ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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ようやくテストが終わりましたッ!これから更新スピードを戻していきたいと思っています。

少し時間が空いたせいで変かもしれませんが、《圏内事件》編第2話です。レモン回とも言える回となっております。


20.《圏内事件》のロジック

「おい、急ごうぜ……って」

 

 キリトさんがアスナさんにそう言うとした。彼女の格好は紅白装備。この街では目立つ。まぁ、俺も赤黒だからキリトさんに比べれば目立つ。レモンさんは普段の霞んだ黄色なので、まだマシだ。

 

「何買い食いなんてしてんだよ!」

 

 怪しげな屋台で串焼き肉を買ったアスナさん。両手に5本ずつ持って、満足気な笑みを浮かべているレモンさん。

 

「だって、さっきはサラダを少し食べただけじゃない。……うん、これ結構イケるよ」

 

 アスナさんはそれを食べ進めながら、キリトさんに一本差し出す。

 

「へ? くれるの?」

 

「だって、今日は最初からそういう話だったでしょ」

 

 キリトさんは頭を下げながら受け取った。

 

「あのー、レモンさん。俺の分とかないんですか?」

 

「ん? ないよー」

 

「……そうですか……」

 

「だって、お腹空いちゃったんだもん」

 

 さっきも、魚にスペアリブと2品はきっちり完食していたにも関わらず何言ってんの、この人。と、ここで俺は重要な事に気付いた。

 

「ああッ! 俺の金……全然残ってねぇ! しかもその内のほとんどは食べてすらないし!」

 

 レモンさんが俺の支払いと言ったせいで、俺の財布から引かれている。なのに、店を飛び出したもんだから、食べてないのに、お金が減った。

 

「……俺……どうすればいいんだ?」

 

 結局、俺は非常用にストレージに入れていた干し肉を1つだけ取り出し食べる。こんなんで腹が満たされるわけがない。これからの食費、しばらく抑えないとな。

 

ほぼ同時に3人が串焼き肉を全部(キリトさんとアスナさんは1本、レモンさんは10本)食べ終わり、店に到着した。

 

「うーっす。来たぞー」

 

「……客じゃない奴に『いらっしゃいませ』は言わん」

 

 そう言いながら、エギルさんは店内の他の客に謝りながら追い出した。ウィンドウを操作し、店を閉めた。

 

「って、レットにレモン。お前らまた来たのか」

 

「うん。ちょっと面倒な事があってね」

 

「……お前のその真剣な目は、それだけ重要な事ってわけか。だがなキリト、この時間は稼ぎ時なんだぞ。商売人の渡世は1に信用2に信用、3、4がなくて5で荒稼ぎ……」

 

 怪しすぎだろ、それ。

 

 だが、そんな言葉はキリトさんや俺の陰に隠れて見えなかった人物を見て、強制終了された。

 

「お久しぶりです、エギルさん。急なお願いをして申し訳ありません。どうしても、火急にお力を貸して頂きたくて……」

 

 エギルさんは、厳つい顔を崩し、お茶まで出した。これ、男としては間違ってないけど、既婚者としてはどうなんだ?

 

 

 俺たちはエギルさんの店の2階で事件について話した。

 

「圏内でHPがゼロになった、だとぉ? デュエルじゃない、というのは確かなのか?」

 

「それについてはウチから。

 圏内でのHP全損の可能性はデュエルだけ。だからロープよりも先にウチは対戦相手探した。建物の中は後回しで、その周り。もちろん怪しい奴はいなかったし、転移エフェクトもなかった。コリドーを見つけられないわけもないはず。そもそも、ウィナー表示さえも見つけられなかったの」

 

 レモンさんがいつもより数百倍真面目な声で言った。

 

「第一、突発的なデュエルにしては手口が複雑過ぎる。事前に計画されたPKである事は確実だと思っていい。そこで……こいつだ」

 

 キリトさんがカインズさんを釣っていたロープをオブジェクト化してエギルさんに渡す。エギルさんは渋々、《鑑定》メニューをクリック。

 

「……残念ながら、NPCショップの汎用品だ。ランクを普通で、耐久度は残り半分ぐらいだな」

 

 当たり前だろう。全身をフルプレート・アーマーに身を包んだプレイヤーをぶら下げてたんだ。犯人にとっては、死ぬまで機能してくれればそれでよかったのだ。

 

「まぁ、ロープにはあんま期待してなかったさ。本命は次だ」

 

 続いて、黒い短槍がオブジェクト化される。だが、俺のオニマルに比べれば見劣りするだろうし、他の3人の主武装と比べてもランクは低いだろう。でも、これは1人の男をこの世から消し去った、紛れも無い()()なんだ。

 

「PCメイドだ」

 

「「本当か(ですか)!」」

 

 キリトさんとアスナさんが同時に身を乗り出した。

 

「誰ですか、作成者は?」

 

「《グリムロック(grimlock)》。聞いた事ねぇな。レモン、お前は知ってるか?」

 

 ウィンドウを弄り、さっきまでの話を聞くだけだったレモンさんに、エギルさんは話を振る。

 

「えっ……えっと……グリムロックね……。知らないかな、ウチも」

 

 エギルさんやレモンさんが知らないなら、知っている奴はここにはいない。

 

「でも、探し出す事は出来るはずよ。このクラスの武器を作成出来るまで、ずっとソロプレイだとは思えないわ」

 

「そうですね。きっと、中層で聞き込めば、《グリムロック》さんも見つかるはずです!」

 

 アスナさんの言葉に俺が補足する。事件解決の糸口が見えて来た。

 

「確かに、レットやアスナの言う通りだな。こいつみたいなアホがそうそういるとは思えん」

 

 エギルさんが深く頷き、アスナさんとレモンさんと共に、例のアホソロプレイヤーを見た。俺もあまり人の事は言えないので苦笑いしか出来ない。

 

「な……なんだよ。お、俺だってたまには、パーティーぐらい……」

 

「ボス戦だけでしょ」

 

「なッ……。そ、それを言ったらレットだって、ソロじゃないか」

 

「レットはウチと今コンビだよ」

「俺もよく組むぜ」

 

「だそうだけど、キリト君」

 

 キリトさんは顔を背ける。論破されてしまった。

 

「ま……正直、グリムロックさんを見つけても、あんまりお話したい感じじゃないけどね……」

 

 アスナさんとは同意見だ。《貫通継続ダメージ》はモンスター相手では効果がない。Mobは恐怖も痛みも感じない。《暗黒剣》が《対人専用ユニークスキル》なんて言われるのと同じ理由だ。つまり、そんな武器を作るグリムロックという鍛冶屋は、人を殺すための武器だと理解して作ったのだ。

 

「簡単には、話は聞けそうにないですね。お金、足りますかね」

 

「私とキリト君で出すわ。レット君は可哀想だし、レモンは……他にも活躍出来るし」

 

 問答無用で払わされる事になったキリトさん。ご愁傷さまです。

 

「手掛かりにはならないだろうけど、一応武器の固有名も教えてくれ」

 

「えーっと……《ギルティソーン》だな。意味は……」

 

 俺が、エギルさんを遮って言った。

 

「罪のイバラ……ってとこですかね。なんか、嫌な響きですね。罪人を裁くための武器。『これは見せしめだ。次はお前だ』と誰かに警告しているかのような……そんな響きです」

 

 俺の言葉に対して、誰も何も言わなかった。だが、その無言は、おそらく肯定なのだろう。

 

 

 俺たちは、アルゲードから第1層《はじまりの街》に移動した。目的は《黒鉄宮》の《生命の碑》。

 

「軍が色々やってるって、ホントだったんですね」

 

「そーだよ。治安維持のためだー、とか、安全のためだー、とか言ってね。確か、近々《課税》を始めるなんて噂もあるよ」

 

「それ、ホントに軍みたくなってるじゃないですか」

 

 まさか、ここまでおかしな事になっていたとは。

 

 25層の双頭の巨人の様なボスによって、《軍》は壊滅的な被害を受けた。一度はレイドが崩壊し、撤退を余儀なくされた。しかし、二度目の戦いでは、《神聖剣》を使わずに、驚異的な防御力を発揮したヒースクリフと天賦の才と言うべき分析能力と指揮能力を発揮したナイトの2人の活躍も大きく、倒す事が出来た。それでも、それっきり《軍》が前線に来る事はなかった。

 

「どう、キリト。グリムロックは生きてる?」

 

「ああ、生きてる。エギル、そっちはどうだ?」

 

カインズ(Kains)は確かに死んでるな。死亡日時はサクラ(4)の月22日、18時27分」

 

「……日付も時刻も間違いないみたいね。まさにその頃、私たちはレストランから出たわ」

 

 4人がそんな話をしている中、俺は全く違う文字を見ていた。《M》のブロックの真ん中より少し上、もうこの世にいない事を示す横線が引かれた《Megumi》の名前。

 

「………………いつか必ず、お前の仇は取るよ。

 この城の頂なら、お前に声や手が届くかな。そしたら、もう一度だけ、声を聞かせてくれ、メグミ」

 

 俺はそう言って、みんなの元に戻る。

 

「グリムロック氏を探すのは、明日にしましょう」

 

「そうだな……」

 

「あのな……俺はだな、一応本業は戦士じゃなくて商人でだな……」

 

「分かってるよ。助手役は今日でクビにしてやろう」

 

「エギル、今度は、ウチの助手もやってよ。クエストの調査、したいから」

 

「おう、分かった。済まねえな。頑張れよ」

 

 エギルさんが去ったのを確認し、俺たちは今後の動きを確認した。

 

「もう今日は遅いですし、解散にしましょうよ。また明日、やりましょう。それと、各自で少し整理してから、という事で」

 

「そうね。じゃあ明日は朝の9時に57層の転移門前にしましょう。寝坊しないでちゃんと来るのよ」

 

 最後の言葉はキリトさんに向けて放っていた。

 

「分かったよ。お前こそ、今夜はちゃんと寝ろよ。何なら、また隣で……」

 

「いりません!」

 

 アスナさんはそのまま、《グランザム》に戻った。俺もキリトさんと48層に戻ろうとしたのだが、レモンさんによって止められた。

 

「何ですか、レモンさん?」

 

「レット、少し手伝ってくれない? 検証したい事がいくつかあるんだ。ね、お願い」

 

「当たり前ですよ。早く、この事件を解決しましょう」

 

 

 レモンさんは『今夜の2時、57層の転移門集合』とだけ言い、ここで別れた。正直、眠れる時間もないのでやる事もない。俺は先に57層に行って、近くでコルを稼いでいた。

 

 10分前になり、コル稼ぎをやめ、待ち合わせ場所に向かった。

 

「すいません、遅れてしまって」

 

「ううん、いいよ別に。じゃあやろっか」

 

「何をですか?」

 

「実験。カインズ氏が死んだトリックを暴く。《圏内事件》の手口を見つける」

 

 サラッと凄い事を言ったレモンさん。それが分からなくて困っていたのに。

 

「そんなの、分かるんですか?」

 

「分からない。でもとりあえずやってみよ。はいコレ。とりあえず着てもらえる?」

 

 渡されたのは、フルプレートアーマー。俺にこれを着ろと……。

 

  それを着た俺とレモンさんは殺害現場となった塔に登った。

 

「まずは、カインズ氏がどんな感じだったかから確認しよう。まずは、ウチがデュエルを申し込むから、半撃決着で受けてくれる? あ、安心して。一回攻撃したらすぐにウチがリザインするから」

 

 レモンさんはテーブルの足にロープを結び、両手剣を槍に変えた。その槍には逆棘があり、何をやろうとしているのか、少しずつ理解してきた。

 

 レモンさんは準備完了、といった感じでこちらを見て、デュエルを申し込む。俺は《半撃決着モード》を選び、棒立ちになる。

 

「やあっ!」

 

 レモンさんが俺に槍を突き立てる。フルプレートを貫通し、俺からは赤いダメージエフェクトが出る。それだけではなく、俺の首にロープをやり、あろう事か、塔から蹴り落とした。

 

「えっ……ちょっ……れ、レモンさんΣ! いきなり何するんですかΣ? 死ぬから早くΣ!」

 

 俺のHPは減り続け、残りは7割。胸から赤いダメージエフェクトと着ているフルプレートの耐久値の減少のエフェクトが出続ける。

 

「あっ、そっか。ごめんごめん。リザイン!」

 

 俺とレモンさんの間に《ウィナー表示》が出た。だが、そんな事は気にしないとばかりにレモンさんは、釣られた俺をほっといて塔を駆け下りる。そして、釣られたままの俺を数秒観察した後、再び駆け上がり、俺を降ろしてくれた。

 

「……はぁはぁ、死ぬかと思いましたよ!」

 

「でも、死ななかったね。ウチらにはこんな風にしか見えなかった。つまり、これではない何か複雑なトリックがあったって事だよね」

 

 レモンさんがやっているのは検証と実験。それは、情報屋の性なのか、自分で確かめたいらしい。でも、これだと俺、その内死ぬんじゃ……。

 

「じゃあ次は、圏外で《貫通ダメージ》を受けて圏内に戻った場合だね。レッツゴー!」

 

 その後も色々な実験をさせられた。レモンさんはその結果をメモしていった。

 

 

・パターン1【見たまんま】

 →結果:出たのは耐久値減少エフェクトのみ(ダメージエフェクトはデュエル終了と同時に停止)

 

・パターン2【圏外で槍&圏内へ移動(回廊結晶の使用を想定)】

 →結果:出たのは耐久値減少エフェクトのみ(ダメージエフェクトは圏内に入ると同時に停止)

 

・パターン3【デュエル終了時に距離を開ける】

 →結果:両者の頭上にウィナー表示が出る

 

〈結論〉上記の方法では圏内殺人は不可能

 

(レモンさんのメモより抜粋)

 

 

「はぁ……俺、何回槍で貫かれたらいいんですか?」

 

「うーん、ダメだぁ。どれも圏内殺人は不可能。これはダメだね」

 

「そういえばその槍とフルプレート、どこで手に入れたんですか?」

 

「槍はリズちゃん。フルプレはNPC武具店。リズちゃんには悪い事しちゃったよ。実験のためとはいえ、こんな武器を作らせちゃって」

 

 確かに、すごく申し訳ない気持ちになる。これは、必ず解決しなければ。

 

「レモンさん、他に可能性はないんですか?」

 

「あるにはあるよ。ほら、これ見て」

 

 レモンさんがさっきの文の下に3つの項目を書き足した。そして、それを俺に見せる。

 

 

・パターン4【圏外で1発でHPを削る攻撃を受け、回廊結晶で移動】

 →実験不可能により未検証

 

・パターン5【《全損決着モード》によるPK】

 →デュエルの敗者が死亡した場合、そのプレイヤーの頭上にはウィナー表示は出ないという仮説の実証が必要のため未検証

 

・パターン6【カインズ氏は生きていて、圏内殺人はそもそも起きていない】

 →《生命の碑》において、カインズ氏の死亡を確認したため検証の余地なし

 

(レモンさんのメモより抜粋)

 

 

「ちょっと待ってください。最後の、意味分かんないですけど……」

 

「あの時、ウチらが見たのは、カインズ氏がポリゴンに包まれた所だけ。実は、フルプレの耐久値全損でも、死亡エフェクトに似た感じになるんだよ。もし、それであればカインズ氏は生存且つ、彼は犯人グループの一味って事」

 

 なぜか、すごくしっくりくる。

 

「それですよ、絶対! あれだけ検証しても分からなかったんですから。さすがレモンさん!」

 

「だから、それは無理なんだよ。だってウチらはさっき、この目で、カインズ氏の死亡を確認したばっかりじゃん」

 

 そうか。確かにそれでは無理だ。これで、全て振り出しに戻った。

 

「仕方ない。実験はこれで終了。レット、今日はもう休もう」

 

「そうですね」

 

 俺たちはキリトさんたちとの解散から約8時間後、帰路に着いた。明日から始まる調査に向けて、俺は何か引っかかるものを覚えながらも、目を閉じた。




【DATA】

・no data


次回もお楽しみに!

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