内容は見てからのお楽しみです。このシリーズに限り、どんな批判でも募集中です!
今度は、メグミから素材集めを手伝って欲しいと言われた。
しかし、その指定された場所が厄介だった。47層《フローリア》の一番奥にあるフィールドダンジョン《ブラックフォレスト》。毒系のデバフを使う協力なモンスターが多く、中層プレイヤーの多くがここで命を落としている。それだけではない。ここは攻略組が手をつけていないため、罠も多い。そして、一番厄介なのが、この森の奥地にいるフィールドボス《ヴァイオレンス・ネペント》。こいつはその内、《風林火山》を中心とした攻略組の少人数ギルドで討伐するという案も出ているのだ。何よりも厄介なのはこいつが使う毒。《致死毒》というこいつ専用の毒を使い、店売りの解毒アイテムでは治せない。しかも、このデバフ中は結晶アイテムが使えなくなるというオマケつき。治すためには、1層下で受けられるクエストの報酬《
長々と色々考えているうちに、メグミは来た。
「ゴメン、お兄ちゃん。遅くなっちゃって……」
「……全くだよ。俺も暇じゃないんだけど」
そう言いながら、俺は歩き出す。
「ご、ゴメン! か、帰っちゃうの?」
「何? 素材、集めるんじゃないのか? 行こうよ」
「う、うん!」
「やあっ!」
植物型モンスター《ポイズン・ネペント》が気色悪い超えを出して四散する。
「オーケー。メグミ、奥から後1匹。横の奴等は俺がやる」
《旋車》で、俺を囲んでいたネペントたちを一掃する。攻略組の俺がこんな風にやるのはマナー違反な気もするが、周りに人はいないしセーフだろう。
「ふぅ、こっちは終わったぞ、メグミ」
「これでッ……ラストッ!」
短剣の連撃技で敵を切り裂けば、その体はたちまち実体をなくし、消し飛ぶ。
「そろそろ休もうか」
「え~、まだいけるよ、私」
「俺が疲れたの。それに、お前を庇ったせいで刀やコートに腐食液がかかったんだよ。耐久値をチェックしたい」
お前のせいだ、とさりげなく言うとメグミはシュンとしてしまう。
「……ごめんなさい」
「別に謝って欲しいわけじゃないよ」
俺たちはこの気不味い雰囲気を引きずったまま、安全エリアに辿り着いた。
「メグミ、お前も装備とか確認しとけよ」
「……うん。分かった」
そう言った後、俺はウィンドウを開き、耐久値のチェックを始める。
「コートは……、まだ大丈夫か。一応、《エリュトロスコート》はあるからいけるな」
その後も耐久値のチェックを続けていく。
「おぉ、こりゃまずいな。《菊一文字》の耐久値はギリギリだ。一応緊急メンテのアイテムでも使っておくか」
《鍛治》スキルを取っていない俺には、メンテナンスは出来ない。だが、流石の茅場晶彦も、そこまでいじめてはこなかった。俺みたいなプレイヤーのために、緊急用のメンテナンスキットが売られているのだ。値段も高く、回復される量も少ないが、ないよりマシだ。
「念のため、ナマクラを《クイックチェンジ》に登録して……。オッケー」
これで、ウィンドウを少し操作するだけで武器を変えられる。ホントにヤバくなったら変えればいい。
「行くぞ、メグミ」
「……うん、お兄ちゃん」
どこかの層のどこかの洞窟。
「ナイト、何を、してるんだ?」
ナイトはウィンドウを弄っていた。すると後ろからエストックを下げた男がやって来る。
「ああ、ザザか。また分かんねぇ? 駒をさがしてんのさ。攻略組の情報を仕入れられる奴をな」
続いて、包丁のようなものをぶら下げた男。言わずと知れたラフコフの首領《PoH》だ。
「で、誰かいたのか?」
「もちろんだ、PoH。候補は2人。鼠と狐だ」
「うわー、昔の仲間を駒にするのかよ。最低な奴だなぁ」
「うるせぇよジョニー。情報屋を味方につけるのは常識だろ。てなわけで、ちょっと行ってくるわ」
ナイトが行ってからすぐ、鎌を持った少女が現れる。
「スファレ、あいつからの連絡はどうだ?」
「約1時間半前に、森に入ったと連絡。多分、そろそろ例のポイントに誘導する頃だと思うわ」
「わかった。コリドーオープン。ザザ、ジョニー、行くぞ」
そうして3人はコリドーを潜って行った。
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんって……やっぱりお父さんの事嫌い?」
「嫌い。あいつは人を才能だけで判断する。だから嫌いだ」
「でもお兄ちゃん、そんなお父さんに認めて欲しかったんでしょ」
は? いきなり何を言い出すんだ?
「だって、お兄ちゃんが剣道やってた時、いつも辛そうだった。楽しくないのにやってた。それって、お父さんが唯一期待していた剣道で認めて欲しかったんでしょ。自分を見て欲しかったんでしょ」
「んなわけないよ。俺があの人に認めて欲しいなんて思ってるわけない。俺はお前とは違って、あの人が大っ嫌いなんだよ」
「な、なんかゴメンね。変な事言っちゃって。アハハ、私の勘違いだったんだね」
取り繕ったような笑顔を貼り付け、メグミは話し続ける。でも、俺はもう、メグミの話をまともに聞く気にはなれなかった。
「ねぇ、お兄ちゃん。もう一回、休憩しない?」
俺は無言で頷く。
「ああー、疲れた。お兄ちゃん、水頂戴!」
俺は返事をしてから投げて渡す。
それほど疲れていない俺は特にやる事もないので、再び耐久値のチェック。念のためもう一度、メンテをしようとした所で、メグミが立ち上がった。特にそれを気に留める事もなく、ウィンドウの操作を続ける。
「…………お兄ちゃん。ゴメンね」
そう呟くと、メグミはナッツを食べた。そして、後ろからメグミは俺に短剣を振り下ろす。
「……ッ!」
何だ? いきなり……。
「ッ……何の真似だよ、メグミ」
「うわぁ、麻痺毒塗ってたのに。《対阻害効果》スキル高っ。じゃあ、これはしまってこっちでやるね」
そう言って、メグミが出した短剣には見覚えがあった。俺が一緒に行って手に入れた鉱石から作った短剣だ。
「死んで、お兄ちゃん!」
俺は刀でメグミの攻撃を防ぎ続ける。
「一体どうしたんだよ……。何で……いきなり……?」
「お兄ちゃんが悪いんだよ。だって、全然私の事、見てくれないんだもん」
オニイチャンガワルインダヨ。ダッテ、ゼンゼンワタシノコト、ミテクレナインダモン。
もう、わけが分からない。メグミの言ってる意味も行動も、何もかも。
「くそッ……いい加減にしろッ!」
俺は仕方なく、メグミに刀を振るう。しかし、素早く躱したメグミによって足払いをされ、俺は倒れる。
「ハァハァ……。何が、何があったんだよ、メグミ」
「お兄ちゃん、言ったよね。私が強くなったら、兄妹喧嘩しようって。だからだよ」
「だったら、デュエルでいいじゃないか。これじゃ、メグミがオレンジに」
「いいよ、別に。だって、私はお兄ちゃんを殺すんだもん」
俺は、その目をどこかで見た事があった。35層でナイトと戦った時に出会ったPoHというプレイヤー。まるであいつだ。
「誰からも認められない。必要とされない。私から見れば、羨ましいよ。だって、私はずっと期待に応え続けないといけないの。私に才能がある限り、逃げられない。なのに、お兄ちゃんは才能がない、たったそれだけで私の苦しみを味合わずに済む。そんなの……ズルイよ! 私も……お兄ちゃんみたいに、普通に生きたい」
初めて聞いた、メグミ、いや恵の本音。俺が嫌だった、誰からも認められないという悩み。でも、恵はそれを求めていた。
「私がお兄ちゃんを殺せば、私は人殺し。人殺しには、誰にも期待しない。私は、自由になれる!」
メグミはそう言うと、再びナッツを口に入れた。
「そして、私はその力を手に入れて、そのチャンスを得た! その証拠を見せてあげる」
メグミはスカートを掴んだ。そして、女の子としてはありえない行動に出た。
「ば、バカ! 何してん…………」
メグミはスカートを捲った。
俺は、その光景に目を奪われ、最後まで言葉を言えなかった。そこには、子供らしい、苺柄のパンツにそこから伸びる滑らかな白い足があった。
だが、それではない。
俺はその足に刻まれたタトゥーに目を奪われた。誇張されて書かれた漆黒の棺桶。蓋には、ニヤニヤと笑う両眼と口。ずれた蓋の隙間から、白骨の腕がはみ出している。
「……な、何で……? 何でお前が……。どうして……メグミが……《
「お兄ちゃん、ううん。攻略組の《真紅の鬼神》スカーレット。私が、あなたを殺すッ!」
今、才能を持たず、誰からも期待されない兄と才能を持ち、誰からも期待される妹による、兄妹喧嘩が始まる。
【DATA】
・no data
次回もお楽しみに!