ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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ラフコフ討伐戦第3話であり、そのラストです。27話よりも時間を戻し、レモンとジョニー・ブラック、キリトとベルデの戦いを軽くやります。その後、前話でレットを退けたナイトです。

まだまだアンケートの回答待ってます。一人何回でも大丈夫です。回答は少ないと困りますが、多いぶんには困らないので。

そして、本日は遂にあの日ですね。まぁ、リア充とか自分には無縁なので、あんまり関係ありませんが。ですがリア充の方、存分にお楽しみください。く、悔しくなんかありませんよ。か、彼女が欲しいとか、思ってませんから。言ってて悲しい……。


28.ラフコフ討伐戦③

「やあぁぁぁッ!」

 

「くッ! おいおい、狐殺~。あの日から、片手剣やめて大剣使い始めたんじゃなかったのか?」

 

「うるさいジョニ黒。ウチを、デカい剣を振り回すだけの脳筋だと思わないでよ!」

 

「どう考えても脳筋だろ。それと、ジョニ黒言うな」

 

 ジョニー・ブラック(以後ジョニ黒)と交戦中のウチ。今回の討伐戦では、アルゴちゃんの許可もあり、片手剣を使っている。片手剣をやめたのは、一人で先行してみんなを置いていかないようにするためだった。つまり、今回ウチがやるべき事は、誰よりも前に出て、ラフコフの主力を叩く事。

 

「乙女に対して、脳筋はないでしょ、ジョニ黒!」

 

「剣を振り回す乙女がいるわけないだろ。それと、そのジョニ黒って呼び方、やめて欲しいな~」

 

「じゃあ、狐殺もやめてよ」

 

 ジョニ黒が使うのはナイフ。《ソードブレイカー》のように、クセがあるわけではない。しかし、その刃には緑色の液体が塗られている。ポーションも飲んだし、レジストスキルも上げてるが、それでも防げるかどうかは分からない。早めに決める。

 

「そろそろ、ナイトの奴も仕上げに入りそうだな~」

 

「レット……」

 

 ナイトに向かって一直線に走っていったレット。今まさに、背中に剣を突き刺されている。早く、助けに行かなきゃ。

 

「じゃあ、早く終わらせないとね」

 

 ウチは右手の剣を肩の上に大きく引く。ナイトに負けたあの日から必死にスキルを上げてカンストさせた《片手剣》。その熟練度が950を超えて身につけたソードスキル《ヴォーパル・ストライク》。

 

「やあぁぁッ!」

 

「……ッ! ガードがガラ空きになってるよ~!」

 

 ジョニ黒はウチの剣を横に跳んで避けようとする。若干掠ったものの、致命打にはならず、逆にウチはピンチ。

 

「……と、思うじゃん」

 

 ナイトのパクりだ。このセリフ、そして、その次にやる事も。

 

「はあぁぁぁッ!」

 

 左手のバックラーで繰り出す打属性のソードスキル《シールドバッシュ》。

 

「なッ!」

 

 そう、システム外スキル《剣技連鎖(スキルチェイン)》。《ヴォーパル・ストライク》の後、このスキルに繋げた。これの弱点である硬直時間の長さも、《シールドバッシュ》によるスタン効果の発生でカバー出来る。

 

「これで、チェックメイトだね」

 

 ウチは、倒れ込むジョニ黒の首に剣先を突きつける。

 

「……た、頼むよレモン。別に殺す事ないだろ。お前の仲間達だって、お前が殺す事なんて望んだないはずだぜ」

 

 ウチとした事がバカだった。こいつの言葉に耳を貸し、一瞬動きを止めてしまった。

 

「……甘いんだよ、狐殺ゥ!」

 

 ウチの腕を毒ナイフで切りつけたジョニ黒。すると、体から力が抜けてしまう。手から剣と盾が落ち、膝を地面につけてしまう。

 

「ッ! しまった……!」

 

 斬られる。怖い。ウチは、襲いかかる衝撃に備えて目をギュッと瞑る。しかし、それは一向にやって来ない。

 

「……ジョニー・ブラック。僕の幼馴染に何してんの?」

 

 顔だけでリアルじゃゲーム好きなもやしっ子。運動音痴で鈍感な幼馴染。だけど、いざとなれば頼りになる、ウチのもう一人のお兄ちゃん。

 

「……アクアか。ザザは……!」

 

「とっくに拘束済みだよ。後は君を含めても5人、いやキリトが今1人無力化したから4人だね」

 

 槍の先で毒ナイフを抑えるスイ。所々からダメージエフェクトが出ており、勝ったとはいえ、楽ではなかった事がわかる。

 

「残っているプレイヤーで厄介なのはナイトぐらいだ。僕は、これでも優しい方なんだ。無駄な血は流して欲しくない。降伏する事をオススメするよ」

 

「チッ。……そんなの、ーーするわけないだろ!」

 

 ジョニ黒が左手で腰からもう一本のナイフを抜く。それをスイに向かって振るう。

 

「スイッ!」

 

「想定内だよ。だから、もうやめときなよ」

 

 その腕を簡単に掴み、無力化したスイ。その時のスイからは寒気がするほどの圧力が出ていた。

 

 流石のジョニ黒もそれには耐えられず、武器を捨て両手を挙げた。ロープを使い拘束したスイは、クラインに引き渡した。

 

「レモン、やっぱ君は大剣振り回してるのがお似合いみたいだね。バカなんだから、器用に動ける片手剣は勿体無いよ」

 

 ウチの方を見て、いつもの屈折のない笑みを向けるスイ。昔と変わらない、爽やかで安心出来る笑顔。

 

「ちょっとスイ、切られかけたウチにかける最初の言葉がそれ? 心配だったんでしょ、そんな言葉でいいの?」

 

「……怖かったんだろ。斬られそうになって」

 

 スイは、ウチの言葉には答えず、優しそうな声でそう言った。その後、ウチにウチのジャケットのフードを被せた。

 

「昔の事、思い出しちゃったよな。辛かったよな。怖かったよな。悔しかったよな」

 

「……ッ! うん」

 

 スイが被せてくれたフードを深く被り直し、俯く。

 

「でもさスイ、勝てたよ。ウチ、怖かったけど逃げなかったよ。これで、少しはみんなの無念、晴らせたかな」

 

 ウチの頬を何かが流れる。伝った場所が、少し熱くなった。

 

「ああ、きっと晴らせたよ。みんな、天国でレモンの事見てるよ。みんな、お礼を言ってるさ。あの日の事、後悔してるだろうし、辛いと思う。でも、もう自分の事、許してもいいんじゃないか?」

 

 そう言いながら、優しく包むように抱き締めて、フードの上からだが、頭を撫でてくれる。

 

「……ありがとね、スイ」

 

 少し恥ずかしかったのか、それともリズちゃんに悪いと思っているのか、ウチと目を合わせようとしない。

 

「あはは、何照れてんの? もしかして、ドキドキしちゃった?」

 

 今の言葉で顔を少し赤くしたスイ。こういうウブな所はすごく可愛い。

 

「ば、バカじゃねぇの? そ、そんなのするわけないだろ」

 

「そりゃそうだよね。毎晩リズちゃんと、あんなコトやこんなコトしてるんだもんね~。あーあ、ウチもリズちゃんのカワイイ声、聞きたいなぁ~」

 

「は、はぁΣ? そ、そんな事してねぇからな! そういう誤解を招く言い方はやめろ! おい、クライン。頼むからこっち睨むな! ていうか、僕は君が落ち込んでると思ってやってやったのにその言い方は……」

 

「何慌ててんの? 鎌かけただけなんだけどなぁ~。もしかして本当にヤッたの? あ、スイ可愛い~、顔真っ赤だよ~」

 

「……そろそろ怒るぞ、レモン」

 

「あはは、ごめんごめん。さぁ、ふざけてないで、早くレットのとこ加勢に行こ」

 

 ウチは涙をもう一度拭い、もう大丈夫な事を確認した。フードを取って、そう言った。

 

「全く、誰のせいだと思ってんだよ……」

 

 納得がいかない様子だ。ウチはそんなスイの背中を攻撃判定が出ない程度の力で叩く。

 

「ほら、時間がないんだよ。早くレットに助太刀……!」

 

 ウチがそう言いながらレットを見た。そこに映ったのは、ナイトのソードスキルをまともに喰らって倒れるレットの姿だった。

 

「「レットッ!」」

 

 

「はあぁぁッ!」

 

 短剣ソードスキル《ファッドエッジ》。連続技だが、対処はそう難しくはない。

 

「やあぁぁッ!」

 

 後ろから、ティルの《フェル・クレセント》。以前、レットやクラインが使っていたから、対処の仕方は覚えている。

 

「……あっ」

 

 俺は、その刀に斜め上方から剣をぶつける。すると、ティルの持っていた質素な曲刀は、以前立ち寄った店でやってしまったように綺麗に折れる。システム外スキルの《武器破壊(アームブラスト)》だ。

 

 俺は、左手でピックを掴み、彼女に投げる。背中に当たったそれに対した威力はない。だが、そこには麻痺毒が塗ってある。彼女は力なく倒れた。

 

「アスナ、一応まだ動けないはずだけど、拘束しておいてくれ」

 

「わかったわ」

 

 後ろから追いかけて来たアスナにそう言うと、再びベルデと向き合う。彼らは、俺やアスナ達と相手をしながら、奥のレット達の方に行かせないように行動している。レットの助太刀に行こうにも簡単にはいかない。

 

「シリカに聞いてた限りだと、もっと正面から来るタイプだと思ってたんだけどな」

 

「……ラフコフにも、正々堂々と戦う奴がいると楽しみにでもしてたか? 残念だけど、俺はそんなに強くないよ」

 

 ベータテスターだからか、ソードスキルの扱いには慣れている。だが、攻略組ではないため、レベルは低く、そんなに手強い相手ではない。だが、小技を多く使って来る相手であるだけにやり辛い。

 

「シリカが言ってたぞ。君に助けられたって。今でも彼女は、君に再会する事を目指して頑張ってるんだ。なのに君は、こんな所で何やってるんだ!」

 

「うるさい! あいつがどう思ってようと知った事か! 俺とあいつはもう関係ない。今は、ナイトさんの恩に報いるだけだ」

 

「君は、今本当に正しい事をしてると思っているのか? まだ、中学生ぐらいだろ。まだやり直せる」

 

 シリカの想い人をあまり傷つけたくない。それに、彼にはちゃんと改心してほしい。

 

「……俺だってそう思ったし、そう言った。それでもあの人は、やめなかった」

 

 ベルデは小さな声でそう呟いた。

 

「《黒の剣士》、流石ナイトさんに、この世界を解放に導く勇者だと言わせた人だ。1人のゲーマーとしても、お前と戦えるのは光栄だ。でも、今日だけは、お前に負けるわけにはいかない!」

 

 こいつは、どれだけの物を抱えているんだろう。俺が攻略組として、一人のプレイヤーとして背負う物よりも、ずっと大きい。

 

「君の思いはよくわかった。でも、俺も、俺達はここで立ち止まるわけにはいかない」

 

 2つの剣がぶつかり合う。重さでは劣るベルデは鍔迫り合いに持ち込まれる前に退がる。

 

「アスナ!」

 

「了解!」

 

 ベルデが下がったのに合わせて、アスナとスイッチする。

 

「やああぁぁッ!」

 

 アスナの《リニアー》だ。俺もあの剣は追い切れない。

 

「アスナ、任せてもいいか?」

 

「うん、行って。早くレット君とナイト君の所に」

 

 俺とアスナは、あの2人と共に最初のボス戦でパーティーを組んだ。だから、他の仲間とは少し違う気持ちがある。あの日から、俺とナイトはビーターとして、アスナとレットはビギナーの中でも飛び抜けた実力を持つ者として攻略に挑んだ。その後、アスナは《血盟騎士団》の副団長、レットは攻略組の優等生、俺は攻略組の問題児、そしてナイトはアインクラッドのお尋ね者と、互いに立場が変わり、今日までパーティーの再結成の機会はなかった。でも、俺もアスナも、もう一度4人でパーティーが組みたいと思っている。

 

「うわああぁぁぁぁッ!」

 

 遅かった。あと少しだけ遅かった。レットは、ナイトのソードスキルを受け、倒れた。

 

「強さとか、オレにはよくわかんねェ。でもな、お前の考える強さは、間違ってる。強くなりたきゃ、今の自分に何が足りないのか、もう一度考え直せ!」

 

 ナイトが、レットに向かってそう言い放つ。言われたレットは、痛みで気絶しているのか、目を閉じたままだ。

 

 何でだよ。何でお前は、そんな事が平気で出来るんだよ。一緒にパーティー組んで、飯食って、話した仲間を、どうして何の躊躇いもなく斬れるんだよ。

 

「ナイト!」

 

「……ブラッキーか。遅かったな、お前の知る紅鬼は今死んだ。ここにいるのは、仮面を破られた正義のヒーローの抜け殻だ」

 

 レットのHPは残っている。遅かったが、ギリギリセーフという感じだ。俺はポーチから《回復結晶》を取り出して言う。

 

「ヒール!」

 

 レットのHPが回復する。これで安心だ。後は、俺がナイトを捕まえるだけだ。

 

「そんな奴、もう役に立たねェだろ。ほっとけよ」

 

「……レットは仲間だ。また目の前で、誰かが死ぬのは懲り懲りだ」

 

「《月夜の黒猫団》だっけ? お前が壊滅させたギルド」

 

 ナイトは、そういう情報をどこから仕入れているのだろう。それは流石に、アルゴでも詳しくは知らないはずだ。

 

「……そういう事だ。もちろん、お前だって俺はまだ仲間だと思ってる。斬れないよ、ナイトの事。他愛のない話で盛り上がったり、不味い飯食わされたり、一緒にパーティー組んだり、俺はお前といて楽しかった。ナイト、そんな事さえも忘れたのかよ!」

 

 攻略組として、この世界からの脱出を望むプレイヤーとして、それを望まない奴との対立は避けられない。頭では分かってる。それにナイトは、多くの命を奪っている。分かってるんだ。理屈じゃない。俺の心が、叫んでるんだ。ナイトは仲間だ、と。殺してはいけない。改心させて、罪を償わせれば、また仲間として一緒にいられる、と。

 

「忘れた……わけじゃない。確かに楽しかった。でも、オレの邪魔をするのなら、例えお前でも殺す」

 

 俺とナイトは同時に同じモーションを取る。片手剣重攻撃《ヴォーパル・ストライク》。初動から発動まで左右の違い以外は全て同じ俺達の剣は互いの剣先を掠めた後、体に直撃する。

 

「……ッ!」

 

 俺だけが掠れた声を漏らし、体勢を崩す。ナイトは一瞬フラつくも、すぐに立て直し、再びソードスキルの構え。あれは俺の知らない構えだ。《暗黒剣》専用のソードスキルだろう。

 

「キリトッ! スイッチ!」

 

 後ろからそう聞こえた。俺は、膝をついた体勢から無理矢理後ろに跳ぶ。すると背後から青いものが突っ込んで来た。

 

 槍カテゴリのソードスキル《ソニック・チャージ》。

 

 咄嗟の出来事に反応の遅れたナイトは、攻撃の動作をやめ後退する。

 

「ヒール!」

 

 そう言って、俺のHPを回復させたのはレモンだ。その横にはクラインがいる。

 

「サンキューな、レモン」

 

「どーいたしまして」

 

 さらに、その後ろには他のメンバー達もいる。つまり、ナイトは完全に追い詰められている。

 

「やっ、ナイト。こういうシーンは、二度目だよね。前回はまんまと逃げられたけど、今回はそうはいかないよ。ここで終わりだ、ナイト」

 

 アクアが、槍を突き出し牽制する。

 

「……あいつらも捕まったか」

 

 やや暗めの顔でそう呟くも、すぐに表情は元通りになる。

 

「はははッ。逃げ場なし、仲間ゼロ。コレ、絶体絶命ってヤツ?」

 

「ナイト、お前も死にたくはないだろう。それに、俺達はこれ以上犠牲者を出したくない。投降した方がお互いのためになると思う」

 

 シュミットが盾を構えながらも、よく通る声でそう言う。

 

「……だよな。もう、十分俺はやったよな。でも……ここでやめたら、今までの事が全部無駄になる」

 

 最初の方はよく聞こえなかった。だが、降参するつもりはないらしい。

 

「投降しろだァ? 誰に向かって言ってんだよ。オレは、《純白の悪魔》ナイト様だぜ。オレが本気を出せば、お前ら全員纏めて殺す事だって出来るんだぜ」

 

 そんなナイトの言葉に、一部のプレイヤー達の中で動揺が起こる。ナイトは、その隙を見逃さなかった。奴は、ポーチから球体を取り出し、床に投げつける。

 

「煙幕だ! 気をつけろ、どこから来るか分からないぞ!」

 

 アクアの声が聞こえるが、そのアクアの姿も、外側のプレイヤーには見えない。ナイトに近い俺達以外は皆パニックになる。

 

「最後の最後で詰めが甘かったな」

 

 ナイトは、俺よりもSTR値が低いがAGIは高い。剣も、見た目ほど重くはなく、あいつの動きを阻害しない装備だ。つまり、あいつが本気で逃げれば、追いつく事は困難だという事だ。

 

「ナイトを逃がすな! 出入り口を固めろ! 結晶に注意しろよ!」

 

 アクアが指示を飛ばしながら追いかけ、それをレモンが追いかける。俺のアスナ、クラインはその場に残りレットの介抱をする。

 

 結局、ナイトは逃げてしまった。その混乱に乗じて、ベルデの姿は消えていた。だが、その事に気づいたのは、一通りの事が解決してからだった。

 

 今回のラフコフ討伐戦は、ラフコフの討伐という目的だけに焦点を絞れば、成功したと言えるだろう。ラフコフの幹部である、名前も知らない2人を含めた10人を捕まえる事が出来たのだから。しかし、奴等から出た死人は25人。俺達からも7人の死者を出した。加えて、ナイトを取り逃がし、リーダーであるPoHは姿すら現さなかった。果たしてこれは、本当に成功と言えるのだろうか。

 

 

「……んっ」

 

 俺が目を覚ますと、そこには心配そうな顔のキリトさんと涙目のアスナさん。遠くにはクラインさん達もいる。

 

「大丈夫か、レット」

 

「心配したんだよ、レット君」

 

 いつも通り、「心配かけてすいません」と言うつもりが出てこない。俺は、気絶する前の出来事を思い出す。

 

「……すいません」

 

「本当に大丈夫か? さっきまで、何かに魘されてたみたいだけど……。何かあったのか?」

 

 この人、もしかして俺の事を知っているのではないだろうか。もしそうなら、俺はもうここにはいられない。こんな醜い姿を晒し、仲間だと思ってくれていた人を裏切ったのだ。

 

「……何でもないです」

 

「でも……」

 

 アスナさんは、自分の姉以上に姉っぽい表情で呟く。

 

「何でもないです!」

 

 つい、大声で怒鳴ってしまう。

 

「……ッ! ご、ごめん、レット君」

 

「どうしたんだよ、レット。本当に何が……」

 

「もうやめてください! お願いですから、何も言わないでください。お二人にまで知られたら俺は、もう生きてられない」

 

 そう言って、俺はクラインさんが刀を渡そうとしたのも無視して洞窟を飛び出した。

 

「はぁはぁ。……ッ!」

 

 自分が何をしたのか、分かっているつもりだ。でも、これでいい。俺みたいな奴なんて、どこにも居場所なんてないのだから。

 

「……転移《リンダース》」

 

 最低限のボリュームで呟き、俺の体は光に包まれた。俺はこの後、どのようにして家まで帰ったのか、全く覚えていなかった。




【DATA】

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