ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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現在、プロローグと番外編4つを含めて31回まで進んでいます。そろそろ終わりも見えてきて、プロットもアインクラッド編は出来ております。
アインクラッド編最終話終了後はいよいよフェアリィ・ダンスへ突入です。舞台が移り、出番がなくなる方達もいるわけで彼らに最後の思い出(笑)を作らせてあげたいと思っています。

そこで、「アインクラッド編完結記念座談会」を計画しております。ゲーム版SAOの発売記念で声優の皆さんがやっている様なやつです。それに関するアンケートが活動報告の方にあるので、是非回答お願いします。

ではでは、長い前書きは終わりまして、ようやく26話目。ラフコフ討伐戦の開始です。


26.ラフコフ討伐戦①

 翌日は朝から呼び鈴が鳴る。こんな時間に押し掛けてくる非常識な奴なんて1人しか思いつかない。俺はその人物に文句を言うため、何も言わずにドアを勢い良く開けた。

 

「痛っ!」

 

「……えっ?」

 

 ドアの先にいたのは、見慣れた黄色い装備の少女ではなかった。急にーーいつかするとは思っていたがーー結婚を決め、血盟騎士団の参謀長ーー副団長補佐だった頃からそれらしい事はしていたーーに就任し、私生活でもギルドでも順風満帆な青年。ギルドのおめでたカラーではなく、プライベート用の青いコートを着たアクアさんだ。

 

「す、すいません! てっきり、レモンさんかと思って……。こんな時間から来る非常識な人はあの人だけかと……」

 

「……ドアぶつけただけでなく、人を非常識呼ばわりとはいい度胸だな、レット。まあ、訪問するには早い時間だから、許すけど……」

 

 どこか不満そうな顔をしつつも、許してくれたアクアさん。ホントこの人、苦労人だなぁ。実はアクアさんは結婚から1ヶ月ほどは、ファンの間で《アクアロス》が起こり、非リア充達からの襲撃に悩まされる日々が続いていたのだ。

 

「どうぞ。今淹れたてです」

 

「悪いな。なんか、出してもらうのが当たり前みたいになっちゃって。でもホント、お前何でも出来るよな。この紅茶も最高」

 

「ありがとうございます。後、良ければクッキーも是非」

 

「おお、ありがとよ。あ、……でも悪いんだけどさ、何か袋とかあるか? このクッキー、リズが好きなんだ。持って帰ってやりたいんだけど、いいか?」

 

 流石、妻持ちは違うな。俺はストレージに入れておいた既に袋詰めしたクッキーを取り出し渡す。

 

「これいいですよ。持って行ってください」

 

「いいのか? お前の分は……」

 

「大丈夫です。これはクラインさんの分なので」

 

「そっか。なら大丈夫だ」

 

 なんて、本人の前ではとても言えない話をして、この話は終わった。

 

 そういえば、もてなしていて忘れていたが、アクアさんは俺から紅茶やクッキーをもらうために来たんじゃなかった。

 

「そういえば、アクアさんはなんの用でここに? 用がないのに来ちゃダメってわけじゃないですけど、それでもこの時間は珍しいなぁと」

 

「おっと、忘れてた。このままじゃ怒られる所だったよ。サンキューな」

 

 アクアさんはカップを持ち上げ一口飲んだ。それを置き、真剣な顔つきになる。

 

「これは、外部には絶対漏らさないでくれよ」

 

「は、はい」

 

 そんなに秘密裏な情報なのか。確かに、プレイヤーホームは、アインクラッドで最もセキリティがしっかりしていて、プライベートな空間だ。

 

「……奴等のアジトがようやく見つかった」

 

「……!」

 

 俺達の中で奴等と言えば1つしかない。元攻略組ソロプレイヤーの《純白の騎士》、現在は自ら《純白の悪魔》を名乗り、俺達を裏切ったあいつがサブリーダーを務めるギルド《ラフィン・コフィン(笑う棺桶)》。

 

「その情報、確かなんですか?」

 

 そう簡単に奴等が尻尾を掴ませてくれるとは思えない。何かの罠ではないだろうか?

 

「……だよな。僕も最初はそう思った。でも、ウチのギルドお抱えの情報屋と、アルゴの所に密約があったそうなんだ。密約した2人はどちらも全く同じ場所を言っていた」

 

 その2人がラフコフからの使者だという線もなくはない。だが、アルゴさんにはレモンさんがいる。多少危険でも、必ず裏を取るはずだ。そして、その情報を流したという事は、それは正しい情報だという事だ。

 

「って事は……」

 

「ああ。99.99%間違っていないだろう」

 

「残りの0.01%は?」

 

「アルゴとレモンが買収されていた場合。まあ、それの方があり得ないから、信じていいはずだ」

 

 この情報に嘘はないだろう。後は、どう突入するかだ。

 

「それで、今日の22時、DDAのギルドで会議をやる。強制はしない。だけど、覚悟があるなら来て欲しい」

 

 覚悟。それは、ラフコフのメンバーを捕らえる際、奴等の命を奪う覚悟。

 

「そんなの、ずっと前から出来てます」

 

「妹さんの事か。余計な心配だったな。じゃあ22時、待ってるよ」

 

 アクアさんはそう言うと、紅茶とクッキーのお礼を言って帰って行った。帰り際、「クッキー、リズも喜ぶよ」と言ってくれたのは、嬉しかった。

 

「……恵。お前の無念、俺が晴らしてやるからな」

 

 ストレージの中のオニマルを思い浮かべ、そう決意する。いざとなれば、またあれを使う。俺は、腰の袋を触りながら思った。

 

 

「よし、全員集まったな。では、《ラフィン・コフィン》討伐の会議を始める。今回の作戦の指揮は、《聖竜連合》のタンク隊のリーダーのシュミットが務める」

 

 あのシュミットさんが、ラフコフ討伐のために指揮をとっている。あの事件で考え方が変わり始めているのだろう。

 

「参謀は今まで通り僕がやる。まずはレモン。偵察の成果を頼む」

 

「りょーかいだよ!」

 

 緊張感を感じさせないレモンさん。だが、そんな彼女は3ヶ月前、ナイトと戦い善戦をした実力者だ。一度剣を抜けば、頼もしい事限りない。

 

「まず、密約の場所に行ったけど、奴等はいたよ。逃げ出すようなら、まだ現場近くにいるアルゴちゃんから連絡が入るよ」

 

 アルゴさんは、ナイトに無理矢理従わされてた。この作戦に対する思いも、周りとは違うのだろう。

 

「というわけだ。奴等はおそらくまだ、情報の漏洩に気づいていない。それに、ここに集まった約50人なら、必ずいけるはずだ」

 

 シュミットさんが皆を鼓舞する。

 

「最後に、注意すべき人物についてだけ挙げておく。そのメンバーは全部で4人。今から言う事をよく聞いて、各自対策を立てるように。

 まず1人目は《ジョニー・ブラック》」

 

 アクアさんが一人目の写真を出す。頭陀袋のような黒いマスクを被り、子供のような話し方をする人物。毒ナイフ使いで、他のスキルとの組み合わせにより、奇襲に特化した戦い方をする。後述の《ザザ》と共にコンビを組むプレイヤー。

 

 その名前を聞いた時、アクアさんの隣のレモンさんが表情を曇らせ、拳を固く握る。

 

「2人目は《ザザ》だ」

 

 続いて取り出した写真には髪の毛と目を赤にカスタマイズし、その上から骸骨のマスクをつけたプレイヤー。その見た目から《赤眼のザザ》とも呼ばれ、実力は折り紙つきだ。武器はエストックで、単純な戦闘力もかなり高い。

 

「そして、3人目のこいつは、みんな知ってると思う」

 

 《ラフコフ》のサブリーダー、《純白の悪魔》ナイト。攻略組のトップクラスにも通用する強さを持ち、戦いの中で発揮される視野の広さ、戦術眼、分析力が脅威となる。だが、最も警戒すべきなのは《暗黒剣》。痛みに慣れていない攻略組相手では、使わなくても、持っているだけで大きな武器となる。レモンさんはこれにやられた。

 

「最後が、リーダーの《PoH》」

 

 ヒースクリフ団長とは違う方向のカリスマ性を持っている。武器は魔剣《友切包丁(メイト・チョッパー)》。この世界のPKの先導者とも言える人物。

 

「特に注意すべきなのはこの4人だ。だが、他の奴等も同じように平気で人を殺す奴ばかりだ。その事を忘れないように」

 

 4人共、俺にとっては因縁のある相手だ。PoH、ジョニー・ブラック、ザザは、メグミの死の元凶だ。ナイトとは、1層の頃からの因縁がある。

 

 もうすぐ12時になり、日付が変わるという頃、DDAの本部は騒がしくなる。

 

「スイ君! まずい事になったゾ。奴等、攻略組が乗り込んで来る事を知ってやがル!」

 

 その言葉に、皆驚愕する。作戦がバレているという事は、待ち伏せが出来るという事。これでは少数精鋭での奇襲の意味がない。

 

「アルゴ、奴等のアジトに繋がる回廊結晶はいくつある?」

 

「戻って来る時にもう1つだけダ。全部で2つしかナイ」

 

「十分だ。シュミット、ちょっといいか?」

 

 アクアさんが小声でシュミットさんに話をする。何を話したのか知らないが、シュミットさんが驚いているのは分かる。

 

「…………その作戦なら、奴等を捕らえられると思うのか?」

 

「100%じゃないけど、こちら側から出る死人は最小限に抑えられる。まぁ、初めの10人は危険だし、後から来た40人でも、HPの減った奴等の攻撃ならキツイかもしれないけど……」

 

「……それでいこう。参謀のお前の考えた作戦だ。この作戦のデメリットも全て考えた上なんだろう」

 

「ありがとう、シュミット」

 

 すると、アクアさんはこちらを向き、声を張る。

 

「みんな、よく聞いてくれ! 今アルゴが言ったように、こちらの動きが奴等にバレている。とはいえ、ここで作戦をやめれば、奴等の尻尾はもう掴めない。だから、新たな作戦を考えた」

 

 すると、アクアさんは集まったプレイヤーの中から指名すした。アクアさん本人に俺、キリトさん、アスナさん、レモンさんを含めた10人だ。

 

「君達には、まぁ分かりやすく言うと、囮になってもらいたい」

 

 作戦はこうだ。俺達10人が先に本拠地に突っ込む。待ち伏せしていた奴等が姿を現し、乱戦になった頃合いを見計らって残りの40人が突入し挟み撃ちにする。10人を指揮するのはアクアさん。残りはシュミットさんとクラインさんが務める。

 

「アクア、俺達は構わない。あいつらをこのまま野放しにするわけにはいかないだろ」

 

「サンキューな、キリト。よし、作戦決行は1時間後。最終チェックを済ませて行くぞ!」

 

 

「よし、僕達の役目はまずは奴等を引きずり出す事だ。そして、絶対に躊躇するな。10人しかいない僕達は格好の獲物だ」

 

 俺達は全員黙って頷き、コリドーに入る。そこを出れば奴等のアジトは目と鼻の先だ。

 

「よし、行くぞ。突入!」

 

 僅か10人の先発部隊がアジトに入る。しかし、そこは既にもぬけの殻。だが、どこかにいるはずだ。

 

「……ッ! 危ないッ!」

 

 キリトさんが急に叫んだ。その直後、《聖竜連合》のプレイヤーの頭が飛んだ。

 

「くそッ、来たぞ! 応戦するぞ!」

 

 攻略組からの犠牲者。だが、彼の死を悲しんでいる場合ではない。アクアさんの声に合わせて、俺は刀を振るう。

 

「はあぁッ!」

 

 システム外スキル《武装解除(ディスアーム)》を使い、ラフコフの武器を弾いていく。

 

 潜んでいた奴等も次々と姿を現し、現場は乱戦。まさに、アクアさんが思い描いた通りになった。

 

「本隊、突入!」

 

 その言葉と共にシュミットさん率いる本隊が投入。ラフコフの間に焦りの表情が見える。

 

「くそッ、最初の奴等がやけに少ないと思ったらそういう事かよ!」

 

 そんな言葉を呟いたプレイヤーを拘束し、俺は奴の元へ向かう。

 

「レット、1人で突っ走るな!」

 

「……嫌です。今回だけは、キリトさんの頼みでも聞きません。あいつとの決着は、ココでつける!」

 

「おい、レット!」

 

 洞窟の奥、そこに奴はいた。全身を白ずくめに固め、片手剣の《クリムゾンヴァイス(血塗れの白)》を使う。その挑発的な笑みの奥にあるのは狂気。

 

「よォ、紅鬼。今回、オレと対峙するのは、お前だと思ってたぜ。でもまァ、ちょっと予定より来るのが早かったけどな」

 

「当たり前さ。俺は、お前を殺したくてウズウズしてるんだ。お前らに殺されたメグミやその他大勢のプレイヤーの恨み、俺が晴らす!」

 

「流石は、攻略組が生んだ“正義のヒーロー”、言う事が違ェなァ! じゃあ、早速始めようぜ、楽しい()()()()をよォ。お前ら、遠慮はいらねェ、思う存分殺せ!」

 

 ナイトのその言葉に、士気が高まるラフコフ。こっちに向かっていたキリトさん達が苦戦しているのか分かる。ナイトは、前髪をかきあげ、狂気の笑みを浮かべる。

 

「さァ、イッツ・ショウ・タイムだ!」

 

 同時に動き出した俺とナイト。形も重さも違う2本の得物が激しい金属音と共にぶつかり合う。

 

「少しはマシになったんじゃねェの。ホント、周りの環境って大事だな」

 

「その周りの環境を、大きく影響を受けてるのはお前だろ!」

 

「おっと、こりゃ一本取られたな」

 

「ふざけるのもいい加減に、しろッ!」

 

 ナイト相手には下手なソードスキルの乱用は避けるべきだ。奴のシステム外スキルで防がれ、逆にピンチになる。プレイヤースキルの差が勝敗を左右すると言っていいだろう。

 

「《暗黒剣》、使わなくていいのか?」

 

「使っていいなら使うけど?」

 

 激しい攻防の後の鍔迫り合い。力と重さで勝るナイトの剣が俺の刀を徐々に押し込む。

 

「……ッ!」

 

 だが、本来鍔迫り合いは剣道の様に押したり引いたりなどという事は行われない。真剣なら鍔迫り合いをしている暇があれば斬りつける。西洋剣術であれば、それは次の攻撃へのチャンスだ。

 

 ナイトと俺の利き手が逆である事を利用する。右手を刀から離し、相手の勢いを利用して懐に潜り込む。その決定的な隙に、このモーションから最も早く出せる技を選択する。

 

 刀の重範囲攻撃《旋車》。360°の薙ぎ払いがナイトの右腰を抉る。

 

「……ッ!」

 

 あの体勢からでは、得意なシステム外スキルも使えない。奴の隙を突いて、ソードスキルが決められれば勝機はある。それに、こちらにはまだ切り札がある。

 

「……あァ。効いた効いた。いやァ、今のは流石にビビったぜ。どうやらPSじゃお前はオレと並んでいるらしいな」

 

「並んでる、じゃなくて、上回ってる、じゃないか?」

 

「たった一発の直撃で良い気になるなよ、紅鬼」

 

 イケる。俺の力はナイトに通用する。もう、引っ張ってもらっていた頃とは違う。勝てる。メグミを含めて、あいつらの手によって命を奪われた奴等の仇が取れる。

 

「じゃあ、これから何発でも入れてやる。これまでの借り、全部まとめて返してやるよ!」




【DATA】

・《アクアロス》
SAOの男性プレイヤーの中で特に人気の高いアクアの電撃結婚により、アインクラッドに生きる女性プレイヤーの間で起こった現象。この世界の時間換算で9年前に起こったシンガーソングライターの電撃結婚時に起きた現象のオマージュ。

・非リア充達からの襲撃
流石にPKではない。具体例としては、アクアを見つけ次第突撃して居酒屋に連れ込む。その後、酒を飲みながらひたすら質問責めにする。大抵のプレイヤーは、涙を流しながら帰ったという。主犯はクライン。


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