強の白黒コンビなんてダセェ名前は兎も角、オレ達2人が、この城の頂に最も近いはずだった。なのに、今じゃこの有様だ。

 

 紅鬼(レット)ブラッキー(キリト)。それにオレを慕い仲間と言ってくれた奴等。あいつらと敵対し、剣を向け、向けられる事以上に痛い事なんてないはずだ。

 

「……ッ! 大事なモンが失われる瞬間以上に、痛いモンなんてあるはずがねェ!」

 

 そしてもう1つ、心の底から絶望した瞬間があった。

 

『私……あなたの事……分かんないよ。ねぇ、教えて! 私にはどれがホントのあなたか分かんない!』

『…………』

『……ッ! 何か言いなさいよ! それとも何? 私には、何も話せないっていうわけ?』

『別に……そういうわけじゃ……』

『じゃあどういう意味なのよ! 結局、あんたは私の事なんて信用してなかったって事?』

『……うるせェ!』

『……ッ!』

『俺らには、向いてなかったんだよ。必要以上に互いに依存したり、逆に信用出来ず隠し事ばっかりだったり。終わりだよ、俺ら。もう、()()()()

 

 オレから彼女に告げた想い。だけど、その関係を終わらせたのもオレだ。

 

 両親が死んだ原因がオレである事、その日から、キレると意識がぶっ飛び、平気で人を傷つけてしまうようになった事、それがきっかけで沢山の人を傷つけた事。他にも、数え切れないほどの嘘をつき続けた。それが、学校の先輩にバラされたという最悪の形で、彼女に伝わった。彼女はオレを罵倒した。でも、それが本心ではない事は今なら分かる。彼女はただ、オレに本当の事をオレ自身の口から聞きたかっただけなんだ。

 

 その結果、オレは彼女を拒絶した。いつか、言わなきゃとは思ってた。でも、知られたら怖くなって、どうしたらいいか分からなくなった。別れた後は、よそよそしくなるなんてモンじゃなかった。完全に他人。オレも彼女も、別れたあの日から、まともな会話はしていない。

 

「……ッ! でも、自分に残されたモン全部賭けねェと、お前らを破滅に追い込むなんて出来っこねェ! お前らの刃なんて、痛くも痒くもねェよ。でも多分、オレはもう長くねェ。どうせ死ぬなら、お前らも一緒に巻き込んでやるよ。なァ、PoH、スファレ、一緒に、心中しようぜ」

 

 さっきのが、走馬灯ってヤツか? 意外と、あっさりしたモンだな。まァ、オレにはもう、大事なモンなんか残ってねェんだし、当たり前か。

 

「ハハハッ。ナイト、やっぱりお前にも興味が湧いた。全てを犠牲に俺を殺すか。捨て身のヒーローか。俺は、そういうの嫌いじゃないぜ」

 

「……へへっ、バカ言え。オレはその捨て身のヒーローってのには、最も遠い存在だぜ。だってオレは、ヒーローじゃなくて、攻略組最大の汚点である《裏切り者》だからな」

 

 かつて、自分が流水に向かって否定した、言葉を言われた。でも、オレが今までやって来た事の狙いを話しても、信用するはずがない。精々、「罪悪感で日和ったバカ」ってトコだろうな。

 

「PoH、どうする? 私、ナイトをぐっちゃぐちゃにしたい。泣いて、喚いて、無様に許しを請うナイトを見たい。そして、殺したい。ねぇ、どう思う?」

 

 頬を赤らめ、語尾にハートがつきそうな声で言うスファレ。オレに時間はもう残されてない。まだか、鼠。早く来ねェと、間に合わねェぞ!

 

◆◆◆

 

「以上が、今回の討伐戦の結果だ。皆よくやってくれた。明日から、再び攻略に進路を戻してやっていこう」

 

 シュミットの声が《聖竜連合》のギルドホームの大広間に響き渡る。彼が下がると続いて、アクアが喋る。

 

「シュミットの言う通り、作戦は成功した。でも、気を抜くな。まだナイトやPoHはこのアインクラッドのどこかに潜伏している。彼らの捕縛も、今後やっていかなくてはいけない」

 

 アクアの話を聞いていると、隣からツンツンしてくる奴がいた。とにかくつまんなそうに話しを聞いているレモンだ。

 

「ねぇ、キリト」

 

「何だよレモン。今は黙ってろって。ほら、アクアが睨んでるって」

 

「いーのいーの。それよりさ、アルゴちゃん見なかった?」

 

「アルゴ? いや、見てないけど……」

 

 この作戦の成功の立役者の1人であるアルゴは確かにいない。一体どこにいったのだろう。

 

「……! アルゴ!」

 

 壇上のアクアがそう声を出した。

 

「……悪いナ、スイ君。話の途中デ。でも、大事な話なんダ」

 

 普段のアルゴとは少し違う。どこか切羽詰まったような、そんな感じだ。

 

「聞いてクレ。今、例の圏外村で、ナー君とPoHが戦っていル」

 

 辺りが騒がしくなる。まさに、アクアはその2人についての対策を話していたからだ。

 

「それは本当か、アルゴ」

 

 アルゴは頷き、話を続ける。

 

「今すぐ、ここに行ってクレ。今なら、ナー君を救えるんダ」

 

 最後の言葉に、全員が耳を疑う。ナイトを救える、それが言葉通りの意味ならば、アルゴは何を知っているんだ?

 

「でも、行く前に1つ聞いて欲しいんダ。ナー君の事ダ。あいつは、オレっち達を裏切ってなんかいナイ。全て、攻略のために、PoHを殺そうと動いていたんダ」

 

 それから、アルゴはナイトの今までの行動について1つずつ丁寧に説明していた。討伐戦の密約のうちの1つも、あいつがやったらしい。その後の、ラフコフが待ち伏せしているという事も。

 

「そんなの、信じられると思うか!」

「そうだそうだ! いくらあんたの情報でも、信じられるか!」

「ラフコフの残党が、待ち伏せしてるかもしれないんだぞ!」

 

 誰も、その話を信じようとしなかった。そして、隣のレモンもだ。

 

「アルゴちゃん、忘れたの? ナイトは、ウチやアルゴちゃんの事も殺そうとしたんだよ! 今ここにいるのだって、所詮は結果論なんだよ。死んでた可能性の方が高いんだよ! それに……ナイトがいなければ、レットがあんな風になる事だって、なかったんだよ!」

 

 あの戦いの後、レットは逃げるようにあの場を立ち去った。その後、《リンダース》の自宅に閉じ籠り、出て来ようとしない。クラインが置いていった《オニマル》を持って行っても、出て来ようとしなかったらしい。

 

「オレっちだって分かってるヨ。でも、ナー君は今まさに、PoHと戦って、死のうとしているんダ。それだけじゃナイ。ナー君自身が、死のうとしてるんだヨ」

 

「そりゃーいいや! 死んじまえ、あんな裏切り者。死んだって、誰も悲しんだりしねぇよ!」

 

 ナイトの今までの行動が、今の状況を生んだ。アルゴの話が本当なら、皮肉なものだな。PoHを殺すために動いて、あとは攻略組の到着を待つだけなのに、自分の行動のせいで、それも叶わない。それこそ、無駄死にだ。

 

「俺は、信じていいと思う!」

 

 我慢出来なかった俺は、大声出叫んだ。

 

「ナイトの行動に関しては、今は目を瞑ろう。真実は、全てが終わった後でいいだろ。今は、アルゴの話を信じて、ナイトの元に行かないか?」

 

 それでも、誰も行こうとしない。こうなったら、俺1人でも。

 

「私も賛成よ、キリト君。嘘だったとしても、もうラフコフに大した戦力は残ってないはずよ。今度こそ、奴等を一網打尽に出来るチャンスよ。それに、本当だとしたら、私達は貴重な戦力を一人、失う事になるわ」

 

「アスナ……」

 

 続いて、クライン、エギル、他にもソロプレイヤーを中心に、ナイトという人間を知っている者達が次々と賛成してくれた。

 

「僕は反対だ」

 

「アクア……!」

 

 そんな中、アクアも反対だと言う。

 

「あいつのやって来た事に目を瞑って助ける? 冗談じゃない。あいつのせいで失われた命がいくつあると思ってるんだ」

 

 守るべきひとがいるアクアにとって、それは何よりも重要なのだろう。レモンは安心したのか、アクアの近くに寄る。ソロプレイヤーを中心とした賛成派は、ギルド中心の反対派に人数では圧倒的に負けている。これはマズい……。

 

 そして、反対意見を通すためなのか、アクアは再び口を開いた。その内容に俺達は驚愕した。

 

◆◆◆

 

「ヒール!」

 

 これで、何回目だろう。あれからずっと、両手両足を切り落としては、結晶、切り落としては結晶の繰り返し。オレが死ぬ事はなく、また、動く事もなかった。

 

「どーお? そろそろ許して欲しくなった?」

 

 スファレが、オレの顔を覗き込むようにして尋ねる。

 

「……ははっ、ばーか。……まだまだ、よゆうだぜ……」

 

 既に言葉にも力強さは感じられない。それどころか、意識も朦朧として来た。痛みで気絶しそうになっても、次に襲って来る痛みで強引に意識を引き戻される。

 

 挑発や強がりなんてやめて、さっさと殺してもらえばよかったかもな。

 

 こんな痛みがどうって事ないのは事実だ。でも、もう既に体が言う事を聞かないのも事実。何度回復されたかも覚えていない。もしも何かの偶然で生き残り、現実に帰っても、脳に何か影響があってもおかしくないだろうな。

 

「あれ? もう結晶なくなっちゃった。PoH、どうする?」

 

「ああ、どうするか。そろそろ、楽にしてやるのもいいかもな。こいつが命乞いをする姿も見てみたかったが仕方ない」

 

 今度こそ、オレは死ぬな。結局、アルゴは間に合わなかったか。オレ、無駄死にじゃんか。

 

「何か、最後に言う事はあるか? 特別に聞いてやるよ」

 

 最後に言いたい事か。そもそも伝える相手も全部切り捨てたし、伝える事はねェな。でも、あえて1つ言うとすれば……、

 

「……じゃあ、1つだけ」

 

「ああ、言ってみろ」

 

 オレは、最後の力を振り絞って声を出す。

 

「お前は分かってねェみてェだから教えてやる。この世界は必ず終わる。お前が望む世界は、一生待っても訪れねェ」

 

 合法殺人が可能な世界が永遠に続くなんてあり得ない。なのに、それを可能にしたPoH。だが、オレの死をもって、その考えは崩壊する。

 

「オレが死ねば、もうラフコフは潰れたも同然だ。確かにお前は生きてるかもしれない。だが、もうしばらくは、ラフコフ再建は無理だ。死や恐怖の象徴であるラフコフが消えれば、その間にプレイヤー達はより、生を望む。この世界からの解放を望む。攻略組はより一層攻略に邁進し、いつの日かこの世界は終焉を迎える」

 

 PoHが面白そうに、スファレが悔しそうにオレを見ている。

 

「100層で待つラスボスは、この世界に現れた勇者達によって倒される。ブラッキーや紅鬼、閃光を中心とした奴等によってな。あいつらには、その資格と力がある。お前の思い通りには、絶対にならねェ」

 

 一度言葉を切る。少し話すだけで疲れてしまう。これは相当キテるな。

 

「多くのプレイヤーの望みは達せられ、この世界は終わる。オレはここでお前らに殺され、オレの望みも叶う。叶わねェのはお前だけさ。ざまあみろ。この戦い、オレの負けさ。でもな、この勝負はオレの勝ちだ!」

 

 そう言い切った途端、PoHがオレを蹴飛ばす。

 

「調子に乗るなよナイト。お前如きの考えで、俺を止められると思うな。まだ、やりてぇ事は沢山あるからな。こんな所で終わるわけにはいかない」

 

 そしてPoHはスファレを呼んだ。

 

「やれ。最後ぐらい、一撃で決めてやれ」

 

「了解」

 

 スファレが鎌を振り下ろす。迫って来る刃がやけにスローで見える。恐怖は、もう感じない。でも、1つだけ気になる事がある。

 

 なァ詩乃。お前は、オレが死んだら、悲しんでくれんのか? それとも、こんなクソ野郎、死んでくれてありがてェと喜ぶのか? オレが死んだという事を知った時のお前の表情が見れねェのが残念だ。

 

 心の中でそう言って、オレは目を閉じた。これから、オレを切り裂く鎌を受け入れために。

 

「じゃあね、ナイト。スパイだったとはいえ、あなたの部下として過ごした時間は、興奮してばかりだったよ。バイバイ」

 

 キンッ、とオレの数センチ上で金属音がした。それからしばらくしても、オレは痛みを感じなかった。

 

「ふぅ、何とか間に合ったな」

 

 恐る恐る目を開けると、黒衣を纏う剣士が映った。その年の平均身長からすればやや小柄。男子にしてはやや長めの前髪に、ウィッグでもつければ女子に見えてもおかしくない顔。見た目の割にビックリするぐらい重い剣。

 

「……やっと来たか、キリト。会いたかったぜ」

 

「こっちは、もう会いたくなかったさ」

 

 ぼやけて見辛いが、その後ろにも10人ちょっとぐらいいるように見える。

 

「PoH、この人数はマズいんじゃない?」

 

 逃げようとするスファレ。しかし、

 

「逃げられると思うなよ。お前らは完全に包囲されている、武器を捨てて大人しく投降しろ、なーんてな」

 

 青い槍を肩に担いだ青年。その後ろにも10人ちょっとはいそうだ。

 

「……《流水のアクア》か。Kobの参謀長。これは、中々のhard modeだな」

 

 何とか、攻略組が間に合ったようだ。最高のタイミングだ。

 

「……へへっ、どうやら、この戦いさえも、オレの勝ちみてェだな、PoH」




【DATA】

・no data


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