ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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ご都合主義の急展開シリーズ(作者は「史上最悪の兄妹喧嘩シリーズ」と呼んでいます)第二弾。
レットが、ついに目覚めます。今まで、どうもド派手なシーンの少なかったレット。この回から、彼は化けます。
そして、この回は特に、自分の脳内に映像があるため、文章がおかしいかもしれません。こっちの表現の方がいいんじゃない、などありましたらお願いします。


16.《炎刃オニマル》

「お兄ちゃん、ううん。攻略組の《真紅の鬼神》スカーレット。私があなたを殺すッ!」

 

 そう叫ぶと、メグミは俺に向かって突っ込んで来る。

 

「何で……どうして……?」

 

 俺は、未だにショックから抜け出せていない。だって、メグミがラフコフだなんて、信じられるわけないだろ。

 

「なぁ、何かの間違いだろ。ちょっとした悪戯か何かなんだろ。完全に騙されたからさ、もうやめてくれよ!」

 

「死ねッ!」

 

「ッ! くそッ!」

 

 バックステップで衝撃を流し、着地する。その時の摩擦により、地面とブーツの間に僅かな火花が散る。

 

「いいの? 無抵抗で。何かしないと、殺しちゃうよ」

 

 この時、もう後には引けないと思った。メグミがどういうつもりでやっているか分からないが、この行為は間違ってる。ならば、俺が正す。

 

「メグミ、お前が俺を殺そうとしている事はもう理解した。でも、お前がやっている事は間違ってる。本来なら、攻略組として、お前を捕まえなくちゃならない。だけど、俺はそんな事はしない。お前の兄として、妹の過ちをとめてやる!」

 

 俺は、《クイックチェンジ》で《菊一文字》を回収し、構える。この世界に来て、完全に剣道選手の頃のフォームは崩れた。だが、剣道とこの世界の戦いにおいて、1つだけ共通する事がある。それは、

 

「はあぁぁぁッ!」

 

 メグミが勢いよく突っ込んで来る。適当に見えてよく考えられている。武器を自分の体で見えないようにしているのだ。軽く、細かな角度の微調整が出来るのがダガーの利点だ。

 

 俺は絶好のタイミングで刀をダガーに当てる。すると、ダガーは面白いぐらいによく飛んで行った。

 

 システム外スキル《武装解除(ディスアーム)》。

 

 剣道選手とこの世界の剣士に共通する事。それは武器を落とした時に生まれる隙。一流の剣士はそんな時でも対応出来るが、この世界にいる者は皆、筋金入りのゲーマーか、話題になっているからプレイしたミーハーだけだ。

 

「……ッ! しまった!」

 

「遅いッ!」

 

 俺はさっきのお返しという事で、足払いをし、メグミに馬乗りになる。ストレージからさっきドロップした麻痺毒をオブジェクト化し、ピックに塗った。それをメグミの右腕に突き立てる。

 

「…………そんなはずはない……。私は天才……。あなたなんかに負けるはずがない……。あなたが持っている物を、私が手に入れられないなんてあり得ない……」

 

「いくらお前が天才でも、ゲーマー兼剣道選手の俺に勝てるわけない。俺を殺すなんて無理だ。諦めろ」

 

「……ッ! うるさい! 私は……自由になるの! じゃないと、私は……孤独過ぎておかしくなっちゃう…………。もう! ……こんな人生うんざりなの!」

 

 泣きながら、メグミは俺に訴える。これが、メグミの本音に隠されたもう1つの本音。

 

「……だったらさ……このゲーム終わったら、俺と家出でもするか。そうすりゃ、自由に色々出来るだろ」

 

「えっ……」

 

「だからさ、ラフコフなんて馬鹿な真似はやめろ。何か理由があるなら、俺が何とかしてやる。俺でよかったら、何でも聞いてやる」

 

「わ、私……」

 

 プスッ。そんな音が聞こえたと思ったら、俺の体はメグミの体に覆い被さってしまった。

 

「麻痺毒……。一体誰が……」

 

「ワーン・ダウン。紅鬼もその程度か。拍子抜けだなぁ」

 

 頭陀袋を被ったナイフ使い。確か、以前攻略組の中で話題が上がっていたはずだ。確か……、

 

「ジョニーさん……。どうして……」

 

「……ジョニー・ブラックか……」

 

 俺は、必死に顔を上げ、声を出す。

 

「随分辛そうだな。すぐに楽にしてやるよ」

 

「待て、ジョニー。目的が違うだろ」

 

「ごめん、ヘッド。ついつい」

 

 そして、もう1人。以前ナイトと会った時にいた男。

 

「PoH……。どうしてお前がここに!」

 

「Wow。そう怖い顔するなよ。俺たちはただ、お前をラフコフに勧誘したいだけだ」

 

「俺を……勧誘だと?」

 

「ああ。お前は同じ目をしてる。ナイトによく似たいい目だ。それに、あいつと違って従順そうだ」

 

 麻痺はそろそろ切れる。切れたらさっさと攻撃して、仕留める。ラフコフだって、トップや幹部を殺られれば、動けないだろう。

 

「ヘッド、準備は、出来た。これが、その結晶だ」

 

「よくやった。全く、紅鬼。お前のためだけに、《回廊結晶》を2つも使わなきゃいけなかったじゃないか。代金は、ラフコフの一員になって、払ってもらおうか」

 

「誰が、んな事するかよ!」

 

 麻痺が解けた俺は、近づいて来ていたPoHに向かって、《体術》スキル《弦月》を使う。

 

「クッ……。抵抗するか……。俺は、仲間には攻撃をしたくないんだがな」

 

「仲間じゃねぇって言ってんだろ!」

 

 PoHはレベル的には俺よりもずっと下だ。だが、プレイヤースキルが高い。おそらく、それだけなら余裕で攻略組に入れるだろう。

 

「ほらほら、どうした。こんなものか?」

 

「うるせぇよ!」

 

 PoHの《友斬包丁》と俺の《菊一文字》が火花を散らしてぶつかり合う。

 

「いけっ!」

 

 俺は《投剣》スキル《シングルシュート》を使い、PoH相手に一瞬の隙を作る事に成功した。そして、システム外スキル《武装解除(ディスアーム)》で武器を弾く。

 

「Suck。やるな……」

 

 これで、終わりだ! 俺はそう確信した。

 

「待て、紅鬼。こいつが、どうなっても、いいのか?」

 

 そこにはエストックを突きつけられたメグミ。その後ろにはゲートが開いていた。

 

「チッ……。汚ねえぞ、お前ら」

 

「今更何言ってんだよ、紅鬼。俺たちにそんな事言っても無駄だぜ」

 

「と、いうわけだ。紅鬼、もう一度だけ聞く。俺たちの仲間になれ」

 

 ……。従わないといけないのか? メグミを人質に取られている以上、こちらからは手を出せない。

 

「……ッ! わかっ「ダメ!」……メグミ……」

 

 俺が、ラフコフに入る、と言おうとした時、メグミが遮った。足はガクガク震えている。

 

「ダメだよ、お兄ちゃんがラフコフに入っちゃ。お兄ちゃんは、全プレイヤーに希望を与えなくちゃいけないの! 私なんかのために、そんな事はしないで!」

 

 メグミ……。あのバカ……。

 

「メグミ、いい所で邪魔するなよ。もう少しだったのによー」

 

「お前は、黙っていろ。後で、必ず、殺してやるから」

 

「やめろ! メグミに手を出すな」

 

 PoHが武器を突きつけ、俺の動きを制限する。下手に動けないし、動かないとメグミが死ぬ。何も出来ない事が、こんなに苦しいなんて。

 

「……ザザ。もういい。やれ」

 

「分かった」

 

「バカ、やめろ!」

 

 メグミは、ゲートに向かって投げられた。すぐにゲートは消え、もうメグミの姿もない。

 

 俺の中で、何かが切れた。

 

「……絶対に、許さねぇ!」

 

「Wow、それだよ。その目だ。だが、もう遅い。お前ら、帰るぞ。どうせ、2人とも勝手に死ぬ」

 

「待てよ! 逃げんのか!」

 

「もう、用済みなだけだ。ナイトの奴が気にかけていたから気になっていたが、過大評価だったようだな」

 

 ザザとジョニー・ブラックは既に逃げてしまった。残っているのはPoHただ1人。

 

「メグミをどこにやった?」

 

「この森の最深部だ。だが、この森のボスにザザがちょっかいを出したからな。大分怒っているだろうな」

 

 それを聞いて、俺の行動は決まった。PoHは見逃し、メグミを助けるんだ。

 

 そうと決めたら、走り出した。ここの地図は全部頭に入れてある。

 

「待ってろよ、メグミ。俺が、必ず助けてやるからな」

 

 〜レットside out〜

 

 ~third person side~

 

「はぁはぁ、クッ……。ヤバイ……」

 

 メグミは、目の前の植物《ヴァイオレンス・ネペント》と対峙していた。とはいえ、防戦一方だ。

 

「ゴメンね、お兄ちゃん。現実、帰れなかったよ」

 

 メグミは襲いかかってくるであろう衝撃に備えた。しかし、それは一向に訪れない。

 

「ふぅ、待たせたな、メグミ」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

 レットだ。ラフコフとの戦いを終え、ここに辿り着いたのだ。

 

「勝手に諦めんな。俺が、必ずお前に希望を与えてやる。お兄ちゃんを、少しは頼れよ」

 

 レットの持つ刀はかなりダメージを受けているように見える。おそらく、ここに来るまでに他のモンスターから腐食液を浴びせられたのだろう。よく見ると、装備の方も耐久値の減少が分かる。

 

「お兄ちゃん……。うんッ! ごめんねホントに。……こんな化け物、さっさと殺して帰ろッ!」

 

「……お、おう。お前、実際にはこっちが素なのな」

 

「ん?」

 

「いや……何でもない。(女って怖え……)」

 

 2人はそれぞれの武器を構え、《ヴァイオレンス・ネペント》を見る。メグミの目からは、既に恐怖の色は消え、真っ直ぐ向き合っている。

 

「最初はひたすら回避。攻撃パターンを見るぞ。それと、こいつの毒には注意しろ。特定のアイテムがないと治せない致死毒だ」

 

「りょーかいっ!」

 

 そこからは2人のペースだった。メグミのスピードでボスを撹乱し、レットの《投剣》スキルで牽制。現実では、まともな会話もしないとは思えないほどのコンビネーションで徐々に追い詰めていく。

 

「メグミ、蔓が来るぞ!」

 

「りょーかいっ! お兄ちゃん、スイッチ!」

 

「おう!」

 

 メグミのパリィに合わせ、前後が入れ替わる。レットの刀が鮮やかなライトエフェクトに包まれる。

 

「うおぉぉぉッ!」

 

 刀カテゴリの連続技《緋扇》。3発とも弱点に当たり、《ヴァイオレンス・ネペント》は甲高い声で叫ぶ。同時にスタン状態になる。

 

「メグミ!」

 

「はあぁぁぁッ!」

 

 短剣カテゴリの連続技《インフィニット》。これもまた、全て弱点に当たり、大ダメージ。ボスのHPがレッドゾーンに突入する。

 

「よしっ、いけるぞ!」

 

「うん!」

 

 しかし、そう上手くは行かなかった。レッドゾーン突入により、攻撃パターンが変わった。しかも、蔓の本数も増え、手数そのものが増えた。

 

「グハッ、しまった!」

 

 レットの左上に、致死毒のデバフが表示された。

 

「お兄ちゃん!」

 

「バカ、来るな!」

 

 レットに向かっていたメグミは、蔓によって飛ばされる。そして、ターゲットもメグミに移った。

 

「い、いやっ……」

 

 今度こそ、メグミは諦めた。だが、またしても、レットがそれを止める。

 

「くそっ……こりゃ、笑い者だな。自分を殺しかけた奴を助けて死ぬなんて。でも、後悔はしてない!」

 

「お兄ちゃん……」

 

「さぁ来いよ、毒野郎。もう俺は怖くねぇ。これ以上毒はかかんないからな」

 

 《ヴァイオレンス・ネペント》の蔓を《菊一文字》でガードする。しかし、信じられない音が、2人の耳に届いた。

 

「……折れた……。《菊一文字》が、折れた……」

 

「嘘っ……。お兄ちゃん!」

 

 レットの右手に握られていた刀は折れ、ポリゴンとなり、四散した。己を守るものがなくなったレットは蔓によって吹っ飛び、木に体をぶつける。

 

「まだ、刀はある」

 

 ウィンドウを操作し、もう一本の刀《鉛刃(えんじん)ナマクラ》を装備する。だがやはり、ステータスが足りない。

 

「お、お兄ちゃん、助けて!」

 

 メグミにボスが襲いかかる。HPは赤く染まっている。

 

「うおぉぉぉッ!」

 

 ステータスの低いこの刀では、このモンスターには対抗出来ない。実際、HPの減少量はメグミにさえ劣っていた。

 

 それでも、レットは諦めるわけにはいかなかった。攻略組として、1人のプレイヤーとして、メグミの兄として、負けるわけにはいかなかった。

 

「なぁ、ナマクラ。お前、すげぇ刀なんだろ。《伝説を残した刀》なんだろ。その力、少しは俺にも分けろよ、この野郎ッ!」

 

 レットのHPもギリギリイエロー。死ぬ間際でおかしくなったのか、または別の意図があったのかは分からないが、レットは自身の刀に訴える。

 

「俺は……こんな所で死ぬわけにはいかねぇんだ。メグミに守るって約束したんだよ。この世界から出るって決めたんだよ。全プレイヤーの希望になりたいんだよ。ったく、重すぎるだろ、この鈍刀。重いだけかよ! 何でもいい。俺に力をくれェ!」

 

 ~third person side out~

 

 ~メグミside~

 

「お兄ちゃん……」

 

 お兄ちゃんが折れた刀の代わりに取り出した刀は、いかにも鈍刀。妙に錆びついていて、刃もボロボロ。なのに、お兄ちゃんはその刀に何か叫んでいる。頭がおかしくなったのかとさえ思う。

 

 その時、お兄ちゃんの目が変わった。左手で私には見えない何かを触っていてる。ウィンドウだ。でも、こんな時に何を……。

 

「メグミ。多分今から俺、マジでキレるわ。こんな時にようやくかよ、って感じでさ、イラついてんだ。でも、必ず守るから」

 

 何が言いたいのか分からない。でも分かる。お兄ちゃんは今から、勝つんだ、あのモンスターに。

 

「頑張って、お兄ちゃん!」

 

「ふぅ……ったく。ナマクラ、お前、ホントタチ悪いよ。製作者の顔が見て見たいよ」

 

 もう一度、息を吸った。

 

「さぁ来い! 《炎刃(えんじん)オニマル》!」

 

 お兄ちゃんは、そう高らかに叫んだ。すると、右手に持っていた刀が炎を纏い、その姿を変えた。

 

 黒い刀身に、真ん中を根元から先まで伸びる真紅のライン。刀と呼ぶには幅広く、曲刀と呼ぶには曲がっていない。全てを焼き切る炎のような、圧倒的な威圧感に存在感。

 

「うおぉぉぉぉぉッ!」

 

 刀は灼熱の炎を纏い、ボスに斬撃を叩き込む。左腰に構えた刀を右上に切り上げ、垂直斬りをしながら右下に流すように切る。そして、右上に切り上げ、水平斬り。右腰の方から、高速二段突き。最後に右上からの全力の袈裟斬り。

 

 お兄ちゃんの、炎を纏った7連撃が《ヴァイオレンス・ネペント》を爆散させた。




【DATA】

・システム外スキル《武装解除(ディスアーム)
レットが得意とするシステム外スキル。自分の武器で相手の武器を弾くスキル。Mob相手でも通用するため、汎用性も高い。攻略組にも、数人ほど使える者はいるが、レットに勝る者はいない。レットは、剣道をやっていた頃から、竹刀を落とす事は致命的である事を知っているため、その経験を生かしている。そして、このスキルの発案者もレット。


次回もお楽しみに!

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