ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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プロローグを最後にヒロインリーファは出番終了。次に出るのは番外編を除くとフェアリィ・ダンス編。シノンも同じ感じです。ヒロインのいないアインクラッド編。大丈夫かな?


01.始まったデスゲーム

 性別は男、キャラクターネームは《Scarlet》と入力する。この名前は俺が今までやってきたゲーム全てを通しての名前だ。

 

「ついに来た……《アインクラッド》!」

 

 ベータテストには当選せず、とても悔しい思いをしていた。幸い、友人の中に当選者はいなかったため妬みなどは特になかったが、それでもこの世界に対する思いは日々大きくなっていった。その世界に遂に来たのだ。

 

「だよな。やっぱ興奮するよな」

 

 急に後ろから話しかけられた。その男は白髪で目つきの悪いアバターだった。この世界ではアバターを自由に設定出来る。だから多くのアバターは美男美女が多い。もちろん俺も割とイケメンのアバターを作り、プレイしている。

 

「おっと、ビックリさせちゃったな。オレはナイト。n・i・g・h・tで〝夜〟って意味のナイトだ。お詫びにいい武器屋、紹介してやるよ。オレ、ベータテスターなんだ」

 

 ナイトと名乗った男はその容姿の割にとてもいい奴らしい。しかもベータテスターだと言う。俺はベータテスターを妬みはしても嫌いではない。助けてくれるならもちろん喜んで受ける。

 

「よろしくお願いします、ナイトさん。俺はスカーレットです。長いのでレットと呼んでください」

「OK。こっちこそよろしく、レット。でも敬語はなしだ。タメ口で頼むぜ」

「分かった。よろしく、ナイト」

 

 その後、俺はナイトと共に彼のオススメの武器屋で曲刀カテゴリの《カトラス》を買った。そして今、2人で《はじまりの街》の西側にあるフィールドに出ていた。

 

「りゃあっ!」

 

 俺の持つ剣が青いイノシシ《フレンジーボア》を切り裂いた。《フレンジーボア》はポリゴンの欠片となり消えた。

 

「お疲れ。初勝利おめでとう。でも、ちょっとダメージ受け過ぎかな?」

 

 現に俺のHPは後数ドットでレッドゾーンという所まで来ていた。剣道は相手の攻撃を避け続けるという事はしない。その癖でどうしても武器で受けてしまう。そのせいでジワジワと削られていた。

 

「じゃあ、次は《ソードスキル》を教えるぜ。この世界じゃ最も重要だから、絶対覚えろよ」

 

 そう言うと、近くにリポップした《フレンジーボア》を蹴飛ばしタゲを取る。そして左手──ナイトの利き腕は左──で剣を構えた。それは鮮やかなライトエフェクトに包まれる。剣は斜めに振り下ろされ、イノシシをポリゴンの欠片に変える。

 

「すげえ! 一発じゃん! 俺はあんなに時間かかったのに!」

「だろ。これが《ソードスキル》さ。今使ったのは片手直剣の基本技《スラント》だ。レットは曲刀だからちょっと違ェけど、イメージはこんな感じだ。やってみろ。コツは初動でタメを入れる感じだ」

 

 俺は言われた通りにやってみる。曲刀を右肩に担ぐように構えた。するとその剣は弧を描き、オレンジのエフェクトに包まれ、《フレンジーボア》に向かっていく。

 

「流石だな。筋いいぜ、お前。向こうでスポーツか何かやってた? ってそういうのはタブーだな」

 

 それからも俺とナイトは交互に《フレンジーボア》を狩っていた。いつの間にかレベルが1つ上がり、俺は敏捷力にポイントを振った。

 

 

 リンゴーン、リンゴーン。

 

 突然、鐘のような音が聞こえた。すると、いきなり俺とナイトの身体がブルーの光の柱によって包まれた。その輝きが失われると、景色は一変していた。夕暮れの草原は姿を消し、《はじまりの街》の中央広場だった。

 

「どうなってるの?」

「これでログアウト出来るのか?」

「早くしてくれよ」

「ふざけんな」

「GM出てこい」

 

 そんな声が聞こえる。

 

「ログアウト出来ない?」

 

 ナイトがさっきの声の中からその言葉に反応する。俺もナイトも互いに頷き、右手の人差し指と中指を揃えて振る。鈴を鳴らすような効果音と共に《メインメニュー・ウィンドウ》が出る。他の人の言う通り、本来あるはずのログアウトボタンがない。

 

「どういう事だ?」

「俺に聞くなよ。俺は今日が初めてだよ」

「そっか……」

 

 ログアウト出来ない。それがこの《完全ダイブ》において、どれだけ大変な事だろうか。つまり、それがなければ、俺たちは永久にここから出られないのだ。

 

「あっ……上を見ろ!」

 

 誰かがそう叫んだ。俺とナイトも上を向いた。そこには巨大な血液のような雫がどろりと垂れ、それは形を変えた。

 

「紅いローブ?」

「ありゃ、アーガスのGMのアバターだ。ベータの時に何度か見た事がある。でも……ローブの中に何もねぇ。一体どういうこった?」

 

 その直後、低く、落ち着いた、よく通る男と声が聞こえた。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ』

 

 そう言ったローブのアバターはそのまま続ける。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の存在だ』

 

 その後、茅場晶彦が語ったのは衝撃の内容だった。要約すれば、このゲームから俺たちは出られない。出たければ、このゲームをクリアする。つまり、100層を全て踏破しろ、という事だ。しかし、HPがなくなれば、俺たちはこの仮想世界だけでなく、現実世界でも、命を失う事になるらしい。

 

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認したくれ給え』

 

 俺もその言葉に倣ってアイテムストレージを開く。そこにあったアイテムは《手鏡》。どうしてこんなものが……。

 

「レット、お前んとこには何があった? オレのとこは《手鏡》なんだけど……」

「俺もだ。映るのは俺たちのアバターの顔だけじゃ……」

 

 俺の言葉を遮りながら、白い光が俺たちを包み込む。2、3秒で光は消えた。しかし、目の前にいたのは、白髪は同じだが、目つきがより悪くなった少年。

 

「お前……誰?」

「お前こそ誰だよ。さっきそこにいたのはレットのはずなんだけど……」

 

 その言葉に反応し、俺たちは同時に鏡を見る。そこには、俺が作り上げた、現実よりも大人っぽいアバターの顔ではなく、まだ、あどけなさが残る現実の俺の顔だった。じゃあ……まさか……目の前にいるのは……。

 

「「お前……ナイト(レット)かァ?」」

 

 そんな事があり得るのだろうか? その答えはYesだろう。現に俺は今、それを体験している。

 

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ、SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』

 

 この人は俺にとっても憧れだった。この人の才能だけじゃない。メディアへの露出を嫌い、インタビューを受けた事も少ない。それら全てを含めて尊敬していた。でも、その憧れは一連の説明で消えて無くなった。

 

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、既に一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためだけに私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 

 茅場晶彦は短く間を置き、無機質な声でこのチュートリアルを締めくくる。

 

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君のーー健闘を祈る』

 

 そして、その言葉を発した真紅のローブを着たアバターは消えた。《はじまりの街》に特有のBGMが戻って来る。そして、全てのプレイヤーが、自分の身に降りかかった事態を理解した。この街は、多くのプレイヤーの悲鳴と怒りで溢れかえった。

 

「レット! 今は黙ってついて来い!」

 

 ナイトがこの騒ぎの中でも聞こえるような大声で叫ぶ。俺はそれを黙って聞き、ナイトが走って行った方向に走る。

 

「どうしたんだよ。急に走り出して……」

「いいか? よく聞け。今からオレは、すぐにこの街を出る。そして、次の村を拠点にする」

「何言ってんだよ。あんなの、ホントに信じてるのか?」

「当たり前だ。オレ達の姿が現実のものと同じになったのが、何よりの証拠だ」

 

 確かにそうだ。俺達の容姿をリアルに戻すなんて、ただ手間がかかるだけ。必ずそれには意図がある。そんなナイトの推測は、実に的を射ていると言える。

 

「いいか? 多くのプレイヤーが、自分の置かれた状況を理解し始めている。ここに残り、現実世界からの救いを待つ者。別の脱出方法を模索する者。でも、それで解決するなら苦労はしない」

「だけど……」

「オレはベータテスターだ。この先のルートも効率のいい狩場も知ってる。だからついて来い。この街に留まるという事は近くの狩場を拠点にするという事。限りあるモンスターを大勢のプレイヤーが一斉に奪い合う。モンスターを狩れなければ、いずれ《コル》がなくなって何も出来なくなる」

 

 ……確かにナイトに着いて行けば生きられるかもしれない。でも、フィールドに出れば死ぬかもしれない……。

 

「まぁ、お前の気持ちも分かるぜ。モンスターと戦うって事は自分から死に近づくって事だからな。でも、もし、お前がオレを信じてくれるなら、オレは絶対にお前を死なせない。オレは信じてくれた奴の事は……何を犠牲にしてでも守る。どうだ? オレを信じてみないか?」

 

 家族にも、こんなに目を見て話してくれる人はいない。不思議と俺はナイトを信じてみようと思えた。

 

「頼む。俺も連れて行ってくれ。お前なら、俺は信じられる」

「OK。そうこなくっちゃ! じゃあ、新たな門出というか、本当のゲームのスタートって事で、改めて自己紹介しようぜ。オレはナイト。これからよろしく!」

「俺はスカーレット。こちらこそ、よろしく!」

 

 こうして、俺とナイトは未だに怯え続けるプレイヤーを見捨て、たった2人で次の村を目指した。

 

 

 

 2022年11月6日、日曜日。誰もが待ち望んだ世界は僅かな時間で幕を閉じた。そして、約1万人のプレイヤーを巻き込み、《ソードアート・オンライン》という名のデスゲームが始まった。「これは、ゲームであっても遊びでない」まさにそれが実現された世界が、幕を開けた。

 




【DATA】

・スカーレット(Scarlet)
アインクラッド編の主人公。愛称はレット。
武器は曲刀を選択。現実では剣道をやっており、武器の扱いに慣れている。

・ナイト(Night)
アインクラッド編のもう1人の主人公。左利き。白髪なのは現実でも同じ。
武器は片手剣を選択。元ベータテスターだったため、その時の知識と経験を活かして戦う。


次回もお楽しみに!

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