ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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新年あけましておめでとうございます!

え?なんだって?元日から何日経ってるか分かってるかだって?何それ美味しいの?です。

まぁおふざけはここらでやめときますね。実は予定より圏内事件編の話数が多くなりそうだったりします。圏内事件編又の名をレモン回4話目です。


22.狐の叫び

「なぁレット。ここで問題だ。なぜ俺達は木の陰で男2人で《隠蔽スキル》のレベル上げをしているのでしょうか?」

 

「ふざけないでください。答えは簡単。《コミュ障スキル》カンスト間近な男と2人の重装槍戦士にビビった男じゃ、DDAの門を突破出来ないからですよ」

 

「……お前の方がふざけてないか? ていうか今、俺の事ディスったよな。もしかして、まだあのラーメン屋に連れてった事、根に持ってる?」

 

「まさか? 俺みたいな器のデカイ人なら、たかが不味いラーメン一杯食わされたぐらいなら怒りませんよ」

 

「……なんか、うん、ゴメン」

 

 キリトさんと俺がいるのは56層の主住区にある《聖竜連合》の本部付近の木陰にいた。なぜこんな所にいるのか、という本当の理由は、とある人物と話をするためだ。だが、彼には何のアポもとっていないため、直接交渉するしかない。そのために、無意識に女性の魅力を撒き散らしているアスナさんと、女の魅力?何それ美味しいの?と言いそうなレモンさんが交渉に向かっているのだ。

 

「こんにちは。私、血盟騎士団のアスナですけど」

 

 すると、門番の一人が上体を仰け反らせ声を出した。

 

「あっ、ども! ちゅーっす、お疲れっす!」

 

「あれ? アスナさんだけじゃなく、レモンちゃんもいるんスか? お久しぶりっス! どーしたんスか?」

 

 俺がビビった男達は何だったのだろう……。すげぇ軽い奴等なんですけど。

 

「チーッス! おひさ~、てるりん、キララっち!」

 

 あの人達、てるりんとキララっちっていうの? あだ名だよな、あだ名であってくれ!

 

 アスナさんも、レモンさんのそのノリに戸惑っている。レモンさんって結構すごいんじゃね?

 

「あのね、えーっと……。アスナ、何て言えばいいんだっけ?」

 

 レモンさんの隣にいたアスナさん、遠くて聞いていた俺とキリトさんはそれを聞いてよろけてしまう。

 

「もう、レモン! 私が言うわ。あの、ちょっとお宅のメンバーに用があって寄らせてもらったの。シュミットさんなんだけど、連絡してもらえます?」

 

「そうそう、シュミットだよ! てるりん、今いるかな?」

 

 レモンさんが便乗するように聞く。ホント、あれでトップクラスの情報屋なんだからすごい。

 

「どーだったかな? あの人はこの時間なら迷宮区じゃないっすかね?」

 

 てるりんが答えた。

 

「うーん、そっかぁ」

 

「あ、でも、朝メシの時に『今日は頭痛が痛いから休む』みたいな事言ってたかもしれないっスよ」

 

 “頭痛が痛い(笑)”。これはシュミットが間違えたのか、それとも、門番のキララっちが言い間違えたのか。どちらでも、ひどい間違いだ。ていうか、絶対こいつ、ネカマだろ。

 

「キララっち、それホント?」

 

「ホントホント。俺、嘘ついたことないっスよ」

 

「だったら、今は自分の部屋かもしんないっすね。呼んでみるんで、少し待っててほしいっす」

 

 てるりんが連絡する。

 

 それにしても、レモンさんはともかく、アスナさん達KobとDDAは仲は良くないはず。なのにこれだけ協力的なのは、レモンさんの圧倒的なコミュ力とアスナさんの魅力パラメータの力だろう。

 

 すると、ちょっとなんてものではなく、約30秒で返信が来たらしい。なんて速さだ。

 

「やっぱ今日は休みみたいっすね。でもなんか、まず要件を聞け、って言ってるんすけど」

 

 すると、アスナさんが少し考え、短く言った。

 

「では、『指輪の件でお話が』とお伝えください」

 

 効果覿面。頭痛が痛い(笑)のはずのシュミットさんが猛ダッシュで駆けつけ、レモンさんとアスナさんを連れて早足で丘を降りる。2人が俺達の横を通り過ぎたぐらいで合流したが、シュミットさんは何も言わず、市街に入った所でようやくこちらを向いた。

 

「誰から聞いたんだ?」

 

 このセリフには「指輪の事を」という目的語が抜けている。それを共通の認識としている俺達は気にする事なく続ける。

 

「《黄金林檎》の元メンバーから」

 

 キリトさんが名前を伏せて答える。

 

「名前は」

 

「……ヨルコちゃんだよ、シュミット」

 

 次はレモンさん。少し考えてから名前を言った。

 

 シュミットさんも辿り着いている。これが《指輪事件》に対する復讐である可能性に。ヨルコさんから聞いたというレモンさんの言葉への安堵もそのためだ。

 

「シュミットさん。昨日あんたが持って行った槍の作成者のグラムロック氏、今どこにいるか知ってるか?」

 

「し……知らん! ギルド解散から一度も連絡してない! 生きてるかどうかも知らなかったんだ!」

 

 シュミットさんは早口で叫ぶ。話しながらも辺りをキョロキョロしている。まるで、どこかから飛んで来るかもしれない槍を恐れるように。

 

「ねぇ、シュミット。ウチらはさ、別に《指輪事件》なんてどーーーーでもいいんだ。まぁ個人的には気になるけどね。ただ、《圏内事件》を解決したいだけ。犯人を捕まえて、その手口を知る事。《圏内》を今まで通り安全にするために」

 

 レモンさんがさっきまでの軽いノリを捨て、真剣に話す。アスナさんと俺は、一歩引いた所で聞いている。

 

「でもさ、やっぱ一番怪しいのって、グリムロック氏なんだよね。断定はまだ出来ない。シュミットが犯人じゃないという証拠もない」

 

「俺は違う! そんな事やってない!」

 

 シュミットさんは、そんなの堪ったもんじゃないとばかりに反論する。

 

「分かってる。でも証拠がないの。そのために、ウチらはグリムロックに会わなくちゃいけないんだ。何か連絡手段はない?」

 

 レモンさんの普段の様子からは感じられない様な真剣さに圧倒されるシュミット。

 

「…………居場所は知らない。でも、当時グリムロックが気に入っていたNPCレストランがある。ほとんど毎日通ってたから、もしかしたらいまも……」

 

「「ホント(か)!」」

 

 俺の知り合いの中でも、食い意地の張った2人が声をハモらせ、シュミットに迫る。おい、レモンさん。さっきのシリアスどこ行った!

 

 でもまぁ、分からなくもない。アインクラッドでは食事は数少ない快感だ。そして、NPCレストランで好みの味を見つける事も珍しい。すると、自分で作るしかなくなるのだ。俺も、リアルでは料理をするし、この世界の食事があまり合わないからという理由で《料理スキル》を取っているぐらいだ。

 

 話が逸れたが、そんな店を見つけたグリムロックさんが、その店を断つとは思えない。

 

「なら、その店の名前を……」

 

 キリトさんが尋ねる。ていうか、あの顔、めっちゃ食べたそう。レモンさんに関しては、もう既にニヤけてる。隣のアスナさんは、「キリト君ってどんな味が好みなのかしら?」なんて言っている。俺は、そんな3人を見てため息をつく。

 

「条件がある」

 

 だが、そんな緩みきった空気はシュミットさんのその言葉で元に戻る。

 

「教えても良いが、条件がある。……彼女に、ヨルコに会わせてくれ」

 

 

 その後、ヨルコさんにメッセージを送ったアスナさん。すぐに返信が来たらしく、シュミットさんを連れて57層の宿屋へ向かった。

 

 外はもうオレンジに染まり、そろそろ広場はプレイヤーで賑わう頃だ。こんな事がなければ俺も、ここで掘り出し物の防具でも探していたのだろう。

 

 だが、そんな事は関係ない。今まさに部屋の中ではヨルコさんとシュミットさんによる会合が行われている。付き添い人としてキリトさんとアスナさん。レモンさんは廊下に繋がるドアの前で門番的な事をしている。それは、《圏内PK》が出来る相手なら、宿屋のドアぐらい簡単に突破出来るかも、という考えからだ。因みに俺は、その意見を出した張本人として、レモンさんの横にいる。ドアには鍵もかけられ、俺達には中の音さえ聞こえない。

 

「ねぇ、レット。あの時の続き話そうよ」

 

「え?」

 

「ウチがこのゲームに入ったキッカケの話」

 

「ああ。確か、アクアさんに誘われたんですよね」

 

 レモンさん、暇過ぎてつまんなくなったんだな。

 

「そうそう。流石レット、記憶力いいねぇ。そうなんだ。ウチはスイに誘われて、このゲームに入ったの。でも、スイに色々レクチャーしてもらって、さぁモンスターを皆殺しだ、ってなったその時、茅場晶彦からデスゲームの宣告があったんだ」

 

 モンスターを皆殺しって物騒な……。

 

「ウチ、信じられなかったんだ。分からなかったんだ。たかがゲームで何で死ななきゃいけないのか。もう、現実に帰れないのか。もう、あのトラックで走れないのか」

 

 いつも笑顔を絶やさないアインクラッドが生んだトラブルメイカー。彼女も1人の被害者なのだ。俺も彼女もこのゲームに巻き込まれた被害者。それでも彼女は笑顔でい前に進み続けている。

 

「しばらくしてから、ウチは外に出たの。このままじゃダメだってね。片手に剣を持って、フィールドを走り回ったんだ。何度も死にかけて、何度も生き残って、ウチは多分、あのままだったら、感情をなくしてたかも。そんなウチを助けてくれたのは、アルゴちゃん、スイ。そして、レット達みんななんだよ」

 

「えっ?」

 

 今度こそ、本当に驚いた。いつも場を引っ掻き回し、俺に苦労をかけるレモンさんが俺にお礼を言おうとしている事に。

 

「みんなといたらすごく楽しくて、仮想世界かどうかなんて関係ない。ウチはウチらしく、やりたい事()()やれば良いって思えたんだ」

 

 やりたい事()()かぁ、と思ったのは俺だけではあるまい。

 

「だから情報屋。仮想世界では、現実世界で出来る事は何でも出来る。AGI値と現実での経験でフィールドを駆け巡って情報を集めて、それをみんなに教える。ウチは、ウチなりのやり方でみんなを守りたいんだ。レットが、その刀でみんなに希望を与え続けているみたいにね」

 

 レモンさん……。

 

「だから、ウチはこの《圏内事件》で、もう犠牲者は出さない。もう誰も、死なせやしないよ!」

 

 だが、そんな彼女の想いを、復讐者は軽々と踏みにじる。

 

「レモン! レット君! あ! ゴメン、レット君!」

 

 勢いよく開いたドアに押し出され、俺は階段から転げ落ちる。

 

「レットも災難だねぇ」

 

 他人事だからって呑気に言いやがって。さっきの名スピーチが台無しだぞ。

 

「まぁ、それは置いといて。アスナ、どうしたの?」

 

 置いとくなよ!

 

「……ゴメンなさい。……ヨルコさんが……」

 

 その表情、そして言葉。俺は急いで階段を上がり、部屋に飛び込む。レモンさんは力なく床に座り込んだ。

 

「アスナさん、キリトさんは?」

 

「窓の外の犯人を追って行ったわ」

 

 犯人はキリトさんに任せよう。そして、起きてしまった以上、俺達に出来る事は残されていなかった。

 

 

 キリトさんが宿屋に戻って来た。

 

「バカっ、無茶しないでよ!」

 

 アスナさんはキリトさんを心から心配している。

 

「キリトさん、それで犯人は?」

 

「ダメだ。テレポートで逃げられた。顔も声も、男か女かも分からなかった。グリムロックなら、男だったんだろうけど」

 

 だが、そんなキリトさんの言葉にシュミットさんは反応する。

 

「……違う」

 

「違うって……何が?」

 

 アスナさんが尋ねる。

 

「違うんだ。あれは……屋根の上にいた黒いローブは、グリムロックじゃない。グリムはもっと背が高かった。それに……それに、あれはGAのリーダーの物だ。彼女は街に行く時はいつもあんな格好だった。あの日だってそうだ! さっきのあれは、彼女だ。俺達全員に復讐に来たんだ。あれは、リーダーの幽霊だ」

 

 狂った様に笑いながら話すシュミットさん。

 

「幽霊なら何でもアリだ。圏内でPKするくらい楽勝だよな。いっそリーダーにSAOのラスボスを倒してもらえばいいんだ。最初からHPがなきゃ死ぬ事なんてッ!」

 

 シュミットは真横から飛んで来た拳に頬を殴られ、【Immortal Object】のシステムタグと共に椅子から落ちる。それをやったのは、

 

「レモンさん……?」

 

 両目が赤くなり、今も流れ続ける涙を拭うレモンさん。その表情からはありとあらゆる感情が読み取れる。

 

「ふざけんなッ! 何が幽霊だ! そんなもののせいでヨルコさんは死んだって言うの!」

 

 レモンさんが声を荒げる。そんな姿初めてだ。

 

「ゲームが始まって約1年半。ここまで必死に生きてきたのに、そんな訳のわからない方法で死んだって言うの! そんなのヨルコさんが可哀想過ぎるよ!」

 

 二度も殺人をとめられなかった。その思いがレモンさんは誰よりも強い。

 

「犯人はウチらと同じプレイヤー。明確な悪意を持って、ヨルコちゃんを殺した。だから幽霊なんかじゃない! 例えそうだとしても、さっきまで話してたヨルコちゃんが死ぬわけない! リーダーの事、尊敬してて好きだったのに、ヨルコちゃんが殺されるなんてあり得ない!」

 

 みんなそう思っている。でも、誰もここまで涙を流し、声を荒げたりはしなかった。

 

「ウチはウチ自身を許さない。二度も目の前で人を殺されたんだ。殺しのトリックも分からず、友達1人救えないなんて、情報屋の名が泣くよ!」

 

 レモンさんは最初から、自分の誇りをかけて操作に臨んでいた。

 

「必ず、犯人はウチが捕まえる。そして、カインズさんとヨルコさんの名前の前で謝罪させる。だから、そんなふざけた考えは捨てろ、シュミット!」

 

 レモンさんは部屋を出て行く。ドアを閉める時に大きな音が出た。しばらく、誰も動かなかった。

 

「……キリトさん。俺、レモンさんの所行って来ます」

 

 俺の所からレモンさんの顔はしっかり見えていた。話せば話すほど、涙が溢れていた。ホントはシュミットさんの事を責めたかったはずだ。彼がそんな事を言いださなければ死ななかったのかもしれないのだ。でも、それは最初と最後だけだった。

 

 彼女は悔しいのだ。情報屋として、何も分からない事。何度も、犯人の思惑通りに事が進んでいる事。そして何より、友達を助けられなかった事が。

 

 俺は索敵を発動させ、レモンさんの元へ急いだ。




【DATA】

・no data


次回もお楽しみに!

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