また、今回は視点変えに名前を入れてません。これでもわかるようなら、このままいきたいと思います。今後しばらくそれで行くので、戻してほしい等の意見、またはこういうのはどう?などあれば感想のついでやメッセージにてお願いします。
《圏内事件》も無事解決し、俺達は再び迷宮区攻略に邁進した。特に、どこか吹っ切れた様子のアスナさん、今まで以上にやる気のレモンさんはすごかった。俺自身もあの日の悲しみから、立ち直りつつあり、危なっかしい戦い方をする事は少なくなってきた。反対に、キリトさんはアスナさんの方を見ると妙にソワソワするなど、もしかして……なんて思う出来事も増えている。また、アクアさんが48層の鍛冶屋によく出入りしていると言われ、《流水の槍兵》に女が出来た、という噂ーーとはいえ、実際には事実であり、個人的には秒読みだと思っているーーも出回り、刺激的な毎日が続いている。この
目の前には、俺が貸したコート以外、布一枚身につけていない、高校生くらいの女性がいる。
「お願い! 付き合って!」
…………どうしてこうなった? ちょっと待て! 全然話について行けない……。よし、一度深呼吸だ。ひっひっふー、ってコレは違う。
うん、多分俺は目の前の非日常のせいで頭がオーバーヒートしている。ほとんど働かない頭を動かし、必死で起こった事を1つずつ丁寧に振り返った。
ここは最前線から程遠くない洞窟。最近、リズさんにメンテナンスをしてもらう回数が増えているため、そのお礼に鉱石を集めに来ている。
「あっううぅんんっ! ああっううぅっ!」
……何か、聞いてはいけない声を聞いた気がする。
「だめぇっ! それっ! んんっ!」
これ……R18入らないよな……。
「……ふ、服溶かしちゃダメェっ!」
俺はとりあえず近くまで行ってみる。聞いてはいけないような声はこの際無視だ。おそらく、この洞窟で出てくる《アシッドスライム》だろう。あいつらの体液は防具の耐久値を大きく減らす。多分その被害にあってるんだろう。
「今助けます! だからっ! だ……か……ら……何でそんな事なってるんですかΣ!」
俺の目の前には、4匹のスライムに揉みくちゃにされ、服を溶かされている女性プレイヤー。だが、ホント何であんな事になってるんだ?
「いいっ……から……たすけ……てぇっ!」
もう、何なのこの人……。
「と、とりあえず、スライムは全部倒しますからね!」
俺はソードスキル《辻風》を使った。居合斬りとも言えるそれはスライムを四散させた。
「きゃっ!」
スライムに色々されていた女性は着地と同時に可愛らしい声を上げる。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「……あ、はい。ありがとうございます!」
「とりあえず、何か予備の服でも着てくれませんか? あの……その……目のやり場に困るので……」
彼女は目をパチパチさせた後、首をかしげる。いや何でだよ!
「すいません。服、持ってないんです。ここには、素材を集めに来ていて、ストレージをかるくしたくて……」
ならば仕方ない。いや、仕方なくはないか。
「……じゃあ、あなたの宿まではこれを着ていてください。何もないよりはマシですよ」
俺は自分の着ていたコートを脱ぎ、彼女にかけてやる。彼女は一瞬驚いた様子だったが、すぐに笑顔になった。
「えっと、宿ってどこですか? それと、《転移結晶》って持ってます?」
「あ、はい。私の宿は48層の《リンダース》です」
へぇ、同じ層なのか。それと、もう一度ここに来て、素材集めとか手伝うべきなのかな? 腰にある剣を見る限り、それほどレベルは高くなさそうだが。
「了解です。じゃあ、戻りましょう」
「「転移、リンダース!」」
俺達は青い揺光に包まれ、そこから立ち去った。
「あの、ありがとね。助けてくれて」
宿屋まで辿り着き、自分の部屋から服を持って来た彼女は俺にお礼を言う。ここに来るまで少し話して、やはり年は同じか上だと分かった。向こうはタメ口になり、俺も敬語はあるものの、少し楽になった。だが……、
「何で、服着て来てないの?」
さっきと変わらない格好だ。下着すらつけてない様に見える。
「え? ああ、その事ね。私さ、リアルでは露出癖があるんだよねー」
あるんだよねー、じゃないだろ。
「で、話ってなんですか? 素材集めなら手伝ってもいいですけど……」
「そうじゃないの!」
じゃあ、一体……。
「お願い! 付き合って!」
このように、話は冒頭に戻るのだ。
「……あの。さっぱり何なのか分からないんですけど……」
「あっ! いけないいけない。私何にも説明してなかった!」
この人、俺にとっての天敵じゃん。R18ネタ耐性0の俺にとってこの人はキツい。それに加えて、独特のリズムがレモンさんの自由さに似ている。
「私今、オレンジギルドの間で取引されている、とあるアイテムについて調べてるの。でも、1人じゃキツそうで……。でも、攻略組の《真紅の鬼神》スカーレットがいるなら、もしかしたら!」
「俺の事、知ってたんですね」
どこか、話がおかしい。オレンジギルドの間で取引されているアイテム。そんなの俺達攻略組は知らない。なのになぜそれを彼女が……。
「もちろんだよ。《
……ホント、どこまで知ってるんだ?
「どこまで知ってるのか、って顔してるね。安心して。わたしが知ってるのは、妹さんがラフコフによる手引きであなたを襲い、その後その森のフィールドボスの《致死毒》で殺されたって事だけだから」
おかしい。いよいよおかしくなってきた。そもそも、メグミと俺はそんなに似てない。一緒にいる所を見られたなんて事はないとは言い切れないが、会話を聞かれる範囲には彼女はいなかったはずだ。このアインクラッドに俺とメグミの関係を知ってるのは、ごく僅かな友人達と、メグミが死ぬ原因を作ったラフコフの奴等。まさか.……、
「フフ。まさか、私の正体がラフコフなんじゃないか、って疑ってる?」
また読まれた。何なんだこいつ……。ただの露出狂じゃない。
「もしも私がラフコフの一員なら、君にこんなに情報を与えないと思うけど。本当に私がラフコフなら、あのまま助けてもらったお礼がしたい、とか言うんじゃない?」
確かにそうだ。だが、こういう風にベラベラと喋るという手口で攻略組に紛れ込んでいた奴を俺は知っている。
「何か、証拠はないんですか? あなたがラフコフではないという証拠は」
「じゃあ、君の情報の仕入先を言えば分かるかな。私は情報屋。だから自分の足で調べたの。あなたに会いたかった。私と同じ志を持つ人の協力が必要だった。私は恋人をあいつらに殺された。復讐がしたい。殺せとは言わない。あいつらに繋がる情報が少しでも欲しいの。お願い! 力を貸して」
疑った俺がバカだったのかもしれない。俺は分かってるはずじゃないか。身近な人を失う悲しみを。そして、それによって宿る復讐心を。実は俺自身、どこかで復讐のチャンスを狙っていたのかもしれない。
「すいません。最近、色々ありすぎて疑い深くなってたみたいです。でも、あなたからは俺を騙そうという意思は感じられない。その話、詳しく聞かせてください」
彼女の顔がパァッと明るくなった。
「ホント? ホントにホントにいいの!」
「もちろんですよ。えっと……そういえば名前、聞いてなかったですね」
「あ、そうだった。私、《スファレライト》。長いからライトって呼んで。よろしく、スカーレット君」
なんか親近感が湧くなぁ。
「俺はスカーレット。同じく長いのでレットでいいですよ。こちらこそ、よろしくお願いします」
と、その前に……、
「まず服着てくださいΣ!」
「えっ……あ、うん」
服を着たライトさんは俺にコートを返し、アイテム・ストレージから袋を取り出した。更にその中に手を突っ込み、数粒の豆を取り出した。
そして俺は、それを二度も目にした事がある。1回目は47層《ブラックフォレスト》。俺を唯一認めてくれていた妹《メグミ》が俺に斬りかかる前に口にしていた物だ。2回目は19層にあるグリセルダさんの墓の前。PoH達が捨て駒として使ったオレンジギルドのメンバー全員が食べていたのと同じだ。
「これ、見た事あるんだね」
俺は無言で頷いた。
「とりあえず1つだけ食べて見てよ。1つだけなら大丈夫だと思うから」
俺は素直に受け取り、それを口に入れる。すると、左上に3つのバフが表示された。
「これの名前は《クレイズナッツ》。食べれば3分間STRとAGIがそれぞれ15UP。加えて、3分間のHPリジェネが付与されるの」
1つ食べるだけで、ここまで実用的なバフがつくというのはすごい事だ。それがなぜダメなのだろうか。
「あの、そんな効果なら、寧ろ攻略の手助けになるんじゃ……」
しかし、ライトさんは首を横に振る。
「確かに、これはすごい効果だよ。でも、これにはここには記されていない、もつ1つの効果があるの」
俺は黙って続きを待つ。
「それは、プレイヤーへの幻覚・幻聴作用よ」
「な、何でそんなものが……!」
このゲームはカーディナルによって常に公正公平に保たれている。レベリングスポットやアイテムの市場価格など、アインクラッドはそのシステムで成り立っていると言っていいだろう。にも関わらず、なぜそんなアイテムが。そして、そんな効果があるアイテムがなぜあるのか。
「《クレイズナッツ》は、主に中層プレイヤーの間で広まっているアイテム。それに、プレイヤーのレベルやお金、装備にはまったく干渉しないから、後回しにされ続けたのかも」
これだけのゲームを運営するシステムなのだ。毎日莫大な量のバグやシステムバランスの改善をし続けているのだろう。
「恐ろしいのはここから。これを食べ続けると、判断力が鈍り、理性を保てなくなるの。犯罪行為を行うハードルさえ、簡単に超えてしまうほどにね」
じゃあ、やはりメグミはこれを食べて……。
「これの怖い所は依存性。1つだけなら何とかなるけど、2回3回って使っていくうちに抜け出せなくなる。現実の麻薬と一緒よ」
「麻薬か……。栽培地とか作成者は分からないんですか?」
「武器と違って、食べ物からは分からないからね。でも、私も情報屋の端くれ。それは既に調べ終わってるわ」
ドヤ顔を決めたライトさんとハイタッチをし、とりあえずそこへ向かってみる事にした。
「ここが、そうなんですか?」
「うん、そうだよ」
まさか、販売していたのが《はじまりの街》だったとは。これでは、滅多に情報屋の目にもとまらないし、人伝てでも、攻略組が知る頃には、誰かがついた嘘に尾びれや背びれがついただけだと思うだろう。
「すいません、そのナッツ1袋ください」
俺は確認のため、1つ買って見る事にした。
「毎度あり。なぁ兄ちゃん。この豆、誰にも言うんじゃねぇぞ。広まっちまったら、あっという間に入手出来なくなるからな」
「はい、分かりました」
やはりそうだ。これが《クレイズナッツ》。そしてあの男、何かのギルドに入っていた。そこから製造元を突き止められるかもしれない。
「ライトさん、あのプレイヤーのギルド、分かりますか?」
「えっ……と……ちょっと待って。確認してみる」
調べてみた所、そのギルドは《ユートピア》というらしい。そしてら拠点の場所もバッチリわかった。乗り込むのは明日にして、俺とライトさんはリンダースの転移門前で別れた。
「恵……。絶対に、お前の仇はとってやる。お前をあんな目に遭わせた奴等に、目に物を見せてやる。」
何年ぶりだろう。心の底から感情を剥き出しにしたのは。
珍しく自分の気持ちを言葉にした俺は、思いを再確認すると共に、大きく落胆させた。いかに普段の俺が、仮面を被ったままだという事を自覚させられる。
「強くなりたい……。誰よりも、何よりも。誰もが認める強さを。誰もが恐れる強さを」
今日の俺は、どうやら自身の心に正直らしい。自分の欲をいつも以上に口に出来る。
俺は部屋に誰もいない事を改めて確認し、アイテム・ストレージを開き、1つのアイテムをオブジェクト化した。
しかし、その一連の行動を全て見ていた者がいた。その人物は窓から俺を見て、「計画通り」と言わんばかりに、時折口元に笑みを浮かべていた。
「いい、レット。ここから先は奴等のテリトリー。流石に2人じゃ、囲まれたらおしまいだよ」
「分かってますって。でも、やらないわけにはいきません」
ここはオレンジギルド《ユートピア》の拠点近く。彼らが《クレイズナッツ》を栽培している事から、農業施設のついたホームを所有している事は分かっていた。
「問題は、奴等がオレンジかどうかなんですけど……」
「安心して。奴等は全員オレンジよ。白悪魔のせいで、カルマ回復クエストの受注が難しくなってるの。だから奴等はそのままのはず」
ポケットにしまってある麻痺毒入りの瓶。ストレージに入っているロープ。そして、回廊結晶。後は突入して制圧だ。
「よし、行くよ!」
「了解です」
俺とライトさんは時間差で行けるよう、二手に別れる。俺が正面から、ライトさんが裏からだ。
「全員動くな! 攻略組のスカーレットだ。お前らが《クレイズナッツ》を栽培し、他のオレンジギルドに流しているのは分かっている。大人しく、この結晶で牢屋まで飛んでもらう!」
「あ、昨日の兄ちゃん! 攻略組だったのか!」
例の商人もここにいた。攻略組だとバレていなかった事が良かったはずなのに、どこか喜べない。
「で、何の用だよ」
さっきとは別の奴が前に出てきた。おそらくリーダーだろう。
「そのままの意味だ。お前らオレンジを野放しにする理由はない」
「何だよ。俺たちがオレンジ化する瞬間でも見たのかよ。俺たちは
「そうだ」
「リーダーの言う通りだ!」
いくつもの声が聞こえ、あくまでも正当防衛だと言い張る。
「《クレイズナッツ》は、犯罪を誘発する麻薬だ。それを作っている時点で同罪だ」
「おいおい、そんな証拠はあるのかよ。むしろバフがついて最高だろうが!」
「これによる、オレンジプレイヤーの暴走があった。実際に俺も目にしたから間違いない。それでも知らないと言い張るなら、攻略組で議論するしかないな」
流石にこう言われてしまえば相手もお手上げだ。そして、追い込まれた相手がする事はただ一つ。
「じゃあ、ここでお前を殺せばいいって事だな。やれっ、お前ら!」
やれやれ、結局こうなるのかよ。仕方ない。
俺は向かって来る相手に対し、《
「でもまぁ、関係ないね」
その程度で、覆される程この世界は甘くはない。俺は対人戦であれば、そこら辺の攻略組と比べても上だ。ましてや、無力化であれば得意分野だ。
戦闘開始から5分もしない内にオレンジギルド《ユートピア》総勢10人は捕らえられた。
今、レットの前には縄で縛られたオレンジプレイヤーが10人。
「ねぇ、ライトさん。何で俺だけで戦ったんでしょうか?」
「ははは、ごめんごめん。なんか、助太刀出来る雰囲気じゃなくて……」
「まぁいいですけど」
レットが数歩前に出て、リーダーの男に尋ねる。
「さぁ、その豆をどうやって流している。そのルートを教えろ」
「断るって言ったら?」
「……どうしましょう?」
何も考えていないレット。ライトの方を見るが、首を横に振る。情報屋失格ではなかろうか。
「なぁ、スカーレット。あんたもしかして、大事な人が死んだ?」
リーダーの言葉に反応してしまったレット。
「やっぱりか! 攻略組のスカーレットって言えば、ユニークスキルに匹敵する強さの持ち主って聞くが、所詮は誰も守れないクズって事か!」
その言葉に、周りのメンバーも笑う。レットは怒りで体が震える。
「あれ? だんまりって事は肯定って事だよな。はははっ、何が攻略組だよ。聞いて呆れるぜ」
レットは自分の中で燃えたぎる憎悪の炎に耐える。ここで刀を抜いたら、全てがお終いだと分かっているからだ。
「そうか、分かったぜ。この《クレイズナッツ》のせいでソイツは死んだんだろ! この豆食うって事は意志が弱い証さ」
リーダーは自分の行いを棚に上げ、レットとメグミの事を非難する。レットの心の中は既にその炎によって焼き尽くされている。未だ刀を抜いていない事が不思議なぐらいだ。
「でも、良かったじゃねぇか。死んだのがお前じゃなくて、ソイツでよ。おかげでここまで攻略が進んでんだからよ!」
他のメンバーからも笑いが出る。尚も堪えるレット。
だが、ついに限界が来た。
「そんな奴、
レットの目からハイライトが消えた。右手が左腰に伸び、刀の柄を掴んだ。ゆっくりと引き抜く。
「おい、どうした。やんのか? お前みたいな雑魚に俺らが斬れんのか?」
すると、レットはその刀を自身の左手甲に刺した。
「ちょっと、レット! どうしたの!」
隣でレットの事を見ていたライトも堪らず声を上げる。
「俺の事をバカにするのは別にいい。でも、メグミの事をバカにして、その上、死んで当然、死んで良かったな、だと?」
刀を刺したまま、レットはリーダーの元へ歩く。その間も、左手甲でからはダメージエフェクトが出続けている。
「どうした、スカーレット。頭でも狂っちまったか?」
レットは何も答えない。ゆっくりと、刀を引き抜く。すると、刀が炎を帯びた。
「なっ、なんだと? オニマルは、ソードスキル発動後じゃないと、炎は出せないんじゃ……」
「俺も、そう思ってたよ。ただ、何となくそんな気がした」
レットはその刀を横にある畑に刺した。刀が纏っていた炎は、そのまま畑の草を燃やし、一瞬で畑は火の海となる。《クレイズナッツ》の芽が媒体となり、辺り一面の草をも燃やす。
「お、俺達の畑が! テメェ、ふざけんじゃねェぞ!」
リーダーがレットに向かって行く。しかし、軽くそれをあしらう。そのまま彼は火の海へ飛び込んでしまう。
「熱っ! 熱い熱い熱い! 何でだよ! この世界は痛みとかねぇんじゃねぇのかよ! 熱ッ!」
レットの憎悪の炎がリーダーのHPを奪っていく。既にイエローに突入したHPはリーダーの顔色を炎とは対照的な色に変える。
更に、レットが追い打ちをかけるように、刀を刺した。
「アァァ! 焼ける! 熱い! 身体が! 俺の身体がァ!」
「へぇ、この炎は、《
対照的に、レットはそれはクールに無表情で見つめる。炎が燃え盛るほど、彼の目線は冷たくなる。
やがて、彼の身体は炎に包まれ、黒い物体となった後、カケラとなり四散した。
「や、やりやがった……。鬼だ……。《真紅の鬼神》だ……。死ぬ……殺される!」
メンバーの1人が、リーダーの予想外の死に驚き、騒ぎ、逃げようとする。しかし、耐久値を炎で減らされたロープでさえ、恐怖で力の半分も出せなくなっている彼らには壊せない。
「も、もう! こんな事はしねぇよ。だから助けてくれ! 何でもする! だから、命だけは!」
レットはそう言ったメンバーの前で止まる。
「じゃあ、メグミを生き返らせてくれよ。これから歩むはずだった何10年の時間を、あいつに返してやってくれよ。なァ! あいつの人生返せよ!」
レットは心からそう叫んだ。これが、今の彼の願い。それ以外には何もなく、その願いに、それ以外の意味はない。
「もう死んだんだ。もうあいつが蘇る事なんてありえない。だから、テメェらも、そのまま生きられると思うなよ!」
レットの口調は普段とは明らかに違う。その理由はなぜだかは分からない。
そして行動も、リミッターが外れたかのように、止まらない。このままでは、全員殺してもおかしくない。
「テメェらもまとめて、死ねェッ!」
レットが刀を振り下ろそうとした瞬間、後ろからライトが抱きつく。
「もういいよ、レット。もういいよ。これ以上はダメ」
ライトに抱きつかれ、動きを止めるレット。力なく、刀を下ろし、目に光が戻った。
「めぐみ……ホントに、悪かった」
オニマルから放たれた火が消えた。それとほぼ同時に、レットは意識を失った。最後に呟いたのは、最愛の妹への謝罪だった。
何も感じない。誰からの視線も、罵倒も、何も。どうしてこうなった。俺はただ、お父さんに見て欲しかっただけなのに。今までは、みんな俺の事を見てくれてたのに。今はもう、誰一人見てくれない。俺はただ、全力で剣を振っただけじゃないか。なのに、どうして……。
孤独だ。真っ暗だ。明かりが欲しい。言葉が欲しい。誰でもいい。誰か、俺を、俺自身を見てくれ。俺自身を認めてくれ。
「はぁっはぁっ!」
「レット! 大丈夫!」
長い夢を見ていた。今の俺のルーツだ。だが、どうして今更……。
「あれ? どうして俺はここに……。《ユートピア》の奴等は?」
何かおかしい。記憶がすごく曖昧だ。よく思い出せ。確か、リーダーの奴に俺やメグミの事を悪く言われて、俺はキレたはずだ。その後……、
「俺は……刀を自分の手に刺して、それを抜いたら刀が燃えて……。あいつは……」
俺が
「うわああぁぁぁぁッ! 俺は……俺は……人を殺した……?」
俺が……人を殺した。あの、刀で……?
俺は自分が何をやったのか、初めて理解した。そして、その現実が受け入れられない。あの日の出来事が鮮明に蘇る。
俺にまだ才能があった頃の最後の試合。俺の竹刀は、相手の面にあたり、相手は倒れた。転倒し、当たり所が悪かったのか、彼は気絶した。あの日から、俺の全てが変わった。
まるで、あの日のようだ。
「大丈夫だよ、レット」
ライトさんが、また俺を抱きしめる。
「大丈夫。あなたは悪くない。だってほら、あなたのカーソルは緑。あなたは罪なんか犯してない」
「で、でも……俺の刀が……あいつを……」
「違うよ。あいつを殺したのはあの炎。あなたは悪くない」
「あの炎は俺の刀が……」
「そんなの関係ない。あれは刀のせい。あなたは何にも悪くない。大丈夫。誰もあなたを責めない。寧ろ、賞賛してくれるはずよ」
ライトさんの言葉の意味が全然入ってこない。でも分かる。俺は悪くない。悪いのは全部あの炎だ。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
これは、後から聞いた話だ。ギルド《ユートピア》は誰一人生き残ってはいなかった。リーダーの死因は《焼死》だそうだ。そして、あの炎が焼き払った男以外のメンバーも、数時間後には死んでいた。
そして、奴等が持っていた《クレイズナッツ》は全て回収した。ライトさんが俺にそれらを渡し、「処分は任せる」と言った。そのため今は俺の下にある。
だが、ラフコフに流しているルートは分からなかった。ただ一つ分かっているのは、《クレイズナッツ》は2人の仲介人を通しているという事だけだった。《ユートピア》から1人の仲介人に渡り、更に2人目の仲介人に渡っている。2人目の仲介人はいつも同じで、その特長は黒髪のツインテールで背中に鎌を背負っているそうだ。
【DATA】
・スカーレット(Scarlet)
二つ名:真紅の鬼神
年齢:15(2024年5月現在)
身長:166cm
体重:53kg
生年月日:2009年
容姿:黒鉄一輝(落第騎士の英雄譚)の髪を赤みがかった茶髪にした感じ。
あくまでもこれらは作者の勝手なイメージです。違うんじゃね、とかあったら言ってください(変えるとは言ってない)。読者1人1人のイメージで読んでください。
・《
自身のHPを犠牲にして刀に炎を纏わせられる。しかし、通常のものとは違い、自身もこの炎でダメージを受ける。
次回もお楽しみに!