ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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今回も再びレモン回。彼女は書いててすごくやりやすいです、たまにおかしな方向に行く事もありますが。
そして久々のこの間隔での投稿となります。

あとがきにて、ナイト、そしてレモンのデータを載せております。そして注意書きです。自分は容姿の元となったキャラクターの性格など、全く考えていません。完全に見た目だけです。


25.大事な人を守るために

「おい、鼠。頼んだ情報の方はちゃんと持ってきたよな」

 

「……当たり前ダ。コレでいいんダロ」

 

 アルゴがナイトに紙を渡す。おそらくそこに、情報がまとめられているんだろう。

 

「へぇ、まだこんなもんなのか。レベルは安全マージンを上回ってはいるが、それは一部のトッププレイヤーのおかげだな」

 

 そこに記されていたのは、攻略組の平均レベルと最高最低レベル。ナイトは攻略組の現時点の戦力をチェックしていた。

 

「そういや、例の焼死に関しては、調べてくれたか?」

 

「……それは、何もなかっタ。目撃者も何も……ダ」

 

 ナイトはそれを聞いて、剣を抜く。

 

「おい、鼠。なかった、じゃねェんだよ。オレはお前に見つけろ、と言ったんだ。じゃあ見つけろよ」

 

「そ、そんなの無理に決まってるダロ! 前線では、《クレイズナッツ》なんてアイテムすら認知されてなかったんだゾ!」

 

 ナイトはアルゴを自身の剣の柄頭で殴る。1mほど後ろに飛ばされた。

 

「いいか、鼠。お前はオレの犬なんだ。ご主人様の命令は絶対なんだよ。次聞かなかったら、()()()()()()()

 

「…………! わかっタ」

 

 アルゴを縛りつけるもの。それはレモンの命だ。レモンが捕まっているわけではないが、ラフコフ数人に囲まれれば、命の保証はないだろう。

 

「……アルゴちゃん。そういう事だったんだ」

 

 ナイトとアルゴの背後から声が聞こえた。まさに話をしていた張本人、《狐のレモン》だ。

 

「レモン! どうしてここに……!」

 

「最近様子がおかしいとと思ってたんだ。週一ぐらいでどこか行くし、ウチとあんま会話してくれなくなったし。こういう事だったんだね」

 

「……よォ、狐ェ。結構久々じゃね? 元気にしてたか?」

 

 ナイトは剣を肩に担ぐようにして持つ。戦う準備は出来ていないが、今のレモンはこれ以上動く事は出来ない。

 

「まぁね。そこそこ元気にしてたよ。ナイトから貰った《シフトリング》もいい感じ。無事AGIビルドからSTRビルドに転向出来た」

 

 互いに軽い会話をしているようで、攻撃のチャンスを伺っている。レモンは背中に背負った両手剣に手を掛け、ナイトもまた担いだままだ。

 

「そいつは良かった。で、今日は何の用事で?」

 

「アルゴちゃんを返してもらいに来たんだ。ナイトのせいで、仕事に集中出来てないから」

 

「何か勘違いしてねェか? 鼠は、自分の意思でここにいるんだぜ。なんなら、その時の音声も取ってあるから、聞いてみるか?」

 

「大丈夫。別にそういうの興味ないから。ナイトの手口は分かってるよ。“相手を追い詰めてから、逃げ道に誘導する”。こうして逃げ道に自分で入ったせいで、自分からは抜け出せない。ホント、悪人みたいな考え方だね」

 

 牽制し合う2人。言葉を交わし、互いを挑発し合う。一瞬でも隙を見せるか、先に剣で攻撃をした者が不利となる。

 

「そりゃそうだろ。お前の言うそれが他人を自分の思い通りに動かすコツさ」

 

 ナイトの人をバカにするような態度に、レモンは耐えきれなくなる。

 

「……ごめんアルゴちゃん。ウチもう無理だわ」

 

 レモンは遂に抜刀し、ナイトに向かって歩む。

 

「はぁ、ウチダメだなぁ。情報屋向いてないや。いつもスイに言われてたんだよねー、ウチは短気過ぎるって」

 

 ナイトがニヤリと笑う。剣を構えなおし、ソードスキルもいつでも出せる体勢になる。

 

「ウチは、平気で人殺せるからね」

 

 レモンから恐ろしい程の殺気が漏れる。それと同時に大きな動作で大剣を振る。当てるのが目的ではない。仰け反らせるのが目的だ。

 

「チッ、この馬鹿力が」

 

「馬鹿力で結構だよ。それでアルゴちゃんを救えるなら」

 

 ナイトが大きく仰け反り、後ろに下がった事により、レモンはアルゴに駆け寄れる距離まで来る事が出来た。

 

「アルゴちゃん、離れてて。ウチが終わらせるから」

 

「レモン、ナー君の《暗黒剣》はホントに……!」

 

「知ってる。スイも言ってたからね。でも大丈夫。今ウチ、アドレナリン出まくってるから」

 

 ゆっくりと歩みを進めるレモン。大剣を肩に担ぎ、その小さな体からは想像出来ない程の威圧感を放つ。

 

「おもしれェ。お前みてェなのを待ってたんだよ。殺す気で真っ向から戦ってくれる相手をよォ!」

 

 ナイトは白き剣を地面に突き刺す。

 

「《暗黒剣》……かい「させないよ!」……ッ!」

 

 両手剣突進技《アバランシュ》。突進して斬り下ろす、捌くのが非常に難しいスキルだ。

 

「くそッ。オレに《暗黒剣》を使わせねェつもりか!」

 

「そりゃそうだよ。みんなそれにやられてるんだ。使わせるわけないよね」

 

 その後もレモンは攻め続け、ナイトに《暗黒剣》を使わせない。そして、長引くほど、片手剣と両手剣の剣の重さの差は響く。鍔迫り合いに持ち込まれれば、ナイトに勝機はない。かと言って、離れても、レモンのスピードは思いの外早く、発動前に距離を詰められる。

 

「中々使わせてもらえねェな。随分と厄介な相手になっちまったもんだぜ……」

 

「まぁね」

 

「使わせてって、お願いすれば、使わせてくれるか?」

 

「まさか? そんなわけないじゃん。痛いもん」

 

 平然と大剣を振り回す者が言うセリフとは思えない。

 

「痛いって、乙女じゃねェんだから」

 

「乙女だよ! リアルなら今年からJKなの!」

 

「花の女子高生が自分に向かって大剣振り回すとか怖すぎるわΣ!」

 

 レモンとナイト。普段からふざけた言動の多い二人が戦うと、戦闘中でもコントみたいになる。だが、今まさに行われているのは、剣と剣の戦い。気を抜いた方が負ける。

 

「ハアァァッ!」

 

 両手剣単発技《カスケード》。その一撃がナイトを襲う。

 

「へっ、それを待ってたぜ!」

 

 金属音が響き、レモンの大剣はその輝きを失う。

 

「嘘ッ……!」

 

 ナイト考案のシステム外スキル《剣技中断(スキルキャンセル)》。最低限の力でソードスキルを阻害し、強制的に終了させるスキル。レモンはそれを警戒し、モーションの少ない単発技を選んだ。しかし、それすらも阻害されてしまった。ほぼゼロ距離。それでもナイトのシステム外スキルには敵わなかった。

 

「焦り過ぎたな。まぁよくやった方だぜ、狐。取り敢えず、褒めてやるよ。だが、ここからが本番だ! 《暗黒剣》……解放!」

 

 地面に突き刺された白い剣を暗黒の光が包む。禍々しいオーラを放つその剣は、斬った相手に激痛を与える恐怖の剣。

 

「とりあえず、その場で這いつくばってろ!」

 

「あ゛あ゛あぁぁぁ~!」

 

 正面から水平切りを喰らい、よろけた所を背中から貫かれ、土に伏すレモン。

 

「へェ、結構イイ声で鳴くじゃねェか。乙女ってのも、あながち間違っちゃいねェなァ!」

 

「ううっ……ああっ……!」

 

 予想以上の痛みに声を漏らす。激痛のせいで、レモンは体を動かす事すら出来ない。

 

「やっぱ、女は脆いなァ。たった二発でこれかよ。じゃあ、地面で寝ながらでいいからよォーく見とけよ、狐。鼠の最期をよォ!」

 

「……ッ! や、やめて……。あるごちゃんに……っ! 手を……ださないで……」

 

 痛みで言葉が途切れ途切れにしか出てこない。そうしている間にも、ナイトはその光景を呆然と見ていたアルゴに近づく。

 

「オラッ!」

 

 蹴りを喰らい、倒れるアルゴ。既に恐怖で身体は言う事を聞かない。

 

「狐、いや《狐殺》。今から鼠は、お前のせいで死ぬんだ。お前が来なければ、鼠はまだ、オレの犬として生きられたのになァ!」

 

 レモンの表情が歪む。涙を流し、ナイトをキツく睨む。それでもナイトはやめようとしない。

 

「……やめて。そして、その二つ名で、呼ぶな……!」

 

 その声を無視し、ナイトは続ける。

 

「そういえば、約一年前にも似たような奴がいたっけなァ?」

 

「……ッ!」

 

「確か、ジョニーんとこのパーティーがポータルPKを仕掛けたって言ってたな。中層の6人のパーティーを引っ掛けて、当時の最前線のボス部屋に放り込んだ。6人の内、生き残ったのは1人だけ。そうだろ、《狐殺のレモン》!」

 

 涙を流し、悔しそうにするレモン。当時の事を振り返る度に、拳を固く握り締める。

 

「何悔しそうな顔してんだよ。もっと胸張れよ。お前は、攻略組が手こずった、あの狐型のボスを()()()()したんだぜ。あの時は、攻略組に新戦力って大盛り上がりだったよなァ!」

 

 レモンはより一層悔しそうな表情をする。彼女の、“誰も死なせない”という誓いは、この出来事から来ているのだ。

 

「そう、お前はあの日も、己の強さを過信して、仲間を逃せなかった。そして今日も、その思い上がりが、1人の尊い命を奪う事になる。悔しいだろ、悔しいよなァ! 自分の無力さを呪いたくなるだろ! お前が来なければ、せめて証拠だけ持ち帰って援軍を呼べば、鼠は助かった。鼠を殺したのは、お前も同然なんだよ!」

 

 レモンは顔を伏せた。グチャグチャになった顔を見せないため。こんな顔、敵であるナイトにも、師匠であり恩人でもあり、仲間でもあるアルゴにも見せたくなかった。

 

「そんなわけナイ!」

 

 そんな時、アルゴが叫んだ。

 

「そんなわけナイ。レモンはオレっちを助けようとしてくれタ。それだけで十分ダ。それだけで嬉しいヨ。これはオレっちのミスだ。情報屋が、ターゲットに見つかり、捕まったんだからナ」

 

 こちらも泣き声混じりに言う。

 

「それが、絆ってわけね。美しいねェ、最高だなァ! ホント、聞いててヘドが出るぜ! 互いの絆で涙を流し、互いの苦しみを和らげようと必死で言葉を発する。見苦しいなァ!」

 

 アルゴの目の前まで行き、地面に伏している彼女の顎をクイと持ち上げる。

 

「お前はもう少し、現実的な女だと思ってたんだがなァ。残念だよ、まったく。お前も、ちゃんと理解しろよ。なぜこんな事になったのか。全てはお前自身のミスが招いた結果だって事をな!」

 

 その表情が、恐怖からか後悔からか、または全く別の感情なのかは分からない。だが、今日一番の絶望の表情を晒すアルゴ。もう、彼女達に救いはないかのように思われた。

 

「……なんだよ。そろそろ痛みに慣れたかよ、《狐殺》」

 

 レモンがウィンドウを操作しながら、ナイトに向かって歩き続ける。その目には、さっきまでの絶望の色はなかった。何かを決意した者だけが持つ輝きをその目に映し、近づく。

 

「アルゴちゃん、ゴメンね。ウチのせいで。ウチのために、抵抗しなかったんだよね。ウチ、まだまだ誰かに守ってもらわなくちゃダメだったんだね」

 

「レモン……」

 

 ナイトは、レモンの様子の違いに気づき、レモンと正面から対峙する。

 

「でも、今日はウチが守るよ。もう、誰もウチの前では死なせない。そのために、アルゴちゃんとの約束を破るよ。今日1日だけ、ウチは《狐殺のレモン》に戻る」

 

 背中から大剣の姿が消えた。そしてすぐにそれは小ぶりな直剣に替わる。その上に、バックラーも出現し、攻略組1の大剣使い《狐のレモン》は消えた。

 

 よく見ると、右手にはめていた《シフトリング》も消えている。ステータスが元に戻った。

 

「半年ぶりだなァ、その姿を見るのは。楽しませてくれるんだろう……なッ!」

 

 低姿勢で弾丸の如く突っ込んできたレモンは体を捻り、水平切りをする。その軌道上に残像が見えるほどのスピード。あの《閃光》のアスナに勝るとも劣らない速度。

 

「おいおい、ブランクなしかよ……。こりゃ参ったな……」

 

「防いだくせによく言うよ。でも、次は斬る」

 

「おぉ、怖いねェ。でも、そういうのは嫌いじゃねェなァ!」

 

 再び、二人の剣が火花を散らしぶつかる。ほぼ同時に動かした剣は、僅かにナイト側に寄っていた。

 

「その剣、中々ランク高そうだな。何て言うんだ?」

 

「《トイフェルキラー》。ナイト(悪魔)倒す(殺す)剣だよ」

 

「おもしれェじゃん」

 

 ナイトはニヤリと笑い、斬りかかる。レモンもそれに応じる。アインクラッドでも滅多に見れない高速戦闘。常に動きながら間合いを図り、一瞬の隙を突いて詰め、剣を振るう。互いがそれを続け、防ぎ続ける。

 

 そんな中、レモンの斬撃がナイトに掠る。ナイトの頬から僅かなダメージエフェクトが発生する。ナイトはそれを拭うような仕草をした後、突然笑い出す。

 

「はははッ、最ッ高だ! これだよこれ! 生と死の淵を歩き続けるようなこの感じ! 一撃受けるだけで、一歩死に近づく。受ける度に痛みが襲う。この極限状態での命のやり取り!」

 

 狂った様に笑いながら剣を振り続けるナイト。剣のスピードが落ちる事はなく、寧ろ加速し続ける。

 

「ナイト……流石にキモいよ、それ」

 

「キモくて結構。オレはただ、この時間がこれから先も続く事を願ってるだけさ。……でもさ、楽しい時間ってすぐ終わるんだよな」

 

 レモンの剣を大きく弾き、ナイトは後退する。レモンも何かが来る事を予感し、距離を取る。

 

「レモン、オレはこれからギアを一個上げる。……付いて来いよ!」

 

 ナイトは真っ直ぐレモンに突っ込む。そして、剣先が地面スレスレの所を走り、赤黒いライトエフェクトに包まれる。

 

 《暗黒剣》3連撃ソードスキル《クライムクロス》。垂直切り上げからの左手から右手への水平切り。最後にその交点に突きを繰り出す技。

 

「やあぁぁぁッ!」

 

 レモンはこのチャンスを待っていた。ナイトがソードスキルを繰り出し、システムに決められた動きしか出来なくなる瞬間を。そこに、自分が今出来る最大の技をぶつける。

 

 《片手剣》の7連撃《デッドリー・シンズ》。レモンは現在、《両手剣》をメインで使っており、《片手剣》はまだコンプリートしていない。そんなレモンが使えるソードスキルの中で、最も自信のある連続技。

 

 一発目、二発目、三発目。全て相殺し合い、ダメージは微々たるものだ。だが、ここでナイトのソードスキルは終わり、スキル後硬直に入る。対してレモンには、後四発も残されている。全て決まれば、ナイトの《暗黒剣》によって半減しているHPを全て吹き飛ばすだろう。

 

「これで終わり、とか思ってんだろ」

 

「……! もう終わりだよ、ナイト」

 

 ナイトの余裕な態度に一瞬焦るが、すぐに集中し直す。4撃目をナイトに向かい振るう。

 

 しかし、ナイトの右手が黒く光る。

 

「なんで……!」

 

 《暗黒剣》《体術》複合スキル、《ダーク・ブロウ》。

 

 その拳は、レモンの一撃を相殺する。だが、レモンにはまだ三発残されている。

 

「まだ終わりじゃねェぜ!」

 

 再び、剣がライトエフェクトを放つ。

 

 《暗黒剣》4連撃ソードスキル《エンドレスペイン》。高速3連撃からの上段の重攻撃。最後の一撃には、相手に100%の確率で《出血》のデバフを与える。

 

 レモンの残りの3連撃も、全て対応される。レモンはソードスキルを出し切り、動きが止まる。

 

 だが、ナイトのソードスキルには最後の一撃が残されていた。

 

「チェックメイト、だな」

 

 ナイトは躊躇う事もなく攻撃する。

 

「ああああぁぁぁぁ~!」

 

 その一撃を受けて、レモンは力なく倒れた。それと同時に、ナイトの剣を包んでいた黒いオーラも消える。

 

「《暗黒剣》専用システム外スキル《剣技連鎖(スキルチェイン)》。一応《閃打》でも代用可能なんだが、あんまり上手く繋げられないんだ。って、あまりの痛みで話なんか聞いてらんねェか」

 

 横たわるレモンを見下すナイト。剣を持ち、いつでもトドメの一撃を加えられる。

 

「狐、中々楽しめたぜ。でも、残念だがここで終わりだ」

 

 痛みで動く事はおろか、声を出す事すら出来ないレモン。

 

 ナイトは剣を勢い良く、振り下ろそうとする。

 

「待テ! レモンを斬るなら、オレっちを斬レ!」

 

「あァ? こいつはテメェの代わりに死ぬんだぜ。何言ってんだよ」

 

「レモンを斬るなら、容赦しないゾ!」

 

「腰が引けてるぜ、鼠。慣れねェ事はしねェ方がいい」

 

「レモンを殺させはしなイ! 絶対ニ!」

 

「……あるご……ちゃん」

 

 ナイトは持っていた剣を左に払い、右腰の鞘にしまう。

 

「はぁ、なんか冷めたわ。小説や漫画の世界じゃあるまいし。でもまぁ、ビビりながらも逃げなかった事だけは褒めてやる」

 

 レモンとアルゴに背を向け、その場を離れるナイト。だが、そこで立ち止まった。

 

「最後に聞かせろ。お前らにとって“大事な物”って何だ? 他の誰にも“譲れない事”は何だ? そして、そのために、他の全てを差し出し、犠牲にする覚悟が、お前らにはあるか?」

 

 レモンとアルゴは同時に答えた。

 

「なかま……だよ」

「……仲間ダ」

 

 ナイトはウィンドウを操作し、2つの結晶をオブジェクト化した。そしてその2つを投げる。

 

「いい答えだ。紅鬼とは違って現実的だしな。結晶は、その答えを聞かせてくれたお礼だ。好きに使え」

 

 ナイトはそう言って立ち去った。レモンとアルゴは、この絶望的状況から抜け出す事に成功したのだ。

 

 

 ナイトは、足元をフラつかせていた。今にも倒れそうで、その様子では、ろくに飯を食べていないように見える。

 

「くそッ……ダメだ……。体がっ……」

 

 ナイトの体が前に傾いた。だが、そんな彼を支えた者がいた。

 

「無茶しすぎですよ、ナイトさん」

 

「サンキュー、ベルデ。悪いんだが、どこか寄りかかれる所まで頼む」

 

 ナイトの《暗黒剣》は自身にも効果がある。あれだけの攻防だったため、彼も無傷ではない。かなりの痛みを受けていたはずなのだ。

 

「調子乗って、《剣技連鎖(スキルチェイン)》なんて使うからですよ」

 

「うるせぇな。使わなきゃ、負けそうだったんだよ。なんせ狐は、オレが負け越す可能性のある相手の一人だからな。まぁ、本気でブチ切れだ時だけだけど」

 

「それでも、自分の体の心配はしてくださいよ。《暗黒剣》には、最大連続3時間しか使えない。専用のソードスキルを使えば、さらにその時間は短くなるんですよ。それに、時間を過ぎれば《暗黒剣》は全快まで使えず、それまでは《ペインアブソーバ》がオフになるんですから」

 

 ナイトは辛そうな顔で答える。

 

「分かってる。でも、こんな所で負けちゃいけない。少なくとも、今はな」

 

「一体、あなたは何が目的なんですか?」

 

「それは、まだ知らなくていい。でもな、お前になら話してもいいかもしれない。その時が来れば話す。だからそれまで、俺を信じてついて来てくれ」

 

 ナイトの目はどこか遠くを見ていた。彼の目には一体何が映っているのだろう。少なくとも、彼は他の者とは全く違うものを見ているに違いない。

 

「当たり前ですよ。俺はあなたに救われたんです。どこまでも、ついて行きます。例えあなたが歩む未来に、一切の光がなかったとしても」




【DATA】

・ナイト(Night)
二つ名:純白の騎士→純白の悪魔
年齢:14(2024年5月現在)
身長:164cm
体重:51kg
誕生日:2009年7月10日
容姿:里見連太郎(ブラック・ブレット)を白髪にして目つきを悪くした感じ。

・《剣技連鎖(スキルチェイン)
システム外スキル。《暗黒剣》のソードスキルはどれも、間に《ダーク・ブロウ》を挟むと連続で使用出来るという特徴を活かしたスキル。威力が高くなる分、使用制限時間を大幅に減らしてしまう。システム外とは言えない部分もあると言える。
《閃打》などで代用も可能だが、《ダーク・ブロウ》ほど繋げる事は出来ない。

・レモン(Lemon)
二つ名:《狐殺のレモン》→《狐のレモン》
年齢:15歳
身長:148cm
体重:30kg代後半
誕生日:2008年10月5日(檸檬の日)
容姿:シャルロット・デュノア(IS)。とはいえそこまで胸はないため、男装時に近い。


次回もお楽しみに!

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