ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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時系列は番外編3と同じぐらいです。久々にレットの妹メグミが出ます。そして、ここから物語は加速します。しかし、更新速度は減速します……。すいません。


14.兄妹

 2024年3月6日 第56層・パニ

 

 現在、ここパニの村では、フィールドボス攻略会議が開かれている。

 

 今回の攻略会議では、フィールドボス討伐について話されていた。アルゴさんとレモンさんが近辺のクエストから得たボスの見た目や、弱点、攻撃パターンなどを攻略に当たるメンバーで共有をしている最中だ。

 

 しかし、現在は円滑に進んでいたはずの会議はある2人のプレイヤーの対立によって荒れていた。

 

「そんな事をしたら、村の人たちが……!」

 

 1人目は、攻略組の《黒の剣士》キリトさん。背中に背負ったロングソードを使い、戦闘時には圧倒的な実力を見せるトッププレイヤーだ。

 

「それが狙いです。ボスがNPCを殺している間にボスを攻撃、殲滅します」

 

 もう1人は、攻略組最強ギルド《血盟騎士団》の副団長、《閃光》のアスナさん。AGI値以上のスピードと正確で鋭い剣技は他のプレイヤーを圧倒している。

 

「NPCは、いわば木みたいなオブジェクトとは違う!彼らは……!」

 

「生きている……とでも?」

 

「あれは単なるオブジェクトです。例え殺されても、またリポップするのだから」

 

 揉め事の原因は、聞いて分かるように、ボス撃破の作戦についてだ。アスナさんが提案した、NPCを犠牲にして、その隙にボスを倒すという作戦にキリトさんが真っ向から反対しているのだ。

 

「俺はその考えには従えない」

 

「今回の作戦は私、血盟騎士団副団長のアスナが指揮を執る事になっています。私の言う事に従ってもらいます」

 

 

 俺とエギルさんは会議後、キリトさんに話しかける。そういえば、ナイトがいなくなった後、俺はエギルさんと一緒にいる事が多い気がする。後はレモンさん。情報屋の仕事がない時はよくパーティーを組んだりしている。

 

 まぁ、そんな事はどうでもいい。

 

「よう、今日もやったな」

 

「キリトさん。俺はキリトさんの意見に賛成ですよ。俺も、もうNPCをただのオブジェクトとは見れませんから」

 

「エギル、レット」

 

 キリトさんも、大分愛想が良くなった。最近は話す相手は限られているものの、かなり口数が増えている。

 

「どうしてお前と副団長さんは、いつもああなんだ?」

 

「きっと、気が合わないんだろうな」

 

「……1層の頃は、あんなに息ピッタリだったんですけどね」

 

 俺やアスナさんはあの戦いの後、キリトさんから言われた。『君たちは強い。だからもし君たちが、信用出来る人から《ギルド》に誘われたら断るなよ』と。

 

 まぁ俺は、ナイトに勝つまでは入るつもりはなく、このままズルズル来てしまったが。

 

「ああは言ったけど、まさかトップギルドで、《攻略の鬼》になるとはな」

 

「とはいえ、今回は結構暴走気味でしたよ、アスナさん。やっぱ、この間の作戦失敗が効いてるんでしょうね」

 

 この間の作戦失敗とは、ナイト捕獲作戦の事だ。《血盟騎士団》と《聖竜連合》のプレイヤー30人で臨んだものの、ナイトのシステム外スキル《剣技中断(スキルキャンセル)》やユニークスキル《暗黒剣》により、失敗してしまった。それだけではなく、《暗黒剣》によって斬られたプレイヤーの数名はそのトラウマからドロップアウト。そうでなくても、あまりの痛みに、攻略を一時中断し、療養中の者が多い。

 

「一時的とはいえ、攻略組の参謀のアクアの離脱も痛いしな。後で、あいつの好きな紅茶でも持って行ってやるか」

 

 アクアさんは特に重症だ。確か、未だに槍を持つと、痛いらしい。走るなんてもってのほかだ。

 

「俺も、何か持って行こうかな」

 

「やめとけよ、キリトは。どうせロクなもんじゃないんだからな」

 

「なッ……。お、俺だって見舞いの品ぐらい……」

 

「……キリトさん。食べ物はやめてくださいよ。キリトさんの味覚、変なんですから」

 

「うわぁ、酷え。じゃあ、レット。今度お前の飯食わせろよ」

 

 キリトさんが飯を作れ、と言う。まぁ、嫌いじゃないからいいかな。

 

「材料持ち込みでお願いしますよ。そうだ! 俺もアクアさんに何か渡そうかな。お菓子とかでも作ろうかな」

 

「そりゃいいな。俺にも……「キリトさんは材料持ち込みです」……はい」

 

 とはいえ、この後用事あるんだよなぁ。

 

「エギルさん。今から帰ってすぐ作るので、一緒に持って行ってくれませんか?」

 

「ああ、分かった」

 

 

「えっと、じゃあお願いしますね、エギルさん」

 

「おう。それと悪いな。俺までクッキーもらっちゃって」

 

 アクアさんに渡すために急いで作ったクッキー。現実で、こんなに急いでやったら間違いなく食べられないだろう。仮想世界様様だ。

 

「いいんですよ。作り過ぎただけなので。是非、食べてください」

 

「ああ、ありがたく頂くよ。今度店来たら、色々優遇してやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 エギルさんにクッキーを渡し、俺は最前線からは程遠い層の転移門前にいた。理由は待ち合わせ。普段は遅刻をしない奴だが、今日は遅かった。

 

「……この、《エリュトロスコート》なら、今後最前線でも通用しそうだな。でもなぁ、今のコートも割と最近なんだよなぁ」

 

 この間の第55層ボス攻略のLAボーナス《エリュトロスコート》は間違いなく、今後最前線でも通用する。強化すればさらにステータスは上昇する。そして、ノックバックを減らす追加効果まである。

 

 他にも最近の攻略で手に入れた防具を整理して、ああでもない、こうでもない、なんて言いながら時間を潰していた。ちなみに、未だに《菊一文字》を超える刀は手に入れていない。しかし、この刀に残された強化試行回数は2回。強化し切っても70層間近になる頃には使えなくなるだろう。

 

 因みに俺の持っているガラクタ同然の鈍刀《鉛刃ナマクラ》。実は最近、ステータスに変化が現れている。《菊一文字》の耐久値節約のために使い、その後メンテを終える度に、耐久値の上限が低くなっている。更に、STR要求値もほんの僅かに下がり、威力も少しずつ増している。使えば使うほど、強くなっていく仕様なのだろうか。

 

 そしてようやく、待ち合わせの相手が転移門を通って現れた。

 

「ゴメン、お兄ちゃん。遅くなっちゃって」

 

 リアルでは妹の彼女はメグミ。この世界では短剣を使っている。中層プレイヤーの中でも、《竜使いシリカ》と並んで頭1つ抜けているプレイヤーだ。因みに、前者が割と正統派アイドル?なのに対し、後者はあざとく、平気で男を乗り換えるらしい。自分の妹がこんなんで大丈夫か、と思う。

 

「うん、遅い。俺も忙しいんだからな」

 

「でも、最近は何だかんだ言って、来てくれるよね。安心して、お兄ちゃん。お兄ちゃんに結婚相手がいなかったら私がしてあげるから」

 

「遠慮しとくよ。それと、そういういう事言ってると、俺もう来ないから」

 

「ご、ごめん! お願いだから来て!」

 

 こんなやりとりをしているものの、兄妹仲は以前と比べれば大分良好だ。やっぱり、人間一度死にかけてみるものだ。

 

「で、今日は?」

 

「短剣がそろそろ替え時かなぁって。だからいい金属が手に入るクエストをやろうかなぁと」

 

「そのクエストは調べてるのか?」

 

「まさか。お兄ちゃん、何か知らない?」

 

 やっぱり、コイツ危ない。現実に戻ったら、結婚詐欺師とかになってそう。

 

「はぁ、ちょっと待ってろ。知り合いの情報屋にメッセージ送って見るよ」

 

 こういう情報はレモンさんよりアルゴさんだ。基本は2人は一緒に行動しているため、専門とする情報を分担しているらしい。

 

「どれぐらいで返事が来るか分からないから、少し待つけどいいよな」

 

「うん、いいよ。じゃあ少し話そうよ」

 

「良いよ、別に」

 

「やった! じゃあさ、リアルの話なんだけどいい?」

 

「ん? 別にいいけど」

 

 どうせ妹なんだし、大丈夫だろう。

 

「お父さんやお母さん、お姉ちゃんとレオ兄はどうしてるかな? 私たちの事、心配してるかな?」

 

「…………どうだろ? 少なくとも、お前は心配されてるよ。俺は、多分ないけど」

 

「そんな事ないよ! お父さんは、今はあんな感じだけど、お兄ちゃんがまだ“紅林家の神童”って呼ばれてた頃は、お父さんすごく! だからきっ「メグミ!」……! ご、ゴメンなさい……」

 

 いつもそうだ。兄妹仲が良くなった俺たちは、よくリアルの話をする。でも、やはり俺は家族の話だけはされたくない。過去がどうであれ、今の俺には関係ない。俺の家族は皆、俺の事を家族とは思ってない。そして、それは俺も同じだ。

 

「ゴメン、大声出して……」

 

「ううん。私も不謹慎だったね」

 

 暗いムードで、まるで俺たちの周りだけお葬式みたいになってきた頃、メッセージの受信を知らせる音が鳴る。

 

「お、来たよメグミ」

 

 メッセージを確認すると、俺たちが求めていた情報があった。そこからメグミにあった場所を選んだ。アルゴさんにお礼のメッセージを送ると、【今度タダ飯頼むヨ】と返ってきた。情報料は、最近飯らしい。

 

 

「わぁ! 何もなーい!」

 

 やって来たのは砂漠地帯。とにかく何もない。クエストではなく、ただここを探索するだけで見つかるらしい。でも、中々時間がかかりそうだ。

 

「なぁ、メグミ。今更だけどやるの?」

 

「もちのろんだよ、お兄ちゃん。さ、頑張ろ!」

 

 と、意気込んでいたメグミだが、2時間後には、

 

「おにぃーちゃん! つーかーれーたー!」

 

 疲れただの、飽きただの、面倒いだの、色々言ってくれている。誰のためだよ全く。

 

「じゃあ帰るぞ。俺も暇じゃない」

 

「いーじーわーるー! お兄ちゃんなんだから、それらしい所見せてよ!」

 

「元々兄妹らしい事なんかした事ないだろ、俺ら。今更何言ってんだ」

 

「この、むのー! ガキー! 諦めるのが早過ぎー!」

 

「……お前が言うなよ……」

 

 全く、誰のためだよ。でも、何か楽しいな。現実に帰れたら、メグミとなら、もう一度やり直せるかもしれない。

 

「暑いよー。疲れたー!」

 

 イライラしたメグミは、座っていた岩に自身のダガーを突き刺す。しかし、それがいけなかった。

 

「うわっ……。う、動いた! キャァッ!」

 

 メグミは突如動き出した岩によって、俺の方に飛ばされる。

 

「イテテ。何なの、いきなり……」

 

「いや、最初からいたんだ。そして、コイツがその金属だ」

 

 さっきまで岩だと思っていたのは、大きな亀型モンスター《デザートタートル・ジャイアント》だった。

 

「でっか。お、お兄ちゃん、た、倒すよね」

 

「もちろん。よしっ、サクッとやっちゃおうぜ」

 

 俺は抜刀し、構える。いつの間にか、長年剣道で鍛えた構えは崩れていた。でも、それが1番やりやすい。

 

「やあっ!」

 

 俺&メグミと巨大砂漠亀の対決が始まった。

 

 手順は単純だ。俺がタゲを取り、側面からメグミがチクチク削る。見た目以上に固く、見た目通り遅いこの亀は、パーティーなら簡単でもコンビには辛かった。

 

「メグミ、次でラストな」

 

「うん!」

 

 巨大砂漠亀の強攻撃をジャンプして躱し、素早く弱点の額の宝石にソードスキルをぶつける。巨大砂漠亀はスタンする。

 

「メグミ、スイッチ!」

 

「了解!」

 

 メグミのダガーから繰り出された4連撃は全て弱点に当たる。巨大砂漠亀はポリゴンに変わり拡散した。俺とメグミの目の前にウィンドウが現れ、経験値やアイテム、コルが表示された。

 

「目当てのものは?」

 

「バッチリ!」

 

 無事目的を達成する事が出来た。俺とメグミは一先ずメグミの拠点に戻る。

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん。今日はホントにありがとね」

 

「何だよ急に。気持ち悪い」

 

「やっぱり強いね、お兄ちゃんは。私の自慢だよ」

 

「褒めても何も出ないよ」

 

 こんな風に、メグミと2人で歩くなんて、すごく久々だ。現実世界では、実現不可能だっただろう。

 

「また、手伝ってくれる?」

 

「……気が向いたらな」

 

 少し間が空く。沈黙を破ったのはメグミだ。

 

「お兄ちゃんは、この世界に来れてよかった?」

 

「分かんない。でも、俺は少なくとも現実にいるよりもよかった。どうせ、毎日がダラダラと進むだけだからね」

 

「でも、私は戻りたい。お父さんとお母さん、お姉ちゃんにレオ兄に会いたい」

 

 メグミはこの世界に囚われた当時はまだ小学6年生だ。そういう気持ちはあるのだろう。

 

「親父ともお袋とも、兄貴も姉貴とも会いたくないよ。あの人たちは、俺の事なんか見ちゃいない」

 

「だったら、私が手伝ってあげる。お兄ちゃんが家族に戻る手助け。ね!」

 

 眩しい笑顔だ。少しだけ、羨ましい。もう一度家族。それだけが、何とも言えない。

 

「だからさ、絶対生きて帰ろうね」

 

 

 ~???side~

 

「ヘッド、今戻りました」

 

 腰にダガーをぶら下げたプレイヤー。フードでその顔は見えない。

 

「ご苦労。どうだった、ターゲットは」

 

「やっぱり、腕は確かです。多分、このままでは、いずれラフコフの脅威になるかと」

 

「へぇ、随分と買ってるんだねー、彼の事。俺はただのガキにしか見えないけど」

 

 頭陀袋を被った男が言う。

 

「だが、強い事には、間違いない。仲間に引き込めれば、良い戦力になる、はずだ」

 

 髑髏マスクの男も続ける。

 

「ねぇPoH。あいつ、行ったわよ。早い所、スカーレットの勧誘の件、進めましょ」

 

 背中に鎌を背負った女がPoHに声をかける。岩に座って足をブラブラさせている姿はオレンジプレイヤーだとは思えない。

 

「ああ、そうだな、スファレ。お前ら、次のターゲットはこいつだ」

 

 《友切包丁》で写真を指す。そこには赤みがかった茶髪で、赤い革装備に身を包んだ少年。腰には刀が下げられている。

 

「攻略組《真紅の鬼神》スカーレット。さぁ、イッツ・ショウ・タイムだ」




【DATA】

・《デザートタートル・ジャイアント》
硬い、遅い、重いの三拍子揃った重量級モンスター。コンビやソロでやるには難しいがパーティーには向いている。


次回もお楽しみに、

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