ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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前回のレット回から変わり、ナイト回。ラフコフもここから動き出します。

レットがどうなったのか、気になる方もいると思いますが、少しだけお待ちください。

少し今回は短めです。変な所があればお知らせください。


18.白き悪魔の狩り

「はぁはぁッ」

 

 時刻はまだ午前2時。近くに街灯もなく、辺りは真っ暗だ。昼型のプレイヤーは既に、夢の中。夜型のプレイヤーは、今頃レベリングの真っ最中だろう。

 

「はぁはぁッ……。まだ撒けてないのカ……」

 

 フードを被った小柄なプレイヤーが静かな街中をひたすら走り続ける。石畳みでは、足音も消す事は出来ない。

 

 そのプレイヤーの耳には届いていた。自分の足音とは別の、もう1人の足音が。その足音の主もプレイヤーには分かっていた。なぜなら、ついさっきまで尾行していた相手だからだ。しかし、反対側の路地裏で、その相手に見つかってしまった。いや、と言うよりも、待ち伏せられていた、と言うべきだろう。そして、この漆黒の闇に包まれた街での鬼ごっこに発展した。

 

「くそッ……オレっちとした事が、見つかったカ。ナー君も腕を上げたナ。なんて、言ってる場合じゃないナ」

 

 逃げるプレイヤーの名は《アルゴ》。アルゴは《鼠のアルゴ》と呼ばれており、その名をこのアインクラッドで知らない者はいない、とさえ言われる情報屋だ。自身のステータスはAGI特化。それに加えて、鍛え抜かれた《隠蔽》スキルによる隠密行動で、多くの情報を集め、売れるものは全て売るとさえ言われている。

 

 そんな彼女をここまで追い詰めるプレイヤー。彼もまた、このアインクラッドで知らない者はいない。

 

「姿を見せやがれ、鼠ィ! この近くにいる事は分かってんだ。諦めて出て来い!」

 

 彼の名は《ナイト》。攻略組のトッププレイヤー、《純白の騎士》とは彼の事だ。AGI-STR型の彼は、序盤は避ける事に徹し、その隙に、自慢の観察眼で特徴を把握。レイド全体に指示を出しながらも、自分は積極的に攻撃参加。パリィと攻撃を絶妙なタイミングで行えるダメージディーラー。

 

「はぁはぁ……。(誰がノコノコと出てくるんダ。そんな奴、いるわけないダロ)」

 

 だが、それは既に過去のものだ。今の彼は、攻略組としての名声を全てドブに捨て、アインクラッド最悪のPK集団《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》のサブリーダーとなった。対人戦闘も得意としていた彼にとって、天職とも言えなくもない職だった。加えて、ユニークスキル《暗黒剣》は、既にPK用スキルと認知されている。自ら《純白の悪魔》と名乗り、攻略組を裏切った。その日から約2カ月経った今では、《最凶無敵のレッドプレイヤー》と彼を讃える信者まで現れる程だ。

 

「今ならいけル。転移、グランz「見ィつけた!」……ッ! しまっタ!」

 

 アルゴはナイトによって攻撃された。圏内のため、ダメージは通らないが、かなりの衝撃があった。

 

「よォ、鼠。随分と逃げてくれたじゃねェか。オレは悲しいぜ、仲間にこんなに嫌われてるなんてなァ!」

 

 ついに、路地裏に追い詰められたアルゴ。《転移結晶》の使用を妨害により、それを落としてしまう。しかも、剣を突きつけられている。

 

「ッ! ナー君がそれを言うのカ? 攻略組を裏切っておいて、よく平気な顔をしてられるナ」

 

「いやァ、オレだって辛いんだぜ。こんなオレを“仲間”と言っていたバカ共に攻撃するのはな。でもまぁ、オレにだって目的があるんだ。そのためなら、他の全てを犠牲に出来るのさ」

 

「……オレっちは、初めから、ナー君は少なくとも善人じゃないとは思ってたヨ。でも、善悪の判断はまともに出来ると思ってタ。失望したヨ、ナー君」

 

「そりゃ残念だ。まぁとにかく、オレに黙ってついて来い。そうすりゃ命だけは助けてやるよ」

 

 だが、アルゴはニヤリと笑う。

 

「ナー君。最近、圏内に入ってなくて忘れてたんじゃないカ? ここで、ダメージは通らないんだヨ。でも、軽いノックバックはあるんダ!」

 

 体術スキル《水月》。ナイトの体が大きく傾き、その隙にアルゴは自身のAGIの限界まで引き出し、走る。

 

 曲がり角を曲がれば逃げ切れる。そう確信していたアルゴ。しかし、曲がり角の先には、荒れ果てた村があった。

 

「なッ……何で……村に出たんダ……。一体……何がどうなって……」

 

「ハイ、騙されたァ~~! ククッ……いやァ、お前最ッ高だよ。オレの予想通りの行動をしてくれるよ」

 

 そしてアルゴは倒れる。腕にはピック。おそらく麻痺毒だろう。

 

「よく効くだろ。オレ自家製の毒なんだぜ」

 

「《回廊結晶》カ……」

 

「無視すんのな。まぁいいや。

 なァ、鼠。お前、オレの部下になれ。お前のその情報とコミュニティの全てが欲しい」

 

 ナイトはアルゴを誘う。最初から、彼の目的はこれだった。

 

「そんな事、オレっちが首を縦に振ると思うカ?」

 

「じゃあいいや。お前が嫌なら無理には言わねェよ。オレはお前がやりたいって言うのを待つよ」

 

「ナー君。ラフコフに入って、頭が悪くなったのカ?」

 

 アルゴは無理をしつつ、余裕の表情を作る。ナイトだけには屈してはいけない。そう思っているからだ。

 

「《暗黒剣》……解放!」

 

「ッ! あああああッ!」

 

 ナイトは黒いオーラを纏った剣を突き刺す。アルゴはその痛みに堪らず声を上げる。

 

「そうだ。もう1つ言う事があったんた。ちょっと、耳貸せ」

 

 そう言うと、痛みで苦しむ彼女の耳元で何かを言う。すると、アルゴの顔色が悪くなる。

 

「ッ! やめロ! それだけはやめてクレ! 何でもするから、頼ム!」

 

「クククッ。そんなにあいつが大事かよ。鼠って、意外と優しいんだな」

 

「ナー君の部下でも何でもなってやル! だから……ああああッ!」

 

 再び剣を突き刺す。

 

「お前、状況が分かってねェみてェだなァ。部下にしたいのはオレだ。お前が本当になりたいのはなんだ? オレは、お前の意思を尊重したいんだよ。ちゃんと、どうしたいのか、言葉にして言ってくれよ。オレ、バカだからよォ」

 

 相手の弱みを握り、相手を追い詰めて行くナイト。これは、悪人の考え方だ。

 

「……ッ! 頼む。オレっちを……ナー君の駒にしてクレ。どんな命令でも聞ク。何でもやル。だから……あいつだけには手を出さないでクレ、頼ム」

 

「そうか、お前はオレの何でも言う事を聞く駒になってくれるのか。そうか、そうか。そりゃ嬉しいな。ちゃんと、言った事は守れよ、鼠」

 

「……分かったヨ」

 

「おっと、言い忘れてた。誰かにバラしてみろ。そいつの命はねぇからな」

 

「あ、当たり前ダ。だから……」

 

「約束は守るぜ、オレは」

 

 ナイトはそこにアルゴを残し、《転移結晶》でどこかへ行った。麻痺が治っても、しばらく動けなかったアルゴ。自分がどんな状況に置かれているのか、理解し、これからどうすればいいのかに悩む。

 

 

「お帰りなさい、ナイトさん」

 

「よォ、ベルデ。助かったぜ、アルゴの接近を教えてくれてさ」

 

「いえ。それが俺の役目ですから」

 

 ベルデはまだ何か、聞きたい事があるようだ。

 

「あの、ナイトさん。あなたの目的は何なんですか? 仲間だった人にあんな事までどうして……」

 

「……なァ、ベルデ。テメェがオレに尽くしてくれているのは知ってる。だがよォ、少し調子に乗り過ぎだ」

 

 殺気を放つナイト。それに怯み、何も言えなくなるベルデ。

 

「いいか、オレはオレ以外の誰も信用しちゃいねェ。ホントの事は誰にも言うつもりはねェ」

 

 ベルデを置いて奥に行くナイト。彼の目は赤から黒に戻り、纏っていた雰囲気も僅かに変わる。

 

「計画は、第2段階まで来た。後は、アルゴ次第だ。第3、第4は俺の番だ。後少し、後少しだ……」

 

 コツンコツン

 

 奥から、片手剣を腰に刺した少女がやって来た。

 

「あっ、ナイトさん!」

 

「……スファレか。どうした?」

 

「《鼠のアルゴ》さんの方はどうでしたか?」

 

「ん? 脅して何とかしたぜ。これで、攻略組の情報は大丈夫だ。お前は、本職に戻れ。中層の情報を頼む」

 

「了解です、ナイトさん」

 

 

 《鼠のアルゴ》は人知れずラフコフの手に落ちた。それが、4ヶ月後の事件に大きく関わる事はまだ誰も知らない。




【DATA】

・no data


次回もお楽しみに!

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