そして、その後はおそらく衝撃の展開です。
「俺は……こんな所で死ぬわけにはいかねぇんだ。メグミに守るって約束したんだよ。この世界から出るって決めたんだよ。全プレイヤーの希望になりたいんだよ。ったく、重すぎるだろ、この鈍刀。重いだけかよ! 何でもいい。俺に力をくれェ!」
その時、俺の目の前に、1つのウィンドウが現れた。
【《
何? 封印が解けた?
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はははっ……言ってみるものだな。でも、もう少し早く言ってくれよ。もう死にかけなんだけど……。
俺は、メグミの方を見て言った。
「メグミ。多分今から俺、マジでキレるわ。こんな時にようやくかよ、って感じでさ、イラついてんだ。でも、必ず守るから」
メグミからの声援も聞こえる。何か、厨二病みたいで嫌なんだよな、呼ぶの。でも、諦めよう。
「ふぅ……ったく。ナマクラ、お前、ホントタチ悪いよ。製作者の顔が見て見たいよ」
俺は、こんな世界を作ったイカれた天才を思い出し、心の中で、放送禁止用語を中心に罵る。そして、もう一度息を吸う。
「さぁ来い! 《
すると、右手に持っていた《
そして、刀を包んでいた炎が消えると、そこにはナマクラの面影はなかった。
黒い刀身に、真ん中を根元から先まで伸びる真紅のライン。刀と呼ぶには幅広く、曲刀と呼ぶには曲がっていない。全てを焼き切る炎のような、圧倒的な威圧感に存在感。俺は持った瞬間に、この刀の強さを感じた。《菊一文字》なんて比べ物にならない。おそらく、この世界にも10本もないほどのスペックだ。
俺は、《ヴァイオレンス・ネペント》と向き合う。武器のスペックは申し分ない。もう、あいつに負けても、武器のせいには出来ない。
【《
専用ソードスキル……。やってやる!
「うおぉぉぉぉぉッ!」
俺は、左腰にオニマルを構える。すると、刀はライトエフェクトの代わりに、灼熱の炎を纏う。左腰に構えた刀を右上に切り上げ、垂直斬りをしながら右下に流すように切る。そして、右上に切り上げ、水平斬り。右腰の方から、高速二段突き。最後に右上からの全力の袈裟斬り。
計7連撃の大技が《ヴァイオレンス・ネペント》を襲った。スキル終了後も、ボスは炎に包まれていた。そして、オニマル自身も炎を纏っている。
そして、俺が顔を上げるとほぼ同時に、《ヴァイオレンス・ネペント》は爆散した。
「はぁはぁ……はぁ。はははっ……疲れたぁ~」
「お兄ちゃんッ!」
「メグミ……勝ったぜ」
「うん。見てたよ。すごく、かっこよかった!」
「ありがとな」
俺は、メグミの頭を撫でる。メグミは少し頬を赤らめながらも嬉しそうにしている。
「さっさと毒治して帰ろうぜ、メグミ。……どうした、メグミ」
さっきまで笑顔だったメグミの表情が暗くなる。何かあったのだろうか?
「お兄ちゃん。《
「ああ。持ってるんだろ」
「それがね、さっき、一個使っちゃったんだ。ポーションで回復してたけど、HPがやばくなって……。それ使って毒治して、結晶を使ったの。だけど……またやられちゃった……」
《
「……そんな…………。嘘だろ……。そんなのって……」
「ごめんね……お兄ちゃん……。せっかく……助けて……くれたのに…………」
メグミは涙を流す。だが、その涙は迫り来る死への恐怖ではなく、俺への謝罪から。
そして俺は、悲しそうな表情をするだけで、そのアイテムを渡す事が出来ない。俺もまた、その毒にかかっている。
「いいよ、アイテムはお兄ちゃんが使って。私は大丈夫だから」
メグミは、俺が言えなかった事を簡単に言う。
「……メグミ。そ、そんなの……ダメに決まってるじゃないか……! お前は、現実に帰って、自由にやりたい事やるんだろ。そうだ。メッセージ送って誰かに持って来てもらえば……」
「無理だよ。この森は、迷宮区と一緒なんだよ。外とのやりとりは出来ない」
「じゃあ……圏内に戻ろう。そうすれば……」
俺はいいアイデアだと思った。しかし、メグミは首を振る。
「それもダメ。知らないの? この毒があるうちは、結晶アイテムは使えないの。宿屋に戻っても回復はしないんだよ」
全部知っていた。でも、動揺している俺には、そんな判断さえ出来なくなっていた。
「じ、じゃあ……ど、どうすれば…………。そうだ、圏内まで歩いて戻ろう。そうすれば少なくとも、HPは減らない」
しかし、それでもメグミは首を振る。
「忘れたの? 私、オレンジだよ」
オレンジカーソルのプレイヤーは圏内に入る事が出来ない。そんな事さえ忘れていた。
「カルマ回復クエストも、1日規模でかかるから、HPが保たない。ね、私は助からないんだよ」
もう、2人とも助かる道は、残されていなかった。もし、あったとしても俺には思いつかない。《致死毒》の結晶アイテム使用不可、メグミのオレンジ化、《ブラックフォレスト》外部とのやり取りの遮断。それが、上手い具合にマッチして、助かる確率を極限まで下げていく。
「これで、最後のポーション。もう、後は死ぬだけみたい」
《致死毒》は10秒で300ずつHPが減る。俺とメグミではレベルに差があり、HPにも当然差が出る。よって、俺よりもメグミの方がポーションの減りが早くなってしまう。
「ッ! メグミ、これ……俺のポーションだ。使ってくれ」
「ありがと。じゃあ……もらうね。その代わり……」
メグミは俺の腰のポーチに手を伸ばし、《
「お兄ちゃんが、これを使ってね」
笑顔でそれを俺の口に突っ込んだ。これは、いわゆる丸薬だ。俺はあまりに急だったので、吐き出す事さえ出来ず、飲み込んでしまう。そして、俺の《致死毒》は治った。
「ば、バカ! 何で俺に……」
「私とお兄ちゃん、どっちが生き残るべきだと思う?」
「そ、そんなの……お前に決まってんだろ! 現実に戻って、輝かしい未来が待っているお前に!」
メグミは首を横に振る。
「ほら、お兄ちゃん何も分かってないよ。私は、そういうチヤホヤされるのが嫌なの。だからお兄ちゃんを殺そうとした」
「ッ……でも……それでもお前が生き残るべきで……」
メグミは再び首を横に振る。
「中層プレイヤーの私と、攻略組最強の刀使い、どっちがこのゲームをクリア出来るかなんて一目瞭然だよ。お兄ちゃん、ちゃんと分かってる? 今ここで生き残っても、ここから出れないんじゃ意味はないよ。私じゃ、何の貢献も出来ないし、何より、ラフコフが私を生かしておくメリットなんてない。だから、お兄ちゃんが生き残るべきなんだよ」
メグミの言っている事は正論だ。でも……正論が全て、ベストな選択だというわけではない。
「そうだ、俺が今から結晶で戻って、解毒薬を……」
「無理だよ。あのクエスト、難易度低いのに時間かかるから。多分、半日はかかっちゃうよ。誰かにもらう、でもいいけど、それでも私のHPは保たないよ」
俺が迷っていたから……、救える命が救えなかった……。俺が、迷ってさえいなければ……。
「そんなに自分を責めないで、お兄ちゃん。お兄ちゃんが、私を助けてくれようとしてるのは十分伝わってるよ」
堪え切れない涙が、目から溢れて頬を伝う。おそらく、メグミにも俺の嗚咽は聞こえているだろう。
「いいんだよ、お兄ちゃん。多分、バチが当たったんだ。それとも、ほら、私って可愛いじゃん。そういう人って早死するって言うじゃん」
メグミが、俺を励まそうとする。俺は悪くない、悪いのは全部自分だ、そう言ってくれている。でも、そんな事ない。悪いのは俺だ。俺と仲直りするためにナーヴギアを被り、俺と話すために必死でレベル上げして、何度も話しかけてくれた。なのに、俺はそれを無視し続けた。そして、本当に大事な事に気づいた頃にはもう、遅かった。
「……ごめん……ホントに……ごめん。俺はお前に……何も…………してやれなかった……。攻略組としても、兄としても……ホント、最低だよな……」
「ううん、そんな事ないよ。私は嬉しいよ。死ぬ間際に、お兄ちゃんからこんなに心配されてる。私を見てくれてる。もう、それだけでも満足。ただ、後1つだけ、私のお願いを聞いて、お兄ちゃん」
メグミのHPはイエローゾーンに突入した。もう、ポーションもない。後、2分程だ。
「何だ? 言ってみろよ。俺に出来る事なら、何でもやってやるから」
「うん。じゃあさ、最後に……お兄ちゃんに、甘えても……いいかな?」
妹相手に、ドキッとしてしまった。恵は、俺が知らないうちに、ここまで色っぽく……って何こんな時に言ってんだよ。
「も、もちろんさ。ほら、おいで」
「うんッ! えへへ」
「そんなに甘えたかったのかよ」
「うん! 私、こういう事した事ないんだよ。お兄ちゃんもお姉ちゃんもレオ兄もみんなそうだよ!」
「悪い悪い」
しばらくは、このままだった。しかし、メグミのHPはついにレッドゾーン。もう、時間がない。
「ねぇ、お兄ちゃん。もしさ、現実に帰れたら、お父さんたちに、伝言をお願いしてもいい?」
「……ああ、いいよ」
「耳貸して」
俺はメグミの方に耳を近づける。そして、その内容にまた、涙が溢れそうになる。
「お前っ……今こんな事言うなよ……。罪悪感でいっぱいじゃねぇかよ……」
「私、才能あるかな?」
「そんな才能伸ばすなよ」
「はーい。でもさ、ホントだよ。私はずっと思ってた。でも、お兄ちゃんには少し違うかな?」
さっきの伝言に涙した俺としては、俺へはそう思ってなかったと思い、すこしガッカリする。
「私はね、お兄ちゃんと恋人になってみたいなぁ、って」
「! なっ……お前っ……」
「そりゃそうだよ。だって、あんな風に助けられたら、惚れちゃうよ、お兄ちゃん」
「……お前なぁ」
「お兄ちゃんは、私の事、嫌い?」
俺は、それを聞いて微笑んだ。
「まさか、今更だけど、俺もお前の事好きだよ。でも、恋人にはなりたくないかな。だって、俺はもう一度兄妹としてやり直したいからね」
「お兄ちゃん……。うんッ! 私もまた兄妹になりたい!」
メグミの頭を撫でてやると、えへへ、と笑ってまた強く抱きついてくる。
「もう……時間だね」
「……ああ」
「……お兄ちゃん。頑張ってね、私の永遠のヒーロー。ずっと、憧れだったよ。だから今度は、この世界のみんなのヒーローに。みんなに、希望を与えてね。大好きだよ、お兄ちゃん!」
そう言って、メグミは静かに四散した。人が死ぬって、こんなに儚いものなのか……。
「……ッ! 最後の……反則だよ……恵……」
堪えていた涙が一気に溢れ出した。止めようと思っても止められない。俺は、ここがまだフィールドダンジョンだという事を忘れて、泣いた。声を抑える事もせず、自衛のために刀を持つ事もせずに。
【DATA】
・《
レットの新しい刀。《
【ソードスキル】
・《
《
次回もお楽しみに!