ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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いよいよ本編が30話です。今回はナイトvsPoHです。そして、本文で《暗黒剣》についての考察がありますが、あれは作者の勝手な解釈です。そもそも原作にも《暗黒剣》は正式に出てませんし。

アンケートも行なっています。是非活動報告にてお願いします。


30.“破壊”と“代償”

 背中に吊った剣がやけに重い。《ヴァイス》として、ラフコフのサブリーダーとして、活動していた頃から使っていたはずなのに。それどころか、体もダルいし、頭も痛い。

 

「今までは、人だって平気で殺せたのに、PoHを殺すとなると出来なくなるのかよ」

 

 言葉にすると、余計そんな気がして来た。足まで震え始めている。今まで、殺しはPoHに信頼されるための“手段”でしかなかった。でも、今はPoHを殺そうとしている。殺しが“目的”に変わった瞬間、自分のやろうとしている事の重さに気づく。

 

「……今更、何を怖がってんだ。もう遅いんだ。オレに、これ以外の道は残されてねェ。もう、引き返せねェんだよ!」

 

 そう叫んで、自分に言い聞かせる。オレの進むべき未来は、もうここしかないんだ。

 

 

 自分自身の中にあった恐怖は全て取り払った。あとは、やるべき事をやるだけだ。別に、オレが勝つ必要はない。鼠が、攻略組を率いて来てくれるまで持ち堪えればいいのだ。

 

「よう、ナイト」

 

 PoHだ。オレの世界を壊した男。アインクラッドの悪の根源。こいつが全てを裏で操り、煽動して来た。にも関わらず、自分は高みの見物。こいつを排除しない限り、プレイヤー同士が殺し合うという悲劇は終わらない。

 

「やって来るだろうとは思っていたが、まさか剣まで抜いて戦闘準備万端で来るとはな」

 

「分かっていたなら、なぜ逃げようとしなかった?」

 

 PoHは、リスクの高い事はやらない男だ。殺しに来ると分かっていてなぜ、ここにいるのか。

 

「逃げる必要がないからさ。俺を殺すにはお前は役不足だ。せめて、キリトぐらい連れて来れば、状況は変わっていたかもな」

 

 オレがブラッキーに劣る、そう面と向かって言われた。腹は立つが、激情するほどでもない。オレ自身も、あいつには勝てないと思っているのかもしれない。

 

「じゃあ、いつから気づいていた? オレがお前を殺そうとしていると」

 

「最初から」

 

 予想外でもない。だが、それならなぜ、オレを生かしておいたのか?

 

「初めて会った時から、お前の目に光はなかった。お前は、こちら側の人間だと思ったさ。それに、《暗黒剣》は利用価値がある。邪魔になったとしても、消そうと思えばいつでも出来た」

 

 ナメられている。でも、それが出来るだけの強さを、こいつは持っている。

 

「でも、オレの目的が分かっても、いつ殺しに来られるか分からないだろ。なぜそんな事が出来た?」

 

「スファレさ」

 

 この名前は鼠からも聞いた。オレの部下だが、オレの知らない所で好き勝手やってやがった。

 

「あいつは、スパイだ。お前の部下として潜入させ、お前の動きを監視してもらっていた。つまり、オブザーバーさ」

 

 全部繋がった。スファレの目的は、オレの監視。オレの部下ではなく、PoHの部下だった。それなら紅鬼に手を出したのも頷ける。PoHもまた、紅鬼に何か似たものを感じていたからだ。

 

「つまり、オレの動きはスファレのおかげで筒抜け。お前の実力なら、簡単に殺せる相手だと。オレなんか、恐れるに足りないと言いたいわけか」

 

「Wow。自分をそんなに蔑む事ないじゃないか。これでも俺は、お前を高く評価しているんだぜ。裏切らなければ、これからも行動を共に出来る、最高のパートナーになれると思ってるんだぜ。今ここで、土下座でもして謝れば、これまでの事は水に流してやってもいい」

 

 よくもまァ、こんなセリフをスラスラ言えるもんだぜ。これじゃァ、オレンジ達が従うわけだ。ヒースクリフとは真逆の悪のカリスマってわけだ。正直言えば、ヒースクリフは嫌いだが。

 

「お前が求めてるのはオレ自身じゃねェ事ぐらい、この一年で分かってるつもりだ。本当にお前が欲してんのは、オレが持つ《暗黒剣》の力だって事はな」

 

「素晴らしい分析力だな。ナイト、俺はお前のそういう所も評価してるんだぜ。でもお前の言う通り、そのスキルが手に入るなら、別にお前じゃなくてもいいんだがな」

 

 もしも、オレがこのスキルを手に入れておらず、PoHが手に入れていたらどうなっていたのだろう。タラレバ話とはいえ、想像する事すら怖い。

 

「お前が思っているほど、このスキルは楽じゃないぜ」

 

「見れば分かるさ。お前がどれだけ苦労しているかってことはな。そんなに大変なら、俺が代わってやろうか?」

 

 手に入れたばかりのオレなら、喜んで手放しただろうな。なんて事を考えつつ、オレはこのスキルがどうしてオレに与えられたかを考えてしまう。これは、初めて《暗黒剣》の文字を見た時から、ずっとオレの中にある疑問だ。

 

「確かに、代わってもらえんならそうしてほしいが、お前だけには渡せねェな。お前に渡したら、攻略どころじゃなくなっちまう」

 

「なんだ、お前もこの世界から出たいのか? この世界は、合法的に殺人が出来る世界だ。楽しまなきゃ損だろ。そんな世界を終わらせるなんて、勿体無いだろ」

 

「確かに、この世界が永遠になれば、なァんて思った事は一度や二度じゃねェ。正直な所、オレも人を殺して快感を得ていた事が否定出来ねェ以上、そっち側の人間なんだろうよ。でも、オレが本当に望んでるのはそんな事じゃねェ」

 

「へぇ。言ってみろよ」

 

「この世界で生きて、この世界で死ぬ事。一人の剣士《ナイト》として、この世界で永遠になる事さ」

 

「お前、死にたがりか?」

 

「さァな。そうなんじゃねェの?」

 

 オレは、この世界に来れて良かったと思った。《これは、ゲームであっても遊びではない》。そんな世界に憧れていた。こんな世界を待っていた。夢も希望もなくなったクソみてェな日常を、SAOが変えてくれるはずだった。そんな中、デスゲームの開始が宣言された。所詮は、この世界もリアルなんだと気付かされた。結局は、この世界にだって、希望なんかありゃしない。

 

「……なァ、PoH。お前と初めて会った日、マジで怖かった。本当に死ぬかと思った。でも、お前は殺してくれなかった」

 

「お前の苦しむ顔が見たかったからさ」

 

「だろうな。でも、オレにとっては一つの転機だったよ。テメェのせいで、オレの世界は崩壊した。だから今、オレはここにいる!」

 

 何で、《暗黒剣》を手に入れたのか。その答えは、PoHと出会って、PoHに世界を壊されて、初めて気づいた。それと同時に、《暗黒剣》と共に託された使命を悟った。

 

「もし、《暗黒剣》が本当にPK用のスキルなら、これを持つのはオレじゃない、お前だ。だから、これがオレに与えられた時点で、このスキルはPK用に作られたものじゃねェって事だ」

 

 PoHは無言でオレの話を聞く。地面に突き刺したままの《クリムゾンヴァイス》。そいつを一瞥してから視線を戻す。

 

「壊すため。このスキルは、全てを壊すためにある。それと同時に、ゼロから何かを生み出すためのスキルだ」

 

「もう少し、分かりやすく言ってくれよ。お前の考え方は難しいからな」

 

 オレの話を興味深そうに聞くPoH。オレは、急かされるように話す。

 

「このスキルの1番の特徴は、お互いにダメージを受けた時にリアルな痛みを伴うという点。ここからはオレの勝手な想像だが、この剣の本質は、その痛みで、現実を認識させる事だと思う。仮想世界であれ、現実世界であれ、オレがいる場所こそが、オレ自身にとってのリアル。これは、現実に絶望し、仮想に希望を求める、なんていう間違った考え方を改めるものだ」

 

 現実世界と仮想世界という意識下の境界線の破壊。2つの世界は、本質的には何も変わらないという事。

 

「《暗黒剣》は、オレのような間違った認識を破壊し、絶望のどん底に叩き落とす。そこにあるのは、まさに辺り一面暗闇の暗黒世界」

 

 PoHに負けた直後のオレはまさにそうだった。全てが破壊し尽くされ、何を信じていいのか、何が真実なのか見失っていた。

 

「そんな闇の中、たった一つの何かを、手探りで探し続けるなんて不可能だ。だから、探すんじゃない。自分の手で生み出すんだ。この世界、そして現実世界のどちらでも通じる物を。《暗黒剣》はそのための鍵に過ぎない。そして、オレが手に入れたたった一つの答えが、“(キズナ)”さ。どんな世界であれ、人と人との関わりに嘘はない。あるとすれば、自分がその関係に自信を持てるかどうか、という事だ」

 

 紅鬼はまさに、その関係に自信を持てていなかった。偽りの仮面を被り接して来た事が、その関係に確信を持つ事への足枷になっただけだ。その確信が持てれば、あいつはまた一つ強くなる。自分に足りないモンを埋めればいい。って言っても、オレにはもう見れねェけど。

 

「そりゃ傑作だ。つまりお前は、自らその絆を断ち切り、俺の前に現れたわけだ。そんなに絆が大事なら、その仲間と共に、俺を殺せばいいだろう」

 

「お前には理解出来ねェよ。誰一人信用せず、平気で切り捨てる。何の犠牲も払わずに、人の人生を簡単に壊す。そんなお前が、オレの考えを理解してたまるか!」

 

 オレの仮説は間違っているのかもしれない。でも、オレにとっての《暗黒剣》はそれだ。

 

「《暗黒剣》は、“破壊”と“代償”の剣だ。そして、その先にある“大事な物”を掴むためのモンだ」

 

 柄を握る左手に力が入る。この先に言うべき言葉は、もう意識しなくても言える。前髪を思いっきり搔き上げる。力が流れて来る気がする。

 

「ここがお前の墓場だ、なァんて言うつもりはねェ。オレがお前をぶっ壊す。

 《暗黒剣》……解放!」

 

 今日は、より一層黒が濃く感じる。眼の赤もより深くなり、自分の中から大事な何かが薄れていく感覚。オレの使命は、今日ここで完結する。

 

「さァ、準備はいいか? 壊し、壊され、立ち続けた奴が勝ちだ。この戦いに、善も悪も関係ねェ。勝った者こそが正義だ」

 

 PoHも無言で短剣《友斬包丁(メイトチョッパー)》を握る。

 

「「イッツ・ショウ・ターイム!」」

 

 

「強くなったじゃないか、ナイト。だが、所詮はその程度か」

 

「余裕ぶっこいてんじゃねェぞ!」

 

 ソードスキル《デスペレイション》。《暗黒剣》の専用ソードスキルだ。

 

「余裕じゃないさ。流石は、元攻略組だな」

 

「喋りながら躱せんだから余裕だろうが」

 

 くそッ。どんなに知恵を使ってもPoHに決定打が与えられない。こうなったら、使うしかない。《暗黒剣》に与えられた最強の切り札を。

 

「何を考えているんだ? 俺をもっと楽しませてくれるんなら大歓迎だぜ」

 

「へっ、あんまりナメめてっと怪我するぜ」

 

「これから、ようやく本気を出すと?」

 

「ああ。気づいたら死んでるから、気をつけろよ」

 

 オレは、剣を強く握りしめ、決意を固める。成功率は未だ20%以下。失敗すれば、オレは一方的にやられてしまう。だが、リスクを冒さずにPoHには勝てない。

 

「いくぜ!」

 

 《暗黒剣》単発重攻撃《デスペレイション》。黒いライトエフェクトを纏った剣をPoHに向かって突き出す。

 

「さっきと同じじゃないか」

 

「まだだァ!」

 

 《暗黒剣》単発技《ダーク・ブロウ》。システム外スキル《剣技連鎖(スキルチェイン)》。

 

「はあぁッ!」

 

 更に、3連撃の《クライムクロス》。下からの斬り上げから水平切り、そして交点への突き。それに続けて再び《ダーク・ブロウ》。これで合計6連撃。

 

「何ッ!」

 

 このまま、繋げられる所まで繋げる。最高までやれば、大型Mob相手でも通用する威力となる。

 

「うおおぉぉッ!」

 

 4連撃ソードスキル《エンドレスペイン》。加えて《ダーク・ブロウ》。これで11連撃。

 

「くッ!」

 

 PoHの手から、武器が弾かれる。既に丸腰だ。

 

「はああぁぁぁッ!」

 

 最後に、5連撃の奥義《ソードオブデッドリー》。全て合わせて16連撃。最後のスキルは全てヒットし、ポンチョの耐久値が切れ、PoHの素顔があらわになる。

 

 それと同時に、オレの剣から禍々しいオーラが消える。ソードスキルの連続使用は《暗黒剣》の限界時間を短くしてしまう。その後、回復に3時間要し、その間、オレはペインアブソーバーが常にオフになる。だが、これで終わりだ。

 

「へェ、中々イケメンじゃねェか」

 

「ありがとよ」

 

「これで、お前も終わりだ」

 

 オレは剣を大きく振りかぶって、勢いよく下ろす。その刃がPoHを捉えるその一瞬、オレの体が揺れた。PoHの目はまだ笑っていた。

 

「Niceだ、スファレ」

 

「残念だったね、ナ・イ・ト・さんッ」

 

 オレの腹部には真紅のダメージエフェクト。背後には、大きな鎌を持った女。

 

「――スファレ、テメェッ!」

 

「フフフ。終わるのはどっちだろうね」

 

 いつの間にか立ち上がり、新たなポンチョを装備したPoH。形勢逆転。まさに、絶体絶命だ。




【DATA】

・no data


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